บททั้งหมดของ ペンション調 shirabeー愛する人を還すため私は過去に残るー: บทที่ 21 - บทที่ 30

63

第21話 血の記憶

カチャン。床に落ちたナイフが、月明かりを反射した。刃には赤い血。いのりは動けなかった。目の前にいるりひとの右手にも、同じ赤が付いている。宿帳には――――西園寺りひとは、水瀬いのりを殺す。「……りひと」自分でも分かるほど、声が震えた。りひとは自分の手を見つめている。「違う」「うん」いのりは即答した。りひとが顔を上げる。「私、りひとがやったなんて思ってない」「でも、この血……」「だって私、生きてるもん」いのりは自分の胸に手を当てた。心臓は動いている。怪我もない。「じゃあ誰の血だ?」答えは出なかった。りひとはナイフを拾おうとする。「触らないで」いのりが腕を掴んだ。「これ以上、証拠みたいなもの増やしたくない」「証拠って……俺が犯人みたいに言うなよ」「そういう意味じゃない!」「分かってる」りひとは少しだけ笑った。「怖い?」いのりは黙った。怖い。血も。宿帳も。このペンションも。そして何より。いつか自分が、りひとを怖いと思ってしまうことが怖かった。「……怖いよ」「そっか」りひとは一歩下がった。いのりから距離を取る。「じゃあ俺から離れてろ」「なんで?」「宿帳に書いてあることが本当なら――」「嫌」今度も即答した。「私、りひとから離れない」「いのり」「怖いから一緒にいるの」いのりは、血の付いていない左手を握った。「それに」指を絡める。「好きな人を、変な宿帳より信じたい」りひとの目が大きくなった。「……今なんて?」「聞こえたでしょ」「もう一回」「絶対言わない」こんな場所なのに、頬が熱くなる。りひとは少しだけ笑った。「未来に帰ったら、もう一回聞く」未来。その言葉が胸に刺さった。二人で帰れる保証なんて、どこにもない。チリン。鈴が鳴った。ロビーの奥。暗闇の中からだった。二人は同時に振り返る。そこに、女が立っていた。白い服。長い黒髪。「葉月さん?」女は答えない。ゆっくり右手を上げる。その手首には銀色の鈴。そして。手のひらが赤かった。「血……?」ぽたり。床へ落ちる。女は廊下の奥へ歩き始めた。「待って!」二人は追いかけた。女が入ったのは、食堂だった。扉を開ける。誰もいない。「消えた……」りひとがライトを照らす。テーブル。
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-19
อ่านเพิ่มเติม

第22話 写真の中の恋人

チリン。写真の中から、鈴の音がした。いのりは床に落ちた写真を見つめた。昭和四十七年七月二十三日。葉月が死ぬ日の星祭り。そこに――西園寺りひとがいる。「ありえない……」隣にいる本人を見る。同じ顔。同じ髪。見間違えるはずがない。「俺じゃない」りひとが呟いた。「分かってる」いのりは答えた。「だって、りひとは私と一緒にここへ来たんだもん」「でも顔は俺だ」りひとは写真を拾った。その指が震えている。「それに俺はさっき、湖にいる自分を見た」血のついた右手。泣いている葉月。そして――――あの子には言わないで。誰の声だったのか。「ねえ」いのりは、りひとの袖を掴んだ。「一人で抱え込まないでね」「……怖くないの?」「怖いよ」「俺が犯人かもしれないのに?」いのりは少しだけ黙った。それから、りひとの左手を握った。「もし本当にりひとが何かしたなら、一緒に理由を探す」「いのり」「でも今は信じる」りひとはしばらく何も言わなかった。やがて握られた手を握り返す。「そういうこと言われると」「うん?」「絶対、お前を未来に帰したくなる」胸が跳ねた。「……一緒に、でしょ」「もちろん」りひとが微笑む。「俺も一緒に帰る」その言葉が嬉しくて。同時に、なぜか悲しかった。未来に帰る。そんな当たり前の約束が、ここでは叶わない気がした。その時。写真が熱くなった。「熱っ」りひとが手を離す。写真の表面が、水面のように揺れていた。そして。写真の中のりひとが――動いた。「え……?」ゆっくり顔を横へ向ける。隣にいる葉月を見る。葉月も動いた。『りひとさん』小さな声が聞こえた。「葉月さん……?」写真の中の葉月が笑っている。『約束ですよ』『分かってる』答えたのは、写真の中のりひと。『必ず、いのりちゃんを未来へ帰してください』いのりの呼吸が止まった。「私のこと……知ってる?」昭和四十七年の葉月が。まだ出会っていないはずの自分の名前を知っている。映像が変わる。夜の湖。葉月とりひとが二人で立っていた。『私が死ななかったら』葉月が言う。『いのりちゃんは生まれないのでしょう?』「……葉月さん」いのりの目から涙が落ちた。知っていた。葉月は、自分を助ければいのりが消えることを知っていた
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-19
อ่านเพิ่มเติม

第23話 葉月の選択

――未来へ帰れるのは、ひとり。――選ぶのは、葉月。赤い文字が鏡に浮かんでいる。いのりは声を失った。「葉月さんが……選ぶ?」りひとが鏡へ近づく。「ふざけるな」低い声だった。「俺たちの未来を、なんで葉月さんが決めるんだ」その瞬間。チリン。玄関から鈴の音がした。「……葉月さん?」二人は走った。扉を開ける。月明かりの下。葉月が一人で立っていた。白いワンピース。手首には銀色の鈴。けれど。その裾が濡れている。ぽたり。ぽたり。「葉月さん、湖に行ったの?」葉月は答えない。「葉月さん?」やがて、顔を上げた。「いのりちゃん」いつもの優しい声。「未来って、どんなところ?」「え……?」「五十年後なんでしょう?」いのりの身体が固まった。「どうして、それを……」葉月は寂しそうに笑った。「知ってるよ」「いつから?」「分からない」葉月は自分の鈴を見つめる。「この鈴をもらってから、知らない景色を見るようになったの」高い建物。小さな電話。見たことのない車。そして。「大人になった巌さんも見た」いのりは息をのんだ。「おじいちゃんを?」「おじいちゃん?」葉月は少し驚き――すぐに理解した。「やっぱり」涙が一粒、頬を流れた。「いのりちゃんは、巌さんの孫なんだね」「葉月さん……」「私の孫じゃない」その言葉が胸に刺さった。葉月は笑おうとしていた。でも、笑えていなかった。「巌さん、結婚するんだ」いのりは何も言えない。「すみえさん?」沈黙が答えになった。「そっか」葉月は夜空を見上げた。「幸せだった?」「……うん」嘘ではない。少なくとも、いのりが知っている祖父は家族を大切にしていた。「よかった」葉月は本当に嬉しそうに言った。それが余計につらかった。「よくないよ!」いのりの声が震える。「葉月さんは?」「え?」「葉月さんの幸せはどうなるの?」葉月は答えない。「未来を知ったからって、自分が死ねばいいなんて思わないで」「いのり」りひとがそっと肩に触れる。「だって、おかしいよ」涙が止まらない。「葉月さんが死ななくてもよかったはずじゃん」村を出ればよかった。巌と別れてもよかった。別の誰かを好きになってもよかった。一人で生きたってよかった。「生きてれば、いくらで
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-20
อ่านเพิ่มเติม

第24話 祖父の告白

「りひとも、この世から消える」湖を渡る風が止まった。いのりは祖父を見つめる。六十三歳の水瀬巌。自分が知っている、おじいちゃん。幼い頃、手を繋いで歩いた。転べば起こしてくれた。何度も頭を撫でてくれた。その人が今。五十年以上前に死んだ少女を、助けるなと言っている。「……どういうこと?」巌は答えない。「なんで、りひとまで消えるの?」「それは……」「おじいちゃん!」声が湖面へ響いた。「全部知ってるんでしょう?」巌の顔が歪んだ。「葉月さんが死ぬことも」一歩近づく。「私がここへ来ることも」もう一歩。「りひとが巻き込まれることも」そして。ずっと聞くのが怖かった言葉を口にした。「どうして葉月さんを殺したの?」巌の瞳が揺れた。「……殺していない」「じゃあ、なんで死んだの?」「守れなかった」その声は小さかった。「同じことでしょ!」「違う!」初めて祖父が怒鳴った。いのりの身体が震える。巌はすぐに目を伏せた。「……すまない」「私じゃなくて」いのりの目から涙が落ちた。「謝る相手、違うよ」巌は何も言わなかった。長い沈黙。やがて。「私は、葉月と逃げるつもりだった」いのりは顔を上げる。「七月二十三日の夜。湖で待ち合わせをしていた」葉月の日記と同じだ。「家も、縁談も、全部捨てるつもりだった」「じゃあ……」「だが行かなかった」「どうして?」巌の拳が震えた。「父が倒れた」水瀬家。家族。村での立場。神崎家との縁談。すべてを捨てれば、家族が路頭に迷う。そう言われた。「私は二十歳だった」巌は苦しそうに笑った。「葉月を選ぶと言いながら、最後の最後で怖くなった」湖には行かなかった。葉月は一人で待っていた。「それで葉月さんは……?」「死んだ」「誰に殺されたの?」巌は黙った。「おじいちゃん」「言えない」「どうして!」「言えば、お前が同じことをする!」意味が分からない。「私が?」巌が、いのりの肩を掴んだ。「聞け」「痛いよ……」「葉月を救おうとするな」祖父の目に涙が溜まっていた。「未来へ帰れ」「りひとを探して帰れ」「嫌」「いのり!」「嫌だよ!」いのりは祖父の手を振り払った。「葉月さん、十八歳だよ!」自分と同じ歳。恋をして。未来を信じて。好きな
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-21
อ่านเพิ่มเติม

第25話 婚約写真

――神崎すみえ・西園寺りひと――婚約。「……は?」いのりは写真を拾い直した。見間違いかと思った。何度見ても同じだ。すみえと、りひと。しかも手を繋いでいる。「ちょっと待って」写真に向かって呟く。「私には未来に帰ったら旅行って言ったよね?」返事などあるはずがない。「温泉行くって約束したよね?」もちろん返事はない。「なのに何で昭和で婚約してるのよ!」夜の湖に声が響いた。その瞬間。チリン。どこかで鈴が鳴った。まるで笑われたような気がした。「……笑った?」いのりは写真を睨む。怖い。でも、それ以上に腹が立つ。「りひと見つけたら絶対説明してもらう」写真を握りしめ、神崎家へ向かった。夜の村は静まり返っていた。祭りの提灯だけが風に揺れている。人がいない。ほんの数時間前まで、あれほど賑やかだったのに。やがて、大きな日本家屋が見えてきた。神崎家。地主の家らしく、立派な門構えだった。門は少し開いている。「すみえさん?」返事はない。庭へ入る。ザッ。背後で音がした。振り返る。誰もいない。砂利に、自分とは別の足跡がある。裸足。濡れている。ぺた。ぺた。玄関へ続いていた。「……またこれ」いのりは息を整え、玄関を開けた。「お邪魔します」暗い。長い廊下。障子。古い柱時計。突き当たりに、一つだけ明かりがついている。チリン。そこからだ。いのりは廊下を進んだ。一歩。また一歩。途中。障子の向こうに人影が現れた。女。長い髪。「すみえさん?」人影が止まる。いのりも止まった。「りひと、ここにいますか?」影は答えない。代わりに。ゆっくり首が伸びた。ありえないほど長く。天井近くまで。「……っ!」いのりは後ずさる。バン!障子が開いた。誰もいない。「もう……!」泣きそうになる。その時。「いのり?」聞き慣れた声。「え?」廊下の奥。「りひと!」いのりは走った。りひともこちらへ向かってくる。「無事だったのか!」「それはこっちの台詞!」顔を見た瞬間、安心した。抱きつきたい。けれど。例の写真を思い出した。いのりは寸前で止まる。「……何?」りひとが不思議そうに見る。いのりは写真を突き出した。「説明してください」「何を?」「婚約おめでとうご
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-22
อ่านเพิ่มเติม

第26話 葉月の願い

「私が殺したのは――葉月さんよ」チリン。銀色の鈴が鳴った。いのりは動けなかった。すみえの右手には、血に濡れたナイフ。その足元には父親が倒れている。「……どういうこと?」すみえは泣いていた。「葉月さんを刺したの?」「違う」「じゃあ、殺したって何?」すみえはナイフを畳へ置いた。カタン。「私は、葉月さんを湖へ行かせたの」「湖……」昭和四十七年七月二十三日。巌と葉月が逃げる約束をしていた夜。「巌さんは来なかったんじゃ……」「来られなかったの」すみえが答えた。「水瀬家のお父様が倒れたから」いのりは祖父から聞いた話を思い出す。家を捨てるのか。家族を捨てるのか。葉月を選ぶのか。二十歳だった巌は、最後まで選べなかった。「それを葉月さんに伝えたのが、私」すみえは俯いた。「湖へ行ってはいけないって言えばよかった」「なのに……」「私は言った」すみえの唇が震える。『巌さんが待っています』いのりの胸が冷たくなった。「嘘をついたの?」「……ええ」「どうして!」「私も巌さんが好きだったから!」すみえの声が響いた。静寂。「ずっと好きだった」幼い頃から一緒だった。家同士も認めていた。いつか巌の妻になる。そう思っていた。なのに。巌が見ていたのは葉月だった。「だから……邪魔だった?」いのりが尋ねる。すみえは首を振った。「そう思いたかった」「え?」「葉月さんを憎めたら、楽だった」すみえは涙を拭った。「でも、できなかった」あの日。すみえは葉月に会いに行った。巌は来ない。そう伝えるつもりだった。けれど葉月は、小さな鞄を抱えて笑っていた。『すみえさん』『私ね、怖いの』『村を出たことなんてないから』それでも。『いわおさんとなら、どこへでも行ける気がする』幸せそうだった。「私は、何も言えなくなった」そして口から出たのは。――巌さんが湖で待っています。「その嘘が葉月さんを湖へ行かせた」いのりは何も言えなかった。嫉妬。恋。後悔。たった一言で。誰かの人生が変わった。「でも、それだけで葉月さんは死なない」りひとが言った。「湖で何があった?」すみえの表情が変わった。「分からない」「分からない?」「追いかけたの」嘘をついた直後、怖くなった。葉月を止めなければ。
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-23
อ่านเพิ่มเติม

第27話 地下室

――ペンション調 地下保管室。――昭和四十七年七月二十三日より封鎖。いのりは鍵を握りしめた。葉月が消えた夜から、一度も開けられていない部屋。そして葉月は言った。――絶対に、地下室を開けないで。――そこには、私がいるから。「……行く?」いのりが尋ねた。りひとは少し考えてから首を振った。「今はやめよう」意外な答えだった。「開けないの?」「葉月さんがあれだけ必死に止めたんだ。理由がある」「でも、真相があるかもしれない」「だからこそだよ」りひとは、いのりを見る。「俺たち、ここに来てからずっと、誰かに誘導されてる気がしないか?」宿帳。写真。鈴。未来を映す鏡。そして今度は地下室の鍵。まるで誰かが、少しずつ答えへ導いている。「……オーナー?」「分からない」りひとは鍵をポケットへ入れた。「一度ペンションへ戻ろう」二人は神崎家を出た。夜の村を歩く。妙に静かだった。祭りの提灯は灯っている。なのに、人が一人もいない。風さえない。「ねえ」いのりが足を止めた。「何?」「時計」商店の壁に掛けられた時計。二時十二分。その隣。民家の時計も。二時十二分。神社の時計も。二時十二分。「全部……同じ」葉月の言葉が蘇る。――午前二時十三分になっても。――絶対に、地下室を開けないで。カチ。時計の針が動いた。午前二時十三分。ゴーン――。村中に鐘が響いた。その瞬間。すべての提灯が消えた。「走れ!」りひとがいのりの手を掴む。二人はペンションへ走った。背後から、ぺた。ぺた。ぺた。裸足の足音が追ってくる。振り返らない。「りひと!」「前だけ見ろ!」ペンションが見えた。玄関へ飛び込む。扉を閉める。ガチャン!「はぁ……はぁ……」いのりは壁に背をつけた。「今の、何……?」りひとは答えない。ロビーは真っ暗だった。「オーナーさん?」返事はない。受付にも誰もいない。その時。コツ。床の下から音がした。二人が止まる。コツ。もう一度。「……下?」コツ。コツ。コツ。一定の間隔。まるで。誰かが地下から天井を叩いている。「地下室……」いのりが呟いた。りひとが懐中電灯を点ける。受付の奥。今まで壁だと思っていた場所に、細い階段が現れていた。「こんなの、
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-24
อ่านเพิ่มเติม

第28話 優しい嘘

――私が生きていることを、巌さんには言わないで。いのりは何度も紙を読み返した。「どうして……」葉月は巌を愛していた。一緒に村を出るはずだった。それなのに。生きていることを、一番伝えたいはずの人に隠している。「りひと」「うん?」「葉月さんは、どうしておじいちゃんにだけ言わないでって書いたんだろう」りひとは地下室の扉を見つめた。「知られたら困るんじゃなくて」少し考えて続ける。「知られたら、巌さんが何かするからじゃないか?」「何かって?」「葉月さんを助ける」いのりは息を止めた。助ける。普通なら、それでいい。なのに葉月は――助けられることを拒んでいる。その時。カチ。ロビーの時計が動いた。二時十四分。「……動いた」さっきまで村中の時計が二時十三分で止まっていた。いのりは時計を見上げる。カチ。二時十五分。「時間が進んでる」「地下室が開いたから?」りひとの言葉に、いのりは振り返った。あの扉が開いた瞬間から。止まっていた時間が動き始めた。「ねえ、オーナーさんは?」二人は受付へ向かった。誰もいない。カウンターの奥には、古い棚。宿帳。鍵。そして一冊の分厚い帳面が置かれていた。「これ、さっきまであった?」「いや」表紙には墨で書かれている。――宿直記録。りひとがページを開いた。昭和四十七年。七月二十三日。いのりの指が止まる。そこには短い記録が残っていた。――午前一時四十八分。――女性一名を保護。「女性一名……」次の行。――氏名 三田村葉月。「やっぱり!」いのりはりひとを見る。「葉月さん、湖で死んでない!」葉月はあの夜、ペンションへ来ていた。さらに読む。――意識混濁。――外傷なし。――衣服に著しい水濡れあり。「水には入ったんだ……」「でも外傷なし」りひとが呟く。つまり少なくとも、ここへ運ばれた時点では生きていた。問題は次だ。――本人の希望により、地下保管室へ移送。「本人の希望?」いのりは眉を寄せた。閉じ込められたのではない。葉月自身が地下へ行くことを望んだ?そして最後。――午前二時十三分。――水瀬巌氏、来訪。いのりの指が止まった。「おじいちゃん……来てた」巌は言っていた。湖へ行かなかった、と。葉月を守れなかった、と。なのに。
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-24
อ่านเพิ่มเติม

第29話 午前二時十七分

――午前二時十七分。――西園寺りひと、地下室へ入室。――退室者、一名。「……俺?」りひとの声が静かなロビーに落ちた。時計を見る。午前二時十六分。あと一分。「入らなきゃいい」いのりは即答した。「ここにいて」「ああ」「絶対だよ」「分かった」りひとは地下室から離れた。二人でロビーの中央へ移動する。地下室まで十メートル以上。扉は閉じている。鍵も、りひとが持っている。「これなら入れない」いのりは時計を見た。秒針が進む。コチ。コチ。コチ。五十秒。「りひと」「いるよ」五十五秒。いのりは彼の手を握った。「離さないで」「離さない」五十八。五十九。カチ。午前二時十七分。何も起きない。「……ほら」いのりが笑った。「変えられた」りひとも息を吐く。「宿帳が間違ってたな」その瞬間。チリン。地下室から鈴が鳴った。照明が消えた。「りひと!」「ここにいる!」握っている手。確かに温かい。暗闇の中、女の声が聞こえた。『いわおさん』いのりの身体が固まる。葉月。『来てくれたんですね』「葉月さん?」『ずっと待っていました』「違う!」いのりは叫んだ。「おじいちゃんじゃない!」その瞬間。握っていた手の感触が変わった。冷たい。細い。「……え?」照明が戻る。いのりは隣を見る。握っていたのは、りひとの手ではなかった。白い女の手。手首に銀色の鈴。「きゃあ!」手を振り払う。誰もいない。「りひと?」ロビーを見回す。いない。「りひと!」地下室。扉が開いていた。「嘘……」時計を見る。午前二時十七分。宿直記録を見る。文字が変わっている。――西園寺りひと、地下室へ入室。記録どおり。「りひと!」いのりは地下室へ走った。階段を下りる。冷たい空気。懐中電灯を点ける。石造りの壁。地下は思っていたより広い。「りひと!」返事はない。代わりに。コツ。奥から音がした。コツ。コツ。裸足の足音。「誰……?」光を向ける。誰もいない。廊下の両側には扉が並んでいる。一。二。三。四。一番奥だけ、白い花が置かれていた。「葉月さん……?」その部屋の前に、りひとが立っている。「りひと!」駆け寄る。しかし。りひとは動かない。「どう
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-25
อ่านเพิ่มเติม

第30話 嘘をつく記録

――三田村葉月との約束により、――一生涯、知らなかったふりをする。「おじいちゃんは……知ってた?」いのりは宿直記録を見つめた。五十四年間。葉月が生きていたことを知りながら、知らないふりをしていた。そんなことができるのだろうか。「待って」りひとが言った。「何?」「これ、本当なのか?」「え?」りひとは宿直記録を拾い上げる。「さっきまで、この文章はなかった」いのりは息を止めた。確かにそうだ。宿直記録には、あとから文字が浮かび上がった。しかも、まだ起きていない未来まで書かれていた。――西園寺りひと、地下室へ入室。けれど実際には。りひとは今、いのりの隣に立っている。「じゃあ……」いのりは扉を見る。「中に入ったりひとは誰だったの?」「分からない」「記録が間違ってるってこと?」「それも分からない」りひとはページをめくった。「ただ、これを全部事実だと思うのは危ない」その時。チリン。銀色の鈴が鳴った。二人は同時に振り返った。地下室の一番奥。扉が、ゆっくり開いていく。その向こうから白い光が漏れる。「また……」いのりが呟いた。光の中に、人影が現れた。若い巌。そして葉月。二人は向かい合っている。「おじいちゃん……」これは過去?葉月が俯いている。『私のことは忘れてください』『嫌だ』巌は即答した。『できるわけないだろ』『お願いします』『理由を言え』葉月は答えない。『俺が嫌いになったのか』葉月が首を振る。『じゃあ、なんでだ』『……幸せになってほしいから』巌の顔が歪んだ。『俺の幸せを、お前が勝手に決めるな』いのりの胸が締めつけられた。どこかで聞いた言葉。自分も同じことを思った。好きなら話せばいい。二人で決めればいい。どうして一人で決めてしまうのか。葉月は泣いていた。それでも、巌へ笑いかけた。『あなたなら、きっといい人に出会えます』『そんな話をしてるんじゃない』『家庭を持って』『葉月』『子どもができて』『やめろ』『おじいちゃんになって』葉月の声が震える。『長生きしてください』巌は何も言えなくなった。葉月は最後に、小さく頭を下げた。『さようなら』チリン。鈴が鳴った。光景が消えた。暗い地下室へ戻る。いのりは涙を拭った。「今
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-26
อ่านเพิ่มเติม
ก่อนหน้า
1234567
สแกนรหัสเพื่ออ่านบนแอป
DMCA.com Protection Status