บททั้งหมดของ 黒翼の悪役令嬢は偽りの聖女を許さない : บทที่ 51 - บทที่ 60

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51話 仮面の裏の慟哭と、惑う深紅

​「あ、あれ? ルシエラちゃん、どうしたの? そんなに鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして……!」​エルミナは必死に明るい声を張り上げ、両手でパタパタと頬を叩いた。透き通るような白銀の髪が揺れ、無理に作った眩しい笑顔がルシエラの視界を揺らす。​しかし、その目の縁は痛々しいほど赤く染まり、拭いきれなかった一筋の涙の痕が、朝日に照らされて鮮明に浮かび上がっていた。​「……エルミナ」​ルシエラは深紅の瞳を揺らし、言葉を詰まらせた。​(目にゴミが入っただなんて、そんな嘘……)​昨日、渡り廊下で見せたあの恐ろしいまでの冷徹さと、万物を喰らい尽くすような「死の気配」。そして、先ほどまで窓の外を見つめながら流していた、あまりにも静かで儚い涙。​どちらが彼女の「本物」なのか。それとも、どちらも彼女の一部なのか。​ルシエラが息を呑んで立ち尽くしていると、後ろに控えていたマルタが静かに一歩前へ出て、完璧な所作で丁寧なお辞儀をした。​「聖女様、早朝から失礼いたしました。ルシエラ様、お席にお座りになられてはかがでしょう」​「あ……ええ、そうね。ありがとう、マルタ」​マルタの落ち着いた声にハッと我に返ったルシエラは、静かにエルミナの隣の席へと腰を下ろした。​隣に座ると、ふわりと甘いハーブのような香りが漂ってくる。ルシエラは密かに『魔視』を集中させ、エルミナの体を観察した。​――だが、そこに映し出されたのは、昨日までと変わらぬ神々しく美しい『虹色のマナ』だけだった。昨夜の散策時と同じく、あの粘ついた漆黒の「食み跡」も、生徒たちから伸びていた黒い糸も、まるで最初から存在しなかったかのように綺麗に影を潜めている。​「ねえ、ルシエラちゃんってば、そんなに見つめられると照れちゃうわ!」​エルミナはおどけて頬に手を当て、カラカラと鈴を転がすように笑ってみせた。​「……ねえ、エルミナ」​ルシエラは意を決し、深紅の瞳で真っ直ぐに彼女の赤い瞳を見つめた。​「本当に……大丈夫なの? 何か、お辛いことでもあったのではないかしら」​「えっ……」​一瞬だけ、エルミナの笑顔がピキリと凍りついた。​宝石のように澄んだ赤い瞳の奥で、無数の感情が渦巻き、砕け散るような錯覚。だが次の瞬間には、彼女は何事もなかったかのようにふわりと柔らかな笑みを浮かべ直していた。​「ううん、本
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52話 焔の暴発と、生命を紡ぐ光

『特別魔導Sクラス』の午前中の講義を終え、午後からは屋外の広大な第一訓練場へと移動しての実技演習が行われていた。​青空の下、広場には魔導耐性を施された重厚な「人型標的(ターゲット)」が十数体ほど一列に並べられている。​「良いか、諸君! 本日の実技テストは『破壊魔法系統による対象物の破壊、または消滅』である!」​教官の力強い声が訓練場に響き渡る。​この日のために、昨日まで入念な基礎座学が叩き込まれていた。本来であれば、1年生の初期段階でいきなり実戦的な破壊魔法を本格的に試すことは少ない。しかし――オーガストをはじめとする高位聖職者たちが全滅し、国中に正体不明の不安が蔓延している今、学園側は「自らの身は自ら守る」ための基礎防衛力を、新入生へ早急に叩き込む方針へと舵を切っていたのだ。​「と言っても、過剰に恐れる必要はない! 本日使用するのは、基礎中の基礎である『火属性の球状魔法』だ。威力を絞り、標的の核を的確に捉えて破壊してみせよ!」​教官の合図とともに、生徒たちが順番に前に出て魔法を行使していく。​「――穿て、ファイヤボール!」​ドォン!と澄んだ炸裂音が響き、男子生徒の放った炎が標的の胸部を鋭く穿った。Sクラスに選ばれるだけあって、生徒たちの魔力制御は総じて安定しており、テストは順調に進行していく。​ルシエラはライネルやエルミナと並び、その光景を静かに見守っていた。​(基礎的な火魔法……マナの流量さえ間違えなければ、暴発するような難易度ではないわね)​順調に列が進み、やがて一人の女生徒が前へと進み出た。​繊細そうな金髪を揺らすその少女は、自信なさげに小さな手をギュッと握りしめ、不安そうに眉をひそめている。実技に対する緊張が全身から伝わってくるようだった。​すると、待機列にいた仲の良さそうな友人の女生徒が、ぽんと彼女の背中を優しく叩いた。​「大丈夫よ、ミレイ! 昨日の補習でもちゃんと成功していたじゃない。落ち着いてやれば絶対にできるわ!」​「……うん、ありがとう! 頑張ってみるわ!」​友人の温かな言葉に励まされ、ミレイと呼ばれた少女は意を決して標的の前、指定の位置へと足を踏み入れた。​深く息を吸い込み、杖を標的へと向け直す。​「――熱き糧となりて集え、焔の導き。……穿て、『ファイヤボール』ッ!」​澄んだ声で詠
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53話 静かなる寄生と、見えざる糸

​「……ミレイ! よかった、本当によかったわ……っ!」​友人の泣き叫ぶような声と、奇跡の治療を目の当たりにした生徒たちの安堵のため息が訓練場に広がっていた。​教官の手によって担架が運ばれ、意識を失ったままのミレイは「念のため」と学園の保健室へと搬送されていく。白銀の髪を揺らすエルミナは、胸元に手を当ててその背中を愛おしそうに見送っていた。​その一連の光景を、ルシエラはライネル、そしてマルタと共に、少し離れた位置から静かに見つめていた。​「……見事な神聖魔法だな」​ライネルが低く静かな声でつぶやいた。その瞳には感嘆と、それ以上に深い警戒の色が宿っている。​「オーガスト枢機卿亡き今、これほどの領域で生命を再生させる『奇跡』を行使できる者は、この国に彼女以外存在しないだろう。……だが、ルシエラ。君の目にはどう映った?」​ライネルに問いかけられ、ルシエラは深く重い息を吐き出した。​「……ライネル君。今の暴発は、単なる彼女の詠唱ミスではないわ」​ルシエラの言葉に、ライネルとマルタの身体が微かに緊張する。​「ミレイさんが魔法を発動しようとしたその瞬間のマナ……その核に、あの粘ついた漆黒の気配が一瞬だけ混ざり込んだの。それがマナの構造を内側から破壊して、暴発を引き起こした……」​さらに、ルシエラは自らの胸元――ロザリオに手を置きながら、決定的な「違和感」を口にした。​「そして……エルミナが彼女を治癒した直後、私、見てしまったの」​「見た……? 何をだ、ルシエラ様」​マルタが静かに問いかける。​「ミレイさんの体に……今朝まで綺麗に消えていたあの『黒い糸』が、まるで傷口から染み込むように、びっしりと纏わりついていたわ。……でも、ほんの数秒で、また痕跡ごと気配を消してしまったけれど」​ルシエラの告白に、ライネルは鋭く眉をひそめた。​「……つまり、あの事故そのものが、彼女の体内に『何か』を植え付けるための自作自演だった可能性があるということか?」​「わからないわ……」​ルシエラは固く唇を噛み締めた。​「エルミナが意図的に仕組んだことなのか、それともエルミナ自身も利用されているだけなのか……。今起きている現象のすべてが、あまりにも巧妙で、尻尾を掴ませてくれない」​学術的に見れば、今のところ「黒い糸」に纏わりつかれている生徒たちが突如暴れ出したり、
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54話 歪む前提と、死角の不協和音

​訓練場での惨劇が収束し、放課後の静けさが学園全体を包み込み始めていた。​放課後の第一校舎一階、保健室の重厚な扉の前。​「ミレイが意識を取り戻し、体調が安定し次第、真っ先に僕へ連絡を回すよう保健医には徹底させておいたよ」​ライネルが腕を組み、低く静かな声で二人に伝えた。第一王子の権限と直属の側近を通した指示だ。学園の保健医も事態の重大性を察し、異例の速やかさで協力を約束していた。​「ありがとうございます、ライネル様」​マルタが深々と頭を下げ、それから静かに周囲を警戒するように視線を巡らせた。夕暮れの廊下には人影もなく、カンテラの橙色の光だけがぽつんと床を照らしている。​「……ですがルシエラ様、ライネル様。私は今回の『事故』そのものに、どうしても拭いきれない不自然さを感じております」​「不自然さ……? 事故に見せかけた自作自演のことかしら?」​ルシエラが深紅の瞳を向け直すと、マルタは首を小さく横に振った。​「いいえ。自作自演という手口そのものよりも……『タイミング』と『リスク』でございます。聖女エルミナ様――あるいは彼女の背後に潜む『何か』が、あのような大衆の目の前で、わざわざ目立つ形で事件を起こす必要があったのでしょうか?」​「確かに……」​ライネルも顎に手を当て、思考を巡らせる。​「学食で見かけた生徒たちのように、誰にも気づかれずに『黒い糸』を潜ませ、侵食を進めることなら、いくらでも陰でできたはずだ。わざわざ訓練場で魔法を暴発させ、注目を集めた上で神聖魔法を使う……あまりにもリスクが高すぎる」​一歩間違えれば、魔法の解析によって外部からの介入を疑われる危険性があった。教官や実力派の生徒が揃うSクラスの演習場は、決して隠蔽に適した場所ではない。​「ええ。もしも彼女たちの目的が『静かな侵食』であるならば、今日の行動はあまりにも軽率で、矛盾しております。……まるで、誰かに『私を見て』と誇示しているかのように」​マルタの言葉に、ルシエラは胸元のロザリオをぎゅっと握りしめた。​静かな廊下に、刻むような足音が遠くで響いている。​(矛盾……? 誇示……?)​ルシエラの脳裏に、これまでの出来事が走馬灯のように駆け巡った。​朝の教室で、窓の外を見つめながら一人静かに流していたエルミナの涙。渡り廊下で男たちに絡まれた際、一瞬だけ背後に立ち昇っ
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55話 深層の証言と、忍び寄る影

​夜の帳がすっかり降り、静まり返った学園の保健室。​薄暗い室内には、薬草のツンとした香りと、魔導ランプの柔らかな淡い光が満ちていた。ベッドの脇に置かれた魔力測定器と心拍計が、小さく一定の音を刻んでいる。​「……ルシエラ様、ライネル様。ミレイの意識が戻りました」​扉を静かに開けて現れた保健医が、低く落ち着いた声で告げた。ライネルの手配により、保健室の周りには厳重な結界と護衛が配置され、外部の人間が近づけないよう完璧な警戒態勢が敷かれている。​ルシエラ、ライネル、そしてマルタの三人は、足音を殺して白いカーテンの奥へと足を踏み入れた。​ベッドの上には、身体を起こした金髪の少女――ミレイが座っていた。​「あ……公爵家の……それにライネル王子様……?」​ミレイは驚きで目を丸くし、慌てて身を縮こませようとしたが、ライネルが優しく手を差し伸べてそれを制した。​「楽にしていてくれ、ミレイ。……気分はどうだい? まだどこか痛むところはあるか?」​「い、いいえ……。エルミナ様がすぐに治癒してくださったおかげで、痛みは全くありません。まるで……最初から火傷なんて負っていなかったみたいに……」​ミレイは己の手のひらをじっと見つめ、奇跡的な回復にどこか夢心地のような表情を浮かべていた。しかし、その瞳の奥には、拭いきれない微かな「歪み」のような違和感が揺れているのを、ルシエラの『魔視』は見逃さなかった。​ミレイの胸元の奥深く――先ほどまで表層に出ていた「黒い糸」は姿を消しているものの、心臓の鼓動に合わせて、小さな漆黒の核のようなものが静かに脈打っている。​ルシエラはミレイのベッドの脇にそっと腰掛け、深紅の瞳で優しく彼女を見つめた。​「ミレイさん。恐ろしい思いをさせてしまってごめんなさい。……少しだけ、魔法が暴発した時のことと、エルミナに治療してもらった時のことを教えてもらえるかしら?」​「暴発した時の……こと、ですか……?」​ミレイは記憶を辿るように、ぽつり、ぽつりと語り始めた。​「あの時……教官に教わった通りにマナを練っていたんです。でも、詠唱を終える直前、急に頭の奥が痺れるような感覚がして……自分のマナじゃない、冷たくてドロドロした『何か』が、身体の中から勝手に湧き上がってきたんです……」​「身体の中から……?」​ルシエラとライネルは顔を見合わせた。外
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56話 沈黙の打破と、体育館の異形

​保健室でのミレイの証言から、嵐の前の静けさのような一週間が過ぎ去っていった。​その間、学園内では何一つとして不審な事故や事件は起きなかった。エルミナも変わらず陽気にルシエラへ話しかけては無邪気に笑い、他の生徒たちも平穏な日常を謳歌していた。​だが、その「何もなさ」こそが、かえって異様で気味が悪かった。水面下で着々と何かが熟成され、今か今かと解き放たれる瞬間を待っている――ルシエラ、ライネル、マルタの三人は一刻も気を緩めることなく、極秘裏に警戒網を張り続けていた。​――そして、その日は唐突に訪れた。​昼下がりの賑やかな学食レストラン。天井のシャンデリアが眩しく光を放ち、数百人の生徒たちが歓談しながら昼食を楽しんでいた、まさにその最中のことだった。​――フッ……。​突然、空間を流れるマナの密度が異常なほど跳ね上がった。​「な……ッ!?」​ルシエラが深紅の瞳を見開いた瞬間、周囲のテーブルから食器が床へ落ちる甲高い音が次々と響き渡った。​「きゃっ……」「う、あ……」「急に、頭が……」​楽しく会話していた生徒たちが、まるで操り糸をぷつりと切られた人形のように、次々とテーブルや床へと崩れ落ちていく。悲鳴を上げる隙すら与えられない、あまりにも完璧で異常な『集団昏睡』。​「ルシエラ様ッ!」​マルタが一瞬でルシエラの前に立ちはだかり、即座に懐の短剣を引き抜く。​「――主の名において命ず。拒絶の障壁よ、我らの領域を護れ! 『聖光結界』ッ!」​ルシエラはすぐさま胸元の結界のペンダントとロザリオに意識を集中させ、自分とライネル、マルタの三人を取り囲むように高純度の聖光結界を展開した。​ドロリとした見えざる「圧」が結界の表面を叩くが、ルシエラの圧倒的なマナの壁はそれを易々と弾き返す。ライネルも即座に剣の柄に手を掛け、冷徹な視線で周囲を払った。​「集団昏睡……!? 一体何が起きたというんだ……!」​倒れ伏す数百人の生徒たち。広大なレストランの中で、立っているのは結界で守られたルシエラたち三人だけ――。​――いや、違った。​少し離れたテーブルで、白銀の髪を床に散らせ、無防備に突っ伏している少女がいた。​「エルミナ……!?」​ルシエラは息を呑んだ。なんと、あの莫大な『虹色のマナ』を秘めていたはずの聖女エルミナまでもが、他の生徒たちと同様に意識を失
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57話 連携の閃光と、断罪の深紅

​「……見つ……けたぞ……『ルシエラ』ぁぁぁぁッ!!」​体育館中に響き渡る凄絶な咆哮。男子生徒の姿を借りた悪魔の片割れは、歪んだ漆黒のオーラを爆発させ、狂気の赤き眼光でルシエラたちを威嚇した。​その圧迫感は、並の術者であれば膝を屈するほどの重圧だった。​しかし、ルシエラたちの決意が揺らぐことはない。​「マルタ! 倒れている生徒たちの保護と避難結界の展開を頼むわ! 彼らをこれ以上、余波に巻き込むわけにはいかない!」​「畏まりました! ルシエラ様、ライネル様、どうかご武運を!」​マルタは即座に状況を判断すると、疾風のごとき身のこなしで床に倒れる生徒たちのもとへ駆け寄った。素早く彼らを安全な壁際へと集め、高純度の防御結界を重ねて展開していく。​「よし……これで後ろの憂心はなくなったな!」​ライネルが腰の宝剣を解き放つ。鋭い金属音が響き、彼の全身から王家に伝わる眩い黄金の闘気が溢れ出した。​「行くぞ、ルシエラ!」​「ええ、ライネル君!」​――ドォンッ!!​悪魔と化した男子生徒が床を砕き、目にも留まらぬ速度で肉迫してきた。漆黒のマナが巨大な爪の形を成し、ライネルの首元へと振り下ろされる。​「ハァッ!!」​ライネルは閃光のような一撃でそれを受け止め、火花が激しく飛び散った。人間を遥かに超えた怪力だが、ライネルの踏み込みは一歩も揺るがない。​(力は強大……けれど、生徒から集めたマナを強引に宿している分、動きの節目に『歪み』があるわ!)​ルシエラの『魔視』が、悪魔の表面を覆う漆黒のオーラの「密度」を克明に解析していく。​「ライネル君、左肩! マナの供給が一瞬途切れるわ!」​「任せろ!」​ルシエラの発した言葉を、ライネルはコンマ一秒の疑いもなく信じる。即ざまに左へと軸足を切り替え、手薄になった左肩へと電光石火の突きを撃ち込んだ。​『グガァッ!?』​正確に弱点を穿たれ、悪魔が苦悶の声を上げて後退する。​ルシエラはすぐさま懐の「銀の短剣」を突き出し、オーガストから受け継いだ高位魔法の展開に入った。​(ただ力で押し切れば、宿主である彼の肉体が崩壊してしまう……! 身体を壊さず、宿る悪魔の核だけを切り離して消滅させる!)​「――光よ、刻め。漆黒を穿つ静寂の檻! 『聖鎖陣(セイント・チェイン)』ッ!」​ルシエラの指先から放たれたのは、輝く聖な
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58話 仕組まれた急転と、聖女の公権

​体育館での異形との激闘から一夜が明けた。​男子生徒に宿っていた悪魔の核は打ち砕かれ、彼を含め昏睡していた生徒たちは無事に意識を取り戻した。だが、学園全体を覆う不可解な空気は晴れるどころか、より深く、重く沈殿していた。​「……ミレイさんが、休学……?」​翌朝の保健室。ルシエラは立ち尽くしたまま、目の前の保健医の言葉を反芻した。​「ええ。昨夜遅く、ご実家から代理の使者が来られましてね。体調が優れないため、長期間の静養が必要だとして、急速に手続きを済ませて連れ帰られてしまったのです」​「そんな……昨日の夕方には、あんなに元気に話していたのに……」​納得がいかないルシエラに対し、後ろに控えていたマルタが低く静かな声で添えた。​「ルシエラ様。実は……昨夜の女子寮の監視記録を洗いましたところ、ミレイが不可解な行動をとっていたことが判明いたしました」​「不可解な行動……?」​「はい。昨夜の深夜2時過ぎ、彼女はまるで夢遊病のように自室を抜け出し、旧校舎の地下回廊へと向かっておりました。その後、使者が到着する直前に何事もなかったかのように部屋へ戻り……そのまま学園を去ったのです」​ルシエラの背筋に冷たい蛇が走り抜ける。​ミレイの胸の奥で眠らせたはずの漆黒の核。それが何者かの手によって強制的に起動され、証拠隠滅のために学園から「排除」された――そう考えるのが自然だった。​◇​事態はそれだけに留まらなかった。​その日の午後のホームルーム。『特別魔導Sクラス』の壇上に立った教官の表情は、いつになく暗く、深刻に陰っていた。​「……諸君に連絡がある。ここ数日、本クラスを含め、各クラスにおいて体調不良を訴え『急遽休学』を申請する生徒が急増している」​ざわめきが教室を包み込む。​「学園長および指導層は、この原因不明の変調を重く受け止めた。そして……緊急の特例措置として、王室および教会の許可のもと、聖女エルミナ殿に【学内留保生徒の全一斉検診および神聖治癒の公的権限】を委任することとなった」​「……っ!?」​ルシエラは息を呑み、思わず隣の席のエルミナを見た。​教官の発表を聞いたエルミナは、白銀の髪を揺らし、胸元で小さく手を握りしめていた。その表情には「みんなを救わなければ」という純粋な意気込みと、どこか痛々しいほどの決意が満ちている。​(公的に……エルミ
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-23
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59話 無垢なる偶像と、変質する微笑

「聖女様……! ああ、エルミナ様のおかげで、昨日までの重苦しい体調不良が嘘のように消えました!」​「なんて素晴らしいお方だ……。彼女こそ、壊滅した聖職者たちに代わり、この国に舞い降りた唯一無二の救世主だ!」​校舎の中庭から湧き上がるのは、熱狂的な歓声と感謝の祈りだった。​公的権限を得てからのエルミナの立場は、一夜にして激変していた。学園長と王室の特例許可により、午後の授業時間の一部が「学内巡礼と大規模治癒」の時間として充てられるようになったのだ。​毎日、白銀の髪をなびかせながら校舎や訓練場を巡り、体調の不調を訴える生徒たちに惜しみなく神聖魔法の光を授けるエルミナ。彼女が通り過ぎる先々では、病に伏していた生徒たちが瞬時に奇跡的な回復を見せ、いまや学園内はエルミナを崇拝する熱気に包まれていた。​「……まるで、信仰の場ね」​渡り廊下の影からその光景を見下ろしながら、ルシエラは低く呟いた。​エルミナを取り囲む生徒たちの瞳は、一見すると感謝と歓喜に満ちている。だが、ルシエラの『魔視』が捉える世界では、治癒を受けた生徒たちの胸の奥で、あの「漆黒の核」がドロリと深く、確実に根を張っていくのが見えていた。​エルミナが笑顔で光を注げば注ぐほど、学園全体が悪魔の完成された「苗床」へと変貌を遂げていく。​「……ルシエラ様」​背後に立つマルタが、冷ややかな声で囁いた。​「生徒たちの熱狂もさることながら……聖女様ご自身の『変化』に気づかれましたでしょうか」​「ええ……」​ルシエラは深紅の瞳を細め、広場の中心で生徒の手を握るエルミナの姿を注視した。​違和感は、ここ数日で決定的なものとなっていた。​以前のエルミナは、無邪気で陽気な反面、ふとした瞬間に孤独な陰りや、朝の教室で見せたような静かな涙を覗かせていた。悪魔の気配と己の存在の間で苦しみ、葛藤しているような「人間らしさ」があったのだ。 ​しかし――いまの彼女からは、そうした葛藤の匂いが綺麗に削ぎ落とされていた。​「みんな、もう大丈夫ですよ! 私がみなさんを、絶対に救ってみせますからね!」​澄んだ声、眩しい笑顔、完璧な立ち振る舞い。だが、その赤い瞳の奥にあったはずの「揺らぎ」が完全に消えていた。​まるで、感情の起伏を奪われ、「人々を治癒し続ける理想の聖女」という役割だけを果たす精緻な人形へと、内側から
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-24
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60話 悪役令嬢の降臨

​「……もう、猶予はないわね」​月明かりすら届かない深夜の女子寮。ルシエラの自室に集まったライネルとマルタの顔には、かつてないほどの深刻な色が浮かんでいた。​昼間、学園中で繰り広げられたエルミナへの熱狂的な崇拝。生徒たちの体内に植え付けられた「漆黒の核」は、エルミナの治癒の手を受けるたびに完璧な「定着」を果たしている。いまや学園の八割以上の生徒が、自覚のないまま悪魔の苗床と化していた。​「学園長や教頭、さらには指導層の教師たちまでエルミナを『奇跡の聖女』と祭り上げている」​ライネルは悔しそうに拳を握りしめ、低く毒づいた。​「僕が第一王子として『彼女の治癒には危険がある』と告発したところで、公的な証拠がない以上、熱狂した生徒や教員たちからは『聖女への嫉妬や王室の横暴』と捉えられ、逆効果になる。王宮の暗部を動かそうにも、学園全体が彼女の信者と化している現状では、強制介入すればパニックを引き起こして一斉に生徒たちが暴走しかねない」​正攻法――王室の権力や正当な手続きによる解決は、完全に封じられていた。​「ええ。公的に、正当に彼女を止めようとすればするほど、悪魔の筋書き通りにコトが進んでしまうわ」​ルシエラは窓辺に立ち、夜の学園を見下ろした。深紅の瞳に、静かな、けれど絶大な覚悟の火が灯る。​「……だから、正攻法なんて捨てましょう」​「ルシエラ……?」​ライネルが息を呑んで振り返る。​「みんなが『聖女』を盲信し、光の奇跡に酔いしれているのなら……それを力ずくで打ち砕く『絶対的な悪』が必要だわ」​ルシエラは深紅の瞳を妖しく光らせ、自らの胸元――「漆黒と聖なる光」を秘めたペンダントへと手を置いた。​「私が……【悪役令嬢】になってあげる」​その言葉に、マルタが即座に膝をつき、ライネルが驚愕に目を丸くした。​「ルシエラ、君は何を言っているんだ!? そんなことをすれば、君は学園全体……いや、この国すべての人間から敵視され、忌み嫌われることになるんだぞ!?」​「かまわないわ、ライネル君」​ルシエラは静かに首を横に振り、凛とした、けれどどこか楽しげな笑みを浮かべた。​「正義の味方としてエルミナを告発しても、誰も信じない。……けれど、私が『忌み子の悪役令嬢』として暴れ回り、聖女エルミナの『治癒の儀式』を力ずくで妨害し、彼女の化けの皮を引っぱがして学
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-25
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