夏の陽射しを受けて、水面がきらきらと揺れていた。 ラッシュガードを羽織ったままの椿の隣で、蓮はようやくいつもの呼吸を取り戻していた。さっきまでの空気の固まり方が嘘みたいに、プールサイドには部員たちの笑い声が広がっている。「よーし、流れるプール行くっすよ!」 若葉が勢いよく手を上げ、そのまま水へ飛び込む。「おい、走るなって」 「若葉、子どもか」 桐生の呆れた声に、周囲から笑いが起きた。「私、先にちょっと飲み物買ってくるね」 マネージャーの一人に声をかけられ、蓮は小さく頷く。「……私も行ってくる」 そう言って椿もプールサイド脇の売店へ向かう。 ほんの数歩、距離が空いた。 その時だった。「あの……」 聞き慣れない声に、蓮が顔を上げる。 少し離れた場所にいた女子二人組が、どこかためらいがちにこちらを見ていた。「すみません、もしかして……天根くん、ですよね?」 一瞬だけ、周囲の空気が変わる。 蓮は小さく首を傾げた。「あの……サッカーの」 もう一人の女子が少し興奮気味に言葉を継ぐ。「さっき気づいて……やっぱりそうだって」 蓮は否定も肯定もせず、静かに視線を向ける。「すごかったです。この間の決勝、見ました!」「ありがとうございます」 短い返答。 それだけで女子たちの顔がぱっと明るくなる。「よかったら、一緒に遊びません?」 少しだけ踏み込んだその言葉に、蓮が一拍だけ視線を動かした。 ちょうどその時、売店の方から戻ってくる椿の姿が見えた。 こちらの様子に気づいたのか、歩幅が少しだけ速くなる。 胸の奥に小さなざわつきを抱えたまま、椿がすぐそばまで来た、その瞬間だった。 蓮が自然に手を伸ばす。 指先が、椿の手を捉えた。「――え」 女子二人の、そして椿の呼吸が止まる。 そのまま蓮は、女子二人へ視線を戻した。「すみません。彼女と来てるんで」 あまりにも自然だった。 まるでそれが当たり前の事実であるかのように。 女子二人が一瞬だけ目を見開き、すぐに「あっ、すみません……!」と頭を下げる。「邪魔しちゃってごめんなさい!」 そのまま人波の向こうへ去っていく。 残された椿は、繋がれた手を見下ろしたまま固まっていた。 指先に残る体温が、妙に熱い。「……蓮くん」「ん?
Last Updated : 2026-08-27 Read more