臨時株主総会の開催日は、一ヶ月後の十月十五日に正式決定された。ストライキこそ解除され、本館の営業は再開されたものの、デパートの空気は一変していた。かつて宗一の顔色を窺っていたフロアの従業員たちは、今や誰も社長室を見上げようとしない。社内を支配していた恐怖は、沈黙の軽蔑へと変わっていた。私は外商部のデスクで、渋沢マネージャーから手渡された一冊の極秘リストを開いていた。『東城百貨店・大株主名簿および議決権保有比率推移』「これが現在の勢力図だ、志乃さん」渋沢が周囲を警戒しながら、極めて低い声で囁いた。アイギスによる監禁から解放された渋沢の首筋にはまだ青あざが残っていたが、その瞳には十五年ぶりの闘志が宿っていた。「全株式の議決権総数は一千万株。過半数となる五百一万株をどちらが掌握するかで、すべてが決まる」私は名簿の数値を冷徹に分析した。三島宗一の個人保有分と、万里子夫人の実家が握る同族株を合わせると、約三十二パーセント。一方、私たちが味方につけた海外ファンド『アリアンツ・キャピタル』が八パーセント。労働組合の従業員持株会が五パーセント。現時点での志乃陣営の持ち票は、わずか十三パーセントに過ぎない。「残り五十五パーセントは、創業家一族のOB、全国の老舗取引先で構成される『東友会』、そして一般の個人投資家が握る浮動株ね」「そうだ。特に鍵を握るのは、東友会の名誉会長を務める『菱沼呉服店』の元当主・菱沼源蔵氏だ。彼一人で創業家枠の七パーセントを抑えている」菱沼源蔵。父・東条正義とは創業期からの盟友であり、かつて銀座の旦那衆を束ねていた重鎮だった。正義が失脚して以降は一切の公の場から姿を消し、鎌倉の別邸に隠居していると聞く。「宗一も間違いなく菱沼氏に接触を図るはずよ。七パーセントの票がどちらに転ぶかで、他の取引先の雪崩現象が起きる」「ああ。だが菱沼翁は気難しく、十五年前の事件以来、東城デパートの人間とは一切面会を謝絶している。絢人坊ちゃんを通してアポイントを取るか?」「いいえ」私は首を横に振った。「絢人さんは動かせないわ。宗一は今、誰が裏切り者か血眼になって疑っている。絢人さんには三島陣営の内部で、宗一の票集めの工作を監視してもらう」私は名簿を閉じ、手元のバッグへ滑り込ませた。「菱沼翁の元へは、私が直接行くわ」その日の夕刻。仕事を終えた私は
Terakhir Diperbarui : 2026-09-18 Baca selengkapnya