冷たい冬の風が、シュトゥットガルトのスタジアムを吹き抜ける。 灰色の雲は低く垂れ込み、試合開始を待つ観客席にはまだ空席が目立っていたが、ピッチではそんな空模様など気にも留めず、二十二人の選手が激しくボールを追っていた。 その中心にいる黒髪の少年へ、縦パスが入る。「Ren, benutze die Seite!(蓮、サイドを使え!)」 味方の声が飛ぶより早く、蓮は足元へ収めたボールを半歩だけ前へ運んだ。 センターバックが距離を詰める。 それを見たサイドバックが内側へ絞る。 右サイドに残った数メートルの余白へ、左足が迷いなくボールを送り出した。「Okay, los geht’s.(よし、いくぞ)」 低く滑るパスを右ウイングが受けると、そのまま縦へ持ち出す。相手ディフェンスは一斉に食いつき、中央にはわずかな歪みだけが残った。 蓮はそこへ走る。 右から中へ。 折り返しが来る前から、その先に何があるのかは決まっていた。 ワンタッチ。 身体を寄せてきたセンターバックを背中で外しながら、視線だけがゴール前をなぞる。 センターバックとサイドバックの間。 三十センチにも満たない隙間へ、味方フォワードが斜めに走り込む。「Mach ihn rein.(ほら、決めろよ)」 左足のインサイドが軽く触れただけで、ボールはディフェンスラインを裂き、誰も触れられない軌道のまま味方の前へ転がった。 スタジアムが沸く。 ネットが揺れるより早く、蓮はもう次のプレーへ身体を向けていた。 ◇「Wie immer war es genau richtig!(相変わらずドンピシャだったな!)」 試合を終え、タオルを首に掛けた蓮の肩をチームメイトが軽く叩く。「Danke. Dein Laufweg war perfekt.(そっちこそ。絶妙な抜け出しだったよ)」 二人が笑い合っていると、コーチがゆっくり歩み寄ってきた。「Dein Spiel heute war perfekt. Aber ist das wirklich in Ordnung?(今日のプレーも完璧だった。……だが、本当にいいのか?)」 蓮は答えず、続きを待つ。「Du wärst dem Profidasein näher, wenn du in der Jugendmannschaft
Última actualización : 2026-08-06 Leer más