光に満ちた天界が、その日、地獄の業火よりも惨烈な悲鳴に包まれていた。 惨劇の引き金は、あまりにも愚かなひとりの天使の驕りだった。より強大な聖魔術を求めた末、異界の禁忌である『寄生悪魔』と密かに契約を結んだのだ。 だが、悪魔は制御などできる存在ではない。契約者を肉体ごと内部から貪り食った悪魔は、その可憐な姿と純白の翼を「皮」として被り、天界の深部へと侵入。信じ切っていた仲間たちの背後から、次々とその神聖な魂を喰らい尽くしていったのだ。 崩壊する大聖堂の隅で、ひとりの小さな下級天使が恐怖にガタガタと震えていた。 その頭上へ、巨大な異形と化した悪魔の禍々しい爪が容赦なく振り下ろされる。 「逃げなさい!」 疾風のごとく割り込んだのは、天界最高位の天使――ルシエラだった。 彼女は下級天使を背中に庇い、その身で悪魔の凶刃を受け止める。 「ルシエラ様……っ!?」 「行きなさい、早く!」 怯える下級天使を後方へ逃がすと、ルシエラは血を吐きながら聖剣を引き抜いた。 悪魔は無数の天使を喰らい、巨大化している。浄化の光すら餌とするこの化け物を滅ぼす術は、今の天界には存在しない。 (ならば――私の魂を『檻』とするまで!) ルシエラは一切の迷いなく、悪魔の心臓部――蠢く「核」に向かって飛び込み、聖剣を突き刺した。 「お前も一緒に……連れていくッ!!」 「グアアアッ!? な、何をする!! 我をその身に宿せば、お前の純潔な魂は永久に汚されるぞ!」 脳内に響く悪魔の狂叫。 ルシエラは激痛に歯を食いしばり、悪魔の巨大な存在を己の内に封印していく。 彼女の背に生える眩い『純白の翼』が、悪魔の毒と穢れを抑え込む「檻」となったことで、根元からじわじわと夜空のような漆黒へと染まり変わっていく。 穢れを宿し、堕天使となった彼女の身体は、すでに限界を迎えていた。 さらに悪魔の猛烈な悪意は、ルシエラの魂から「記憶」を引き剥がし、喰らい荒らしていく。 「くっ……あぁぁぁッ……!」 絶望の渦中、封印の隙間を突き、悪魔の破片が一筋、下界へと逃げ延びていくのが見えた。 (逃がす、ものか……!) 天界の清浄さに拒絶され、黒い羽を散らしながら命の灯火が消えていく。 肉体の死を迎え、魂が転生して
Última actualización : 2026-08-07 Leer más