「あなた、本当に」いのりは、りひとを見つめた。「2026年から来た人なの?」地下室が静まり返った。りひとは何も言わない。「……何か言ってよ」「俺だって分からない」「分からないって?」「自分が誰なのかなんて、考えたことなかった」りひとはポケットからスマートフォンを取り出した。画面は点かない。この村へ来てから、ずっと圏外だった。「俺は西園寺りひと」自分に言い聞かせるように呟く。「二十三歳」財布を開く。運転免許証。健康保険証。会社の社員証。どれにも、同じ顔。同じ名前。――西園寺りひと。「ほら」いのりは言った。「ちゃんとあるじゃん」「ああ」「だったら――」「でも」りひとが遮った。「俺、子どもの頃のことをほとんど覚えてない」「え?」「小学校くらいからは覚えてる」友達。学校。家族旅行。怒られたこと。初めて自転車に乗ったこと。記憶はある。「でも、それより前がない」「小さい頃なら普通じゃない?」「そう思ってた」りひとは額を押さえた。「でもさっき地下室を見た時」目を閉じる。「懐かしいって思った」いのりは黙った。「初めて来た場所なのに?」「ああ」りひとは一番奥の扉を見る。「この匂いも」湿った石。古い木材。白い花。「知ってる」「どうして……」「分からない」チリン。銀色の鈴が鳴った。二人は同時に鈴を見る。「また……」いのりが呟く。その瞬間。地下室の壁に、白い光が走った。映像が浮かぶ。湖。夜。昭和四十七年七月二十三日。葉月が立っている。その向かいに、すみえ。そして――もう一人。男。「三人目……!」いのりが叫ぶ。顔が見えない。男は背を向けている。背格好は、りひととよく似ていた。「俺……?」「待って」いのりは目を凝らす。男の服装がおかしい。葉月とすみえは、昭和の服装。なのに男だけ、現代的なシャツとパンツを着ている。「この人も……未来から?」男が振り返ろうとする。チリン。鈴が鳴った。光が揺れる。「顔!」あと少し。男の横顔が見える。りひとに――似ている。けれど。完全には見えない。映像が途切れた。暗闇。「今の人……」いのりが、りひとを見る。「俺じゃない」りひとは即答した。「なんで分かるの
Terakhir Diperbarui : 2026-08-27 Baca selengkapnya