Alle Kapitel von 京極社長は善良すぎる女に飼われたい……2つのダイヤが秘密を暴く: Kapitel 51 – Kapitel 60

83 Kapitel

51.彼女は俺の……side.京極

「これまでにわかったことを考えてみると……ネックレスと指輪は、なくしたほうがいいような気がするんだ」「なくす……とは?」「京極家由来のダイヤをアクセサリーから外して、元の姿に戻してやる」大雨に見舞われ、やむなく外泊した日から数日が過ぎた休日、京極は凪と2人、リビングで話している。……新田を招き入れてからというもの、こういう時間がなかなかな取れない。この日も、凪が休みだと知って、急遽予定を調整した京極だった。「いいんですか?」「……なにが?」「真美さんとの、思い出の品なのではないかと思って」目を伏せた凪を見て思う。ホテルに泊まったあの日から、凪の様子がどこかおかしい。笑顔が減ったように感じるし、以前より距離を取られている気もする。「大事にしていた時期もあった。……だが、もう過去のことだ。今さら思い出の品として残しておくつもりはない」凪のために……ネックレスの真相と母親の足跡を辿り、彼女の自由と安全を取り戻す。それができたら、その時は真実を明かそうと思い始めていた京極。愛しく思い、ずっとそばに置きたいと思っていること、そしてホテルでは、ほとんど眠れずに凪のそばにいたこと。……カッコいいことを言って彼女を遠ざけておきながら、結局、離れられなかった。ベッドの脇に椅子を引き寄せ、眠る凪の寝顔を眺めているうちに夜が明けたのだ。だから知っている。あの可愛い寝言を……「これまでにわかったことを整理してみると、問題はネックレスというより、京極家のダイヤだと思う」岳に最後に会ったとき、ネックレスというよりダイヤのことを気にしていた。……そういえば裕貴も、2つ戻ったことを喜んでいたな。「真壁や岳がこだわったのも、ネックレスというよりダイヤだと思ったほうがしっくりくる」凪はまっすぐこちらを見て真剣に話を聞いていた。「つまみっ子倶楽部に真美が在籍していたのなら、何らかの理由でお母さんがネックレスを手にした。それを、亡くなる直前君に託した」「やはり、そうなんですかね」「そう考えるのが自然だ。つまり、君のお母さんも君も、京極家のダイヤに振り回された。……迷惑をかけたと思っている。俺が受け継いだダイヤの管理が甘かったせいで、申し訳なかった」京極はその場で少し頭を下げ、もう一度目の前の凪を見つめた。「ダイヤを取り外して、俺が別の場所で保管する。ネ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-15
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52名前のない特別

「俺の、って……社長、まさかっ」叫び出しそうな秘書、松平を見て、凪も思わず身構えてしまう。「俺の……大事な、客人だ」「えぇっ!?」驚く松平と、なぜか肩を落とす京極。凪は心の中で深いため息をつき、必死に笑顔を張り付けて、松平に頭を下げた。「客人、というほど立派なものではありませんが、事情があってお世話になっております。汐沢凪と申します」「こちらこそ、家政婦と間違えて失礼いたしました」「京極社長のお宅にはもう1人お世話になっている人がいます。変な誤解はなさらないように……お願いします」もう一度頭を下げ、凪はその場を後にした。「はぁ……大事な客人か」初めてここへ来たとき、京極に与えられた2階の部屋。そこに鎮座する大きなベッドに腰かけ、凪は天を仰いだ。大雨でホテルに泊まった翌日、京極はこの部屋にパーティションを運び込み、ベッドを囲んでくれた。狭いところでないと落ち着かない凪のために。その心遣いが嬉しくて、何度もお礼を言ったのを覚えている。と、同時に……少しの寂しさを覚えたのも本当のところ。あのときは断ってしまったくせに、今になって寂しくなるなんて。自分でも勝手だと思う。「自分の寝室にベッドを入れるって言ってたのに……」もちろんそれは、一緒にいたいという類のものではないとわかっている。……けれど。「……私、何を期待してたんだろう」ふと、階下に残してきた京極と松平の声が聞こえてきた。……正確には松平の声だ。張りのある大きな声が2階のドアも突き破って聞こえてくる。京極は「化粧が濃い」と言っていたが、あの女性にはとても似合っていたと思う。多分山田より年上。……京極と同じか、ひとつかふたつ、年上かもしれない。「スラリと背が高くて、京極社長とお似合いだったな」ついそんなことを考えてしまい、自分で自分が嫌になった。「……凪、ちょっといいか」「……あ、はい!」そこへ部屋のドアがノックされ、凪は慌ててベッドから跳ね起きた。いつの間にかスーツに着替えた京極が顔を覗かせる。「悪い、急に仕事になった。もう少し凪と、ネックレスの謎を整理したかったんだが」「そうなんですか。……お夕飯は?」「会食につき合わされそうだ。別に今すぐ話さなければならない取引先じゃないのに、松平がアポを入れてしまってな」京極は何か言いたげに、凪の前に立ち尽くした。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-15
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53.スイーツの嫉妬

『どうしても行きたいカフェがあるんだけど、一緒にどう?』岳からメッセージがあったのは、京極に松平という新秘書を紹介されて、しばらくしたある日のこと。「……へぇ、ガレットのお店かぁ」他にもシフォンケーキやパンケーキ、パフェやケーキなども充実しているようだ。メッセージにはURLが貼ってあり、開いてみるとピンクとブルーを基調とした、可愛らしい外観のカフェだとわかる。「これは確かに、岳さん1人じゃ行けないよね……!」黒石一家でのアルバイトを終えた頃、岳の本当の仕事を京極に聞いたことがあった。それが一般的なものではないことは凪も察していたが、京極家と長年の信頼関係があると京極本人から聞いていたことが、何よりの安心材料だった。だからアルバイトを辞めてからも、ときどき岳のお茶の誘いに応じている。行き先は決まって可愛らしいスイーツのお店。強面のせいで一人では入りづらいという岳の言い分にも、凪は納得していた。……それに、あの見た目で大の甘党だなんて。親近感を覚えずにはいられない。今回もそんなつもりで、凪は岳の誘いを気軽に承諾した。つまみっ子倶楽部を終えて、凪はURLを頼りにカフェを目指した。「凪ちゃん」先に到着したらしい岳に呼び止められ、携帯を覗きながら店を探していた顔を上げる。「わ……なんか今日は、ずいぶん立派な感じですね」「おかしいかな」「いえ、そうじゃなくて……今回のお店、女性客99%らしいので、目立っちゃいますよ?」パーカーわTシャツで来ることが多かったのに、今夜はシックなスーツ姿だ。屈強な腕に、ふざけてパンチする凪。笑顔になったところで、店内に入った。「……すげぇな。待たないで入れた」「当然です!予約しましたから」うぉー……という低い賛美をもらい、2人は早速メニューを覗き込む。「食事っぽいガレットもあるよ?スモークサーモンとチーズだって。……凪ちゃん、お腹すいたろ?」「はい……バイバイ体操を全力で踊ったのでペコペコです」それぞれ好みのガレットを頼み、飲み物を口にしたところで、岳が口を開いた。「最近、李仁はどうしてるんだろうな。奴のことだから、相変わらず忙しくしてるのか……」「はい、忙しそうですね。秘書が交代して、前倒しで仕事をさせられてるって、ボヤいてました」ちょっと首を傾げて見つめられたことに、凪は気づかなかった。
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-16
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54.その言葉を遮るもの

「それで?岳は元気でやってたか」 「はい。お元気そうでした。今日は黒スーツで決めてて、私と別れたあと、デートだったんですかね?」 「……そりは、凪さんがデートの相手だったんではないでスか?」 帰宅が重なった3人は自然とリビングに集まった。 新田は洋酒ケーキを頬張って赤い顔になり、2人の会話に口を挟む。……そして微妙な空気にしたことなどおかまいなしに、やや千鳥足でリビングを出ていった。 残された京極の眉間に深いシワが刻まれたのを見て、凪は思った。 ……酔ってよけいなことを言ったに過ぎないのだから、そんな顔することないのに。 「あの……岳さんが探してたアクセサリーは、別の人の担当になったそうです」 「へぇ、別の人な」 「知ってますよね?岳さんがアクセサリーを探してること……」 どうでもいいことだったが、複雑な表情をする京極の気分を変えてほしかった。 「もちろん知ってるが、それについては凪が心配しなくていい。俺たちは、ネックレスと指輪の謎を解くことに集中だ」 「はい。……岳さんにも言っておきました。京極社長に預けたので心配ないって」 「……ん?」 京極の鋭い視線を受けて、凪は一瞬視線を泳がせた。 「え……岳さん、知ってますよね?私が身に着けていたネックレスはもともとは京極さんのものだったって」 「いや、わざわざ話してはいない。ただ、京極家のダイヤは2つとも見つかった、と話した」 「……私、アクセサリーの土台からダイヤを取り出すって、話しましたけど……」 少し考えた京極は、テーブルに身を乗り出し凪を見た。 「岳とたまにお茶をするって言ってたな。毎回、あいつにネックレスのことを尋ねられたか?」 「たまに、とは言っても……今回で3回目くらいですよ?でも、そう言われてみれば、アクセサリーのことは毎回話題に出ていたと思います」 「岳の奴、何を企んでるんだ?」 「あの、岳さんは京極家と仲良しなんですよね?」 「仲良し……」 言ってはいけないことを漏らしたのだろうか……不安になって聞いてみたが、京極は口元を隠して笑っている。凪はほっと胸を撫で下ろした。 「まぁ……仲良しだからな?京極家の今後についても心配しているんだと思う。ダイヤが2つあることも知ってるしな」 「それなら、安心しました」 「ただ……」 京極の目から、すでに笑み
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-16
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55.それぞれの決別

「これ……いったいどうして……」「このタイミングで、真壁コーポレーションの粉飾決算発覚のニュースか。ちょっと気になるな……」ニュースを見て、凪の頭にきらびやかな社長室が思い浮かんだ。豪華なソファセット、絵画、調度品。それらがすべて、粉飾決算によって手に入れたものだとしたら……身震いした。テレビの前に立ち尽くし、ニュースに見入っていた3人は、CMに切り替わったところで顔を見合わせた。「……私、ちょっと父に連絡してみます」リビングを出たところで携帯にかけてみると、父はあっさり電話に出た。「凪です。……ニュース見ましたか?真壁コーポレーション、粉飾決算の疑いがかけられたみたいだけど」「あぁ、今見たところだ。突然の話で、何がなんだか……」「雅人さんから連絡は?」「今はまだない。社長が身柄を確保される可能性もあるからな、対応に追われているだろう」父が意外にも冷静だったので安心した。資金援助や業務提携をしていたことから、父の会社も無傷ではいられないだろうが……「この分じゃ、資金援助はストップするだろうな。業務提携をしたのはまだ最近だが、うちにどれくらい影響が出るか……」「ごめんなさい。突然のニュースに驚いて連絡しただけなので」……親子の縁を切る、なんて言いながらつい心配で連絡してしまったが、何かしてあげられることなどないのに、迂闊に電話をしたことを後悔した。「……凪、雅人くんに聞いたが、京極グループの跡継ぎと、仲良くしてるって本当か?」「え……?」「なぁ、今度紹介してくれないか?真壁コーポレーションがあんなことになって、提携を組む前より経営が難しくなるかもしれない。だから一度話を、」「ごめんなさい、お父さん。それはできません」凪は父の言葉を途中で遮った。「今度こそ、お父さん自身の力で会社を立て直すべきじゃない? ……もう、私を利用しないで」携帯の向こうから大きなため息が聞こえた。凪はそれを返事だと受け取り、電話を切った。リビングに戻ると、京極と新田がソファに座ってテレビを観ている。「なんか、ドラマを観始めたら止まらなくなっちゃったんでス……!」頭をかく新田と、身を乗り出して画面を見つめる京極……なかなかレアな場面に口元が緩み、先ほどの父とのやり取りを忘れることができた。その後、父からの連絡はなく、真壁コーポレーション粉飾決算の続
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-17
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56.疑惑の点と線 Side.京極

「どうも!ご無沙汰してます」 「なんだ、この前の可愛い子ちゃんは一緒じゃないのか」 「……可愛い子ちゃん、て……」 秘書が山田から松平に代わって以来、俺の仕事量は1.5倍に増えた。 ……あの女、容赦ない。 今夜は必要ないと判断した会食の予定をキャンセルし、ずっと気になっていたことを聞きに、小山内のじいさん……小山内鑑定士の家へやって来たところだ。 「凪のことなら……今頃仕事を終えて家にいるよ」 「お前さん、まさかもう囲い込んでるのか」 「仕方なかったんだよ!……ネックレスのことで、おかしなことに巻き込んだから」 冷えたビールとパックの寿司を小山内に差し出した。 ……料亭に連れて行くと言ったのに、出かけるのが面倒だと断られたので仕方がなく用意したもの。 「李仁よ……俺をいくつだと思ってる?」 「あぁ、食べきれなかったら残してくれよ」 松平に用意させた寿司は、どこで買ってきたのか巨大なパーティーサイズだった。しかも2つ…… 彼女によると「一番コスパが良かった」らしいが……そういう問題ではないと、いつか気づいてもらいたい。 「それで、話ってのは?」 缶のまま乾杯してビールに口をつける。 あまりに量が多いので、小山内のじいさんと分け合って食べることにした。……もうひとつは裕貴が食べるだろう。 「京極家のダイヤなんだけどさ、ネックレスと指輪から取り外そうと思ってる」 「……ほう」 「それを、じいさんに頼みたいんだ。……裕貴じゃなくて、じいさんに」 京極の真剣な表情を、小山内はチラリと見上げ、大きくニ、三度うなずく。 「いつ持ってくる?」 「近いうち。……その時は凪も一緒に連れて来る」 「何か買ってやるつもりか?」 図星にグッと詰まりながらも、返事はあいまいにして、一番聞きたいことを口にした。 「前に、ダイヤには微細な刻印があるようなことを言ってたけど……あれ、誰がやったのか見当ついたの?」 「いや……」 「小山内宝石店なら、道具はそろってないか?」 「……何を言わせたい?」 「もしかしたら、裕貴がやったんじゃないか?」 小山内が一瞬目をそらしたのを見逃さなかった。 「根拠でもあるのか?」 「あるよ。……ただその前に、正直に話してほしい」 まっすぐ見つめる俺にひるむ様子もなく、黙々と寿司を食べすすめる。旨い
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-17
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57.色を失くした家

「京極社長はまだ……お帰りではありません」「……そう」明らかに、この女は誰だ?……と、探る視線が這い回るのを感じた。自分から名乗るべきか、つまみっ子倶楽部運営者、汐沢真希の娘だと……「ちょっと、待たせてもらうわね」玄関脇の扉を開けて来客用のスリッパを出し、凪の案内を待たずにリビングへと向かう真美。こんなに大きな家のこと、どうしてわかるんだろう……と思った瞬間、理解した。この家は、かつて京極とこの女性が仲睦まじく暮らした家だった……そう思った途端、家の中から色が消えた気がした。「懐かしい……カーテンも家具も、何も変えてないのね。あの人らしいわ」真美は高い天井からドレープ状にかかるレースカーテンを見上げ、ダイニングテーブルを指先で軽く叩き、ソファの背を撫でていく。「家の中のことより、仕事、プロジェクト……大きなお金を動かして、街づくりに貢献して。人々の暮らしを豊かにする……そんなことに夢中になってたわね」素っ気ない口調から、仕事ばかりの京極に寂しさを募らせていたのだろうと察した。「それとも、私が悩みに悩んで選び抜いた家の中のもの、捨てられなかったのかも!……ねぇ、どっちだと思う?」いたずらっぽい笑顔は、いつか見た写真と同じで可愛らしい……それにしても、さっきから相槌を打てないつぶやきばかりだ。おかしいと思われていないだろうか。「それで?あなたはずいぶんお若いみたいだけど、家政婦は何人?」「あ……いえ、」否定すれば、どうしてここにいるのかを話さなければならなくなる。……まさか、あなたが京極社長からもらったネックレスを母に渡したから今ここにいる、とは言いにくい。京極にも、ネックレスのことは誰にも話すなと言われた。たとえ岳さんであっても、と。だとするなら、私からこの人にこれまでのことを話すわけにはいかない。「……まぁいいわ、コーヒーを淹れてくれる?」黙っている凪を見る目が少しずつ冷たくなった。そして吐き捨てるように指示を出し、真美はソファに腰を下ろす。素直にキッチンに向かう凪の後ろ姿に視線が向けられたことに、凪は気づかなかった。凪の方も、コーヒーを淹れながらソファに座る真美をそっと見つめ、思っていた。大きな窓と優美なカーテンを背に、そこに佇む真美は、この家に馴染んでいると。きっと……窓の向こうに見える中庭には、季節ごとに花が
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-18
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58.涙の理由

「ここへ来た理由は?」 「だから、懐かしくなって」 「離婚して5年、一度も連絡してこなかった君が?」 「……それはっ!あなただって携帯の番号を変えたから……」 「本当に連絡をする気があったなら、会社へ連絡することだってできたはずだ」 凪が見ていておかしいと感じる真美の様子…… せわしなく視線を動かしながら、京極の目は見ない。 「離婚したあと、つまみっ子倶楽部で彼女の母親に世話になったんだってな。その時、何かを渡したろ?」 ごまかせない問いかけに、真美の視線が止まった。 「渡したわよ?……まさか、それを恨んでるの?」 「理由は?どうしてネックレスを渡したんだ」 「そんなの、私にとっては金目のものでしかなかったからに決まってるわよ」 真美は可愛らしい顔を醜く歪め、開き直ったように言った。 凪はとっさに心配になって、隣にいる京極に目をやる。 京極家由来の希少で大切なダイヤをアクセサリーにして、自分には指輪、彼女にはネックレスにして贈ったのに。 離婚の時、返還を求めなかったのは、きっとまだ愛していたからだ。それなのにひどい言い方をされて、彼がショックを受けたのではないかと心配になった。 「借金、もしくは給料の前借りでもしたか?現金が欲しかった君は、ネックレスを預けて真希さんに金を借りた……」 けれど京極は、真美の言葉など素通りするように聞き返した。 少しだけ……ホッとした。 真美はそっぽを向き、答えない。 ため息をつきながらソファに背中を預け、京極はゆっくり腕を組む。 「真希さんが亡くなったのは、4年前。どういう経緯だったかは知らないが、君がつまみっ子倶楽部を去って、1年もしないうちに交通事故で亡くなった」 真美は神妙な表情を隠すように下を向いた。 その目に、涙が浮かんでいるのが見える…… 「真希さんはネックレスを換金していなかった。亡くなる直前、虫の息で、娘である凪に託したんだ」 「どうして……お金にしてしまえば良かったのに。大事にする必要なんてなかったのに……」 こらえきれない涙がとめどなく真美の頬を伝った。ハンカチを出さない彼女に、凪は自分のバッグからハンドタオルを出して渡す。 それは、彼女の涙の本当の理由を知らなかったからこその行動だった。 もしもこの時、真美がすべてを話してくれたら、私もきっと一緒に泣いた
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-18
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59.全部欲しい

真剣な京極の表情が、冗談ではないと物語っている。自分も好きだと言いたいのに、何か言おうとすれば、涙に変わりそうで言葉が出ない。……かわりに、強く抱きついた。胸のあたりに頬をくっつけて、そのしっかりした体に腕をまわし、力の限りぎゅっと抱きしめる。「……ふふ、」京極の優しい笑い声が聞こえた。そして覆いかぶさるように包まれ、自分とは比べ物にならないほどの力で抱きしめられる。……一瞬、息が止まった。「凪、こっちを向いて」やけに甘い声が耳たぶをくすぐり、反射的に見上げると、角度をつけた京極の顔が近づいてくる。自分からもそっと背伸びをして、唇が触れた次の瞬間……「ただいま帰りまスた〜!」ーー新田だ!アニメ映画を見終わったらしい新田が帰ってきた!ハッとして顔を背けようとしたのに、京極の腕の力は緩まない……「あいつは開けてやらなきゃ入れないから大丈夫だ」頬を両手で包まれて、上を向かせた京極は、凪の唇を奪い……さっきとは比べ物にならないほど深いキスをした。「あんれまぁ。誰もいないスかねぇ?凪さん?京極社っ長さん?!」玄関のドアがノックされた。……ということは、門は自分で開けられたということ??凪はキスをやめない京極を押し返す。新田は自分でドアを開けて入って来られることに、気づいていないだけだ!「今夜、部屋に来て」「……は?」「来なかったらこっちから行くからな?」凪の頬にもう一度触れ、キスを落とす京極。「鍵をかけても無駄だぞ?すべての部屋のマスターキーを持ってるのは俺だけだから」結局何も言えなかった凪に対し、京極は不敵で余裕の笑顔だ。……憎らしいが、これが年の差、経験値の違いということか。「はいはい、新田の坊や、今開けるから待ってな」「うぇ……?!新田の坊やっ?!あだ名を付けてもらって嬉しいでス!」ドアを開けるなり京極の胸に飛び込む新田にさえ嫉妬しそうになって、凪は自分の胸を押さえた。3人で食事を済ませ、それぞれの部屋に落ち着いた23時02分。いつもならパーティションを整えてベッドに入る時間だが、部屋に来いと言われたことが頭から離れない。「行かなければ、こっちへ来る。マスターキーを使って……」部屋に行って、何をするんだろう……「待って……!だめ、だめだよ」Tシャツの襟から自分の胸元を覗いて愕然とした。……人前に晒す
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-19
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60.名探偵・凪

「あの……凪?」「わ、私だって、いろいろ準備があるのに……もっと可愛く、したかったのに……」「あぁ……よしよし、ごめん、ごめんな……からかっただけだ。心配するな。君の心の準備もなくどうこうしようなんて思ってないから」京極は突然態度を変え、慌てて凪の上から降りた。そして抱き起こすように腕のなかに閉じ込め、あやすように頭を撫でた。「から……かった?」「あぁ、君があまりに俺を意識して、ガチガチに固まってるから……それが可愛くて、つい……な?」「ひ、ひどいです……!」凪は膝立ちになって京極の首元に抱きつき、その肩に顔を埋めて泣きながら言った。「怖いおじさんに狙われたウサギみたいな気分でしたぁ……!もぅ〜〜っ許しませ〜んっっ!」「怖い、おじさん……?」そっと肩から顔を上げ、涙に濡れた目を京極に向ける。おじさんと言われて若干拗ねたような表情を見て、凪の中に初めての感情が芽生えた。……可愛い。顔を傾けて、京極の唇に自分からキスをするなんて……これまでの自分では考えられない。呆然とした京極の頬が、みるみる赤く染まっていく。……こんな京極を見るのも、初めてだった。しばし見つめ合いながら、京極はふと凪から視線を外し、咳払いをした。「君をここへ呼んだのは、ネックレスの件で話があったからだ」「そうなんですか?……そういえば今日、少し帰りが遅かったですものね。どこかへ寄ってきたんですか?」ベッドを離れ、ソファに座る京極について、凪は向かいのソファに座る。……そんな彼女に何か言いたげな京極。凪は何も気づかず笑顔で話の続きを待った。「小山内宝石店の鑑定士、じいさんの方に会いに行ってた。アクセサリーからダイヤを外す話をしながら、ダイヤに施された刻印は、もしかしたら裕貴がやったんじゃないかって探りを入れてみたんだ」「……京極のお祖父様の手帳に残された文字」「そう。でも小山内のじいさんは、俺のすべての質問に疑問で聞き返しただけ。つまり、何も明かさなかった」「否定も肯定もしなかったということですか。知らないなら知らないって言えば済むのに、それもしないということは……」京極は腕を組んでソファにもたれかかった。「刻印のことを俺たちに話したのはじいさんだ。ネックレスのダイヤが京極家由来のものだと鑑定した、あの日に」凪も鮮明に覚えている。小山内鑑定士が片目
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-19
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