บททั้งหมดของ 黒翼の悪役令嬢は偽りの聖女を許さない : บทที่ 41 - บทที่ 50

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41話 不思議な聖女と、掴めぬ距離感

​「あ、あの……はじめまして、聖女様。ルシエラ・フォン・ヴァルハイトと申します」​差し出された華奢な手に応えながら、ルシエラは少し戸惑い気味に挨拶を返した。​間近で見つめるエルミナは、息をのむほど美しかった。光を透かす白銀の髪に、宝石のように澄んだ赤い瞳。人々に「聖女」と崇められるのも納得の神聖な容姿である。​……だが、その口から飛び出す言葉とテンションは、ルシエラが思い描いていた「静廉で神秘的な聖女像」とは大きくかけ離れていた。​「エルミナでいいわよ、ルシエラちゃん! 聖女様なんて柄じゃないんだから。それにしてもすごかったわねー、あのドカンって音! 私のときはパリンって感じだったのに、ルシエラちゃんのはズガーンって蒸発しちゃってたもの! 負けちゃったわ〜」​カラカラと鈴を転がすように笑いながら、エルミナはルシエラの手をぶんぶんと楽しそうに振る。​その陽気でフランクすぎる態度に、ルシエラは深紅の瞳を丸くするばかりだ。​(な、なんだか……すごく賑やかな人……?)​神々しく圧倒的な「虹色のマナ」を纏っていた人物と同一人物とは思えないほどの軽やかさ。それでいて、その笑顔の奥にある思考の読めなさに、どこか不思議な感覚を覚える。​そこへ、すささっと素早い動きで割り込んできたのはライネルだった。自然な動作でルシエラを背中に庇うように立つと、凛々しい顔立ちに警戒の色彩を少しだけ滲ませてエルミナを見下ろす。​「失礼、聖女エルミナ殿。急に距離を詰められると、彼女が困惑してしまう。……第一王子のライネル・フォン・グラン・ヴァリアだ」​「あらぁ、噂の王子様! かっこいい〜! ルシエラちゃんを宝物みたいに庇うのね。噂通りのラブラブっぷりで目の保養になっちゃうわ」​ライネルの威圧的な雰囲気を、エルミナはパチンと手を叩いて一瞬で受け流してしまった。何を言われても全く動じず、それどころか面白そうに目を輝かせている。​「ライネル様も魔力テスト、余裕の満点突破でしたものね。噂の規格外カップルに囲まれて、私、学園生活がとっても楽しみになってきちゃった!」​「き、規格外カップル……!?」​ルシエラは顔を真っ赤にして照れ惑い、ライネルも一瞬だけ眉をひそめたものの、エルミナのあまりのペースに毒気を抜かれたように息を吐いた。​「……君は、その容姿で随分と賑やかな性格なんだな
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42話 重なる足跡と、静かな二人部屋

​無事に魔力テストを追えたルシエラとマルタは、一度予約していた高級宿へと戻った。​身支度を整え、預けていた馬車と荷物を引き取ると、今度は本格的な生活の拠点となる王立中央学園の学生寮へと向けて馬車を走らせる。​「シュヴァルツ、ソレイユ。もう一踏ん張りよ」​ルシエラが御者窓から優しく声をかけると、二頭の馬はまるで意思が通じているかのように、力強く足取りを早めた。​学園の北側に位置する広大な寮エリアには、専用の巨大な厩舎が完備されていた。専門の飼育員や従者が常駐し、各貴族の愛馬を万全の体制で管理できるようになっている。​「シュヴァルツ、ソレイユ。ここで少しの間、休んでいてね」​ルシエラがシュヴァルツの鼻筋を優しく撫でると、シュヴァルツは愛おしそうに彼女の頬へすり寄ってきた。信頼に満ちた二頭の表情を確認し、万全の設備が整った厩舎に預け終えると、ルシエラたちはついに寮の本館へと足を向けた。​敷地内を進む道中、すれ違う生徒たちの視線はやはりルシエラに集中する。​先ほどの魔力テストで、測定水晶を一瞬で蒸発・粉砕させた「規格外の公爵令嬢」。その圧巻の光景は、すでに学園中に広まっていた。​「見ろよ……あの人が、魔力測定器を跡形もなく吹き飛ばしたっていう……」「なんてお綺麗な方なの……でも、やっぱり雰囲気が格違いだわ……」​あちこちから聞こえてくる囁き声や羨望の眼差し。先ほどまでなら戸惑っていたかもしれないが、今は隣にマルタが、そして心の中にライネルの存在があった。ルシエラは胸を張り、品格ある微笑みで軽く会釈を返しながら、過剰な視線を自然にいなして通り抜けていく。​そして辿り着いた、女子寮の最上階近くに位置する部屋。​「こちらでございますね、ルシエラ様」​鍵を差し込み、重厚な木製の扉を開けると、そこには驚くほど広く洗練された空間が広がっていた。​この学園は高位貴族や他国の要人も集うため、身の回りの世話をする従者と同室で過ごせる二人用の特別部屋が用意されている。​日当たりの良い大きな窓、落ち着いた色合いの上質なソファや机、そしてルシエラとマルタそれぞれのベッドとプライベート空間がしっかりと確保されていた。​「まあ……とても素敵なお部屋ですね」​マルタが部屋を見渡し、感心したように声を漏らす。​ルシエラは荷物を置くと、ふっと肩の力を抜いて柔らかいソ
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43話 Sクラスの波瀾と、ひそやかな違和感

​学園寮での最初の夜は、恐ろしいほど静かに更けていった。​長旅の疲れを癒やすハーブティーの香りが漂う室内。荷ほどきをあらかた終えたルシエラは、柔らかいベッドの上に腰掛け、窓の外に広がる中央都市の夜景を見つめていた。白亜の城や街並みが、月光を受けて淡く浮かび上がっている。​「トントン」​不意に、バルコニーのガラス窓を軽やかに叩く音が響いた。​「あら……?」​マルタが静かに警戒しながらカーテンを開けると、そこには脚に小さな筒を括り付けた、美しく毛並みの整った一羽の白銀の鷹が佇んでいた。グラン・ヴァリア王家に仕える極秘の通信鷹だ。​ルシエラが窓を開けると、鷹は大人しく手元に留まり、筒を預けると一鳴きして夜空へと舞い戻っていった。​筒の中から現れたのは、上質な羊皮紙に記されたライネルの直筆の手紙だった。​『親愛なるルシエラへ。無事に寮へ入居できたろうか。君が隣にいない夜は、どうにも長くて困る。明日のクラス発表だが、心配はいらない。君と僕は、同じ『特別魔導Sクラス』に配置されている。これからは毎日、君のすぐ隣でその笑顔を見ることができると思うと、胸の高鳴りを抑えられないよ。……それから、ひとつだけ警告をしておく。昼間会った聖女エルミナのことだ。王室暗部を使って彼女の素性を探らせたが、彼女がどこで育ち、いかなる軌跡を経てその莫大な力を得たのか、過去の足跡が完全に『空白』になっている。まるで、ここ数ヶ月で突如として世界に現れたかのようにね。彼女の明るさに悪意はないのかもしれないが、念のため注意しておいてほしい。明日、教室で待っている。おやすみ、僕のルシエラ』​手紙を読み終えたルシエラの胸に、甘い温もりと同時に、静かな緊張感が走り抜けた。​「ライネル様からの手紙でございますね。……聖女様について、何かお書きになっていらっしゃいましたか?」​「ええ。彼女の過去が、完全に空白になっているそうなの……」​ルシエラは手紙を胸に抱きしめ、懐に忍ばせた銀の短剣と、オーガストの遺品であるロザリオに触れた。​昼間見た、あの幻想的で美しい『虹色のマナ』。圧倒的な聖性と多属性の融合。あれほどの力を持ちながら、過去の記録が一切存在しない少女。深まる謎を抱えながら、ルシエラは明日からの学園生活に向けて静かに目を閉じたのだった。​◇​翌朝。​澄み渡る秋晴れ
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44話 侵食される学園と、忍び寄る糸

朝の講義が終わり、昼の休憩を告げる鐘の音が校舎に高く響き渡った。​『特別魔導Sクラス』の教室を出たルシエラは、胸元に手を当て、どこか固い表情のまま廊下を進んでいた。​(……あの違和感は、一体何だったのかしら)​午前中の授業中、すぐ隣に座っていたエルミナは、いたって無邪気そのものだった。教官の質問に元気に手を挙げて答えたり、難しい魔導理論に「う〜ん」と可愛らしく首を傾げたり。その姿を見る限りでは、怪しい要素などどこにも見当たらない。​あまりにも天真爛漫な彼女を目の前にしていると、自分の『魔視』が見せたあの粘ついた漆黒の「食み跡」は、単なる光の錯覚だったのではないか――そんな気すらしてくる。​「ルシエラ、大丈夫かい? 少し顔色が悪いように見えるが」​並んで歩いていたライネルが、心配そうに深紅の瞳を覗き込んできた。​「ええ、大丈夫よ、ライネル君。ちょっと考え事をしていただけだから」​ルシエラが無理に微笑んでみせると、ライネルは愛おしそうに彼女の頬へそっと触れ、悔しそうに眉をひそめた。​「本当なら、今日のお昼は君と一緒に過ごしたかったのだが……午後から王宮で緊急の執務が入ってしまってね。一度自室へ戻り、公務の書類を整理してから城へ向かわなければならないんだ」​「ライネル君は第一王子ですもの、お仕事があるのは当然だわ。気をつけて行ってきてね」​「ありがとう、ルシエラ。……何か異変があったら、すぐにマルタか僕の護衛に知らせるんだよ」​ライネルはルシエラの手の甲に名残惜しそうに口づけを落とすと、凛とした背中で立ち去っていった。​「ライネル様は本当にお優しく、ルシエラ様を大切にされていらっしゃいますね」​後ろに控えていたマルタが温かな笑みを浮かべる。ルシエラも少し頬を染めながら、小さく頷いた。​「ええ。……さあ、マルタ。私たちもお昼にしましょう。学食のレストランへ行ってみない?」​「はい、お供いたします。王立学園の学食は、一流の料理人が腕を振るっていると評判でございますからね」​◇​学園の敷地内でも一際大きな建物を誇る学食レストラン。高抜けの天井には豪華なシャンデリアが輝き、各国の貴族子弟たちが楽しそうに歓談しながら色鮮やかな料理を楽しんでいた。​「わあ……レストランというより、まるで宮廷のパーティー会場のようね」​ルシエラは深紅の瞳を輝
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45話 黄昏の校舎と、絡みつく影

午後の授業終了を告げる重厚な鐘の音が、夕陽に染まる校舎に響き渡った。 ​「ふぁぁ……今日の講義も楽しかったわね! ルシエラちゃん、また明日ね〜!」 ​鞄を肩にかけたエルミナは、白銀の髪をふわりと揺らし、ルシエラに向かって屈託のない笑顔で手を振った。そのまま軽やかな足取りで、夕闇が迫る教室を後にしていった。 ​その陽気な後ろ姿を見送りながら、ルシエラは胸元に手を当て、そっと息を吐いた。 ​(昼間の学食での光景……あれは決して気のせいではないわ) ​教室の外で待機していたマルタが静かに室内へ入ると、ルシエラの側へと歩み寄った。 ​「ルシエラ様、お疲れ様でございました。ライネル様が王宮へ戻られている今夕、このまま寮へお戻りになられますか?」 ​「……ううん。マルタ、少し学園内を散策してみないかしら」 ​ルシエラは深紅の瞳に静かな決意の光を宿し、窓の外を見つめた。 ​「生徒たちに忍び寄るあの気配……人間に化けた悪魔の残党や、その糸がどこから伸びているのか確かめたいの。生徒だけじゃなく、校舎のどこかに隠された魔法陣や結界の『歪み』がないか……ライネル君が不在の今、私たちが調べておかないと」 ​ライネルは今、王宮で公務に追われている。彼の手を煩わせる前に、自分たちの目と力で掴める情報があるはずだ。オーガストから授かった「神聖魔法」と「魔視」の力は、そのためにこそある。 ​マルタはルシエラの意図を察し、凛とした表情で頷いた。 ​「かしこまりました。……ですが、期限を決めましょう。18時までには切り上げ、一度寮へ戻ることにいたしませんか。ライネル様がおられぬ今、万が一のことがあってはなりおません。私ども二人だけなのですから、決してご無理はなさらないでくださいね」 ​「ええ、分かっているわ。ありがとう、マルタ」 ​二人は示し合わせると、茜色に染まる校舎の奥深くへと足を踏み出した。 ​◇ ​王立中央学園の校舎は広大であり、放課後の旧校舎や資材置き場、地下回廊へと続く道には人の気配がほとんどない。 ​ルシエラは魔視の精度を極限まで引き上げ、壁や床に微かな魔力の不自然な滞留や、黒い悪意の痕跡がないかを探りながら静かに歩を進めていた。 ​(ここには……まだ目立った魔法陣のようなものは見当たらないわね。でも、やはり空気の奥底に微かな『歪み』が漂っている……
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46話 消えた死線と、張りつめた微笑

​男たちの下品な笑い声が途切れることはなかった。​自分たちの首元に、今まさに万物を喰らい尽くすような凄惨な「死」の顎が肉迫していることなど、彼らは露ほども気づいていない。あと一瞬、エルミナの華奢な肌に手が触れていれば、その腕ごと存在を削り取られていたはずだった。​息を殺し、影からその戦慄の光景を凝視していたルシエラの背筋に、冷や汗が伝う。​(っ……あの子、一体……!?)​その時だった。​「――あっ! ルシエラちゃ〜ん! た〜す〜け〜て〜っ!」​渡り廊下の奥、完全に死角となる影の中に身を潜めていたはずのルシエラたちに向かって、エルミナがくるりと顔を向けた。​遠目の影、それも気配を完璧に殺していたはずの位置。にもかかわらず、エルミナの視線は一直線にルシエラの深紅の瞳を捉えていた。​「えっ……!?」​ルシエラが息をのんだ瞬間――。​シュン……​先ほどまでエルミナの背後に立ち昇っていた、あのどろりと粘つく凄惨な「死の気配」が、まるで幻だったかのように一瞬で霧散した。​そこに残されたのは、怯えたように赤い目を潤ませ、助けを求める可憐で無害な「聖女」の姿だけだった。あまりにも完璧で不自然な切り替えに、ルシエラの肌がゾワリと粟立つ。​「ちっ!? 誰だお前ら……ッ!」​突然声を上げられたFクラスの男子生徒たちが、慌ててルシエラたちの潜む影へと視線を向けた。​暗がりから静かに姿を現したのは、透き通るような肌に深紅の瞳を光らせるルシエラと、その斜め後ろで冷ややかな殺気を孕んだ目を光らせるマルタだった。​先ほどの魔力テストで測定器を跡形もなく蒸発させた「規格外」の令嬢と、その只者ではない従者。​「ヒッ……! ヴ、ヴァルハイト公爵家の……!?」​「やばいぞ、測定器を吹き飛ばしたバケモノだ……! 護衛のメイドだってタダ者じゃねえ!」​ルシエラが一歩踏み出しただけで、男たちは顔を真っ青にして後ずさりした。Sクラスの圧倒的な実力差と「忌み子」の恐ろしい噂が頭をよぎったのか、彼らはエルミナの手を放し、蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。​「お、覚えてろよっ! 逃げるぞッ!」​ドタバタと無様で不快な足音を残し、5人の影は夕闇の校舎の奥へと消え去っていった。​静まり返った渡り廊下に、茜色の夕陽が斜めに差し込む。​「ふぅ〜! 助かったわぁ、ルシエラちゃ
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47話 絡み合う疑惑と、静かなる誓い

​夕闇が完全に街を包み込む頃、ルシエラとマルタは無事に女子寮の自室へと戻っていた。​重厚な木製の扉が閉じ、カンテラの柔らかな光が室内を包み込む。マルタが手際よくハーブティーを淹れ、湯気の立つカップをテーブルに置いたが、ふたりの表情は重く沈んでいた。​「……ルシエラ様、先ほどの聖女様のことですが」​マルタが静かに切り出す。その瞳には、かつてないほどの緊張の色が走っていた。​「ええ……間違いないわ、マルタ。あの時、エルミナの背後に浮かび上がったのは、昼間に他の生徒たちに見えた『黒い糸』と同質の……ううん、それ以上に濃密で恐ろしい悪魔の気配だった」​ルシエラはソファに腰掛け、両手でカップを包み込みながら深紅の瞳を静かに陰らせた。​先ほど渡り廊下で見た光景――5人の男子生徒に迫っていた、万物を喰らい尽くすような「死の顎」。そして、ルシエラたちの存在に気づいた瞬間、何事もなかったかのように霧散した死の気配。​「けれど……わからないことばかりね」​ルシエラはぽつりと呟いた。​「エルミナは……果たして、自身の強い意思で悪魔の力を振るっているのかしら。それとも、本人は何も気づいておらず、ただ強大なマナの器として悪魔に操られ、憑依されているだけ……? もしかすると、彼女自身が『悪魔の本体』そのものという可能性もあるわ」​「左様でございますね……」​マルタは静かに腕を組み、思案を深める。​「学食で見かけた他の生徒たちのように、エルミナ様ご自身もまた、己の身に何が起きているのか気づいていない可能性は十分に考えられます。あまりにも無垢で、可憐なお立ち振る舞い……それがもし演技ではないとしたら、あまりにも残酷な状況でございます」​「ええ。もしも彼女が単なる被害者なのだとしたら、むやみに『悪魔だ』と決めつけて暴くのは、あまりにも危険だわ。彼女の命そのものを脅かすことになりかねないもの」​ルシエラは胸元のロザリオと、結界のペンダントにそっと触れた。​今、この学園で何が起きているのか。エルミナのように「牙」を隠し持っている生徒が、いつどこで本性を現し、誰に襲いかかるか分からない状況だ。​――だが、ふと思う。​(あんなにも恐ろしい力を秘めていながら……どうしてエルミナや他の生徒たちは、私に牙を剥いてこないのかしら?)​ルシエラ自身、魔力測定器を蒸発させるほどの
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48話 夜のレストランと、譲れぬ誓い

​月が夜空の頂へと上り詰めた夜9時頃。 ​静まり返った校舎を抜け、ルシエラとマルタは夜間営業を行っている学食レストランへと足を運んでいた。昼間の喧騒とは打って変わり、店内には暖色のランプが柔らかく灯り、シックで落ち着いた大人の雰囲気が漂っている。 ​「ルシエラ様、こちらでございます。実は昼間にお聞きしたのですが、この時間帯のレストランでしか味わえない、有名な特製料理があるそうでございますよ」 ​マルタがメニューを差し出しながら、少しお茶目に微笑んだ。 ​「まあ、夜限定の料理? ……ふふ、楽しみね」 ​ルシエラは深紅の瞳を少し緩め、そっと胸を撫で下ろした。 ​昼間の散策や、エルミナの背後に見えた凄惨な「悪魔の気配」、そして学園内に広がる謎の侵食――様々な緊張と思考が重なり、思いのほか身体が疲弊していたのだ。 ​「いろいろなことがあって、少し疲れてしまっていたの。マルタの言う通り、美味しい料理でも食べて、心を休めましょう」 ​二人が景色の良い窓際の席を選び、温かな料理を楽しもうとしたその時――。 ​「――ルシエラ? こんな時間にどうしたんだい?」 ​低く心地よい声が響き、振り返るとそこには上着を脱ぎ、少し着崩した制服姿のライネルが立っていた。王宮での過酷な公務を終えて戻ってきたばかりらしく、その表情にはかすかな疲労の色が伺えたが、ルシエラを目にした瞬間、その瞳にパッと甘い光が宿った。 ​「ライネル君! 遅い夕食かしら?」 ​「ああ。王宮での執務が長引いてしまってね。寮へ戻る前に何か口にしようと立ち寄ったのだが……まさか君に会えるなんて。今日の疲れが吹き飛んだよ」 ​ライネルは自然な動作でルシエラの隣に腰掛けると、愛おしそうに彼女の手を包み込んだ。マルタが手際よくライネルの分のカトラリーを用意し、温かなスープを注文する。 ​料理が運ばれ、束の間の静かな食事が始まった。 ライネルがスープを口にし、息を吐いたタイミングを見計らい、ルシエラは昼間に起きた出来事――聖女エルミナの背後に見えた「死の気配」と、学園の生徒たちに伸びる謎の「黒い糸」について、静かに打ち明けた。 ​話を聞き終えたライネルの表情から甘さが消え、第一王子としての鋭い冷徹さが宿る。 ​「……やはり、聖女エルミナは只者ではないな。僕が探らせた『過去の空白』とも辻褄が合う。彼女自
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49話 夜の交差点と、甘やかな誓い

​夜のレストランの窓から射し込む月光が、テーブルの上のグラスを静かに照らしていた。 ​ルシエラの言葉に宿った凛とした覚悟に、ライネルは一瞬だけ息を呑み、やがてその口元に深く愛おしむような笑みを浮かべた。 ​「……ふっ、やっぱり君には敵わないな。僕の可愛い姫君は、いつの間にか誰よりも気高く、強い戦士になっていたようだ」 ​ライネルは握りしめたルシエラの手をそっと自分の頬へと寄せ、愛おしそうに目を細めた。 ​「『大切な人だけを守れればいい』……その言葉、そっくりそのまま僕から君へ返させてもらうよ。僕にとっても、この国や世界以上に大切なのは君だ、ルシエラ。君が傷つくことだけは、僕が何があっても許さない」 ​「ライネル君……」 ​ふたりの間に流れる甘く濃密な空気に、少し離れた場所に控えていたマルタが、クスクスと嬉しそうに喉を鳴らした。 ​「ふふ、ライネル様。ルシエラ様をお想いくださるお気持ちは大変重々承知しておりますが、そろそろお料理が冷めてしまいますよ」 ​「あ……そうだったね。すまない、マルタ」 ​照れくさそうに咳払いをするライネルと、真っ赤になって下を向くルシエラ。先ほどまでの重苦しい緊張感が嘘のように瓦解し、テーブルには穏やかで温かな時間が戻ってきた。 ​名物の夜限定料理――旬の香草と熟成肉のパイ包み焼きにナイフを入れると、芳醇な肉汁と甘い香りが立ち上る。一口口に含んだルシエラは、深紅の瞳をキラキラと輝かせた。 ​「おいしい……! マルタ、ライネル君、すごく美味しいわ!」 ​「お気に召していただけて良かったです、ルシエラ様。苦労して夜のメニューを調べておいた甲斐がございました」 ​「本当だね。王宮の晩餐会に出される料理にも引けを取らない。疲れが吹き飛ぶよ」 ​他愛のない会話を交わし、料理を堪能するひととき。 公爵邸の暗く冷たい離れで過ごしていた頃には、想像すらできなかった「普通で温かな日常」。それを噛み締めるたび、ルシエラは胸の奥が熱くなるのを感じていた。 ​この温もりを、このかけがえのない笑顔を、絶対に悪魔なんかに奪わせはしない。 ​食事を終え、レストランを出たのは夜の10時を回った頃だった。 月明かりが美しく照らす石畳の回廊を、三人で並んで歩く。 ​男子寮と女子寮の分岐点に差し掛かったところで、ライネルが足を止めた。 ​
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-19
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50話 朝霧の中の消滅と、聖女の涙

​翌朝。朝靄が静かに漂う早朝の空気の中、ルシエラとマルタはいつもより随分と早い時間に寮をあとにした。​通学ついでに、昨日目にした異変の痕跡を確かめるためだ。​二人は静まり返った女子寮の廊下から始まり、朝日が差し込み始めた通学路、昨夜遅くまで過ごした学食レストラン、そして本校舎の渡り廊下に至るまで、魔視の精度を極限まで高めて丁寧に観察して回った。​――しかし。​「……ないわ」​ルシエラは足をとめ、深紅の瞳を何度も瞬かせた。​昨日あれほどはっきりと見えていたはずの、生徒たちの体から伸びるドロリとした「黒い糸」が、どこを探しても見当たらない。すれ違う早起きの生徒たちの体を注視しても、そこにあるのは健全で綺麗なマナの流れだけだった。​「どういうことかしら……? 痕跡ごと完全に消えているわ。浄化された……わけではないわよね?」​「はい。悪魔の気配が霧散したというよりは、まるで最初から何もなかったかのように綺麗に『隠された』か、あるいは……」​マルタも鋭い視線を巡らせながら、低く呟く。​「こちらの警戒を察知して、一時的に引き込めたか……でございますね」​手がかりを掴むどころか、逆に完全に煙に巻かれてしまった不気味さ。ルシエラは胸元のロザリオをそっと握り締めながら、早めに着いてしまった『特別魔導Sクラス』の教室へと向かった。​◇​ガラリ、と重厚な木製の扉を開ける。​まだ誰も登校していないはずの早朝の教室。だが、その最前列の席に、ぽつんと一人だけ先客が座っていた。​白銀の髪を朝の光に透けさせ、窓の外を静かに眺めている少女――聖女エルミナだった。​いつもの賑やかで陽気な雰囲気は微塵もなく、彼女はルシエラたちが教室に入ってきたことにすら気づいていない様子だった。​(エルミナ……?)​ルシエラは足を止め、遠目から彼女の横顔を見つめた。​遠くの空を見つめるその横顔は、どこか酷く儚げで、深い憂いを帯びているように見えた。普段の天真爛漫な姿からは想像もつかない、あまりにも静かで、重い空気。​(どういう表情……なのかしら。彼女は一体、何を思って……)​エルミナが抱える謎、背後に見えた凄惨な死の気配。それらが頭をよぎりながらも、ルシエラはそっと彼女の隣の席へと歩み寄った。​声をかけようと口を開かけた、その瞬間――。​ルシエラの息が止まった。​窓から
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