「……定刻通り、だと?」三島宗一の喉から、押し殺したような濁った声が漏れた。取り巻きの役員たちが息を呑み、社長の異様な殺気に気圧されて半歩退く。宗一の視線は、無傷のまま柔らかなスポットライトを浴びる『雪月花』のアクリルケースと、その前に立つ私、そして渋沢マネージャーの間を激しく往復していた。昨夜の破壊工作が成功していれば、今頃ここは汚水に塗れ、マスコミによるバッシングの嵐が吹き荒れていたはずだった。だが、現実は違った。開会を知らせる鐘の音とともに正面エントランスのガラス扉が開かれると、待ちわびていた数百人の来場客が、波のように大理石のフロアへとなだれ込んできたのだ。「素晴らしい……これが佐竹宗雲の幻の友禅か」「東城デパートの呉服は、やはり格が違うな」カメラのフラッシュが次々と焚かれ、報道陣のマイクが催事場を取り囲む。その歓声と熱気は、宗一がこれまで推進してきた「伝統の切り捨てと安売り路線」に対する、市場からの痛烈な否決宣告そのものだった。「三島社長」私が一歩、宗一の前へ進み出ると、宗一の血走った目がギリギリと音を立てて私を睨み据えた。「昨夜、本館の設備フロアに侵入した不審者三名を、警備担当が身柄確保いたしました」私は周囲の記者たちに聞こえないよう、極めて低く、冷徹な声で囁いた。「所持品から『黒崎総業』の社員証、および消火配管を破断するための工具が押収されています。男たちは現在、地下の倉庫で待機させておりますが……彼らの携帯電話の発信履歴の最上段には、社長室直通の秘書課の番号が残されておりました」宗一の頬の肉がピクリと痙攣した。「貴様……何の証拠があってそんなデタラメを……!」「警察へ突き出すか、それとも総会まで公表を差し控えるかは、社長の出方次第です」渋沢が冷ややかに割って入った。かつて宗一に頭を下げ続けていた温厚な男の顔はそこになく、十五年分の怒りを宿した鋭い眼差しが宗一を射抜く。「東友会の加盟全三十八社より、計十五パーセントの委任状が正式に提出されました。これで佐倉さん率いる解任動議陣営の議決権は、合計三十五パーセントに達しました」「三十五パーセント……だと……?」宗一の呼吸が荒くなる。宗一が手中に収めているのは三十二パーセント。数字の上で、完全に逆転されたのだ。「お前たちが……この私を出し抜いたつもりか……! た
Terakhir Diperbarui : 2026-09-21 Baca selengkapnya