บททั้งหมดของ 愛した人は、私の仇でした~御曹司との復讐から始まる恋~: บทที่ 31 - บทที่ 40

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第31話 冷徹な執行官・神堂冴子

全社朝礼での三島宗一の粛清宣言からわずか二時間後。 本館の正面エントランスに、黒塗りのワンボックスカーが三台横付けされた。降り立ったのは、揃いのチャコールグレーのスーツを纏った十数名の男女。胸元には無機質な銀のバッジが光っている。 民間危機管理コンサルタント「アイギス・リスクマネジメント」。 その先頭を歩く女性が、外商部フロアの自動ドアを音もなく押し開けた。 切りそろえられた黒髪のボブに、装飾のない銀縁眼鏡。怜悧な美貌には感情の起伏が一切なく、手にした薄型タブレットを淡々と操作しながらフロア中央へと歩み寄ってくる。 「本日付で、社長直属の特別内部監査を担当します。アイギスの神堂冴子です」 低く乾いた声が、静まり返るオフィスに響いた。 「これより、全端末の通信ログ、社内メール、私物ロッカーの抜き打ち検査を実施します。社内規定およびコンプライアンス遵守のため、全員その場を立たず、指示に従ってください」 冴子の合図とともに、部下の監査員たちが素早い手つきでフロア内のWi-Fiルーターに妨害機器を接続し、社員用PCのポートに解析ドングルを次々と差し込んでいく。 「な、なんだこれは! 我々外商部には顧客の最高機密情報があるんだぞ!」 ベテラン社員が抗議の声を上げたが、冴子は視線すら向けずに言い放った。 「その機密が外部へ漏洩している疑いがあるからこそ、監査を行っています。抵抗は業務妨害と見なします」 一切の妥協を許さない冷徹な圧力。 フロアの隅で伝票整理を続けていた私は、キーボードから手を離し、手元に視線を落としたまま状況を分析していた。 (外部の専門部隊……三島宗一、いよいよ警察も信用できず、金の力で私設の猟犬を飼い始めたのね) 足音が近づき、私のデスクの真横でぴたりと止まった。 顔を上げると、神堂冴子が無機質な瞳で私を見下ろしていた。 「あなたが佐倉志乃さんですね」 「はい。外商部事務の佐倉でございます」 私は控えめな笑みを作り、眼鏡の奥で視線を合わせた。 冴子は手元のタブレットに私の登録データを表示させ、細い指先でスクロールする。 「中途採用から三年。欠勤ゼロ、目立った社内トラブルなし。前職は地方の卸売会社……」 冴子は画面から視線を上げ、私の目を覗き込むようにじっと見つめた。
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-04
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第32話 レジスタンスの危機と軟禁

神堂冴子率いるアイギスによる強権的な監査は、初日から本館全体を凍りつかせた。午後、人事部のフロアで突如として怒号が響いた。「離せ! 私が何をしたというんだ!」腕を掴まれ、二人の屈強な監査員に引きずり出されていくのは、渋沢マネージャーだった。フロアの社員たちが息を呑んで見守る中、神堂冴子が手元の端末を操作しながら冷酷に言い放つ。「人事部のマスター権限を利用し、過去十五年分の役員人事データおよび極秘監査記録を外部へ不正エクスポートした痕跡が確認されました。就業規則違反および背任の疑いで、地下査問室にて事情聴取を行います」「不当な拘束だ! 弁護士を呼べ!」渋沢の必死の抗議も虚しく、彼はエレベーターの中へと押し込められ、扉が非情に閉ざされた。見せしめのような連行劇。フロアに残された社員たちは青ざめ、互いに視線を合わせることすら避けて黙り込んだ。社内は完全に密告と相互不信の暗雲に包まれていた。私は外商部の給湯室へ向かい、すれ違った高坂主任の様子を窺った。だが、高坂の背後には常にアイギスの女性監査員が張り付いており、私と目を合わせることなく早足で通り過ぎていく。(渋沢さんが捕まり、高坂主任も身動きが取れない……)レジスタンスの要となる二人が、一瞬にして封じられた。三島宗一の狙いは明白だった。社内の反抗分子を一網打尽にし、孤立させること。デスクに戻り、定時を過ぎた頃。私の社用スマートフォンが、微弱な振動とともに受信エラーを告げる警告画面を点滅させた。アイギスが仕掛けた強力な電波妨害装置により、外部との通信は遮断されつつある。だが、完全に通信が切れる直前、私の端末に一件の暗号化されたショートメッセージが滑り込んできた。発信元は、渋沢が連行される直前にセットした自動転送システム。[地下三階・旧記録保管庫のマスターサーバーが特定された。今夜二十四時、遠隔初期化プログラムが執行される。東条社長の全ログが消える]画面を見つめたまま、私の指先がわずかに強張る。父・東条正義が残した、三島宗一を追い落とすための決定的な証拠群。それが今夜、完全に灰燼に帰そうとしている。ふと視線を上げると、フロアの出入り口に立つ神堂冴子が、銀縁眼鏡の奥から私を冷たく凝視していた。
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第33話 二重スパイの暗闘

二十一時を回り、一般フロアの照明が次々と落とされていく。本来なら静寂に包まれるはずの夜の百貨店は、各フロアを巡回するアイギスの監査員たちの足音で異様な緊張感に満ちていた。私は外商部のロッカールームで黒のタートルネックに着替え、眼鏡の奥で呼吸を整えていた。通信はすでに完全遮断され、手元の端末は圏外を示している。その時、更衣室の換気口から乾いた金属音が響いた。「志乃さん」天井付近の点検口の隙間から、低く掠れた声が落ちてきた。見上げると、スーツのジャケットを脱ぎ捨てた絢人が、点検用キャットウォークから静かに身を乗り出していた。「三島さん……どこから?」「特別監査本部の配線ダクトを伝ってきました。彼らは中央監視室のシステムを物理的に乗っ取り、全館を封鎖しています」絢人は音もなく床に着地し、手元の小型端末の画面を私に見せた。画面には、アイギスが敷いた電波妨害装置の設置ポイントと、監視カメラの死角を記した館内図が鮮明にマッピングされていた。神堂冴子の行動ログまでハッキングしてある。「父は完全に錯乱しています。アイギスに無制限の権限を与え、今夜二十四時をもって地下の旧サーバーを物理的に破砕・フォーマットする手筈です。正義前社長が遺したデータは、すべて消滅します」「……そう」私は冷徹に呟き、靴紐を締め直した。「なら、奴らの作業が始まる前に私がサーバーの物理ストレージを抜き取る。それしかないわね」「無茶です。地下フロアは神堂冴子直属の実力行使部隊が固めている。丸腰で行けば拘束される」絢人が私の腕を掴んだ。その瞳には、切迫した色が浮かんでいる。「僕が時間を稼ぎます。中央管理室の電源盤をショートさせれば、十分間はセキュリティが落ちる」「いいえ。あなたが不用意に動けば、三島宗一の懐に入り込んだ意味がなくなるわ。あなたの二重スパイという立場は、株主総会の最後まで隠し通さなきゃいけない」私は絢人の手を冷静に振りほどいた。「自分の身は自分で守る。父の遺産を奪わせはしない」志乃の揺るぎない眼差しに、絢人は息を呑み、やがて痛切な笑みを浮かべた。「……分かりました。ならば僕は、システム側からあなたの背中を支えます。どんな手段を使っても、退路は僕がこじ開ける」絢人は端末から抜き取った特殊なアクセスチップを私に手渡した。「神堂冴子は手強い。気をつけて」二
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第34話 夜の閉ざされた百貨店

二十三時。深夜の静寂が広がる中、東城デパート本館は外界から完全に切り離された巨大な鋼鉄の要塞と化していた。アイギスの手により、館内の通信設備は完全に沈黙。非常階段の重厚な防火扉には持ち込まれた電子チェーンロックが噛まされ、全出入り口の防犯シャッターは最下層まで降ろされていた。巨大なショーウィンドウも遮光スクリーンで覆われ、外部へ光一つ漏れ出さない。(通信遮断、外部動線の完全封鎖……完全に孤立した空間ね)私は外商部のロッカールームの奥、普段は施錠されている清掃用具置き場へと足を進めた。モップや洗剤の棚をずらすと、壁の羽目板に僅かな継ぎ目が現れる。指先を掛け、裏側のラッチを外すと、人が一人通れるほどの狭い空洞が口を開けた。幼い頃、父・東条正義に連れられてデパートの裏側を見学した際、父が微笑みながら教えてくれた秘密の場所だった。——『志乃、この建物は生きているんだ。万一の火災や事故の時、お客様と現場の仲間を逃がすための道が、図面には載らない形でいくつも隠されているんだよ』父の穏やかな声が、十数年の時を超えて脳裏に蘇る。私は黒のタートルネックの上に薄手のウインドブレーカーを羽織り、トレードマークの黒縁眼鏡を外してケースに収めた。代わりに黒のキャップを目深に被り、鼻先まで覆うフェイスマスクを装着する。鏡に映るのは、鋭い光を宿した瞳だけを覗かせた、性別すら曖昧な漆黒の潜入者の姿だった。(これでいい。現場で私の顔を晒すわけにはいかない)私は配管とコンクリートの隙間に設置された鉄製ステップに手足を掛け、音を立てずに垂直ダクトを下層へと降りていく。ダクト内は冷気が淀み、手袋越しに伝わる鉄の冷たさが神経を研ぎ澄まさせていく。ポケットの中には、絢人から託されたアクセスチップがある。二十四時に執行されるという遠隔初期化プログラムまで、残された猶予は一時間を切っていた。三島宗一が十五年前に隠蔽した罪の証拠、そして父が無実を証明するために遺したすべてのデータが、灰燼に帰すかどうかの瀬戸際だった。地下二階を抜け、最下層である地下三階の配管スペースへ到達する。埃を被った点検用グリッドの隙間から、私は慎重に地下搬入口フロアの様子を窺った。しかし、視界に入った光景に、私は息を殺して眉をひそめた。薄暗い非常灯が鈍く反射する広大なコンクリートフロア。そこには、チャコー
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第35話 強襲

「おとなしくしろ。マスクを剥ぎ取って面を拝ませてもらおうか」男の一人が特殊警棒を構え、じりじりと距離を詰めてくる。四本のタクティカルライトが、私の影を背後のコンクリート壁に濃く焼き付けていた。キャップを目深く被り、マスクの奥で息を整えた私は、無言のまま腰のホルスターから高電圧スタンガンと濃縮催涙スプレーを引き抜いた。「抵抗する気か。女一人で何ができる」正面の男が鋭く踏み込み、警棒を一閃させた。空気を切り裂く鋭い音が耳朶を打つ。私は半身を引いて切っ先を紙一重でかわすと、右手の催涙スプレーを男の顔面へ向けて正確に噴射した。「ぐあっ……!?」刺激物質を浴びた男が目を押さえてよろめく。その隙を逃さず、私は男の懐へ滑り込み、剥き出しになった首筋へスタンガンの電極を押し当ててトリガーを引いた。青白い火花とともに、バチバチと激しい放電音が地下空間に響き渡る。男は白目を剥き、崩れ落ちるように床へ沈んだ。「この女……ただのネズミじゃないぞ! 囲んで力ずくで押さえろ!」背後と左右に残った三名の工作員が、侮りを完全に捨てて一斉に間合いを詰めてくる。私は倒れた男のベルトから催涙ガス弾を抜き取り、足元のコンクリート床へ叩きつけた。白煙が一瞬にして広がり、タクティカルライトの光軸が乱反射して視界が白く濁る。「ちっ、煙幕か!」足音と微かな空気の揺らぎを頼りに、私は陳列什器の陰へと身を翻した。東城デパートの地下フロアの構造は、すべて頭の中に刻まれている。什器を軽やかに飛び越え、煙の中で視界を奪われ混乱する二人の工作員の背後へ回り込む。手近にあった鉄製消火器のホースを外し、安全ピンを抜いて粉末を一気に噴射した。「ごほっ……! どこだ!」視界と呼吸を奪われた工作員の鳩尾へ、私は空手仕込みの鋭い前蹴りを叩き込んだ。骨がきしむ鈍い手応えとともに、男が陳列棚へ激突して倒れ伏す。だが、残る二人は即座に連携を取り戻し、背後から無駄のない連動で私の両腕を掴みにかかった。「そこまでだ!」背後から腕を巻き込まれ、強烈な力で身動きを封じられる。もう一人が警棒を振り上げ、私の側頭部を狙って振り下ろそうとした。(しまっ……!)体格差と数の暴力。腕力でねじ伏せられかけた、まさにその瞬間だった。——ゴォォォンッ!!地鳴りのような轟音が地下搬入口に響き渡った。閉ざされていたはずの
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第36話 間一髪

「どこの息がかかった工作員か知らないけれど、これ以上の企業荒らしは見過ごせないわね」神堂冴子の手元で、特殊警棒がカチリと金属音を立てて最長まで伸びた。銀縁眼鏡の奥の双眸には、いかなる動揺も浮かんでいない。元公安の腕利き執行官という肩書は伊達ではなかった。「おい、ここは俺が引き受ける。お前は早く目的のブツを回収してこい!」駆が前に出ようと足を踏み出した瞬間、私はその肩を手で制した。「駄目よ。この女の狙いは時間稼ぎ。二十四時を過ぎれば遠隔初期化でデータが消えるわ。二手に分かれましょう。あなたは車のエンジンを掛けたまま待機して!」「おい、無茶言うな!」駆の制止を背に、私は床に転がっていたワイヤー入りの頑丈なアタッシュケースを拾い上げ、一気に冴子へと間合いを詰めた。「身の程知らずが」冴子の踏み込みは鋭く、正確無比だった。特殊警棒が空気を裂いて私の右側頭部を狙う。私はアタッシュケースの金属面を盾にして受け止めた。——ギャンッ!鈍い衝撃が腕の骨に響く。冴子は即座に体重を移動させ、警棒の石突を私の鳩尾へ突き出してきた。実戦に特化した、無駄を削ぎ落とした近接格闘術。私は上半身をひねってかわし、ケースの角を冴子の顎めがけて振り抜いた。しかし冴子は紙一重でバックステップを踏み、私の空振りを誘うと、返す刃で私の左肩を警棒で打ち据えた。「くっ……!」鈍痛が走り、思わず膝が落ちかける。冴子は冷酷に目を細め、私のマスク越しに覗く瞳をじっと見据えた。「やはり、素人ではないわね。その関節の絞り方、身のこなし……どこかで見た覚えがあるわ」冴子の瞳に疑念の光が走る。これ以上の戦闘継続は、身元を暴かれる致命的なリスクを伴う。時計の針は二十三時五十分を指していた。私は痛む肩を無視し、ケースを冴子の顔面へ投げつけた。冴子が警棒でそれを弾いた一瞬の死角を突き、低く滑り込むようにして奥の保管庫へ突進した。保管庫の重いスチールドアを開け、中央のメインラックへ駆け寄る。棚に並ぶ無数のブレードサーバーの中から、父・東条正義の頭文字が刻まれた旧管理ストレージを見つけ出すと、絢人から渡されていたアクセスチップをポートへ突き刺した。『アクセス承認。物理ドライブ取り出し待機完了』緑のシグナルが点滅し、ガシャリと音を立てて二本のハードディスクユニットがイジェクトされた。
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-12
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第37話 反撃のカード

ワンボックスカーは深夜の首都高を滑るように駆け抜け、墨田区の外れにある駆のセーフハウスへと滑り込んだ。古びた鉄工所の二階にある隠れ家。冷え切った部屋のパイプ椅子に腰を下ろすと、一気に張り詰めていた糸が切れ、左肩に鈍い激痛が走った。「おい、無理すんな。肩、打撲して腫れ上がってんぞ」駆が冷蔵庫から氷嚢と湿布を乱暴に取り出し、私の肩へ押し当てた。冷たさが皮膚に染み渡る。私は黒いキャップとフェイスマスクを脱ぎ捨て、荒い呼気を吐き出した。「平気よ。それより……ブツの確認を急ぎましょう」リュックから引きずり出した二本のハードディスクユニット。駆が作業机の専用端末にケーブルを繋ぎ、絢人から託されていたアクセスキーを打ち込むと、暗号化されていたデータが緑色のシークエンスとともに展開されていく。画面に映し出されたのは、十五年前の東条正義前社長の無実を証明する財務ログだけではなかった。「……おいおい、とんでもねえもんが詰まってやがるぜ」駆が画面をスクロールしながら低く唸った。そこには、アイギスが三島宗一の依頼で過去数年にわたり実行してきた「裏の仕事」の生データが克明に保存されていた。社内反乱分子のスマートフォンの違法盗聴ログ、私生活の尾行写真、弱みを握って脅迫した念書のコピー。さらには、昨夜から渋沢マネージャーを地下三階の査問室に閉じ込め、睡眠を奪って行っていた非合法な監禁・取り調べの映像ログまで、すべてアイギスの社内サーバーから東城デパートのバックアップ側へ吸い上げられていたのだ。「宗一はアイギスを使って社内を力ずくで押さえ込もうとしたけれど、その猟犬の首輪のログが全部ここに残っている」私は冷たい笑みを浮かべ、痛む肩を押さえながら立ち上がった。ピピッ、とデスクのセキュア端末が短い着信音を鳴らした。画面に表示されたのは、絢人からの暗号化メッセージだった。[中央監視室の防犯カメラ生ログはすべて上書き消去しました。あなたが現場にいた物理的な痕跡は存在しません。昨夜の件は『正体不明の外部侵入者によるサーバー強奪』として処理されています]さらにメッセージは続く。[ただし、神堂冴子は勘が鋭い。今朝の出社時、必ず外商部員全員にアリバイ確認と身体検査を求めてくるはずです。対策はできていますか]「対策なら、もう準備してあるわ」私は端末を閉じ、駆を見上げた。
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-13
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第38話 完璧なアリバイと暴かれた牙

翌朝八時三十分。本館の正面通用口には、通常とは比較にならない重苦しい空気が漂っていた。深夜の「外部テロリスト侵入」という建前のもと、アイギスの監査員たちが社員証の照合と手荷物検査を徹底的に行っていた。フロアの隅で腕を組み、冷ややかな視線を注ぐ神堂冴子。その横顔には、昨夜の格闘の際に負った微かな擦り傷がガーゼで覆われていた。「おはようございます」私が黒縁眼鏡を掛け、整ったオフィスカジュアルに身を包んで歩み寄ると、冴子の視線が射抜くように私を捉えた。「佐倉さん。少し別室でお話を伺いたいわ」拒絶を許さないトーン。私は従順に頷き、一階の応接室へと案内された。密室のテーブルを挟んで向かい合うと、冴子は単刀直入に切り込んできた。「昨夜二十三時から今朝五時にかけて、あなたは何処で誰と何をしていたの?」「プライベートなことまでお話ししなければならないのでしょうか」「深夜に地下で起きた侵入事件の犯人と、あなたの体格や動きがあまりに酷似しているのよ。それに……左肩を少し庇っているように見えるけれど?」冴子の観察眼は狂気の域に達していた。だが、私は怯むことなく、デスクの上にスマートフォンの画面を滑り込ませた。「昨夜は、彼とホテルにおりました」画面に表示されたのは、港区の高級シティーホテルの宿泊明細と、ルームサービスのチェックインログ。時間帯は昨夜二十二時から今朝七時まで。「彼、ですか」「ええ。外商部の仕事でお世話になっているコンサルタントの方です。今、彼が外のロビーまで私を送ってくれたので、直接確認していただいても構いませんよ」冴子は眉を微かにひそめ、インカムでエントランスの部下に指示を出した。数分後、応接室の扉が開き、仕立てのいい上質なネイビーのスーツを纏った男が姿を現した。普段の無骨な革ジャンを脱ぎ捨て、短髪を綺麗にセットした駆だった。その落ち着いた佇まいは、絵に描いたような若手実業家そのものだった。「どういうご用件でしょうか。私の連れの佐倉が、何かご迷惑を?」低く洗練された声色。裏社会で潜入や交渉をこなしてきた駆の演技力は完璧だった。冴子は鋭い視線で駆を観察したが、昨夜のフルフェイスヘルメットの男と結びつける物証はどこにもない。ホテルの防犯カメラのタイムスタンプも、絢人の遠隔操作によってすでに整合性が取られている。「……失礼いたしま
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-14
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第39話 絢人の血の刻印

組合のストライキ宣言とマスコミの包囲により、本館は営業停止を余儀なくされ、異様な熱気と混乱に包まれていた。正面玄関の外には中継車のアンテナが林立し、拡声器で社長辞任を叫ぶ社員たちの声がガラス越しにくぐもって響いてくる。もはや社内には三島宗一の味方など一人も残っていなかった。私は怒号が遠のく本館最上階、関係者以外立ち入り禁止となっている旧VIPサロンへと足を踏み入れた。重厚なオーク材の扉を押し開けると、遮光カーテンで閉ざされた薄暗い室内の窓際に、長身の男が立ち尽くしていた。「……来てくれましたね、志乃さん」振り返った絢人の姿に、私は思わず息を呑んだ。いつもの隙のないスーツは乱れ、捲り上げたワイシャツの右腕には、応急処置の包帯が痛々しく巻かれていた。白いガーゼの隙間から、滲み出た赤黒い血が点々と広がっている。「その腕……どうしたの」「昨夜、中央管理室の基幹電源盤を物理的にショートさせた時の代償です。ブレーカーの火花と破片で少し裂けましたが、大したことはありません」絢人は痛む素振りすら見せず、静かに微笑んだ。その青白い横顔には、どこか憑き物が落ちたような凄絶な美しさが漂っていた。「アイギスは完全に撤退しました。渋沢さんも無事に解放され、労働組合と外部の弁護士団が父の責任を追及する構えに入っています。父が築き上げてきた恐怖の城壁は、これで完全に瓦解しました」「……ええ。あなたの援護がなければ、私はあの地下で捕まっていたわ。感謝するわ、三島さん」私が一歩引いた事務的な口調で告げると、絢人の瞳に切ない影が差した。「三島さん、ですか。やはり僕の血は、あなたにとっては憎むべき汚れでしかないのですね」絢人はゆっくりと歩み寄り、私の目の前で不意に膝を落とした。絨毯の上に両膝をつき、見上げるようにして私の顔を凝視する。御曹司としての誇りも、社長の息子という立場も、すべてかなぐり捨てた仕草だった。「三島さん、立って……」「父はもう終わりです。人権侵害と違法監査の証拠を握られた以上、次の手は株主総会での社長解任動議しかない。……ですが、志乃さん。今朝、あなたをロビーまで送り届けたあの男は何者ですか」絢人の声が低く沈み、微かな震えを帯びた。「完璧なアリバイでした。神堂冴子の追及をかわすには最高のカードだった。けれど……あの男を見るあなたの瞳は、僕を見る時
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-15
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第40話 臨時株主総会への招集通知

絢人の狂おしいまでの独白から一夜が明け、東城デパートを巡る情勢は不可逆の濁流となって加速していた。労働組合のストライキは全館の営業停止という形で三島宗一の息の根を止めにかかり、連日ワイドショーを独占する「私設部隊による社員不法監禁」の醜聞は、デパートの株価を連日のストップ安へと叩き落とした。名門としてのブランドは地に堕ち、大口取引先からの取引停止通告が次々と社長室のファックスに吐き出されていた。午前十時。本館八階の第一会議室に、弁護士を伴った渋沢マネージャー、組合の執行部役員、そして海外機関投資家『アリアンツ・キャピタル』の日本代表が顔を揃えた。アリアンツ・キャピタルの保有比率は、東城デパート全発行済株式の八パーセント。私と駆が水面下で根回しを続け、昨夜回収した三島宗一の背任データを提示したことで、完全に味方に引き入れることに成功した強力な外部の後ろ盾だった。「会社法第二百九十七条第一項に基づき、総議決権の百分の三以上を有する株主の連名として、取締役会に対し『臨時株主総会』の招集を正式に請求します」弁護士の乾いた声が会議室に響き、一枚の書面が総務担当役員の前に突き出された。議題はただ一つ。『取締役・三島宗一の解任の件、および新経営陣選任の件』もはや宗一に拒否権はなかった。ここで招集を拒めば、裁判所の許可による総会招集が下り、その瞬間に金融機関からの融資引き揚げが執行される。同じ時刻、最上階の社長室。分厚い絨毯の上には書類が散乱し、灰皿には何十本もの吸い殻が山を成していた。かつて威風堂々と君臨していた三島宗一の双眸は赤く充血し、無精髭の浮いた頬はげっそりと削げ落ちていた。「臨時……株主総会だと……?」秘書から手渡された招集請求の通知書を、宗一の震える指先が握りつぶす。「ふざけるな……! なぜだ、誰が裏で糸を引いている! 大河内を切り、根津を切り、結衣との縁談を潰し、アイギスまで瓦解させた……! 一体誰が絵を描いているんだッ!」宗一は怒号とともにマホガニーの重厚なデスクを蹴り上げた。だが、その叫びに応える側近はもう社内のどこにもいない。息子である絢人すら、昨夜のシステム障害への対応を口実に姿を消していた。完全に四面楚歌。残された議決権の過半数(五十一パーセント)を巡る委任状争奪戦が始まれば、世論と労組を味方につけた反乱分子に押し
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-16
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