第61章 エドリック視点 拳を何度も、何度もサンドバッグに叩きつけた。一撃ごとに威力を増していく。背中を流れる汗が、足元の床に水たまりを作っていた。ただ頭にきているわけではない。激怒していた。視界が白くかすむほどの、荒々しい怒りに。 アリーナに対してだけではない。違う。 自分自身に対してだ。 どうして彼女を心の中に踏み込ませてしまったのか。 どうしてこれほど強い感情に翻弄されるのを許してしまったのか。 なぜ俺は、これほどまでに打ちのめされているのか。 「クソがッ!」 俺は咆哮し、チェーンがちぎれ飛ばんばかりの勢いでサンドバッグを叩き伏せた。 拳がズキズキと痛む。胸が酷く締めつけられる。荒く乱れた呼気が、喉の奥から漏れ出していた。 彼女は嘘をついた。 俺を裏切ったのだ。 それなのに……なぜ心臓の真芯を抉られたかのように痛む? もう一撃を叩き込んだが、そこで限界がきた。冷たい床に両手を突き、頭を垂れて膝から崩れ落ちる。抑えきれない絶叫が、喉の奥から絞り出された。 そのまま長い間動けずにいた。どれほどの時間が流れたのかすら分からなかった。 やがて重い身体を無理やり引き起こし、震える足取りでシャワーに向かった。浴びた熱いお湯は、何ひとつ洗い流してはくれなかった。怒りも。失望も。胸を裂くような痛みも。 午前2時、あの屋敷の中にいると息が詰まりそうになり、俺は車のキーをひっつかんで外へ出た。 別邸に向かったわけでも、ホテルに逃げ込んだわけでもない。 俺が向かったのは、自分のペントハウスだった。 足を踏み入れた瞬間、そこにあるものすべてが冷たく思えた。空虚で、あまりにも静まり返っていた。ベッドに倒れ込み、眠りがこの意識を浚ってくれるのを祈るように天井を見つめた。 だが、眠りは訪れなかった。 朝日が昇っても、俺の目は冴え渡ったままだった。 ナイトテーブルの上で、スマートフォンが幾度となく震えていた。親父、ハンナ、ナオミ叔母さんからの着信履歴。ドクンと心拍数が跳ね上がる。 親父の身に何かあったのだろうか? 震える指先で、折り返しの電話をかけた。 「親父か?」掠れた声で問いかける。「何かあったのか?」 「お前、今どこにいる」親父の声は鋭かった。鋭すぎるほどに。 「ペントハウスだ。一体どうしたんだよ?」 「昨日、妻を一人にして出
Last Updated : 2026-09-20 Read more