晩秋の空気は、吐く息が白く見えるほどに冷えていた。 全国の舞台を目前に控えたグラウンドには、いつも以上の緊張感が張り詰めている。 三年生にとっては最後の大会。 この一日、この一本、そのすべてが終わりへ向かう時間に繋がっている。 だからこそ、紅白戦の強度は明らかに違っていた。「甘い!」 鋭い声とともに、中央へ差し込まれたボールが刈り取られる。 桐生だった。 前線からの寄せが一歩深い。 身体の当て方も、コースの切り方も、いつもより明らかに強い。 一年生の選手が体勢を崩し、慌ててボールを逃がす。 だが、そこにもすぐ桐生が詰める。「止まるな! 全国はこの程度じゃ済まないぞ!」 グラウンド全体に響く声。 その熱量に引っ張られるように、周囲のプレーも少しずつ荒くなっていく。 若葉が中盤で受けた瞬間、背後からの寄せが普段より一歩深く入った。「っ……!」 踏ん張って耐えるが、表情にわずかな焦りが走る。 ライン際で見ていた監督が、一歩前へ出た。「桐生――」 その声がかかる寸前だった。「桐生さん」 先に声を出したのは蓮だった。 中盤でボールを足元に止めたまま、真っ直ぐ桐生を見る。 冬の冷たい空気の中、その声だけが妙に静かに通る。 監督は口を開きかけたが、言葉を飲み込んだ。 視線だけを蓮へ向け、そのまま口をつぐむ。「強度を上げるのは必要です」 桐生の視線が向く。「でも、熱くなりすぎると視野が狭くなります」 揺れのない声に、全員が動きを止める。「焦って見える範囲が狭くなると、身体もチームも崩れます」 その言葉は、自分自身へ向けたものでもあった。 止まれなくなった過去。 足りないと追い込んで、自分を見失いかけた記憶。 怒りに飲まれかけた試合。 全部を
Last Updated : 2026-09-02 Read more