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「このオーディションを勝ち抜けばデビューへの扉が開く。今まで準備してきたこと、ここで全部ぶつけて来い」
「はい」 マネージャーの力強くも温かい言葉に背中を押され、私は息を吐き出した。 膨大な数の書類審査を抜け、形式的な面接もクリアした。 いよいよ今日から、実技を伴う第1次審査が始まる。 このオーディションの過程はすべてカメラで収録され、動画配信サービスでリアリティ番組として全世界に流される。 そして、ここで勝ち残ったたった一人が、秋の大型ドラマのヒロインの座を手にする。 「…よし」 重厚な防音扉を抜けると、体育館ほどある広いスタジオに出た。 パイプ椅子が等間隔に並べられ、すでに異様な緊張感が漂っている。 ここに集められたのは、全国から絞り込まれた計25名の女優たち。 「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます」 進行役のスタッフがマイクを握り、正面に設置された長机の前に立った。 「これより、第1次審査を始めます。いきなり実技に入る前に、まずは今回の審査基準と、審査員の皆様をご紹介いたします。本作のメガホンを取る、監督の……」 マイクを通した淡々とした説明が続く中、私は長机に座る面々へと視線を移した。 気難しいと噂の監督、大ヒット作を連発している気鋭の脚本家、そしてプロデューサー陣。 その隣…長机のいちばん端に座る青年に視線が向いた瞬間、私の心臓がドクンと大きく跳ねた。 「そして、本作の主演を務める一ノ瀬悠真さんです」 間違いない。 少し大人びて、洗練されたオーラを纏っているけれど、あの頃の面影はそのままだ。 私は思わず目を見開き、息を呑んで彼を凝視してしまった。 その強烈な視線に気づいたのか、手元の資料に落とされていた彼の長いまつ毛が持ち上がり、こちらを向いた。 彼の瞳が微かに揺れ、めくろうとしていた台本の手がピタリと止まる。 ほんの一瞬だけ、時が止まったような気がした。 彼も、間違いなく私に気づいた。けれど、彼は何事もなかったかのようにスッと目を逸らし、再び手元の資料へと視線を落とした。 まるで、見ず知らずの他人に向けられるような、何の感情もこもっていない表情。 あの日のことを、怒っているのだろうか。 今から五年前。ある日突然、悠は私に別れの言葉すらもなく、唐突に転校して私の元を去っていった。 何が起きたのか全く理解できず、ぽっかりと空いた彼の机を見つめるしかなかった一週間後。 突然、私のスマートフォンが鳴った。 画面に表示された『悠』の文字に、私は弾かれたように通話ボタンを押した。 「悠!? ちょっと、急にいなくなるなんてどういうこと!? 転校するなんて、私、何も聞いて──」 募っていた不安と苛立ちをぶつけようとした私の声を、彼が遮った。 「……明日、会って話したい」 電話越しの彼の声は、どこか切羽詰まっているような、ひどく真剣な響きを帯びていた。 「夜の7時、いつもの公園で待ってるから」 説明を求める前に一方的に告げられた指定。 怒りたい気持ちは山々だったけれど、それ以上に『話したい』と言ってくれたことに安堵してしまった私は、少しだけ声を潜めて答えた。 「……うん、分かった。絶対に行くから」 けれど、その約束が叶うことはなかった。 約束の日の夕方。長らく癌で入院していた祖母の容態が急変し、そのまま帰らぬ人となった。最近は顔色も良く、少しずつ回復していると聞いていた矢先の出来事だった。 あまりの突然の別れに、頭の中が真っ白になった。 正直、あの数時間の記憶はひどく曖昧で、自分がどうやって立っていたのかすら覚えていない。 ただ、約束の時間が過ぎていくことへの焦燥感だけが、パニック状態の頭の片隅にへばりついていた。 泣き腫らした目で病院の廊下の隅にしゃがみ込み、震える指で最後の力を振り絞って悠に電話をかけた。 『プルルルル……プルルルル……』 無機質なコール音が何度も鳴る。 事情を話せば、彼ならきっと分かってくれる。祈るようにスマートフォンを耳に押し当てたけれど、彼が電話に出ることはなかった。 『ごめん、おばあちゃんが急変して、行けなくなっちゃった。落ち着いたら必ず連絡する』 メッセージも残したけれど、いつまで経っても既読の文字がつくことはなかった。 そして、その次の日。 少しだけ落ち着きを取り戻し、真っ先に悠に電話をかけた私の耳に届いたのは、絶望的なアナウンスだった。 『おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため──』 何度架け直しても、同じだった。 彼が私の電話を取ることは、二度となかった。 それから半年後。傷心から立ち直りきれていない私の目に飛び込んできたのは、テレビの画面の中でスポットライトを浴びる悠の姿だった。 高校三年生という若さで突然の芸能界デビューを果たすと、あっという間に人気に火がつき、今や誰もが認める若手トップの演技派俳優になった。 あの日、悠は私に何を言おうとしていたのだろう。 なんで、あんな風にすべてを絶ち切って消えてしまったのだろう。 いつかまた会えたら、必ず聞こうと決めていた。けれど、まさかこんな風に、オーディションの相手役として再会することになるなんて。 「──それでは説明は以上です。これより5人1組になっていただき、最初の課題となるグループ演技の審査に入ります。AグループからEグループまで、番号順に5名ずつ前に出てください」 スタッフの声が、私を現実に引き戻した。 渡されたゼッケンの番号に従い、私はCグループの列に並ぶ。 スタッフから手渡されたのは、ペラ一枚の短い台本。 設定は、親友の裏切りを知った瞬間。 セリフはごくわずかで、後半は白紙。 「設定をベースに、あとは各自の解釈で即興劇として展開すること」という、残酷なほど自由度の高い課題だった。 別室での10分間という短い打ち合わせ時間。5人の間にピリッとした牽制の空気が流れる。 「私、最初に口火を切る役やるね」「じゃあ、私はそれに反発する役で」 自己主張の強い二人が早々に目立つポジションを陣取っていく。 無理もない。審査員の目を引かなければ次はない。 私はあえて、一番セリフが少なく、ただ事実を告げられる役を選んだ。 スタジオに戻り、AグループとBグループの演技を見学する。どの候補者も素晴らしい発声と豊かな表情で、画面映えする分かりやすい演技をしていた。 審査員たちは淡々と手元の資料にペンを走らせ、彼は相変わらず感情の読めない顔でモニターを見つめている。 「次、Cグループ。準備をお願いします」 進行役の声に促され、カメラの放つ無機質な赤いランプに囲まれた中央のスペースへと足を踏み入れる。 床のバミリに立ち、深く深呼吸をした。 ずっと会いたかった。この場所で再会するために、血の滲むような努力をしてここまで這い上がってきた。 「─────アクション!」 自分の輪郭が溶け、役と完全に同化していく。 目の前で、他の候補者たちが台本通りの激しい口論を繰り広げ、そのままアドリブの言い争いへと発展していく。 私は一言も発さない。ただ、信じていた人に裏切られたという事実を前に、その場に縫い付けられたように立ち尽くす。 大げさに泣き喚くこともしなかった。ただ、じっと宙を見つめ、瞬きすら忘れたように呼吸を浅くしていく。 血の気が引き、指先が微かに震える。 やがて、言い争っていた彼女たちの声がピークに達した瞬間。私は、ポツリと魂を絞り出すように呟いた。 「最初から、私のことなんて……どうでもよかったんだね」 声は決して大きくなかったけれど、怒号が飛び交っていたスタジオの空気を一瞬で凍りつかせるように、真っ直ぐに響いた。 「はい、カット!」 監督の満足げな声で、張り詰めた静寂が破られた。 私はゆっくりと瞬きをして役から抜け出し、他の4人と共に深く一礼する。 審査員席からの熱を帯びた視線、そして、彼にもう一度私という存在を強烈に刻み込むことができた。「ゆ……一ノ瀬さん……」彼が放っているその強烈な怒りは、撮影を遅らせようとしている私に対するものではなく、明らかに言いなりになっている私に向けられていた。「お兄さんが病院に運ばれたんですよね。それに意識不明の重体だと。それなのに、どうしてすぐに行かないんですか」「ここで私が抜けてしまえば……」震える唇で言い訳を口にすると、悠真はひどく呆れたように短く息を吐き捨てた。そして、私から庇うように一歩前へ出ると、今度は監督へとその鋭い矛先を向けた。「監督。情緒不安定な彼女に演技をさせても、いい作品は撮れないと思います」焦る監督のスケジュール管理を理詰めで塞ぎ、作品のクオリティを盾にすることで、私を現場から強制的に解放しようとしてくれている。「そうは言ってもなぁ……。スケジュール的にも、ここで彼女に抜けられると……」ドラマの撮影現場において、役者が突発的に抜けるということは、その日予定していたスケジュールがすべて白紙になることを意味する。確保していたロケ地、エキストラ、ほかの役者の拘束時間。それらがすべて無駄になれば、莫大な制作費の損失が出る。監督が同情よりも現実的な進行を優先するのは、現場の責任者として当然の葛藤だった。その沈黙が私への見えない圧力となってのしかかり、「残ります」と口を開きかけた、その時だった。「俺の単独カットを先に全部回してください。彼女が必要な引きの画や、肩越しのシーンは、代役を立ててカメラアングルで凌げるはずです」悠真の口から飛び出したのは、感情論ではなく、現場を動かすための現実的な妥協案だった。それは技術的には可能でも、相手の表情や息遣いがない状態で完璧な演技を要求される、役者にとっては負担の大きい手法だ。 「代役で……? いや、でもそれだと後日、彼女の顔の寄りを別撮りする時に、一ノ瀬くんにもう一度相手役として来てもらうことになるぞ。君のスケジュールだってカツカツなのに……」監督が驚いたように反論した。トップ俳優である悠真のスケジュールは、分刻みで数ヶ月先までびっしりと埋まっている。今回のドラマ撮影だけでもギリギリの調整で参加しているはずなのに、私のために別日を設けさせるなんて不可能に近い。「構いません。スケジュールの帳尻は合わせます」迷いのないその一言が、静まり返ったスタジオに深く、重く響き渡った。「作品の質
兄が病院のベッドで生死の境を彷徨っている事実がどうしても頭で処理しきれず、私はマネージャーの腕をすがるように掴んだまま、ガタガタと震えることしかできなかった。 「美羽っ! しっかりしろ、大丈夫かっ!」 「兄が……っ、お兄ちゃんが……!」 呼吸の仕方を忘れたように喘ぎながら、私は必死に言葉を絞り出した。 「落ち着いて、ゆっくり深呼吸するんだ。蒼真くんに何があった」 マネージャーは、パニックに陥りかけている私を落ち着かせるように問いかけてきた。 私が泣いても兄は助からない。分かっているのに涙を止めることができなかった。 私は震える手で顔を覆い、しゃくり上げるのを必死で呑み込みながら、途切れ途切れの言葉で病院から告げられた惨状を伝えた。 「病院に運ばれて……意識がないって。私、どうしたらいいか……っ」 すぐにでも駆け出して病院へ向かいたいのに、足がすくんで一歩も動けない。 「監督に事情を話して、今すぐここを出るぞ。車は俺が回すから、美羽は向かう準備をしろ」 マネージャーは一瞬の迷いもなくそう断言すると、私の背中を力強く押してくれた。 通常であれば、ヒロインが撮影を途中で投げ出すなど許されない。それでも彼は、私の女優としてのキャリアよりも、一人の人間としての心を最優先に守ろうとしてくれた。 彼の背中から伝わる確かな味方の存在に、私はかろうじて頷きを返した。 「……はい」 私は手の甲で乱暴に涙を拭うと、重い足を引きずるようにして、スタジオの中央でスタッフに指示を出している監督の元へと向かった。 きらびやかな照明、慌ただしく動き回る美術スタッフ。数分前まで私もその一部だったはずの撮影現場の空気が、今の私には酷く遠い世界のように感じられた。 今は泣いている場合じゃない。何
「美羽、さっきスマホ鳴ってたぞ」長いリハーサルがようやく終わり、スタジオの隅に置かれたパイプ椅子に崩れ込むように腰を下ろした私に、マネージャーが私のバッグを差し出しながら声をかけてきた。 「え……誰からですか?」 「それが、全部非通知なんだよ。短い間に3回も連続でかかってきてたから、何か急ぎの用かもしれないぞ」 私の背筋を冷たいものが駆け抜けた。心臓がドクンと嫌な音を立てて跳ね上がり、呼吸が浅くなる。 また、あの人からかもしれない。でも、これまで短い間に3回も連続して執拗に鳴り続けたことなんて一度もなかったのに。 ────プルルルル バッグの中で、無機質なバイブレーションの振動音が突如として鳴り響いた。 「……っ!」 着信音は切れることなく、どこまでも執拗に、そして不気味な一定のテンポで鳴り続けている。 「出なくていいのか?」 マネージャーの気遣うような声に、私はハッと我に返った。 あの人の存在を…得体の知れない悪意をマネージャーに話してしまえば、間違いなく警察沙汰になる。そうなれば現在進行中のこのドラマの撮影も止まってしまうかもしれない。 これだけ鳴り続けているのに出なければ、勘の鋭いマネージャーに不審がられてしまう。 恐怖で震える手を無理やりバッグに突っ込むと、意を決して通話ボタンをスワイプした。 「もし、もし……」 絞り出した声は、自分でも情けなくなるほどかすれて震えていた。 身構えて耳を澄ませた私の鼓膜を打ったのは、予想していたような気味の悪い沈黙ではなかった。 電話の向こうから聞こえてきたのは、背後で慌ただしく人が行き交う騒音と、事務的でありながらひどく切迫した、見知らぬ女性の緊迫した声だった。 「突然のお電話で失礼い
「本当のことは……ごめん。今はまだ話せそうにない」 絞り出すように告げたその言葉は、情けないほど小さく震えていた。 私の異常に気づき、どれほど心配してくれているか分かっているのに、それでも私は自分の抱える闇を兄に背負わせることはできなかった。 「いいよ。無理に聞き出そうなんて思ってない。ただ……美羽が話したくなった時に、ちゃんと受け止められる存在でいたい」 「……ありがとう、お兄ちゃん」 涙声になりそうなのを必死で呑み込み、私は短く感謝の言葉を紡いだ。 私は潤んだ瞳を隠すように手元の救急箱へ視線を落とし、使い終わった薬のチューブや湿布の袋を片付け始める。 パチン、と救急箱の留め具を閉めたその時、兄がふと、場を和ませるような軽いトーンで思いがけない言葉を落とした。 「それに、人のことは言えないしな。俺だってお前に隠してることがある」 その言葉に、私はピタリと手を止め、弾かれたように顔を上げた。 「え……? お兄ちゃんが、私に隠し事?」 私は目を丸くして、マジマジと兄の顔を覗き込んだ。 「ああ」 堂々と隠し事があると宣言されてしまうと、妹としてはどうしてもその中身を暴きたくなってしまう。私は救急箱をテーブルの端に押しやり、ソファーの上で膝を突き合わせるようにして兄へと距離を詰めた。 「え、何それ。気になるんだけど」 私は兄のシャツの袖を軽く引っ張り、答えを急かすように揺さぶった。 「俺も秘密だ」 兄は私の手を軽く払い除けると、意地悪な笑みを浮かべてそっぽを向いた。 「あ、もしかして、ついに彼女ができたとか?」 もしそうだとしたら、妹としてこれほど嬉しい隠し事はない。 私は確信めいた笑みを浮かべて彼の反応を待ったが、兄は呆れたような溜息を吐き出した。 「バカ言え。彼女ができたら、妹と二人で皿洗いなんかしてないだろ」 正論を突きつけられ、私は思わず確かにと納得してしまった。 もし大切な恋人ができたのなら、彼女と同棲でもしているはずだ。 兄の自嘲気味な笑いに、私もつられてふふっと笑い声を漏らしてしまう。 けれど、平和な笑いが落ちたその直後、私の頭の片隅に、自分が巻き込まれている危険の影が黒くよぎった。 まさかとは思うけれど、兄の隠し事も、そっちの類の暗いものなのではないかと
夕食を終えた後のキッチンには、水道の流れる音と、食器が軽く触れ合う音だけが心地よく響いていた。 兄が丁寧に洗い上げたお皿を受け取り、私が布巾で水気を拭き取っていく。 兄妹の穏やかな分担作業。けれど、濡れないように無造作に捲り上げられた兄のシャツの袖口から、痛々しい変色が見えた瞬間、私の手はピタリと止まった。 「あれ……お兄ちゃん、腕のそれどうしたの?」 お皿を持ったまま、私はその箇所を指差した。兄の引き締まった前腕には、青黒く変色してぽっこりと腫れ上がった痣が浮かんでいる。 誰が見ても痛々しいほどの打撲痕なのに、当の本人は私が指摘するまで全く気に留めてすらいなかった様子で、不思議そうに自分の腕へと視線を落とした。 「ああ……これか。今日、会社で重いダンボール運んだ時にちょっとぶつけちゃってさ」 痛みを微塵も感じさせないあっけらかんとした答えに、私は思わず眉根を寄せた。 痛みに鈍いのか、それとも私に心配をかけまいとするいつもの癖なのか。平気な顔をして皿洗いを続ける兄の横顔を見て、私の胸に心配が込み上げてきた。 「もう……! すぐに冷やすかお薬塗るかしないと。青く腫れてるじゃない」 私が非難すると兄は泡のついた手を止め、困ったように肩をすくめた。 「ははっ、なんだよ。お母さんみたいなこと言うな」 冗談めかして笑い飛ばそうとするその態度が、私には余計に腹立たしかった。 「笑い事じゃないよ! 私の時は大騒ぎするくせに、自分のことには本当に無頓着なんだから」 むっとした顔で睨みつけると、兄はやれやれといった様子で小さく息を吐いた。 私が本気で心配して怒っていることは伝わったようだが、それでもまだ皿洗いの手を止める気はないらしい。残った泡を洗い流しながら、私をなだめるように適当な返事を返してきた。 「わかったわかった、後でちゃんと薬塗っとくから」 その返事に、私は手元の布巾をシンクの脇にバ
「体調悪いのか?」助手席からバックミラー越しに投げかけられた、マネージャーの声が低く響いた。「え……?」呆然とした声しか出ず、私はかろうじてバックミラーに映るマネージャーの目を見返した。彼の眉間には深いシワが刻まれており、そこにはマネージャーとしての鋭い観察眼と、私を本気で案じる温かい情が交差していた。「顔色が悪い。真っ青だぞ」楽屋を出て車に乗り込んでからずっと、私は一言も発さずに窓の外を見つめるふりをしていた。けれど、さっきまでの激しい動悸と、悠真から突きつけられた思いも寄らない言葉の衝撃は隠しきれていなかったらしい。「今日……記者会見のシーンだったので」私は震える声を整え、精一杯の言い訳を口にした。大勢のフラッシュとカメラ、周囲からの突き刺さるような視線。それは確かに私の精神をすり減らした。けれど、私をここまで叩き落とした本当の原因は、仕事上のプレッシャーではなかった。「……薬が、効かなかったのか?」誰かの悪意によって隠されていたかもしれない事実を、マネージャーに知られるわけにはいかない。「いえ、ただ……少し疲れているだけだと思います」私は必死で首を横に振り、ぎこちない笑みを浮かべて見せた。「そうか。さっきの一ノ瀬くんとの話も原因かもな。ただの世間話じゃなさそうだったが」彼に本当のことを話すべきなのか、それとも胸の奥に封印してしまうべきなのか。迷いと葛藤が胸を駆け巡り、私は自分の膝をぎゅっと握りしめて俯くことしかできなかった。「それは……っ」かろうじて声を絞り出したものの、それに続く言葉は何も出てこなかった。悠真との間に横たわる、あまりにも悲惨なすれ違い。「言いたくないなら無理に言う必要はないが……」マネージャーは私の葛藤を察したように、トーンを落として優しく言った。無理に追及して追いつめない彼の温かい気遣いが胸に染み、目頭が熱くなる。







