All Chapters of 僕達のマザーランド: Chapter 11 - Chapter 20

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#11『奇襲』

※ 船長の命令や指示を踏まえて、フェンネルは大まかな作戦を二人に説明していく。「ローズは食糧庫からキッチン下へ行け。中に入ったら換気扇を回して、電気が点いて見えるようになってからユズさんに声掛けを始めろ。相手の武装状況が分からない以上、絶対にキッチンから顔は出すなよ」「了解だ」「リンデンはこのまま進んでリビングのハッチ前で待機、そこで目標の位置確認と捕獲準備。ローズの声に相手が気を取られている瞬間を狙え」「フェンネルは?」「整備室のメインヒューズとブレーカーを確認してから監視台に上がる。電気は監視台の非常灯スイッチを入れるが、明るくなってもすぐには動くなよ。ローズの声を合図に捕獲開始だ」「分かった」「可能なら、俺も上から捕獲を狙う。ローズ、捕獲対象の安否は?」「助けられるなら助けたい。リン、フェノン、出来る限り相手は無傷で安全に保護するんだ。いいな」「分かった!」「了解」 頷き合った三人は、『リストベル』と呼ばれる腕時計型端末の画面共有ボタンを同時に押した。 これで経過時間はもちろん、位置情報、通信機能、装着者のバイタル信号も共有される。 リンデンはその場で靴を脱ぎ、足音も無く廊下を奥へと進む。 ローズマリーとフェンネルは二人で踵を返して一度外へ出ると後部ハッチの方へ回り、ローズマリーの掌紋認証で鍵を開けた。 二人は整備室に入ると、フェンネルからハンドライトを受け取ったローズマリーは食料庫へ向かう。 フェンネルは再び外へ出て、監視台へと続く梯子を登り始めた。 リンデンがメインデッキに近付くと、その入口であるハッチは完全には閉まっておらず、少しだけ空いた状態にあった。 フェンネルに言われた通り、中へは入らずにリビングから死角になる位置に待機する。 短剣を抜いて逆手に構えると、目を閉じて感覚を尖らせ、気配を探りながら耳を澄ました。 一人はユズリハ、もう一人は少女の声だろうか。普段と変わらぬ声音で話す彼に、リンデンは心底安心する。 ただ彼は、一緒に居るであろう少女に向けて、何やら説得するような口調で話しかけ続けているようだ。「ほら、俺の仲間が帰ってきました。今のままでは大変な誤解を受けます、早く背中から降りて下さい」「ふん、折角捕まえた所だというに……解放は却下だ。今放せば、またお前は私から逃げ出すだろう?」「貴女が追い
last updateLast Updated : 2026-11-05
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#12『少女の目的』

※ ユズリハは、そんな状況を見ながら判断を選んでいるのか、『敵ではない』と言いながらも彼等の警戒を制止せずに見守っている。 少女は何とか腕を出そうと足掻くが、変わらず自分の上に居座り続ける相手に「何故だ」と目を見開いた。「魔力が使えん……! 貴様、私に何をしたっ?」「えー、何にもしてないし……『マリョク』って何?」「離せ、そこを退け! 私はそこに隠れている女を、今すぐ始末せねばならんのだ!」「!」 少女の言葉に、若い船員達の表情が瞬時に冷たいものへと変わる。 リンデンが振り上げた剣を、咄嗟にユズリハが彼の腕を掴んで止める。 しかし二人がフェンネルに目を向ければ、彼は既にその銃口を少女の眉間へと向けていた。 そんな張り詰めた空気の中で、最初に沈黙を破ったのはリンデンから短剣を取ったユズリハだった。「……先程、言いませんでしたか?」「!」「乗組員を傷付けるなら、俺は金輪際、貴女の前に姿を見せません」「くっ……!」「…………?」「何、その脅し?」 リンデンとフェンネルだけでなく、キッチンに隠れていたローズマリーも首を傾げる。 焦った様子の少女は、「でも」と言い訳を並べ出す。「あ……あの女は、ユズリハを馴れ馴れしく呼んだんだぞ。見逃す事は出来ん……!」「彼女はこの船の船長で、俺の上司なのですから馴れ馴れしいのは当然です。皆の上に立つ者は誰であれ、下々の者に気安くするものですよ」「何……? なら、こいつ等は『下僕』という事か?」「いやいや、下僕て」 リンデンが思わず笑いを零した。「彼等も俺も下僕ではありません。この船の乗組員達です」「おい、女! 貴様が船長(ふなおさ)なれば、早くこの不届きな下郎を退かさんか! 私は『巫女』なのだぞ!」 さっきから、この少女は何を言っているのか。 そして、何故ユズリハは彼女の扱いにここまで慣れているのか。 訝しげに眉根を寄せるばかりだったリンデンが問い掛けた。「こいつはユズさんの知ってるヤツなの?」「そうでもないが……話してみたら、色々事情が深そうでな」「……どういう事?」「俺もまだ把握は出来てないが、とにかく悪い子ではない。それだけは確かだ」 キッチンからそっと出てきたローズマリーは、フェンネルが構えていた小銃のバレルを下へ押して照準を逸らさせる。 フェンネルは少し驚いて舌
last updateLast Updated : 2026-11-05
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#13『拒絶』

※ 先程の金属音は、小銃の安全装置を外した音だった。「……駄目だ、フェノン」 その事に気付いたローズマリーはすぐに立ち上がり、フェンネルが向ける銃口と少女の間に割って入った。「銃を降ろすんだ。私は許可しない」「コイツは塵(ゴミ)だぜ、塵は殺すしか無ぇ」「だとしても、ここは私の船だ。発砲は許可しない」「うるせぇ、命令すんな」 睨み合う二人に、ローズマリーの背後からユズリハも説得に回る。「フェンネル、どうか少しだけ待ってくれないか」「…………」「確かにクソみたいな考え方なのは分かる。だが、これは誰かに植え付けられたものの様な気がするんだ」「……ユズさんなら分かるでしょうよ。そんな簡単に人間は変わらねぇ……生かしといてもこっちが損こくだけだ」「分かってる。だから『時間をくれ』と言ってるんだ」「フェノン、銃を降ろせ。これは命令だ」 ローズマリーは表情を変えずに、すっと眼を据わらせフェンネルを見上げる。 時間にして数秒間、フェンネルとローズマリーは睨み合っていた。「…………」 ふと、フェンネルは銃口を上に逸らすとボルトを引いて薬室から弾を抜いた。 ボルトを戻す事無く、そのまま小銃を床に投げ捨てる。 ガシャンと大きな音を立てて転がった銃を、ユズリハが拾い上げた。「……俺は一切関わらねぇ」 ローズマリーに背を向けたフェンネルは、絞り出すように言葉を投げた。「俺の視界に入ったら、その時点で頭吹っ飛ばしてやるからな」「……フェノン」「命令なんざ知るか。……そん時はこんな船、喜んで出てってやるよ」 振り返る事なく歩き出したフェンネルは、ハッチを抜けてメインデッキを出て行ってしまう。 ローズマリーは、ふ、と小さく息を吐き、少しだけ悲しげな目をハッチに向けていた。「『地雷』なのは分かってたが……」「……ローズマリー、俺は……」「……ユズ君は良くやってくれた。ありがとう」 君は間違っていない。 謝罪を言おうとしたユズリハだったが、振り返った彼女の表情を見て、これ以上の言葉を紡がなかった。 よし、と気合を入れ直すように呟いたローズマリーは、ぱっと少女に向き直って屈むと、ハッキリとした口調で少女に告げた。「……残念だが、『胡蝶の君』。この船では私が法律であり『全て』だ。だから現に部下を退けられたし、彼も私の言葉を守ったぞ」「
last updateLast Updated : 2026-11-05
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#14『条件』

※「ここ『ハイマート共和国』の歴史や地理、文化を始め、法律や秩序、道徳など、この国で生きていくための知識を全て学習する事。簡単だろう?」 実はローズマリーが最初に呈した条件は、素行の悪さから補導されたり、逮捕された子供達を保護した際に必ず出しているものだ。 当然、ローズマリーが運営する三つの孤児院では、基本教科として十六歳まで授業で学べるようになっている。 保護されて孤児院に入れば、必然的に教養や人間関係を身に付けられる……それは、彼女の教育に関する強い拘りでもあった。「この国にだって、破ってはいけない秩序も規律もある。逆を言えば、国が抱えている問題も少なくはない……それらの全てを学んで、考えて、知識を力にするんだ。たまに抜き打ちで質問するから、頑張って覚えなさい」「……二つ目は?」 ローズマリーは、ニッと悪戯っぽく笑った。「この船の乗組員全員と『友達』になる事だ」「……トモ、ダチ?」「そう、友達だ。だがそれに至っては、決めるのは私じゃない。この船の全員……私の仲間一人ひとりが、お前を『友達』だと認めれば合格だ」「トモダチ……」 しかし、その条件に対して、少女ではなく彼女を押さえ付けていたリンデンから「えぇーっ!」と文句が飛んだ。「俺、反対! コイツと友達になるとか絶っ対、無理!」「それを彼女がこれから頑張るんじゃないか。このテストはお前にも出しただろ?」「そうだけどぉー」「ちゃんと合格もしたじゃないか」「そうけどぉー……!」 唇を尖らせるリンデンに、ユズリハも思わず苦笑を浮かべる。「……フェンネルに啖呵を切った手前、俺が断る訳にはいかないな。ローズマリー、彼女の指導係は俺に任せてくれないか?」「勿論だ。この子に勉強用の本と筆記具を構えてやってくれ。教科書になりそうなものは私が探してこよう」「了解だ。有難う」「リン、確かリストベルの予備は部屋に保管してあるんだったな」「え? うん」 なんで? と彼は首を傾げる。 ローズマリーは「少しの間、彼女に貸してあげて欲しい」と頼んだ。 屈強なユズリハが、少女一人で抑え込まれてしまった事。 そして、彼女から『魔力が使えない』という言葉が出た事。 それらの情報から、リンデンの能力を抑える制御装置が使えるかも知れない、と彼女は推測した。 ある程度訓練を積んでいるリンデンなら
last updateLast Updated : 2026-11-05
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#15『二人』

※ リンデンは彼の気配を辿り、廊下を入口のハッチへ向けて進む。 リビングから二つ目、左側にあるドアの前で足を止めると、四回ノックして声を掛ける。「ふぇーんねるー。入るよー?」 ノブを握り、右に回して引き開く。 すると、すぐに不機嫌な低い声が返ってきた。「……入ってくんな」 それを聞いたリンデンは、優しい眼差しで小さく笑った。「入るよー」「出ていけ」「出ていかないよー」 中に入り、後ろ手でドアを閉める。 床には彼の上着や今日持ち出していた装備が、乱雑に散らばっている。 それらを簡単に纏めて抱え、リンデンは右側にある二人掛けのソファに乗せた。 更に数歩奥へ進んで、二人が普段使っている二段ベッドに近付く。 そこに隣接した簡易ベンチにそっと腰掛けると、そのまま下段のベッドに凭れ掛かった。 そこでは、白い布団がこんもりと山を作っている。 枕側を見やれば、中に立て籠もっている彼は布団の中で丸くなったまま、あらゆる銃弾を箱から出して選り分けていた。 シーツの上は一丁の拳銃だけでなく、大小様々な銃弾だらけだ。 弾頭が尖っている物も多く並べられ、その枕元に転がされている。「……寝る時に危なくない?」 囁くように注意したリンデンに対し、フェンネルは唸るような声で「黙れ」と返した。「あっち行け」「行きませーん」「……今の俺は機嫌悪いぞ」「知ってますー」「頭吹っ飛ばされてぇのか」「やれるもんなら、ってね?」「言いやがったな? 傲りは身を滅ぼすんだぜ」「学校じゃ、近距離戦は一応負け無しだったよ」「……じゃあ、これが記念すべき一敗目だ」 頭元の拳銃を手に取ったフェンネルは、リンデンの左上側後頭部に銃口を突き付ける。 それでもリンデンは一切動揺を見せる事無く、銃を握る彼の手を、そっと自分の両手で包んだ。「……フェンネル。弾切れの銃じゃ、俺には勝てないよ」 静かに優しい眼差しを向け、微笑む。 美しく細められる深紅の瞳に舌打ちで返したフェンネルは、不貞腐れた顔でリンデンを睨んだ。「……ふん」 構えていた拳銃をリンデンに押し付け、フェンネルは顔を背けて布団に深く身を隠す。 そんな彼に小さく息を吐き、靴を脱いだリンデンは、簡易ベンチを踏み台にベッドへと座り直した。 再び山を作った布団の上へ覆い被さるように、ずっしりと凭れ掛る
last updateLast Updated : 2026-11-05
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#16『クミンという少女』

※ 「すごい集中力だな」 真剣な顔で本を読んでいる少女に、見ていたローズマリーが感嘆の声を漏らした。 メインデッキの奥にあるキッチンでは、少し遅い昼食の準備が、ユズリハとローズマリーによって進められていた。 ユズリハが今朝から仕込んでいた材料を出際良く調理していき、ローズマリーはシンクに立って使用した調理器具の片付けと食器の準備を手伝っている。 そんな中、キッチンから見えるリビングスペースには、積み上げられた本の塔から、小さな頭が姿を覗かせていた。 約束通り勉学に勤しむ彼女は、ソファに座って積み上げられた本を開いては読んでいく。 テーブルの上にも大量の本や雑誌が山のように積み上げられており、言語や文字などの基礎知識を始め、この国の様々な情報、図鑑、事典、果ては法律百科まで、様々な知識が並べられている。 少女は一冊を読み終えると、右から左へ本を移して次の本を手に取る。 一見、ざっと目を通すだけに見える少々雑なページの進み方でも、彼女はユズリハに貰った筆記具でノートに何かを書き留めながら知識を取り込んでいた。 既に二冊目になるノートには、ローズマリーが名付けてくれた彼女だけの名前が記されている。 『クミン・ラリマー』。 候補は幾つか用意していたが、その名を聞いた少女は「これがいい」と自ら選んだ。 意味を知っていた訳でも、特別な感情があった訳でもない。 ただ、ローズマリーが読み上げている時に、この名前にだけユズリハが優しい顔をした気がしたから。 ただ、それだけの事だった。「ローズマリー、あの雑誌やら漫画やらは、リンデンの私物じゃないのか?」 大量の本に混ざって積み上げられた、見覚えのある表紙の雑誌を見かけたユズリハが問う。「知らん」 そう答えたローズマリーの声は、少々呆れていた。「私は倉庫にあった本を全部持ってきただけだ。リンにも、捨てられたくない物は必ず自室に置いておくよう言ってあるし」「……ん? 確か先週、リンデンはフェンネルと『数ヶ月分より過去の号は処分する』と約束してたと思うが……」「黙って残してたんだろうな」 それを聞いたユズリハは「またか」と彼女と同じように溜め息を吐き出した。「まぁ、最近はフェノンの許可も取らずに勝手に私物を増やしてるみたいだったし……見つかって怒られるのも、たまには『良い薬』になるだろ。約束
last updateLast Updated : 2026-11-05
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#17『異能の力』

※「だが、暗闇に紛れても彼女にはあまり意味を成さなかった。逃げ回れていた時間は三十分も無いだろうが、まるで俺を追い掛けて遊んでいたように思う」「『目』で探していない……という事か」 リンデンの『探知能力』に近いものかも知れない、とローズマリーは考えた。 彼が相手の気配を探る際は目を閉じ、感覚を研ぎ澄ませているように見える。 だがクミンは『白い靄』を発生させ、その水蒸気を媒体に動くものや温度などを探知していたのだろう。 つまり、彼女は水分を扱う。 その巨大な『可能性』に、ローズマリーは戦慄に唸った。「……もし、あの霧を探知だけでなく攻撃に使っていたらと思うと恐ろしいな……船に入った瞬間に、私達を敵とみなして攻撃する事も出来た筈だ」「……残念ながら、彼女はそのつもりだった」「何?」 ローズマリーが目を見開いてユズリハを見る。彼は鍋に水を入れ、火力を中火に設定した。「実際、皆が入ってきた事に気付いた瞬間の敵意は凄まじいものだった。すぐにでも攻撃を仕掛けるつもりだったようだが、説得すれば素直に踏み止まってくれてな」「そんな、事が……」「……彼女が聞き入れなかった場合を考えると、今思い返しても恐ろしいよ」 そして、『ユズリハ程の屈強な男が、何故、幼い少女一人に抑え付けられていたのか』という一番の謎。 彼女が背中に乗っている間、ユズリハの身体は鉄骨でも入れられたかの様に、指の先まで固定されて動かなくなっていた。 動かせるのは首から上のみ。全く身動きが取れない中、ユズリハは何とか冷静を保ちながら「何が起こっているのか」と問い掛けた。 彼女は、自慢気に話してくれたらしい。「身体の、水分を……?」「彼女の手、もしくは肌が触れている間は、僅かだが体内の水分を操っていられるらしい。人体の六割は水分だ、そんな『超能力』があれば如何様にも出来るだろう」「本人が知らない間に、相手をミイラにする事も出来るって訳か……似ているようで、リンとは違う能力か」 うーん、と腕を組み、二人は首を傾げて唸った。 二人が『超能力』と聞いても特に驚かないのには、共に暮らし働いている、リンデンの存在がとても大きい。 彼はたった一人でモルス大型を討伐できる程の斬撃を飛ばし、更に、自身の感情すらも相手に影響を与えてしまう、という不思議な力を持っている。 水、という物質
last updateLast Updated : 2026-11-05
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#18『可愛いコナラ』

※ 彼女は何を言うでもなく、ただユズリハをじっと見つめている。「……クミンさん、何かご用でしょうか?」 ユズリハが声を掛ければ、彼女はおずおずと口を開いた。「……ユズリハは、家族が多いのか?」「ええ、まぁ。一応は大家族な方ですね」「『子供達』とは、お前の子か?」「いいえ。兄弟姉妹が多いもので」「ふむ、ユズリハは兄弟が多いのか」「はい」「成程……ふふっ」 そう言って微笑んだ後、クミンは再び本に視線を戻す。 顔を見合わせたユズリハとローズマリーは、軽く首を傾げた。「何か余裕だな……ずっと振られてるのに」「恐らくだが、俺が独り身であると聞いて安心したんじゃないのか? 相手が居ないなら、どうとでも出来ると踏んだんだろう」「だとしたら、随分『律儀』だな? 怒ったり暴れたりしそうなのに」「お前が出した『条件』を守ってるだけだろう。でなければ、彼女は俺以外の『全員』を皆殺しにしてる」 ローズマリーは唇を尖らせた。「素直なのか、そうじゃないのか……そもそも、この恋愛観の無い繁栄とかっていうのを、何かで聞いた事があるんだよなぁ。何だったっけ」「『カレヴィ帝国』だろ」「そうだ、それだ。ハイマートではその思想自体を法律違反として禁止しているから、有り得ないとは思っていたが……」「だが、現に貴族間や国外では『亡国』の思想に則った血族主義が根深く残ってる。彼女が国外から来たのだとしたら、あの禁猟区に居た理由にも説明がつく」「実際、彼女はハイマートに住むどの種族にも属していないしな……あんな場所で、生き延びていた理由は分からないままだけど」「……調べてみるしかない、か」「うん」 二人が皿をテーブルに並べ終わった直後、何故か上半身裸のリンデンがリビングへと戻ってきた。 背伸びをし、「ただいまー」と明るい声でキッチンへと近付いてくる。「マリーさん、フェンネル寝たよー」「ああ、ありがとう。ご苦労だったな」 ミニトマトが入ったミニボウルを、ローズマリーがリンデンの前に差し出す。「え、いいの!?」「頑張ったご褒美として、ミニトマトのつまみ食い権を与えよう。一個持っていけ」「やった! ありがとう、マリーさん!」 素手でミニトマトを一つ摘み上げ、嬉しそうに頬張る。 目を輝かせて「甘ずっぱーい!」と叫ぶリンデンに、訝しげに顔を顰めるユズリハ
last updateLast Updated : 2026-11-05
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#19『彼女の使命』

※「先の話だが、私達は本当に『親子』なんだ」「何?」 そこそこに、食事も終わった頃。 ユズリハは使用した食器を片付け、リンデンはフェンネルの為に軽食を作ろうと準備をしている。 ローズマリーとクミンは二人でダイニングに座り、歴史書を開いて一緒に読んでいた。 クミンが質問しながら二人で勉強していた時、彼女の隣に座るローズマリーが、ふとそんな風に口を開いた。「……年齢がおかしいぞ。ローズマリーは子供だろう」「私が産んだんじゃない。でも『親子』なんだ。わかるか?」 首を傾げるクミンに、ローズマリーは優しく微笑んだ。「血の繋がりなど無くとも、誰もが皆『家族』になれる」「心の絆……だったか。それは軍隊や集団を伴う職業にも必要だと呼んだ」「……そうだな。クミンは、オリヴェール族の特性は読んだか?」「明るい茶色の髪に、緑色の瞳。事故、事件以外での寿命は決まって二百年、『拓き』と呼ばれる変異が起きると身体的な老化が止まる」「その通りだ。よく覚えたな」「ローズマリーは、その身体的特徴をすべて持っているな。お前はオリヴェール族なのか?」「そうだ」 頷いたローズマリーは、何処か儚げに微笑んでいた。 このハイマート共和国には、四つの種族が存在する。 色素が薄いオリヴェール族、他種族より小柄な者が多いマティアス族、身体能力が高いヴァルテッリ族、そして薄い青色の肌を持つラウリ族だ。「私は十三歳で身体が『拓いて』しまった。それからずっと、この見た目で生きている」「じゃあ、実際の年齢は見た目とは違うのか」「ああ」 長寿で知られるオリヴェール族という人種に生まれ、彼女は十三歳という若さで身体が成長を止めた。 見目は少女のままでも、八十二年以上の時を生きている。平均は十七、十八以降と、成人してからと言われているのだが……。 肉体が成長や老化をやめると、オリヴェール族は二百年の寿命をその姿で生きる事になる。「オリヴェール族の人は、大体見た目よりも年上の人が多い。身体が老化しない分、子沢山の人も多いから、このハイマートではオリヴェール族の人口も一番多いんだ」 しかし個人差が激しい『拓き』の変異。 老人になり死ぬまで起きない者もいれば、ローズマリーの様に、幼くして起きてしまう者もいる。 ローズマリーは身体的な成熟が未発達の状態で『拓き』を迎えたため、
last updateLast Updated : 2026-11-05
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#20『父親』

※「……父母、とは……このような存在なのだろうか」「ん?」「私は、『親』というものが分からない。事典では、子に対して無償の愛を注ぐ存在だと読んだ。親とは……両親とは、皆この様な存在なのか?」「……どうだろうな。私も、自身の親とは仲が良い方ではなかったから」 ローズマリーの言葉に、「どこも同じだな」とユズリハも苦笑した。「でも、クミンがそう思ってくれるなら、私達は全然構わな……」「嫌だ」「ふぁっ?」 意外な拒否に、二人は目を丸くする。 クミンは涙に濡れる顔を隠す事も無く、どこか悔しそうに訴える。「ユズリハが、『父』なのは嫌だ……っ!」「!?」「俺……!?」「ユズリハの隣には、私が並んでいたいのに……っわ、私は……私が、この男の番に……『妻』というものになりたいのにぃ……!」 ついに机に突っ伏して、クミンは声を上げて泣き出してしまう。 ユズリハは天井を仰いで深い深い溜め息を吐き出し、ローズマリーは視線を逸らして肩を震わせていた。「……笑い事じゃないぞ、ローズマリー……」「ぐふっ……わ、わかってる。いや、ここまでくるとな……思想がどうのというより、可愛らしい恋心のようじゃないか。幸先は良さそうだ」「何処が良いんだ。まったく、どいつもこいつも……」 その時、ふと肌を刺すような、電気が走るような冷たい感覚を覚えたユズリハは、リンデンへと目を向ける。 彼は椅子に腰掛け腕を組んだまま、何かを考え込むようにテーブルの上の虚無を見つめていた。 否、その表情は何処か、焦りや緊張、怒りのような感情を含んでいる。 まるで、ドライアイスの冷気が皮膚の下へと直接流れ込んでくるようだ。「……リンデン」「ッ!」 名を呼ばれ、彼は弾かれたように顔を上げる。 そんなリンデンに、クミンの背を撫でながら慰めていたローズマリーが目を向けた。「どうした?」「リンデンの機嫌が悪い。お前、抑制装置付けるの忘れてきてるだろ」「え? うわ、ホントだ」 サイズの合わないパーカーの袖を捲り、手首にリストベルが無いと気付いたリンデンは少し慌てたように謝罪した。「ごめん、本気で気付かなかった。もしかして空気悪かったの?」「いや、それはいい」 本当にゴメンね、と申し訳無さそうに笑うリンデンに、ユズリハは少々神妙な面持ちで問う。「今までの会話を聞いてて、何か
last updateLast Updated : 2026-11-05
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