カチャン。床に落ちたナイフが、月明かりを反射した。刃には赤い血。いのりは動けなかった。目の前にいるりひとの右手にも、同じ赤が付いている。宿帳には――――西園寺りひとは、水瀬いのりを殺す。「……りひと」自分でも分かるほど、声が震えた。りひとは自分の手を見つめている。「違う」「うん」いのりは即答した。りひとが顔を上げる。「私、りひとがやったなんて思ってない」「でも、この血……」「だって私、生きてるもん」いのりは自分の胸に手を当てた。心臓は動いている。怪我もない。「じゃあ誰の血だ?」答えは出なかった。りひとはナイフを拾おうとする。「触らないで」いのりが腕を掴んだ。「これ以上、証拠みたいなもの増やしたくない」「証拠って……俺が犯人みたいに言うなよ」「そういう意味じゃない!」「分かってる」りひとは少しだけ笑った。「怖い?」いのりは黙った。怖い。血も。宿帳も。このペンションも。そして何より。いつか自分が、りひとを怖いと思ってしまうことが怖かった。「……怖いよ」「そっか」りひとは一歩下がった。いのりから距離を取る。「じゃあ俺から離れてろ」「なんで?」「宿帳に書いてあることが本当なら――」「嫌」今度も即答した。「私、りひとから離れない」「いのり」「怖いから一緒にいるの」いのりは、血の付いていない左手を握った。「それに」指を絡める。「好きな人を、変な宿帳より信じたい」りひとの目が大きくなった。「……今なんて?」「聞こえたでしょ」「もう一回」「絶対言わない」こんな場所なのに、頬が熱くなる。りひとは少しだけ笑った。「未来に帰ったら、もう一回聞く」未来。その言葉が胸に刺さった。二人で帰れる保証なんて、どこにもない。チリン。鈴が鳴った。ロビーの奥。暗闇の中からだった。二人は同時に振り返る。そこに、女が立っていた。白い服。長い黒髪。「葉月さん?」女は答えない。ゆっくり右手を上げる。その手首には銀色の鈴。そして。手のひらが赤かった。「血……?」ぽたり。床へ落ちる。女は廊下の奥へ歩き始めた。「待って!」二人は追いかけた。女が入ったのは、食堂だった。扉を開ける。誰もいない。「消えた……」りひとがライトを照らす。テーブル。
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-19 อ่านเพิ่มเติม