『さあ、全国高校サッカー選手権、決勝戦。常盤台高校対、松蔭高校の一戦がまもなく始まります』 冬の澄んだ空気を裂くように、テレビ中継の実況が響いていた。 『今大会、常盤台は試合を重ねるごとに完成度を高めてきました』 『そうですね。チームの象徴である天根選手にはそれほど数字の結果は出ていませんが、それでも圧倒的な存在感を放っています』 『準決勝でもゴール、アシストこそありませんでしたが、試合そのものを支配していました』 『ええ。もはや司令塔という言葉だけでは足りない。常盤台というチームそのものを成立させている存在ですね』 国立競技場。 冬の全国、その最後の舞台。 スタンドはすでに満員だった。 ベンチへ向かう常盤台の選手たちの表情に、もう硬さはない。 ここまで来た。 あと一つ。 それだけだった。 一方、相手ロッカールーム。 松蔭の監督は、ホワイトボードの前で静かに口を開いた。 「今の常盤台は、天根個人のチームじゃない」 全員の視線が集まる。 「そこを履き違えるな。あいつに気を取られすぎれば、他が刺してくる。だが、野放しにもするな」 マグネットを一つ、中央へ置く。 「最低限の距離を保ってマークにつけ。離しすぎるな。だが、食いつきすぎるな」 選手たちが頷く。 分かっている。 それがどれだけ難しいことか。 だが、やるしかない。 「勝つぞ」 「おう!」 短い声が重なった。 そして―― 主審の笛が鳴った。 それが、松蔭にとって長い九十分の始まりだった。 立ち上がり。 蓮は一度、ピッチの中央にゆっくりと向かった。 相手ボランチがついてくる。 だが、距離は絶妙だった。 近すぎず、遠すぎず。 自由は与えないが、飛び込ませない。 明らかに、準備してきている。 その距離を見た瞬間、若葉が小さく笑った。 「いいんすか? ……蓮さん、どフリーですけど」 次の瞬間には、縦パスが差し込まれていた。 「っ!」 慌てて相手ボランチが寄せる。 だが遅い。 常盤台にとって、蓮が左足を振り抜ける距離のマークは、フリーと同義だった。 トラップは不要。 視線を前に向ければ、桐生が抜け出しの準備をしている。 迷いなく振り抜かれた左足から、相手
Last Updated : 2026-09-04 Read more