Semua Bab 愛した人は、私の仇でした~御曹司との復讐から始まる恋~: Bab 11 - Bab 20

56 Bab

第11話 破滅への共犯契約

「僕をあなたの本当の『仕事』に付き合わせてもらえませんか?」早朝の外商部オフィスに、絢人の声が静かに響いていた。私は背筋に冷たい汗が伝うのを感じながら、眼鏡の奥で目を細めた。表情筋を総動員して感情を押し殺し、冷淡な声を作る。「……何の冗談かしら、三島さん」「冗談に見えますか?」絢人は一歩も退かず、澄んだ瞳で私を見据えていた。「七年前、僕が生きていられたのはあなたのおかげです。そして、僕がかつて心を救われた女性……東条華江さんの娘さん。東条志乃さん、それがあなたの本当の名前ですね」私の喉が小さく鳴った。隠し通してきた過去と正体。それが、父を殺した仇の息子によって、完璧に暴かれている。「知っていて、なぜ今まで黙っていたの? 私を警察に突き出すことだってできたはずよ」「突き出す理由がありません」絢人は穏やかに首を振った。「僕はこのデパートの腐敗も、父が過去に犯した罪も知っています。そして、あなたが復讐のためにここへ来たことも。……僕はあなたを止めるつもりはありません」「……信じられるわけがないでしょう」私は冷ややかに言い捨てた。「あなたは三島宗一の息子よ。いずれはこのデパートを継ぐ身。そんなあなたが、自分の家を壊そうとする私に協力するなんて、罠以外の何物でもないわ」「そう疑うのも無理はありません」絢人は上着の内ポケットに手を入れると、小さなシルバーのUSBメモリを取り出した。それを私のデスクの上に静かに置く。「これは?」「三島グループの機密金庫と、取締役会専用サーバーへのアクセスコードです。父が個人で管理している裏口座のリストも一部入っています」私は目を見開いた。「……これを私に渡して、どうするつもりなの」「使ってください。僕が本気である証拠です。これがあれば、父の側近たちの不正を暴くのはもっと容易になるはずです」デスクの上のUSBメモリを見つめる。これが本物なら、復讐の速度は跳ね上がる。だが、それと同時に、この男の底知れない闇に足を踏み入れることになる。「なぜそこまでするの。あなたにとって、何のメリットもないはずよ」「メリットならありますよ」絢人はわずかに口角を上げ、どこか哀しげに微笑んだ。「あなたが復讐を果たし、すべてが終わるその瞬間まで……僕があなたの隣にいられる」狂気すら孕んだその瞳に、私は息を呑んだ。こ
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-18
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第12話 嫉妬と警告、駆の刃

夜の冷気が路地裏に立ち込める中、私はビンテージショップの重い扉を押し開けた。カウベルの乾いた音が響く。カウンターの奥では、駆がノートPCの青白い光に照らされながら、手元のキーボードを叩いていた。「遅かったな、志乃」顔も上げずに駆が言う。灰皿には吸い殻が山のように積まれていた。「根津親子の件、ネットの反応は上々だ。息子の健太は契約解除、親父の栄治も背任の疑いで検察が動きそうだぜ。まずは一匹片付いたな」「ええ。ありがとう、駆」私はカウンターの席につき、バッグからシルバーのUSBメモリを取り出してことりと置いた。駆の指が止まる。視線を画面から外し、不審そうに金属の小片を見つめた。「……なんだ、それ」「三島グループの機密金庫と、取締役会専用サーバーのアクセスコードよ。三島宗一の裏口座のリストも一部入っているわ」「は? どこで手に入れた」「絢人からよ」店内の空気が一瞬で凍りついた。駆はゆっくりと顔を上げ、細めた目で私を射抜くように見据えた。「……あいつ、お前の正体に気づいてんのか」「ええ。7年前に自殺を止めたのが私だってことも、母のことも、全部知っていたわ」「なっ……!」駆は椅子を蹴るように立ち上がり、カウンター越しに私の腕を力任せに掴んだ。その瞳には、かつて見たことがないほどの焦燥と怒りが宿っている。「おい、正気かよ! なんでそんな危険な奴を生かしてんだ! すぐに姿を眩ますか、あいつを消す算段を立てるべきだろ!」「落ち着いて、駆。痛いわ」私は眉ひとつ動かさず、冷徹に言い放った。「絢人は私を告発する気はないわ。それどころか、復讐に協力すると言ってきたのよ。このデータがその証拠よ」「協力だあ? ふざけんな!」駆は吐き捨てるように声を荒げた。「仇の息子が、自分の父親を売るために敵に手を貸す? そんなイカれた話があるか! そいつはお前を利用して何か企んでるか、お前を道連れに破滅する気だぞ!」「それでも構わないわ」私は駆の手を冷たく振り払った。「使える駒はすべて使う。それが三島宗一の息子であってもね。三島家を内部から瓦解させるのに、これ以上の手札はないわ」「志乃……ッ」駆は苦々しげに顔を歪め、言葉を失った。「解析をお願い。このデータが本物かどうか、あなたが確かめて」私はそう言い残すと、背を向けて出入り口へと歩き出した
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-19
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第13話 次なる標的、財務の要塞

根津親子の失脚から数日、東城デパートの社内はまだ落ち着きを取り戻していなかった。外商部長の席は空席となり、現場の空気はどこか浮き足立っている。だが、そんな混乱を嘲笑うかのように、経営陣の動きは迅速だった。「来週付で、外商部には財務担当常務・大河内厳さまの推薦で新しい部長代理が送り込まれるそうだ」給湯室の向こうで交わされる社員たちの噂話を聞き流しながら、私は冷めた緑茶をデスクへと運んだ。大河内厳。三島宗一の右腕として長年財務を牛耳り、デパートの巨額な資金運用と裏金作りを一身に担ってきた男だ。そして、15年前に父・東条正義を追い詰めた裏切り者の一角でもある。(根津の後釜を自分の派閥で埋めて、外商部の利権をそのまま奪うつもりね……)デスクに戻ると、隣でPCのキーボードを軽快に叩いていた絢人が、画面から視線を外さずに口を開いた。「佐倉先輩、少しお時間よろしいですか?」「ええ、何でしょうか」絢人は手元のタブレットをこちらに向けた。画面には、東城デパートの過去3期分の決算資料と、関連子会社の資金移動グラフが表示されている。「先ほど、財務部から新しい予算管理の通達が回ってきました。名目は『根津前部長の不正を受けたコンプライアンスの強化』ですが……実際は、大河内常務の息子である大河内駿チーフが、外商部の決済権限を財務部へ一本化するための布石です」「大河内駿……」「東大経済学部卒で、外資系投資銀行を経て財務部に中途入社した男です。父の権力を背景に、複雑な海外ペーパーカンパニーを使ってデパートの裏金を洗浄している……三島家の最も強固な『金庫番』ですよ」絢人は平然とした声で、実の父親と側近たちの暗部を解説してみせた。その落ち着き払った態度に、私は眼鏡のフレームを押し上げながら低く問いかける。「その大河内親子の裏金スキームを暴けば、三島グループの資金源は完全に断たれるということね?」「その通りです。ただし、大河内常務は根津前部長のように浅はかではありません。裏金の生データは社内ネットワークから完全に切り離され、財務部の最深部にある『特別アーカイブ室』の専用端末にしか残されていない」「特別アーカイブ室……」入館権限を持つのは役員と一部の財務部上層部のみ。一般社員である私には、扉を開けることすら不可能な要塞だ。絢人はふっと口角を上げ、私をまっすぐに見つめた
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-20
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第14話 夜のアーカイブ室、触れ合う熱

消灯された本社ビルの最上階は、深海のような静寂に包まれていた。足音を殺しながら、私は絢人の背中に続いて役員フロアの奥へと進む。大河内常務の息がかかった財務部の最深部——「特別アーカイブ室」の重厚な電子ロック扉の前で、絢人が立ち止まった。絢人は懐から取り出したマスターカードキーをリーダーにかざし、手慣れた指先でテンキーに暗証コードを打ち込む。カチリ、と小さな電子音が鳴り、重い防音扉のロックが解除された。「入ってください。僕が扉の前に立って見張りをします」「……ええ」室内へ足を踏み入れる。窓のない密閉された空間には、何列ものスチール製書類棚と、オフラインで管理された専用端末が並んでいた。私はデスクに置かれた専用端末を起動し、駆から渡されていた暗号解除ツール入りのUSBメモリをポートへ差し込んだ。画面に緑色の文字列が高速で流れ始める。大河内厳常務と、その息子である駿が過去五年にわたって構築してきた、海外ペーパーカンパニー群の資産移動ログ。巨額の裏金が東城デパートの正規口座から巧妙に吸い上げられている証拠の生データだ。(あった……。これだけの規模の資金洗浄なら、大河内親子どころか三島宗一の責任問題にまで発展する)プログレスバーがゆっくりと進み、ダウンロードが進行していく。[進行度:42%……55%……]その時、室外で見張りをしていた絢人が素早く部屋へ滑り込み、背後の扉を静かに閉めた。「佐倉先輩、警備員の見回りが来ます」絢人の低い囁きに、心臓が跳ねた。「エレベーターの稼働音が上がってきました。あと数十秒でこのフロアに到達します」「ダウンロード完了まで、あと一分かかるわ……!」端末の画面を凝視する。今USBを抜けば、データは破損して手に入らない。「こちらへ」絢人は私の手首を掴むと、端末の影にある大型書類保管庫の引き戸を開け、私を中に押し込んだ。自身も滑り込み、外から見えないよう扉をわずかに隙間を残して閉める。大人が二人入るにはあまりに狭い空間。背中は冷たいスチール棚に押し付けられ、正面からは絢人の胸元が隙間なく密着していた。彼の体温と、微かに漂う洗練された香水の匂いが鼻腔をくすぐる。「……っ」あまりの距離の近さに息を呑むと、絢人は人差し指を自分の唇に当て、静かに首を振った。外の廊下から、コツ、コツと規則正しい警備員の革靴の
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-21
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第15話 財務エリート・大河内駿の冷笑

書類保管庫の扉の向こうで、警備員の重い足音が止まる。懐中電灯の鋭い光が、わずかな隙間から差し込み、暗闇の中にいる絢人の輪郭を照らし出した。(見つかる……!)私が全身を強張らせたその瞬間、絢人が躊躇なく動き出した。彼は引き戸を勢いよく押し開け、自ら警備員の前に姿を現したのだ。「誰だ!」驚いた警備員がライトを向け、声を張り上げる。「失礼、巡回ご苦労様です」絢人は何事もなかったかのように穏やかな笑みを浮かべ、胸ポケットから社員証を提示した。「あ……三島さま! こんな夜更けに、どうされたのですか?」「明日提出する取締役会の資料に不備が見つかりまして、父の代理で確認に来ていました。驚かせてしまいましたね」「いえ、滅相もございません! 施錠の確認をしようとしただけでして……お仕事、お疲れ様でございます」現社長の御曹司という絶大な肩書きの前に、警備員は深く一礼し、怪しむ素振りすら見せずに立ち去っていった。足音が完全に遠ざかったのを確認し、私は保管庫から滑り出た。端末からUSBメモリを素早く引き抜き、ポケットへ収める。「……危ない橋を渡るのね」「あなたを守るためなら、これくらいは当然です」絢人は悪びれもせず微笑んだ。その揺るぎない態度に、胸の奥のざわめきを押し殺しながら、私たちは足早に深夜の本社ビルを後にした。◇翌朝。外商部オフィスは、普段とは異なる冷え切った緊張感に包まれていた。「おはようございます、皆様」執務室のドアが開き、仕立ての良いスリーピーススーツを身に纏った男が入ってきた。銀縁の眼鏡をかけ、整った顔立ちに冷淡な笑みを張り付かせた男——財務部チーフの大河内駿だった。「根津前部長の不祥事により、外商部のガバナンスが問われています。本日より、外商部が取り扱う一千万円以上の決済案件は、すべて私と財務部の承認を必須とします」駿は傲慢な視線でオフィスを見渡した。「現場の感覚だけで売上を立ててきた旧態依然としたやり方は、今日で終わりです。数字も読めない無能な社員に、会社の財布を任せるわけにはいきませんからね」現場の先輩社員たちが屈辱に顔を歪める中、駿の冷たい視線が私のデスクへと向けられた。「そこの佐倉さんでしたね。根津前部長の元で資料整理を担当していたとか。……まあ、精々これからはミスのないよう、私の指示通りに数字を打ち直す作業
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-22
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第16話 男たちの激突

退勤のチャイムが鳴り響き、私は足早にデパートの通用口を出た。夜の湿った空気が肌にまとわりつく。大河内駿の裏金を追うため、今夜のうちに駆とデータの突き合わせを済ませておく必要があった。大通りへ出ようとした角で、一台の黒いセダンが滑るように横付けされた。後部座席の窓が静かに下り、絢人が姿を現す。「佐倉先輩。送りますよ」「いえ、結構です。電車で帰りますので」「この時間の大通りは人目につきます。大河内チーフの部下がどこで見張っているか分かりません。乗ってください」絢人のもっともらしい提案に、私は小さく息を吐いてドアに手をかけた。その時だった。「おい、待てよ」路地の暗がりから、不機嫌そうな低い声が響いた。使い古されたレザージャケットのポケットに両手を突っ込み、肩を揺らして歩み出てきたのは駆だった。「駆……?」私の制止を無視し、駆は車へと歩み寄ると、運転席側のドアに乱暴に手を置いた。車の窓越しに、絢人と駆の視線が真正面からぶつかり合う。「何の用だ、三島のボクちゃん」駆の鋭い眼光が、絢人を射殺さんばかりに睨みつける。「これ以上、志乃を自分の都合に巻き込むんじゃねえよ。お前が何企んでるか知らねえが、志乃はお前のオモチャじゃねえんだ」絢人は動じることなく、ゆっくりと車から降りた。完璧に仕立てられたスーツと、粗野なレザージャケット。対極にある二人の男が、薄暗い路地裏で至近距離で対峙する。「巻き込んでいるのではありません」絢人は穏やかな、だが一歩も引かない冷徹な声で言い放った。「彼女の復讐を最も安全に、最も確実に成功させられるのは僕だけです。部外者のあなたが口を挟むことではない」「部外者だと?」駆の額に青筋が浮かび、絢人の胸ぐらを掴もうと手が伸びる。だが、絢人はその手首を最小限の動きで払い落とした。「……手荒な真似はやめましょう。影山駆さん。あなたの素性も、彼女との過去も、すべて把握しています」駆の動きが止まる。絢人は冷ややかな笑みを浮かべ、駆にしか聞こえない極小の囁きを落とした。「七年前、僕が橋から飛び降りようとした時の警察の記録……調べ直したそうですね。僕が狂っていると彼女に吹き込んで、僕を遠ざけるつもりですか?」「……てめえ」「言えるものなら、言ってみればいい。彼女が僕を拒絶するかどうか、試してみますか?」挑発するよ
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-23
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第17話 旧社長派の胎動

「佐倉さん、ちょっといいかね」定時直前、外商部のフロアに低い声が響いた。声をかけてきたのは、人事部のシニアマネージャーである渋沢だった。定年を間近に控え、普段は総務や人事の裏方に徹している古株の社員だ。「はい、何でしょうか」「資料室の整理を手伝ってほしい。少々重い箱があってね」渋沢の穏やかな笑みの奥に、ただならぬ真剣な光が宿っているのを感じ取った。私は周囲の目を盗み、静かに彼の後をついていった。地下資料室の扉が閉まり、完全に外界から遮断された空間。渋沢は背中を丸めていた姿勢をスッと正し、私をまっすぐに見据えた。「東条お嬢様……いえ、今は佐倉志乃さんと呼ぶべきですね」私の足がピタリと止まる。動揺を押し隠し、私は冷ややかに首を傾げた。「……何のことですか、渋沢さん」「とぼけなくて結構です」渋沢は懐から一枚の古びた書類を取り出した。それは、15年前に父・東条正義がデパートを去った直後、社内監査から密かに持ち出された人事の推薦状だった。「15年前、あなたがこのデパートに『佐倉志乃』としての履歴書を通したとき、不思議に思ったものですよ。どれほど経歴を偽装しても、あの東条社長の気高い目元と、お父様譲りの執念深さまでは隠しきれません」渋沢は深く頭を下げた。「私はかつて、お父様の部下として薫陶を受けた人間の一人です。三島宗一のクーデターによってお父様が失脚し、会社が私利私欲に走る者たちに乗っ取られていくのを、指をくわえて見ているしかなかった……この老いぼれの恥辱を、どうかお許しください」予想外の告白に、私の胸の奥が微かに熱を帯びた。しかし、警戒心を緩めることはしない。「……私の目的が何だと思っているの?」「復讐……そして、この東城デパートの奪還でしょう」渋沢は静かに顔を上げ、力強い光を宿した瞳で私を見つめた。「根津親子を失脚させ、今は大河内親子の牙城を崩そうと動いておられる。お一人で戦っているわけではないのですね。あの三島絢人様や、裏社会の協力者を使って」私の動きがすべて見透かされていることに驚きつつも、私は冷静さを保ったまま問い返す。「あなたに何ができるというの?」「私一人では何もできません。ですが……私と同じように、かつての東条社長に恩義を感じ、現在の経営陣の横暴に歯痒い思いをしている古参社員や現場のベテランたちが、水面下で集
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-23
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第18話 罠のセッティングと大河内駿の死角

外商部のフロアに、夕暮れの赤黒い光が差し込んでいた。定時を過ぎ、ほとんどの社員が退社した静寂の中、私は高坂薫から手渡されたファイルを開いた。大河内駿が主導する「旗艦店リニューアル計画」の予算承認申請書だ。「総事業費、三十億円……」数字をなぞりながら、私は冷ややかに目を細めた。表面上は老朽化した本館の改装費だが、見積もりの三割以上が架空の内装業者と海外コンサルタント会社へ流れる構造になっている。駿がこれまで構築してきたペーパーカンパニー群を使った、最大規模の資金洗浄計画だった。「佐倉先輩、準備が整いました」背後から音もなく現れた絢人が、自身のスマートフォンを私のデスクへ差し出した。画面には、駆から送られてきたばかりのハッキングログが表示されている。駆は駿が管理する暗号資産ウォレットのバックドアを完全に突き止め、その送金トリガーを外部から掌握していた。「駆は本当に優秀ね」「……ええ、裏の仕事に関しては手際が良いようです」絢人は小さく眉を寄せ、微かに棘のある声で返した。駆の名が出るたびに見せる、隠しきれない独占欲。私はそれに気づかないフリをして、USBメモリを自分の端末に差し込んだ。「駿の完全犯罪を完成させてあげるわ。彼が横領を実行するための最後のピースを、私たちからプレゼントするのよ」「父の名義ですね」絢人は迷うことなく、自らの端末を操作して三島社長の専用認証コードを呼び出した。「父の決裁印と電子署名のデータを、リニューアル予算の承認ルートへ流し込みます。駿チーフは『社長の黙認を得た』と誤認し、今夜のうちに裏口座への一括送金を実行するはずです」「そして、その送金ログはそのまま監査サーバーと、明後日の取締役会システムへリアルタイムで転送される……」駿が完全な勝利を確信した瞬間こそが、彼にとって最も無防備な死角となる。絢人の指先が画面をタップし、社長の偽装決裁データが駿の管理システムへ滑り込んだ。[承認完了:旗艦店リニューアル特別予算三十億円]送信完了のダイアログが消えた瞬間、絢人は顔を上げ、私をまっすぐに見つめた。「これで、大河内親子は逃げられなくなりました。明後日の取締役会が、彼らの処刑場です」「ええ。大河内厳が失脚すれば、三島宗一の右腕と資金源は同時に消える」冷たい達成感が胸を満たす。だが、その隣で絢人が見せる表情は、復讐
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-24
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第19話 取締役会の粛清劇

本社ビル最上階、重役会議室。重厚なオーク材の扉の向こうで、緊急全社取締役会が開かれていた。中央には現社長・三島宗一が泰然と座り、その右隣には財務担当常務の大河内厳が、満足げな笑みを浮かべて控えている。「本館リニューアル計画に伴う三十億円の特別予算執行について、承認の最終報告を申し上げます」厳の息子であり財務部チーフの大河内駿が立ち上がり、プロジェクターに完璧に整えられたプレゼン資料を映し出した。銀縁眼鏡の奥で、その瞳は勝ち誇った冷笑を宿している。「海外一流デザインファームとの提携を含め、すべての資金移動は三島社長の承認のもと、滞りなく完了しております」役員たちが感嘆の声を漏らし、三島社長も満足そうに頷こうとした。その瞬間。「その報告には、重大な虚偽と背任が含まれています」会議室の後方に控えていた絢人が、静かに立ち上がった。「絢人……? 研修中の身で、何を言い出すんだ」宗一が眉をひそめて息子を睨みつける。大河内厳も不快そうに舌打ちをした。「三島常務の息子さんとはいえ、取締役会の場を乱すのはお控えいただきたい。駿の試算と承認フローに一点の曇りもありませんよ」「曇りがない、ですか」絢人は動じることなく、手元のタブレットを演台のメインコンソールに接続した。一瞬の暗転の後、巨大スクリーンに映し出されたのは、駿が提示した資料ではなかった。流出を装った暗号資産ウォレットの送金履歴。三十億円のうち十億円以上が、ケイマン諸島のペーパーカンパニーを経由し、最終的に大河内駿個人のプライベート口座と暗号資産へ吸い上げられていくリアルタイムの資金移動ログだった。「な……ッ!?」駿の顔から血の気が一瞬で引いた。「これだけではありません」絢人の合図とともに、会議室の扉が開き、資料を抱えた人事部の渋沢マネージャーと、外商部の高坂薫が入ってきた。「こちらは、大河内チーフが過去三年にわたり横領金で購入した資産のリストです。先ほど警察および金融庁の監査部へ提出した物証と一致しております」高坂が淡々と役員たちへ資料を配っていく。スクリーンには、駿が愛用する一億五千万円の限定時計のシリアルナンバーと、横領金の出納記録が並んで拡大表示された。「ば、馬鹿な! なぜそのデータが……! 親父、俺は言われた通りにやっただけだぞ!」追い詰められた駿が取り乱し、父親に縋り付
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-25
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第20話 共犯の深淵と月下の唇

大河内親子の電撃的な解任と警察への引き渡しは、東城デパート全域を揺るがす大事件となった。社内が上を下への騒乱に包まれる中、私はひとり、非常階段を上がって本館の屋上へと足を運んだ。重い鉄扉を開けると、初夏の生ぬるい夜風が髪を激しく揺らす。眼下に広がる銀座の街は、何事もなかったかのようにネオンの海を輝かせていた。(根津に続き、大河内も落ちた……)父を裏切り、母を追い詰め、死へと追いやった者たち。その強固な牙城が、確実に崩れていく。冷たい達成感が全身を満たしていたが、同時に、胸の奥には鉛のような重苦しい感覚も広がっていた。「ここでしたか」背後で鉄扉が軋む音とともに、低く落ち着いた声が届いた。振り返ると、スーツの上着を脱ぎ、ネクタイを少し緩めた絢人が立っていた。月光に照らされた彼の顔には、疲労の色など微塵もなく、すべてをやり遂げた者だけが持つ静謐な笑みが浮かんでいる。「三島さん。社内は大騒ぎでしょう。あなたが姿を消していいのですか?」「父は役員たちへの釈明に追われています。僕がいなくても話は進みますよ」絢人はゆっくりと歩み寄り、私の隣でフェンスに両手を置いた。「見事でしたね、佐倉先輩。これで父の右腕も、三島グループを支えていた裏の資金源も完全に消え去りました」「あなたが手を貸したからよ。自分の父親の会社を切り刻んで、満足?」私の冷淡な問いかけに、絢人はふっと目を細めた。「ええ。あなたが望むなら、父の持つすべてを奪い取ってあなたに捧げます。……次はどうしますか、僕の復讐者さん」穏やかな声の裏に潜む、底知れない狂気と執着。私は眼鏡の奥で目を細め、一歩、絢人へと間合いを詰めた。躊躇することなく手を伸ばし、彼の緩んだネクタイを指先で強く引き寄せる。至近距離で、二人の視線がぶつかり合った。「次は、あなたの父親よ。三島宗一を、父が味わった以上の屈辱と絶望の中で叩き潰す」吐き捨てるような私の宣告。だが、絢人の瞳に恐怖の色は一切なかった。引き寄せられた体勢のまま、彼は愛おしくてたまらないものを見つめるように、深く熱を帯びた眼差しを私に向けた。「ええ。そうしてください」絢人は囁くと、空いた手でそっと私の腰を引き寄せた。逆らえない強さで距離がゼロになり、彼の熱い呼気が私の唇をかすめる。そのまま、月明かりの下で彼の顔がゆっくりと近づいてき
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-08-25
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