翌朝。東の空がほの暗く白み始めた頃、地下の保管庫の重い鉄の扉が静かに開け放たれた。 「……ルシエラ様、朝ですよ」 約束通り、本邸の勤めが始まる前の早朝に駆けつけたマルタ。その声に、毛布の上で丸くなっていたルシエラはパチリと深紅の瞳を開けた。 「マルタ……!」 「えらいです、ルシエラ様。本当によく頑張りましたね。さあ、離れへ帰りましょう」 公爵夫妻や本邸の他の使用人たちに気づかれぬよう、マルタはルシエラをしっかりと抱きかかえ、朝露に濡れる庭園を通り抜けて自分たちの離れへと戻った。 久しぶりの自分のベッド、マルタの手料理、そして窓から差し込むやわらかな朝日。 地下の暗闇から解放されたルシエラは、マルタの淹れた温かいスープを幸せそうに口にし、心底ほっとした表情を見せていた。 ◇ 午前十時。公爵邸のエントランス前には、華やかな馬車と騎士たちの姿があった。 教会の巡礼と周辺地域の浄化に向かうため、オーガスト枢機卿一行が旅立とうとしていたのだ。 アレクシス公爵とエレノア夫人は、最高の笑顔と恭順の意を示しながら、オーガストを見送るべく居並んでいた。 「枢機卿様、当館でのご滞在がお気に召しましたなら幸いです。どうか道中、神のご加護がありますように」 揉み手をしながら頭を下げるアレクシスに対し、オーガストは薄い笑みを浮かべたまま短く応じた。 「手厚いもてなしに感謝する、ヴァルハイト公爵。……だが、一つだけ言わせていただきたい」 「は、はい! 何でしょうか!?」 オーガストは公爵の目をまっすぐに見据え、静かだが重みのある声で告げた。 「この地に漂う気配は、誠に興味深い。目に見える『光』だけが神の御心とは限らない……内に秘めた真の輝きを見誤らぬよう、心されるといい」 「は……? はあ……?」 意図を理解できず、呆然と首を傾げる公爵夫妻。 オーガストはそれ以上何も語らず、馬車へと乗り込んだ。 ◇ 馬車が公爵邸の広大な敷地を抜け、裏手の森に差し掛かった時のことだった。 (……ふむ、やはりここか) オーガストは御手に馬車を止めさせ、一人で静かに馬車を降りた。 彼の足が向かったのは、昨日、気配の源流を探る中で感じ取っていた敷地の端――鬱蒼とした木々に囲ま
最後更新 : 2026-08-11 閱讀更多