บททั้งหมดของ 俺だけの献立 〜隣のスポーツ栄養士志望が俺の食事を管理するらしい〜: บทที่ 101 - บทที่ 110

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100食目

 インターハイ予選優勝から数日が経っても、校内の空気はまだあの熱を引きずっていた。 朝の昇降口を抜けた瞬間から、視線が集まるのが分かる。廊下を歩けば、同級生だけでなく下級生の会話まで一瞬だけ止まり、すれ違いざまに小さく声が漏れる。「天根先輩だ」 「決勝のあれ、やばかったよな」 「全国、絶対優勝いけるって」 蓮は足を止めず、かけられた声へ軽く視線を向けて短く返す。「ああ」 「ありがとう」 それだけで十分だった。 教室へ入っても同じだ。  席に着くまでに何人かに声をかけられ、試合のことを聞かれるが、蓮の返答はどれも簡潔だった。 昼休み、若葉が購買のパンを抱えたまま教室の入口から顔を出した。「天根センパイ!今日の放課後、昨日の続きやってもらっていいっすか!」 教室の何人かが振り向く。 蓮はノートから顔を上げた。「昨日の続き?」「半歩のやつっすよ!あれ結局まだ分かってなくて!」 若葉の声は相変わらずよく通る。  その勢いに、周囲から小さく笑いが漏れる。「……分かった。練習後な」「ありがとうございますっ!」 そう言うと、若葉はそのまま顔を引っ込めた。  そのやり取りを見ていたクラスメイトに、また小さく笑いが広がった。 予選を終えてから、日常の速度は確かに変わっていた。 だが蓮の中では、もう次へ意識が向いている。  全国へ向けて、積み上げを止める理由はない。 放課後のグラウンドもまた、いつも通りだった。 若葉の縦パスは明らかに質を上げている。  中央で受けたボールを、迷いなく蓮へ差し込む。 蓮がワンタッチで捌き、桐生が落とし、サイドが裏を取る。  決勝の熱を経て、チーム全体の循環速度が一段上がっていた。「天根センパイ!今のタイミングどうっすか!?」 ミニゲームの合間、若葉が汗を拭いながら駆け寄る。「悪くない
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-22
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101食目

 椿が合宿研修へ向かった初日。  放課後のグラウンドは、全国大会へ向けた高い熱量に包まれていた。 インターハイ予選を制してから数日。  チーム全体の空気は、むしろさらに引き締まっている。 ミニゲームのテンポは速い。  若葉の縦パスも、日に日に質を上げていた。「天根センパイ!」 中央で受けた若葉が迷いなく差し込む。  蓮は半身で受け、そのまま右サイドへ展開した。 右で受けた選手が縦へ運び、中央へ折り返す。 桐生が飛び込む。 ダイレクトのシュートが、ネットを揺らした。「ナイスっす!」 若葉が思わず声を上げる。  蓮は小さく頷き、すぐに次の配置へ視線を向けた。 チームの循環は良い。  全国へ向けて、積み上げは止まっていない。 若葉もまた、予選前とは別人のように中央で顔を出している。「今のタイミング、どうっすか?」「悪くない。相手ボランチの重心が右に寄ってたから、今のタイミングでいい」「よっしゃぁ!合格もらえたっす!!」 周囲に小さく笑いが広がる。  蓮の身体にも、思考にも、特に違和感はない。 プレーは順調だった。  全国へ向けて必要なものは、確実に積み上がっている。 練習後、更衣室でスマートフォンを開く。  すでに椿からメッセージが届いていた。【今日の練習内容送って】 短い文面。  いつも通りだった。 蓮はすぐに打ち込む。【ファイルを送信しました】 返信はすぐだった。【了解。今日は糖質少し多め。回復優先】 【鶏むね、卵、ご飯三〇〇グラム。野菜も取らないとね。すぐにレシピ送るわ】 続けて、写真付きのレシピが届く。  分量も火加減も整理されている。 蓮は画面を見ながら、短く息を吐いた。「……早いな」 何も問題はない。
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102食目

 翌日の夕方、更衣室を出た蓮は、階段を降りる前にスマートフォンを開いていた。 汗を拭くより先に、画面を見る。  通知はない。 そのまま、慣れた手つきで今日の練習データを開き、走行距離、心拍推移、メニュー強度をまとめたファイルを送信する。【ファイルを送信しました】 送信完了の表示を確認した直後、蓮は無意識に画面を見たまま立ち止まっていた。 別に急ぐ話ではない。  合宿研修中なのだから、返信に時間がかかっても不思議ではない。 それでも、親指が画面の上で一度止まる。  やがて短い振動が返ってきた。【確認したわ】 【今日は昨日より強度高いわね】 【白身魚、小松菜、ご飯が中心ね。野菜スープも追加するわ】 【レシピ送る】 続けて画像付きのレシピが送られてくる。  蓮は画面を見ながら、短く息を吐いた。「……相変わらず早いな」 それだけ呟いてスマートフォンをポケットへしまい、校門を出る。 スーパーで必要な食材を揃え、マンションへ戻る。  玄関を開けた瞬間、昨日と同じ静けさが迎えた。 物音がない。 いつもなら壁の向こうか、キッチンの方から聞こえてくるはずの包丁の音も、換気扇の低い駆動音もない。 蓮は荷物を置くと、そのままキッチンへ向かった。  昨日より、調理の流れは頭に入っている。 米を研ぐ手も、白身魚を焼く火加減も迷わない。  鍋の湯気が立ち、スープの香りが部屋に広がる。 昨日より手際は良かった。  皿へ盛り付けた見た目も、明らかに整っている。「昨日よりはるかにましな出来だな」 小さく確認するように呟き、食卓へ運ぶ。  椅子を引き、箸を取る。「いただきます」 一口。 昨日より味は安定していた。  それでも、二口目でまた箸が止まった。「……?」 味が悪いわけではない。  むしろ昨
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103食目

 今日の部活動、蓮の身体は驚くほど軽かった。 足が自然に前へ出る。 視界が広い。 ボールを受ける前に、次の二手先まで線が引ける。 理由は明白だ。 朝食も昼食も、久しぶりに“止まらずに食べられた”。 身体の回復速度が違う。 筋肉の張りも、昨日までより明らかに抜けている。 食事が身体へそのまま変換されている感覚。 いつものコンディションだった。 全国へ向けた強度の高いメニューにも、思考はまったく鈍らない。 終盤の対人練習でも同じだった。 志岐との一対一を思い出させるような狭い局面で、蓮は半歩のステップだけで若葉の重心を外し、中央を割る。「うわ、今の見えなかったっす……」 若葉が目を丸くしてついてくる。「今の、足どっちから入ったんすか?」「右股関節が開いてた。だから左から行けば遅れる」「いや、その判断が速すぎるんすよ!ってか、見えすぎっす!」 周囲に小さく笑いが漏れる。 キレは完全に戻っていた。 むしろ、ここ数日で一番いい。 ふと、蓮の視線がグラウンド脇へ向く。 フェンスの外。 記録用のバインダーを持った姿が、いつもならある位置。 だが―― 今日はそこには誰もいなかった。 周囲を見渡しても、その姿は見当たらない。 ほんの一拍、思考が止まる。 次のボールを受けながらも、視線だけがもう一度外へ流れる。 やはり、いない。「……?」 違和感が、胸の奥に小さく残った。 給水のタイミングで、若葉がボトルを持ったまま首を傾げる。「あれ、橘先輩いないっすね」 桐生もタオルで汗を拭きながら周囲を見渡した。「そういや、今日は見てないな。まだ実習から戻ってないのか?」 蓮はボトル
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104食目

 揺れた皿が手元から滑りかけた瞬間、蓮の腕が先に伸びていた。  片手で皿を受け止め、もう一方の腕で椿の身体を抱き留める。 皿を食卓へ置くと、空いた手をそのまま額へ伸ばした。「……熱いな」 掌に触れた温度は明らかに高い。朝、食卓で感じた微かな違和感とは比べ物にならない熱が、皮膚越しに直接伝わってくる。 椿は視線を上げたものの、焦点がわずかに定まっていない。「……だい、じょうぶ……」 言葉が遅い。  呼吸も浅い。 蓮は眉を寄せたまま、支えていた腕に少し力を入れる。「大丈夫なら、今ふらつかないだろ」 低く言い切ると、椿は小さく首を振った。「……ごはん、あと少し……」 視線の先には、食卓へ運ばれかけていた皿。  湯気がまだ薄く立ち上っている。 この状態でもまだ、自分の食事を優先している。  その事実に、一瞬だけ言葉が詰まる。「大丈夫、もうできてる。  今日はもういいから。部屋に戻って寝てろ」 はっきり告げる。  だが椿は、蓮の腕を支えにしながらも身体をキッチンへ向けようとした。「……今日の練習……強度、高かったでしょ……?」 途切れがちな声。 次の一歩を踏み出した瞬間、膝から力が抜けた。  ふっと身体が崩れる。「……っ」 考えるより先に、蓮の腕が背と膝裏へ回り、そのまま身体を抱き上げた。 腕の中へ収まった椿は、思っていたよりもずっと軽い。  その小さな身体で、毎日自分の練習量を読み、食事を組み立て、回復まで支えていた。 抱き上げた軽さより、その事実の方が胸に残った。「れ、蓮くん……?」「いいから。喋るな」 短く返し、そのまま寝室へ向かう。 廊下を数歩で抜け、ベッドへそっと身体を下ろす。シーツへ沈んだ椿は、いつもキッチンに立っている時よりずっと小さく見えた。 蓮はすぐにもう一度額へ手
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105食目

 リビングへ戻った蓮は、テーブルの上に開きかけた本を一度閉じ、先にスマートフォンを手に取った。 検索欄へ打ち込む。  ――発熱 食事 おかゆ 出てきた情報を上から順に確認する。  消化負担を抑えること。  水分量を多めにすること。  味付けは薄く。 必要な情報だけを抜き出し、すぐにキッチンへ立つ。 鍋に水を張り、米を入れる。  火加減を弱め、蓋を少しずらす。 静かなキッチンに、鍋の中で米がほどけていく小さな音だけが残る。  その間にも、意識は何度も隣の部屋へ向いていた。 熱。  呼吸。  意識。 蓋をずらすたび、耳は鍋の音より先に隣の寝息を拾おうとしていた。 椿の状態は、さっきより少し落ち着いているように見えたが、安心するにはまだ早い。  蓮は時折部屋を覗きながら、鍋の中身を木べらでゆっくりとかき混ぜる。 思っていたより時間がかかった。  それでも、ようやく形になったおかゆを小さめの器へよそう。 スプーンを取り出そうと、食器棚へ目を向けた時、未開封のレトルトのお粥が目に留まった。「......しまった。これを買ってたんだった」 小さくため息をつきながら首を振ると、スプーンを取り、器と一緒に寝室へ持っていく。 ベッドの上で、椿は薄く目を開けた。「椿。飯、食えるか?」 ベッド脇へ腰を下ろし、器をサイドテーブルへ置く。  椿は身体を起こそうとして、また少しふらついた。 蓮はすぐに背へ手を回す。「だから無理するなって」 半身を支えたまま、椿の体勢を整える。 蓮は一瞬だけ器へ視線を落とし、スプーンを手に取った。「持てるか?」 問いかけると、椿は小さく頷いたが、その手にはほとんど力が入っていない。 蓮は短く息を吐き、器を持ったままベッド脇へ腰を落ち着けた。「……少しずつでいいから」 ひと
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106食目

 朝、椿が目を覚ました時、最初に視界へ入ったのは見慣れない天井だった。「……え」 声にならない息が漏れる。 白い天井。  カーテンの隙間から差し込む朝の光。  視線を横へずらせば、見慣れた自室の本棚も机もない。 一拍遅れて、昨夜の記憶が一気に戻った。 ふらついた身体。  額へ触れた手。  抱き上げられた感覚。  ベッドへ下ろされた時のシーツの沈み込み。 そして理解する。  ここは、蓮の部屋だと。「……っ」 指先が無意識にシーツを掴む。 熱は昨日より明らかに下がっている。  頭の重さも、身体のだるさもかなり軽い。 それでも胸の奥だけが、まったく落ち着かなかった。 昨夜、自分はこのベッドへ運ばれた。  その事実を認識した瞬間、耳まで熱くなる。 さらに、記憶がもう一つ浮かび上がる。『すぐ戻るから』 服の裾を掴んでしまった、自分の指先。「……なにしてるのよ、私……」 枕へ顔を埋めたくなる衝動をなんとか押し留めた、その時だった。 ――トントン。 部屋の外から、包丁の音が聞こえた。 続いて、換気扇の低い駆動音。  フライパンに何かが触れる、油の小さな弾ける音。「……え?」 数秒、思考が止まる。  音の意味を理解した瞬間、椿は慌ててベッドを出た。 部屋の扉を開けると、リビングの先のキッチンに蓮が立っていた。  フライパンを片手に、朝食の準備をしている。 リビングへ出たところで、ソファに置かれた毛布が目に入った。  昨夜、蓮がどこで眠ったのかを理解し、椿はまた視線を逸らした。「……起きたのか」 振り返った声は、いつも通り落ち着いていた。  その平静さが、逆に椿の心拍を跳ね上げる。「……え、ええ」 視線が合った瞬間、昨夜の記憶
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107食目

 放課後のグラウンドは、全国大会へ向けた熱をそのまま地面へ焼き付けるような強度で回っていた。 ミニゲームのテンポは速い。  中盤の圧縮も、切り替えの速度も、予選決勝を経て一段階上がっている。「天根センパイ!」 若葉の声と同時に、中央へ鋭い縦パスが差し込まれる。 蓮は半身で受けた。  右足の面で勢いを殺しながら、背後のプレッシャーを受けるより先に視線を前へ走らせる。 桐生が左へ流れる。  サイドが裏へ走る。  若葉がリターンを受ける位置へ顔を出す。 選択肢は三つ。  その中で最も速く、最も次の展開へ繋がる一本を選ぶ。 ワンタッチで桐生へ流し、そのまま自分も前へ出る。  返ってきたボールをダイレクトで右へ散らすと、サイドがそのまま深く抉った。「いい感じっすね!」 若葉が思わず声を上げる。 プレーに乱れはない。  身体も軽い。 だが、どこか思考の一部だけが別の場所に残っている感覚があった。 給水のタイミングで若葉がボトルを持ったまま首を傾げる。「天根センパイ、今日ちょっと上の空じゃないっすか?」 蓮はボトルを受け取りながら短く返した。「そんなことない」 だが、横でタオルを首にかけた桐生が小さく笑う。「いや、若葉の言う通りだな。プレーはいつも通りだけど、たまに思考飛んでるぞ」 蓮は少しだけ眉を寄せた。「……別になんでもないです」「いや絶対なんかあるやつじゃないっすか!」 若葉が食い気味に身を乗り出す。  その勢いに桐生が肩を竦めた。「おいこら柏原。ちょっと落ち着け」 だが桐生自身も、探るような視線を蓮へ向けていた。 ミニゲーム終了後、三人はベンチ脇へ腰を下ろした。  夕方の風が、汗を冷やすようにグラウンドを抜けていく。 少しの沈黙のあと、蓮がぽつりと口を開いた。「……この
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108食目

 蓮が感情に名を与える少し前。  椿が蓮の部屋を出た朝――。 マンションの自動ドアを抜けた瞬間、椿は思わず足を止める。 胸の奥が、落ち着かない。 熱はもう下がっている。  身体のだるさもほとんどない。  歩くことに不安はないはずなのに、心拍だけが朝からずっと速かった。 原因は分かっている。 数分前までいた場所。  見慣れない白い天井。  柔らかなシーツの感触。 そしてなにより、まだ微かに残る、知らない枕の匂い。「……っ」 思い出した瞬間、耳の先まで熱くなる。 昨夜の記憶は、熱に浮かされて曖昧なはずだった。  それでも、ところどころだけ妙に鮮明に残っている。 ふらついた身体を支えられた腕。  背と膝裏へ回った手。  抱き上げられた感覚。 そして今朝。  額へ触れた掌の熱。  近づいた距離で、真っ直ぐに向けられた視線。「……何よ、もう」 小さく零した声は、朝の道路に溶けるように消えた。 バッグの中で弁当箱が小さく揺れる。  その重みが、また胸をざわつかせた。 いつもなら、自分が作るはずだったもの。  自分が蓮の体調と練習量を考えて組み立てるはずだった昼食。 それを、今日は彼が作った。  ただその事実だけで、胸の奥に熱が灯る。 歩きながら、無意識にスマートフォンを取り出す。  画面には今朝送ったメッセージが残っていた。【昨日は、ありがとう】 たったそれだけ。  本当はもっと言いたかった。 助けてくれたこと。  看病してくれたこと。  朝食まで用意してくれたこと。 でも、面と向かっては言えなかった。  あの場で言葉にしようとしたら、きっと平静ではいられなかった。 椿は小さく息を吐き、画面を閉じた。 そのまま校門を抜け、栄養科棟へ向
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109食目

 朝、目を覚ました瞬間に、蓮は数秒だけ天井を見上げたまま動かなかった。ここ数日はずっとこうだった。  先日の夕焼けの下で、自分の口から零れた言葉が、まだ胸の奥に残っている。 ――恋。 たった一文字。  それなのに、思考のどこを辿っても、最終的にその言葉へ行き着く。 誠和との決勝で、パスを選ばず自分で狙った三点目。  三日間、満たされなかった食卓。  熱を帯びた額へ触れた掌の感触。  服の裾を掴んだ小さな指。 すべてに、もう別の名前が与えられてしまった。「……」 ベッドから起き上がり、制服へ袖を通す。  扉を開けてリビングへ出ると、いつも通りの朝の音がそこにあった。 ――トントン。 包丁がまな板を叩く小気味よい音。  換気扇の低い駆動音。  出汁の香り。 その全部が、ここ数日でより強く意識されるようになっていた。 キッチンにはいつも通りのエプロン姿の椿が立っている。  髪を後ろで軽くまとめ、フライパンの火加減を見ながら弁当箱へおかずを詰めている。「おはよう」 先に椿が振り返る。「ああ……おはよう」 返した声が、自分でも少し硬いと分かった。  椿はそれ以上何も言わず、食卓へ朝食を並べていく。「……あれから、体調は問題ないのか」 椿は一瞬だけこちらを見て、小さく頷く。「ええ。もう平気よ」 短い返答。  口調も表情も、これまでと何も変わらない。 だが、食卓へ皿を置いた後、椿は必要以上にこちらへ視線を留めなかった。  すぐにキッチンへ戻り、洗い物へ手を伸ばす。 些細な差だ。  本当に些細なはずなのに、蓮にはそれが妙に引っかかった。 朝食中も会話は必要最低限だった。 だがそれは、前から同じこと。  前と同じはずなのに、自分だけが違うと感じている。 椿が先に席を立ち、弁当を持
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