Tous les chapitres de : Chapitre 21 - Chapitre 30

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21

アリーナ視点エドリックの手は、私の腰に添えられたままだった。力強く、温かく、確かな感触。どんな女性でもうっとりしてしまいそうな触れ方なのに、私の心臓を早鐘のように打たせているのは、そんな甘い理由ではなかった。ドレスのシルク越しに、彼の指が軽く押し当てられ、私が人混みを進むのを導いている。私が少しでも離れようとするたび、まるで私を逃がしたくないかのように、彼の手に込められた力が強くなった。本来なら、それで安心するべきなのかもしれない。でも、私は安心なんてできなかった。怖かった。彼に抱き寄せられている時間が長くなるほど、彼が何かに気づいているのではないかと思い始めたからだ。もし、彼が真実を知っていたら?だから私についてバスルームまで来て、一人にさせようとしなかったの?私たちを疑っているの?そう考えた途端、喉が乾いた。表情に何も出ないことを祈りながら、私は震えそうになる笑みを無理やり浮かべた。ホールの奥に目を向けると、母とアリアの姿が見えた。息が止まった。二人は階段のそばに立ち、鋭く、そして不満げな視線を私に向けていた。母は顎を固く引き締め、アリアはまるでこの距離からでも私の首を絞められるかのような顔をしている。パニックにならないように努めたが、手のひらには汗が滲んでいた。エドリックのせいで、私たちが入れ替わる最大のチャンスは潰れてしまった。そして心の奥では、母たちがどうにかして私のせいにするのだと分かっていた。彼が顔を寄せ、滑らかな声で尋ねた。「緊張しているな。どうしてだ?」「してないわ」私は素早く嘘をついた。「ただ疲れているだけ」彼は少し長すぎるほど私を見つめた。私は耐えきれず、視線を逸らした。ようやく彼が客人に挨拶をするために振り向いた瞬間、私は息をついた。胸が激しく上下する。どうにか逃げ道を探しながら周囲を見回した。アリアと母のところへ行かなければ。手遅れになる前に、元に戻らなければならない。けれど、私がどんな口実を作っても、彼はことごとく退けていった。「少し化粧直しをしてくるわ」「その必要はない。完璧だ」「スイートルームにブレスレットを置いてきたかもしれない」「誰かに取ってこさせる」まるで私が開けようとする扉を、彼が何も知らないまま一つずつ閉ざしているようだった。音楽が穏やかになり、笑い声がホ
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エドリック視点昨夜、自分に一体何が起こったのか、俺には分からなかった。ついさっきまで、彼女は涙を浮かべながら俺に怒鳴っていた。それなのに次の瞬間には、まるで本当に大切なことのように、俺は彼女を腕の中へ引き寄せていた。そんな自分が嫌だった。彼女が泣いているのを見るだけで、胸の奥が締めつけられる。その感情を認めるのも嫌だった。アリア・ヴェイル。俺が無理やり結婚させられた女。その名前を聞くだけで、俺が失ったすべてを思い出させる女。だが、彼女があんなふうに感情を崩した瞬間、俺の中で何かが変わった。ここ数週間、俺たちは同じ屋根の下で暮らしている。もしかしたら、彼女の声や香り、そして彼女が部屋いっぱいに騒がしさをもたらすことに、俺は慣れすぎてしまったのかもしれない。分からない。ただ一つ分かっていたのは、彼女が傷ついている姿を見たくなかったということだけだった。「外は寒い」俺は静かに言った。「中に戻ろう」彼女は答えなかった。ただ、顔を背けたまま小さくうなずいた。俺は彼女の肩を抱き、ヴィラへと連れて戻った。俺の腕の中で彼女の身体は緊張していた。それでも、彼女は離れようとはしなかった。いつもなら鋭く、重苦しいはずの俺たちの間の沈黙も、この時ばかりは違った。柔らかくて、疲れていて……まるで二人とも、今は言い争う時ではないと分かっているかのようだった。寝室に着く頃には、話す気力すら残っていなかった。彼女は身につけていたアクセサリーをゆっくりと、慎重に外していた。いつもの彼女とは違う。どこか壊れそうで、儚く見えた。もう一度、何があったのか聞きたかった。だが、俺はやめた。俺が気にかけるべきことではない。ベッドの端に腰を下ろし、深く考えないようにしているうちに――いつの間にか、瞼が閉じていた。……朝が来た。カーテンの隙間から差し込む朝日が、部屋を照らしている。頭が重い。身体が温かい。そして、何か柔らかいものが俺の身体に触れていた。俺はゆっくりと瞬きをした。そこで初めて、自分の腕が誰かを抱いていることに気づいた。アリア。彼女の頭は俺の胸に乗っていた。小さな手は、まるでそのまま眠り落ちてしまったかのように、俺のシャツを軽く掴んでいる。彼女の呼吸は穏やかで、一定だった。まるで何も心配することなどないかのように、安ら
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アリーナ視点バスタブに身を沈めると、お湯はまだ温かかった。私は、昨日のすべてを洗い流そうとするかのように、身体をこすり続けた。作り笑い。嘘。恐怖。そのすべてを。肌がひりつくほどだったけれど、どうでもよかった。もう一度、清潔になったように感じたかった。もう一度、ちゃんと息をしたかった。ようやくバスタブから出ると、部屋は静まり返っていた。静かすぎるほどに。私は急いで身体を拭き、髪をタオルで包んでから、部屋を見回した。ベッドは空っぽ。ソファも。私は眉をひそめた。なぜ彼がまだここにいると思ったのか、自分でも分からなかった。もしかしたら、もう一度、あのくだらない口喧嘩をしたかったのかもしれない。いつも私を苛立たせる、あの言い合い。なのに、どういうわけか、あれが私に「生きている」と感じさせていた。でも、部屋は空っぽだった。そして、その静けさが思っていた以上に胸を痛ませた。「しっかりしなさい、アリーナ」私は自分に言い聞かせるように呟いた。彼は妹の夫よ。彼がいないことなんて、私には何の意味もないはず。私はシンプルな短いコットンドレスを身につけた。軽くて、動きやすいもの。そして部屋を出た。ヴィラの中を探した。バルコニー。ダイニングエリア。書斎。どこにもいない。やがて、通りかかったメイドの一人を呼び止めた。「エドリック様を見なかった?」「はい、奥様」メイドは丁寧に頭を下げた。「今朝早くにヴィラをお出になりました。かなりお急ぎのご様子でした」「そう……」私は小さく呟いた。「分かったわ」声に滲んだ落胆を隠そうとした。けれど、隠しきれなかった。私はメイドに気づかれる前に背を向けた。彼は出て行った。どこへ?まさか、島を出たわけじゃないわよね?……でも、もしそうだったら?それが何だというの?いいじゃない。それこそ私が望んでいたこと。彼から離れること。そう思いながら考え込んでいると、背後から聞き覚えのある声がした。「アリア」私はすぐに振り返った。出入口の近くに、おばあ様が立っていた。その隣には、スーツケースを持った二人のメイドがいる。胸が沈んだ。「おばあ様、もうお帰りになるの?」私は近づきながら尋ねた。彼女は優しく微笑んだ。「まさか、私が永遠にここにいると思ったの? 年寄りの身
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エドリック視点俺の腕の中で、彼女は壊れてしまいそうなほど激しく震えていた。そしてなぜか、崩れ落ちそうになっているのは俺の方であるように感じた。彼女の唇から漏れる嗚咽の一つ一つに胸が締めつけられ、俺は彼女をさらに強く抱きしめた。そうすれば、彼女の痛みがこれ以上あふれ出すのを止められるかもしれないとでもいうように。「大丈夫だ」俺は彼女の耳元で囁いた。声は掠れ、切迫していた。「大丈夫だ。俺がついてる」だが、大丈夫なはずがなかった。何一つとして、大丈夫なことなどなかった。彼女の涙が俺のシャツに染み込んでいく。俺の胸に顔を埋めて泣く小さな身体が震えていた。俺にできるのは、まるで自分の命がかかっているかのように彼女を抱きしめることだけだった。俺はこれまでにも、痛みを目にしてきた。役員会議で、権力争いで、裏切りの中で。だが、これは……違った。生々しくて、個人的な痛みだった。彼女の双子に何かがおかしいと感じていた。瞳の奥にある冷たさ。笑顔が決して本当の笑顔には見えないこと。だが、あの母親は?あの女の声に込められた毒は、俺の心の奥底まで震わせた。あの言葉が、何度も何度も頭の中で繰り返される。『あなたは役立たずで、ずる賢い。あなたを娘と呼ばなければならないことが、私は嫌なのよ』母親が口にしていい言葉じゃない。誰に対してだって、そんな言葉を言っていいはずがない。ましてや、娘に対してなど。あの女には、母親になる資格なんてなかった。「私が何をしたっていうの……?」彼女は小さく泣きながら言った。声が震えていた。「何もしてない」俺はきっぱりと言い、彼女の背中を撫でた。「君はこんな目に遭うようなことなんて何一つしていない。少しもだ」彼女の呼吸が詰まった。そして次の瞬間、堰を切ったように言葉があふれ出した。「みんな私のことが嫌いなの! 嫌われていることが嫌だし、そんな自分のことも嫌い!」くそ。彼女は鼻をすすり、震える声で続けた。「何が一番つらいか分かる?」俺は彼女の顔にかかった髪をそっと払った。「何だ?」「私は一度も、十分だと思ってもらえなかったの」彼女の唇が震えた。「どんなに頑張っても。妹は指一本動かす必要すらなかった。みんなただ……妹を愛して、褒めていた。でも私は?」彼女は小さく、壊れたような笑い声を漏らした。「私はいつも影だった
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アリーナ視点目を開けたとき、真っ先に感じたのは温もりだった。エドリックの腕がしっかりと私を抱きしめていた。まるで眠っている間さえ、私を守ってくれているかのように。私の顔は彼の胸に押し当てられていて、規則正しく打つ心臓の鼓動を感じることができた。しばらくの間、私は身動きもしなかった。ただ、彼の匂いを胸いっぱいに吸い込んでいた。――その時、思い出した。昨夜の号泣。感情の決壊。完全に取り乱し、ボロボロになって崩れ落ちた自分の姿。一気に恥ずかしさが押し寄せてきた。あんな姿、誰にも見せたことがなかった。ジェイソンにさえ。何年も平気なふりをして、笑顔の裏に隠れ、何も傷ついていないかのように振る舞ってきた。それなのに昨夜、エドリックの腕の中で、私はガラスのように粉々に砕け散ってしまった。けれど不思議と、後悔はしていなかった。心が軽くなっていた。何年も息を止めていたあと、ようやく息を吐き出せたかのように。隣でエドリックが身じろぎした。私の腰に回された腕がわずかに強まり、彼がゆっくりと目を開けた。私に気づくと、彼は微笑んだ。柔らかく、無防備な笑みだった。「おはよう」眠気の残る低い声に、胸が小さく跳ねた。「おはよう」私は静かに返した。彼はしばらく私の顔を見つめ、親指でそっと私の頬を撫でた。「今はどうだ?」照れくさくて、私は目を逸らした。「大丈夫よ」「そうか」彼は簡単に答えてから、尋ねた。「朝食は?」私はうなずいた。その後の午前中は、穏やかに過ぎていった。私たちは一緒に食事をした。彼はいくつか予定されている会議について話していたけれど、そんな忙しさの中でも、時折私の様子を気にかけてくれた。それが義務だからではなく、彼自身がそうしたいからやっているように感じられて、不思議だった。その日の夕方、彼が私の部屋のドアのところに現れた。「おいで」彼はそう言った。私はスケッチブックから顔を上げた。「どこへ?」「行けば分かる」私は彼について、これまで一度も通ったことのない廊下を進んだ。彼が観音開きのドアを押し開けると、薄暗い部屋へと案内された。ふかふかのシートが何列も並び、その正面には巨大なスクリーンがあった。「プライベートシネマ?」私は驚いて息を呑んだ。彼は小さく笑った。「ここ数日、ヴィラに閉じこもりっきりだっただろう。気分転換にな
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エドリック視点彼女の唇は、言葉では言い表せない味がした。甘く、柔らかく、そして危険だった。俺は彼女をさらに深く、貪るように口づけた。まるで何年も飢え続けていて、俺を満たせるのは彼女だけだというように。最初、彼女の身体は強張っていた。凍りついたように。一瞬、彼女に押し返されるかと思った。だが、彼女の指が俺のシャツに絡みつき、彼女も俺にキスを返してきた。最初はゆっくりと。それから、より激しく。俺のペースに合わせるように。俺の唇の端に笑みが浮かんだ。俺だけじゃなかった。ここ数週間、俺を内側から焼き尽くしていたこの沸き立つような緊張を、彼女も感じていたのだ。俺の手が彼女の腰を捉え、さらに強く引き寄せる。彼女の息が詰まり、俺の手のひらが背中を滑り上がると、彼女が小さく震えるのを感じた。神よ。彼女のすべてが、俺を狂わせていく。キスはさらに深くなった。俺が彼女に触れるように、彼女の手も俺の身体を探っていく。耳の奥で脈が激しく鳴り響いていた。今すぐ、この場所で彼女が欲しかった。俺は彼女のドレスのファスナーに手を伸ばし、ゆっくりと下ろした。指先が肌に触れると、彼女は俺の唇に息を呑んだ。「エドリック……」彼女が息を切らしながら囁く。その声が、俺の中の何かを解き放った。薄い布越しに彼女の胸元を包み込むと、彼女の柔らかな吐息が、俺に残された最後の理性まで吹き飛ばしそうになった。そして――俺のスマートフォンが鳴った。くそっ。俺は動きを止めた。全身の筋肉が一気に強張る。よりによって、今なのか。彼女は身を引いた。頬は紅潮し、唇は腫れ、目は大きく見開かれて、ぼんやりと俺を見つめている。電話なんて無視したかった。このまま世界が燃え尽きても構わないと思った。だが、画面に表示された名前はエイドリアンだった。俺は低く呻き、ほんの一瞬頭を垂れてから、無理やり電話に出た。「信じられない」そう呟きながら、彼女をそっとシートに座らせ、顔にかかった髪を払った。唇をわずかに開き、胸を激しく上下させている彼女は、腹が立つほど美しかった。「まだ終わってない」彼女の耳元に唇を寄せ、囁いた。彼女の頬が真っ赤に染まり、俺の口元には思わず笑みが浮かんだ。それから俺はシアターの外へ出た。身体にはまだ熱が残っていて、怒りと彼女の香りに完全に囚われたままだった。「何だ?
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アリーナ視点彼がシアターを出て行った瞬間、私もここを出るべきだったのだと分かっていた。それが私にとって、逃げ出す唯一のチャンスだったのに。けれど、私は動けなかった。彼のキスの感触が残る唇に指先で触れながら、私はただそこに固まっていた。全身で息を殺し、名前のつかない何かを待っているかのようだった。理性が「ここを去れ」「呑み込まれてしまう前にこの狂気を終わらせろ」と悲鳴を上げていたけれど……私の心は耳を貸そうとしなかった。なぜなら、心の底では去りたくなんてなかったから。ここにいたかった。彼が欲しかった。やがて彼が戻ってきた時、室内の空気が一変した。その足取りは重く、その表情は固く閉ざされていた。何かが違う。彼の顔には影がまとわりついていた。悪い知らせの重みを背負いながらも、決してそれに屈しまいとする男の顔をしていた。「どうかしたの……?」消え入りそうな囁き声で、私は尋ねた。彼は答えなかった。ほんの一瞬だけ私の視線を受け止めると、すぐに目を逸らした。けれど、沈黙は時としてどんな言葉よりも雄弁だ。その静寂がすべてを物語っていた。何かが変わってしまったのだと。そして彼にはまだ、それを私に打ち明ける準備ができていないのだと。そして何の脈絡もなく、彼は私へと手を伸ばしてきた。「おいで」静かだが、拒みを許さない声だった。「エドリック――」言い終わる前に、彼の腕が私を包み込み、まるで何の重みもないかのように軽々と私をすくい上げた。急に持ち上げられて心臓が口から飛び出しそうになり、私は反射的に彼の肩にしがみついた。「一体何を――?」「ただ掴まっていろ」前を見つめたまま、彼は低く囁いた。周囲の景色がぼやけていく。薄暗い壁に廊下の黄金の灯りが反射する中、彼は迷いのない確かで力強い足取りで私を抱えて進んだ。すれ違うメイドや護衛たちは動きを止め、驚きに目を丸くして、その囁き声が私たちの後を追いかけてきた。「みんなが見てるわ……」頬に熱が上っていくのを感じながら、私は囁いた。「見させておけ」誰のことも見ず、ただ私だけを見つめて彼は言った。「俺の目には今、お前しか映っていない」彼の声に滲む、剥き出しの保護欲のような何かが、私の背筋を甘く震わせた。何がより恐ろしいのか、自分でも分からなかった。彼が私をこれほど軽々と抱えていることなのか、それとも、彼の腕の
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── アリーナ視点カーテンの隙間から差し込む朝の光は、柔らかく金色に輝き、絡み合ったシーツの上に筋を描いていた。目を覚ましたのは私の方が先だった。私の素肌は彼の体にぴったりと密着し、頭は彼の胸に預けられていた。彼の腕は、まるで最初からそこにあるのが当然であるかのように、私の体を抱き寄せていた。しばらくの間、私は身動きひとつできなかった。息をすることすら忘れていた。自分が何をしてしまったのか、向き合いたくなかったのだ。昨夜の記憶──囁き声、口づけ、彼の肌の温もり、そしてまるで私だけがこの世界に繋ぎ止めてくれる唯一の存在であるかのように抱きしめてくれたあの感覚が、体中の痛みとなって蘇っていた。けれど、その直後、現実に引き戻された。罪悪感。私たちは越えてはならない一線を完全に越えてしまった。どれほどその瞬間が正しく感じられたとしても、間違っていることくらい分かっていた。止めなければならなかったのは私だ。それなのに、私は流されるままにしてしまった。それどころか、私自身がそれを望んでいたのだ。体を少しだけ巡らせ、彼の顔に視線を落とした。彼はまだ眠っていて、その表情は穏やかで無防備だった。普段鎧のように纏っている冷たさが消え失せた彼は……とても安らかで、まるで少年みたいに見えた。胸がぎゅっと締め付けられる。私たちは、一体何をやっているんだろう。私の胸のうちを察したかのように、彼の eyelids がかすかに震えて開いた。私が見つめているのに気づくと、その唇に小さく、だらしない笑みが浮かんだ。「おはよう」寝起きでかすれた低い声で、彼は囁いた。「そんなに見つめて、俺に夢中なのか?」私は頬が高揚していくのを感じながら、呆れたように目を丸くした。「自惚れないで」「おいおい」彼は少し体を伸ばしながら、からかうように言った。「まるで美術品でも見るような目で見つめてたくせに」「こんなにうっとうしい人が、寝ている時くらいは大人しく見えるのかなって、確かめていただけよ」「大人しい?」彼の笑みが深まり、その瞳に悪戯っぽい光が宿った。「昨晩はそんな風に思ってなさそうだったけどな」「エドリック!」私は息を呑み、思わず枕を彼に向かって投げつけた。彼は深く、心からの笑い声を上げた。その声は私の胸をキュンと跳ねさせ、彼は投げつけられた枕を難なく受け止めた。「朝から威勢
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── アリーナ視点「お世辞はやめて」私は首筋まで上ってくる熱を隠そうと、呆れたように目を丸くしながら言った。「お世辞なんかじゃない」声は低く、そして確かな響きを伴っていた。「本気で言ってるんだ」その言葉に毒気を抜かれた。彼は言葉のひとかけら一つひとつに本心を込めているかのように、私をまっすぐに見つめていた。ドクンと胸が鳴り、一瞬、息の仕方を忘れてしまう。彼は私の手にあるスケッチブックに手を伸ばした。「見せてもらってもいいか?」私は一瞬ためらった。今まで、私のスケッチに興味を持って聞いてくれる人なんて誰もいなかった。デザインは私のプライベートな世界であり、抱くことすら許されなかった夢のすべてを注ぎ込む、私だけの秘密の場所だったのだから。けれど、彼の瞳にある何かが私の警戒心を解き、恐ろしくなるほど彼を信用させてしまった。ゆっくりと、私はそれを手渡した。彼はページを1枚ずつめくっていった。その瞳には、感嘆の色が柔らかく浮かんでいる。彼がページをめくるたびに、私のお腹の奥がキュッと縮こまった。「これ、全部自分で描いたのか?」驚きつつも、温かみのこもったトーンで彼が尋ねる。「ええ」顔にかかる髪を払いながら、私は静かに答えた。彼はどこか畏敬の念すら込めた表情で私を見た。「素晴らしいよ。……これをただの趣味なんて言っているのか? 暇つぶしにしておくには、あまりにも惜しすぎる」私は肩をすくめた。「本当は、ただの趣味以上のものなの。これでキャリアを築いていきたいと思ってる」「本当に?」ページをめくり続けながら、彼は片眉を上げた。「お前が『キャリア志向』だとは思わなかったな。少なくとも、今までお前が言っていたことからは」その言葉が、まるで殴られたかのように私を突いた。心臓が跳ね上がる。……そうだ、アリアはそんなタイプじゃない。アリアは働くという概念そのものを嫌っていた。そして、彼は私のことを『アリア』だと思っている。私は調子を合わせるフリをして、小さく笑ってみせた。けれど内側では、罪悪感が私の心をガリガリと苛んでいた。私は一体何をやっているんだろう? まるでこれが自分の人生で、自分の夢で、自分の夫であるかのように振る舞うなんて。これは私のものじゃない。何ひとつとして。私はここにいるべきじゃないのだ。こんな風に幸せを感じていいはずがない。何ひとつと
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30

エドリック視点画面に親父の名前が点滅し、俺はアリアから数歩離れてから電話に出た。「親父」何でもない電話ではないと分かってはいたが、平静を装って言った。「エドリック」その声は固く、冷ややかですらあった。「なぜお前は昔から俺の言うことを聞かないんだ。この件は俺が片付けるとはっきり言ったはずだ。お前を巻き込みたくない」俺は奥歯を噛みしめた。「で、片付いたのか? 親父。いいや、終わってない」親父はため息をついた。「手を引け」親父は言った。「あの男は危険だ。俺たちはすでに敵を作りすぎた。これ以上、息子を失うわけにはいかん」「俺はもうガキじゃない」俺は鋭く言い返した。「止めなきゃ、あの男は俺たちの会社を潰す気だ。何もせずにここで指をくわえていろとでも?」電話の向こうで親父がため息をつく。「お前を無鉄砲な男に育てた覚えはないぞ」「俺だって頭の分からん愚か者に育った覚えはない、親父。すべての黒幕はレオナルドだ。二人とも分かっているはずだろ」長い沈黙が流れた。やがて、親父のトーンがわずかに和らいだ。「嗅ぎ回れば、一族全員を危険に晒すことになる。俺が対処する。俺を信じろ」俺は鼻で笑った。「お言葉ですが、親父の言う『対処』は、家が丸焦げになるまで火事を無視することと同義ですよ」「エドリック――」「黙っているのはもう終わりだ」俺は言葉を遮った。「一族の名誉と会社が危機に瀕しているなら、俺は手段を選ばずに事態を収拾する」親父は再び沈黙し、やがて呟いた。「相変わらず聞き分けのない奴だ」「どうも」俺は素っ気なく返し、これ以上何か言われる前に電話を切った。胸の圧迫感を追い払うように、深呼吸をひとつ。アリアを残してきた場所へ戻ると、俺は足を止めた。リラがそこに立っていた。腕を組み、唇を噛みしめ、その瞳には苦々しさが満ちていた。彼女は挑発的な笑みを浮かべてアリアを見つめていた。今度は何なんだ? 俺は胸中で毒づいた。アリアの表情は落ち着いているように見えたが、その立ち姿から居心地の悪さが伝わってきた。ただの身内だと何度説明しても、彼女がリラを嫌っているのは知っていた。二人が今この場で何を企てていようと、付き合う気分ではなかった。俺はアリアのもとへまっすぐ歩み寄った。「中に入ろうか?」「ええ」彼女は素早く顔を上げて言った。ヴィラへ向かって歩きながら、彼女は静
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