若葉の横パスを掠め取った西条南のボランチが、顔を上げた。 その視線の先には、常盤台の最終ラインと中盤の間に生まれたわずかな裂け目。奪った瞬間から前線の二枚が同時に走り出している。「戻れ!」 桐生の声がピッチに響く。 だが、その一歩より早く、黒いユニフォームが中央を切り裂こうとする。縦に差し込まれる一撃で決定機になる。誰もがそう思った瞬間だった。 蓮が、戻っていた。 若葉の視界の端を、白い背番号が斜めに横切る。(……え) いつ下がったのか分からない。 さっきまで中央のライン間にいたはずなのに、もう最終ラインの一歩手前まで戻っている。しかも、ただ戻っただけじゃない。相手の縦パスの受け手より半歩前、最も危険なラインに身体を滑り込ませていた。 ボランチの右足が振り抜かれる。 鋭い縦パス。 だが、その軌道の先に足を差し込んだのは蓮だった。 インサイドで面を作り、ボールの勢いを殺しながら自分の前へ転がす。受け手の前に入って、そのまま奪い切る。「……っ!」 西条南の前線が一瞬止まる。 その一瞬で十分だった。 蓮は奪った次の瞬間にはもう前を向いていた。 トラップは一回。 視線は一度だけ上がる。 次の瞬間、左足が振り抜かれた。 低く鋭いフィードが、右サイドの裏へ一直線に走る。「走れ!」 桐生が声と同時に加速する。サイドのウイングも呼応して一気に裏へ抜ける。西条南の最終ラインが慌てて下がるが、ボールの方が速い。 右サイドで受けた常盤台のウイングがそのまま中へ切り込む。 左足一閃。 ゴール左隅へ向かったシュートに、スタンドが息を呑んだ。 だが。 西条南のGKが横へ飛ぶ。 指先一本。
Last Updated : 2026-08-25 Read more