「一晩考えた」 「で?」 「余計分からなくなった」 思わず笑った。 「珍しいね」 「かなり困ってる」 「顔に出てないけど」 景都は廊下の先へ一度目をやった。スタッフが運ぶ照明のケースが角を曲がって消える。 「でも、番組が終わって会わなくなるのは嫌だ」 「それは分かるんだ」 「ああ」 その時、廊下の角で靴底が床を擦る音がした。 瀬名が台本を胸へ抱え、気まずそうに立っている。 「すみません。また聞きました」 「どこから?」 「“会わなくなるのは嫌”くらいからです」 「それ、ほとんど全部じゃん」 瀬名は台本の端で口元を隠した。 「でも安心しました。最終回、きれいには終わらなそうで」 「それ、安心するところ?」 「番組としては困ります」 スタッフに名前を呼ばれ、瀬名は台本を振って先へ走っていった。◇ 夕方、最終生放送で使う選択札が配られた。 白い厚紙に、黒い文字が一つずつ印刷されている。 『復縁』 『別離』 『New Choice』 制作スタッフは、当日の直感で一枚を選ぶよう説明した。人生の続きを決めるには、どれも手にした時の重さが足りない。 机へ三枚を並べると、裏側には備品の管理番号が振られていた。〈復縁〉という大きな言葉にも、紛失確認のための数字がある。その事務的な印字を見た途端、三択から未来を選ぶことが少し滑稽に思えた。 景都は自分の札を伏せたまま、私を見ている。 「見ないでよ」 景都は伏せた札から目を上げた。 「何を」 「私。札を見て」 景都は三枚へ一度だけ目を落とした。 「……どれも違う」 「それ、私の札なんだけど」 答えの代わりに、景都は自分の札をさらに手前へ引いた。 少し離れた席で、瀬名が三枚を順番に持ち上げた。 「〈保留〉って札、ないんですね」 「瀬名さんも迷うの?」 「私は選ばれる側ですけど。三枚だけの方が、編集は楽そうだなって」 「夢がないね」 「番組ですから」 スタッフがケースを回収しに来たため、私は三枚を重ねて蓋を閉じた。景都へも、瀬名へも、どれを選ぶつもりかは言わなかった。 番組は、あと六日で終わる。 瀬名が死ぬまでにも、あと六日だった。 翌日のカメラリハーサルでも、昨日配られた三枚の札が机へ戻されていた。スタッフは本
Last Updated : 2026-08-14 Read more