「裕貴さん、ですよね?……小山内宝石店の」「そう!覚えててくれた?嬉しいなぁ」ちょっと近くに来たから寄った、と言う裕貴に、凪はうまく返事ができなかった。それだけの理由で訪ねられるほど、彼と親しいはずもない。裕貴はつまみっ子倶楽部のあちこちに目をやり、パンフレットや壁に貼ってあるポスターを見ている。「あの、もしかしたらここに、どなたかご紹介いただける、みたいなお話でしょうか」「……いや」裕貴は迷いを吹っ切るように凪の前に立ち、思いがけない名前を出した。「汐沢真希さんって、君のお母さんだよね?」一瞬、キュッと心臓が掴まれた気がする。母の名前を裕貴が知っている違和感……ふと、あのネックレスのことが頭に浮かんだ。「……母がなにか?」わずかに警戒する凪に、裕貴は安心させるように笑顔になった。「良かったら近くでランチでもしながら話せない?」「わかりました……」少しだけ、断われないだろう、という雰囲気を感じた凪。それでも、母の名前を出された以上、断ることはできない。念のため、事務所にバッグを取りに行った際、京極にメッセージをしておき……凪は裕貴と共に外へ出た。「実は数年前、ネックレスを持って君のお母さんがうちの宝石店に来たことがあったんだ」「母が、ですか?」「あぁ。対応したのは祖父だったから、どうして来たのか詳細はわからない。でも持ってきたネックレスが、前にあなたと李仁くんが持ってきたものと同じだったから……ちょっと思い出して」サバンナビルディングを出た裏手に、美味しいコーヒーを出す昔ながらの喫茶店がある。裕貴は、誘ったわりにこの辺の店を知らないようなので、凪が連れてきた。「そのネックレス、今は……君が持ってる?」「……はい」どう答えたらいいか一瞬迷った。なぜなら、あのネックレスに使われているダイヤは、京極家に伝わるダイヤだと、裕貴も知っているはず……京極と一緒に鑑定に訪れた時彼もそばにいて、京極家のダイヤが戻ってきたと喜んだのに。……どうして私が持っていると思うのだろう。「君の家、つまみっ子倶楽部と同じビルなんだってね」「そう……ですね」「職場と住まいが近いのは最高だよね!俺は店が家とは別の場所にあるから……多少は通勤しなくちゃならなくて」話を変えながら、裕貴はアイスコーヒーをがぶ飲みしている……「不思議、ですよね」
Dernière mise à jour : 2026-10-20 Read More