「――それから、最後にひとつ」漆黒のマナが渦巻く謁見の間で、ルシエラは青ざめた公爵夫妻を見下ろしながら、まるで鈴を転がすような冷ややかな声で付け加えた。「今日の出来事、そして私の存在について……外へ口外しないと約束してちょうだい。もし変な噂を立てたり、私を害しようと他国の刺客や教会を利用しようとしたら……その時は、この屋敷ごとヴァルハイトの血脈を跡形もなく消し去ってあげるわ」「ひ、ひぃぃっ……! や、約束する! 誓う、誓うから命だけは……っ!」アレクシスは床に頭を擦り付け、惨めに命乞いをした。エレノア夫人も泡を吹かんばかりに恐怖し、ただガタガタと震えることしかできない。自分たちを脅し、屈服させたルシエラは、何事もなかったかのようにすっと翼を収めると、マルタの手を優しく取った。倒れ伏す騎士たちと恐怖に震える公爵夫妻を置き去りにし、二人は悠然と謁見の間を後にしたのだった。◇これまで「離れ」に隔離されていたルシエラが、堂々と本邸の廊下を歩く姿は、屋敷の使用人たちにあまりにも大きな衝撃を与えた。本邸で働く若いメイドたちの多くは、これまで噂でしか「忌み子」の存在を知らなかった。不吉な悪魔、化け物、呪われた子供――大人たちからそう聞かされて育った彼女たちの前に現れたのは、その想像をあまりにも鮮やかに裏切る少女であった。廊下の光を吸い込んで艶やかに輝く、夜空のように深い美しい黒髪。透き通るような白い肌と、夕焼けの宝石を閉じ込めたかのように高貴で澄み渡る深紅の瞳。その姿は、忌むべき化け物などではなく、まるでどこかの国の高貴な王女そのものだった。「……ねえ、あのお方が『離れ』のルシエラ様……?」「なんて綺麗なお方なの……! あんなに美しい黒髪、見たことがないわ」「瞳の赤さも、まるでおとぎ話に出てくる宝石みたい……」すれ違う若いメイドたちが、思わず足を止めて頬を染め、ルシエラの見とれるような美しさに見惚れて吐息を漏らす。恐怖や嫌悪ではなく、純粋な憧憬と賛美の視線が、ルシエラへと向けられていた。その様子を隣で歩くマルタは、誇らしげに胸を張って見つめていた。(ふふ……どうかしら! ルシエラ様はこんなにも美しくて、賢くて、気高いお方なのよ!)これまで自分の娘のように慈しみ、愛情を注いで育ててきた少女。冷たい陰口に晒さ
最後更新 : 2026-08-12 閱讀更多