Alle Kapitel von 京極社長は善良すぎる女に飼われたい……2つのダイヤが秘密を暴く: Kapitel 31 – Kapitel 40

83 Kapitel

31.点と点

「昨日のシチュー美味かったなぁ……今日で本当に辞めちゃうの?凪ちゅわん……」 「キモい。オッサンが変な言葉を使うなっ!」 黒石興業でのバイトも最後となった凪に付き添う京極。にじり寄る男たちからそれとなく凪をガードする。 「レシピは岳さんに伝えましたから。きっとまた作ってくれます」 「……岳、さん?」 男たちより先に反応した京極が、凪の腕を引いて部屋のすみに連れて行く。……振り返って男たちを追い払うことも忘れない。 「……どうして岳のことを名前で呼んでいるんだ?」 「それは……そのようにして欲しいと言われまして」 「……君は、頼まれれば誰でも名前で呼ぶのか?」 そうだ、と言いにくい雰囲気ながら、凪は言葉を選んで肯定した。 「恋人に言われたら、やめますけどね……」 壁ドン状態だった腕がだらりと下に垂れた。ひとつ拳で壁を小突き、複雑な表情で離れていく京極。 「凪ちゃん、小麦粉振るったけど、あと何をすればいい?」 「あ……はい!」 岳に呼ばれ、凪は京極の背中を見送りながらキッチンに向かった。 最後のこの日は、翌日から家政婦として採用されている女性への引き継ぎもあり、料理は約束のデコレーションケーキのみ。岳と新しい家政婦さんに手伝ってもらい、ケーキはスムーズに出来上がった。 「短い間でしたが、料理は趣味なので毎回とても楽しかったです」 出来上がったケーキを囲み、凪は黒石興業の社員に挨拶をする。別れを名残惜しむ男たちの涙に見送られ、凪は京極と共に屋敷をあとにした。 門を出たところで、凪は振り返って屋敷に一礼した。バッグの中に、約束した破格のバイト代が入っていて……その金額を思えば頭も下げたくなる。 「え?……黒石一家?」 門の横に、はじめて来た時に見た、小さな表札が無くなっていることに気づいた。代わりに立派な表札が掛かっているが……黒石一家とは? 「ごめん……実は隠してたんだが、黒石興業ってのは表向きの顔でな。実はここ、黒石一家っていう……まあ、そういう団体なんだ」 「冠婚葬祭の葬を担当してるって……」 驚く凪に、京極は頭をポンポンしながらなだめるように笑う。 「ごめんごめん……!京極家と長い付き合いの一家だから心配ないと思ったんだけど、岳がなぁ……若頭の岳が、危険な男でな」 「……若頭、ってことは、極道ってことですか?」
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-04
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32.愛おしい

「見つかったのか……」その返事で、坂戸真美という人物が、京極の元妻なのだと理解した。「いっとき、つまみっ子倶楽部で働いていたらしいです。あまり他のスタッフとは関わりがなかったみたいで、おとなしい人だったんですかね」「は?……真美がおとなしい?」真美、と自然と名前を呼んだことに、なぜか胸がチクッと痛む。まっすぐ前を向いていたので、表情の変化には気付かれない……「にぎやかで華やかで奔放で、どんなタイプの人間にも話しかけるような女だよ。懐に入るのがうまくて社交的。……笑ってごまかすのもうまかったな」「京極社長とは、真逆……ですかね?だから惹かれたのかな」胸の痛みはどんどん強くなった。でも言わずにはいられなかった。「まだ写真はお持ちですか?」「あぁ……。写真を見せて思い出してもらって、真希さんとの間に何かなかったか、調べるつもりか」「……そうですね」やがて車は京極邸に到着した。リビングに落ち着き、凪がお茶の準備をする間に、京極は携帯の写真フォルダを探る。「あったぞ」京極は携帯から目を離さず声をかける。……動く指先は、何枚もある写真をスクロールして眺めているように見える。胸の痛みはもう隠せなかった。……これは嫉妬だ。私は、京極社長の元奥さまに嫉妬してる。名前を呼び、写真もまだ持っているということは、彼の心にはまだ……坂戸真美という女性がいるのかもしれない。「……ネックレス」京極家由来の2つのダイヤを使って、セットのアクセサリーを作ったんだ。ネックレスは妻に、指輪は自分に……その事実だけで、当時の京極が元妻を深く愛していたのだと、凪には思えた。「……凪、聞こえたか?真美の写真が、」「はい、今行きます」紅茶を淹れた2人分のカップをトレーに乗せ、凪は京極の言葉を遮るように返事をしてソファに向かう。「……っきゃ……っ!」「……おいっ、」慌てたのがいけなかったのか、それとも心の動揺が足をもつれさせたのか、凪の手に熱い紅茶がかかってしまった。京極は携帯を放り出して駆け寄ると、凪の手首を掴んでキッチンへ引っ張った。蛇口をひねり、赤くなった手に流水を当てる。右の手の甲と指先が赤くなり、ジンジンした痛みに顔を歪ませる凪に、京極の焦りも一気に高まった。「……病院っ、」「大丈夫です……」「ダメだ!跡になるぞ?……真美も昔同じように、」後
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-05
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33.戻らない夜

1秒……2秒……3…… 唇は触れることなく、ぬくもりは離れていった。後頭部を撫でられ、再び胸元に抱きしめられる。 「……危なかったな」 「なにが、ですか」 「もう少しで食われるところだったぞ?」 とっさに呆然とした表情で見上げると、そこに切ないような複雑な表情の京極がいた。 「あの……」 キスをしようとしたのではないのか、だったらどうしてやめたのか……素直に尋ねようとした次の瞬間、玄関のチャイムが鳴り響く。 「山田だ。救急箱を持ってきたんだろう」 離れていく京極のぬくもり。不意によろけそうになってソファに手をついた。 「あの……大丈夫ですか、凪さん?」 「わざわざ……ありがとうございます。山田さん」 その場で手当てをしようとした山田の腕を取り、凪は真剣な表情で彼女にだけ聞こえるよう伝えた。 「……今夜、泊めてください」 「え……?」 凪は部屋から着替えを持ってきて、右往左往している山田の腕を再び取る。 「京極社長、真美さんの写真、携帯に送ってください。つまみっ子倶楽部のスタッフや利用者さんに、母とのやり取りがなかったか聞いてみます」 「……どこへ行くつもりだ?山田の腕を取って」 「やけどをして1人でお風呂は難しいので、山田さんの助けを借ります。……京極社長は私のお風呂なんか手伝いたくもないと思いますので」 「は……それは、」 なぜか髪をかきむしる京極。 離れていったキスに、実は傷つき心が沈んでいるとは思っていないだろう。 「あとで、メッセージします」 「あぁ、」 ダイヤやネックレスにまつわることについて、京極にも動いてもらいたい事がある。それについてのメッセージだったが、京極の耳が少し赤い……? 「山田、凪はやけどをして熱を出すかもしれない。寝ずに様子を見るように。もし熱が上がったら迷わず救急車。それから俺にも報告しろ」 「か……かしこまりました」 ギクシャクした2人の様子は確実に山田にも伝わっただろう。だが彼女は余計なことは言わずに凪と共に玄関を出た。 ……と同時に、京極がぐったり脱力したとはもちろん知るはずもない。 「色が白いから、赤くなって痛々しいですね……」 凪の髪を洗い、乾かすのを手伝ってくれた山田が、やけどの手当てをしてくれた。 「大丈夫ですよ。これでも結構肌は強いので!」 「……無理し
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-05
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34.君がいない夜 side.京極

「山田……お前、その顔……」「おはようございます。あの……社長?壁に張り付いて驚愕の表情で見つめるのはおやめいただけますと幸いです……」「そう言われてもな。化粧が薄すぎて、一瞬誰だかわからなかったぞ?」久しぶりに1人で過ごした屋敷での夜は眠れず……寝不足の頭を、秘書の山田が覚醒させた。「昨夜、凪さんにメイクテクニックを伝授していただきまして、このようなありさまに……」「凪と、そんなことしてたのか」「ほほほ、羨ましゅうございまひょ?」山田は後部座席のドアを開けて京極を乗せると、笑い声を一段高くして、運転席に乗り込む。そんな彼女の笑い声を聞いて京極は思う。山田は意外とこちらの心理を読むのがうまいと……「凪のやけどはどうだ?」熱を出したり痛がったりしなかったか、傷跡はどの程度か、本当に医者に診せなくて大丈夫なのか、聞きたいことは山ほどあったが。「……それが、ですね……」「なん……だよ」クルリと後ろを向いた山田の表情が、固く真剣なので心配が増していく……「先につまみっ子倶楽部に行って……」「申し訳ありません。朝イチで経営戦略会議が控えておりますので、タブレットの資料をご確認ください」何ごともなかったかのように車は動き出す。こちらからメッセージをしようにも、昨夜送ったメッセージの返信がないと送りづらいのだが。『君がいないと眠れない』しばらく戻らない、と返信が来て……迷った末に送ったひとこと。朝になってやはり気になり、取り消そうとメッセージを開いたら、すでに既読マークがついていて、時すでに遅し。その後、返信は来ない。「……おぉ、めずらしいな。先に来てんのかよ」「あぁ。今日は急ぎの仕事もなくてな」「ない、というより、あるかないかは自分で決められるってことだろ」岳を呼び出した、居酒屋キヨマサ。すっかり夜の帳が下りて、店内にはほどよく酔った男たちが増えてきた。「そうだな。そもそも社長って立場は、現場を仕切るものじゃない。目指す方向を決めて社員に指し示すものだ。……つまらんね」「現場が恋しいか?社長に就任するには、若過ぎたんじゃねぇの?」岳はメニューも見ずに酒とつまみを注文した。乾杯などせず、おのおの酒をすすめる。「京極の家に伝わるダイヤだが……前にここで飲んだ時、気にしてたよな」「あ……そうだったか」京極家と黒石家は祖父
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-06
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35. 知らない嫉妬

「この人が、坂戸真美さんです。……探したら残ってて」 「あ……写真があったんですね」 「えぇ。利用者さんのご家族に渡すために、活動の様子を撮るんですけど……わりと映り込んでますね」 山田の部屋から出勤した朝。凪は小森から数枚の写真を差し出された。 「そう……ですね、とても楽しそうに写ってる」 「凪さんが気にしてたから、長く来てくれてる利用者さんに聞いてみたんですよ!そしたらけっこうおしゃべりしてたみたいで」 同時期に入った明美さんによると、あまり話さない人だったと聞いたが、利用者さんとは円滑なコミュニケーションができる人だったのだろう。 凪の携帯には、京極が昨夜のうちに送ってくれた真美の画像が届いている。 すぐに確認する勇気がなくて、まだきちんと見ていなかったが、小森があっさり見せてくれたその姿は…… 茶色い長い髪をひとつに結び、つまみっ子倶楽部のマークがあるエプロンの下はピンク色のTシャツ。 大きな瞳と口元のエクボが華やかで、親しみやすい雰囲気を感じさせる。 ……そして、とても美しい人だった。 携帯に送ってもらった坂戸真美の画像と、小森が出してくれた写真を見比べてみる。 京極が持っていた画像の方がさらに美しく見えるのは、きっと着ているものとメイクの違いだろう。 ……こんな綺麗な人が奥さまだった。 送られた画像は2枚。 京極の携帯には、あと何枚笑顔の真美がいるのか。……削除しないのが、その気持ちの現れだと、凪は思った。 「……凪さん?聞いてる?」 肩を揺すられて、ハッと我に返った。 「ごめんなさい。……手をやけどして、ちょっと眠れなかったから」 「そうですか……後で少し、部屋に戻って横になったら?」 小森は心配そうに言ってから話を変えた。 「明美さんも写真を持ってたみたいなんです。何か思い出したかもしれないから、もう一度聞いてみたら?」 小森は、坂戸真美が京極の元妻であることは知らない。もちろん、ネックレスの件も京極家のダイヤのことも。 5年前、つまみっ子倶楽部に短い期間在籍したスタッフを、どうしてそんなに気にするのか……理由を聞いてもおかしくないのに、詳しい事情を聞こうともせず、ただ協力してくれる小森に、凪は深く感謝した。 「大したことを思い出したわけじゃないんですけど、当時そういえば、ちょっと気になったことが
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-06
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36.結婚の目的

凪は部屋のドアを出て鍵を閉め、振り返って答えた。「今、戻るところです」「あ……髪が、」横になっていたので、ひとつに結んだ髪が乱れたらしい。それを直そうと手を伸ばした真壁から、とっさに離れる凪。「そんなに警戒しないでよ。……今日は仲直りの印に、食事をごちそうしたいと思って寄ったんだ」「仲直りって……」「婚約解消して、政略結婚は希望通り白紙に戻したろ?でも君のお父さんの会社と、仕事上のつながりは継続してる。そうなれば……今後一人娘である君とも、どんな縁がつながるかわからないからさ」凪が白石物産を継ぐ可能性もあると見ているらしいが、その可能性はゼロだと凪は思っていた。けれど婚約破棄と父の会社との業務提携を分けて考えてくれたことに、正直ホッとしたのも確かだった。……それにこの前は、挨拶もそこそこに帰り、失礼だったと思わなくもない。「わかりました。ご一緒します」「……お?誘ってみるもんだね?!」凪の仕事が終わる時間に迎えに来ると約束して、真壁は帰って行った。事務所に戻り、小森やスタッフに長めの休憩のお礼を言いながら、凪は置きっぱなしにした携帯を覗いた。……特別どこからも連絡は来ていないようでホッとした。いや、嘘だ。わずかに、京極からメッセージが入っているのではないかと期待した。メッセージアプリのトーク欄を開いてみれば、そこには昨夜もらった京極からのメッセージで終わっている。『君がいないと眠れない』返信を返していないのは自分の方なのに……「今日は、どうしよう」真壁と食事に行った後、また山田の家に戻るべきか……それとも、京極に返信をして今夜は帰るというべきか。「もしくは自宅に帰るべきか……」考えているうちに、帰りの時間を知らせる音楽が鳴り出す。「凪さん!お願いします」「……はいっ!」小森が顔を覗かせ、凪は大きく返事をして事務所を飛び出した。「さぁ〜!今日も楽しく過ごせたかな?1日に感謝して、バイバイ体操はじめるよ!」笑顔で踊りながら、今夜は京極の家に帰ろうと心に決める。……母と真美がつながったことは報告しなくては……「……乾杯」約束の時間になり、サバンナビルディングのエントランスで真壁と落ち合った凪。いつもの派手な赤い車ではなく徒歩だったので驚いた。到着したのは落ち着いたイタリアンレストラン。「……車じゃ警戒されるか
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-07
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37.陥落

「今、どこ?」「え……っと」着信は京極からだった。なぜか焦ったような口ぶりで聞かれ、凪もつられて焦ってしまう。……別に、悪いことしてないのに。「今、真壁さんと食事をしていて、最寄り駅の近くにいます」「……真壁と?」「はい、変に思われるかもしれませんが、」凪はここで一旦言葉を切って、視線を彷徨わせる真壁に目配せをして席を立つ。彼は気にせずヒラヒラと手を振った。……結構酔っているように見えるが、大丈夫だろうか。真壁が見える離れた位置に移動して、凪は再び携帯を耳に当てた。「今日、小森さんに寝不足を見破られて、ちょっと自宅で休んでたんです。そしたらその間に真壁さんが訪ねてきて……」「自宅で?……寝不足?」「あぁ……そこはどうでもよくて」声にイラ立ちを感じて、凪はとにかく真壁との食事が終わったら帰る、と伝えた。「迎えに行く。店の名前は?」「……今からですか?!」「なんだよ。早すぎるってか」仕方なく店の名前を教えると、短く返事をして携帯は切れた。まぁ、そんな意図はなかったが、真壁はネックレスについての新情報を喋ってくれたわけだし……そういつまでも一緒にいるような間柄ではない。「真壁さん、私そろそろ……」財布から5000円札を出してテーブルに置くと、真壁は慌てて凪の手を取った。「バカだな。年上の男との食事だぞ?当然奢りに決まってるだろ」「そういうわけにいきません」「……固いね、凪はそういうところを変えた方がいい。首を傾げて笑ってりゃ、男なんて皆、君に貢ぐのに」凪はそう言われてフッと笑った。「貢いでくれる男なんていりませんよ。私を対等に扱って、信頼関係を築ける男性と出会いたいです」「……京極社長は、そういう人?」ワイングラスを掲げながら、口元を緩める真壁。……冷やかされているようで、頬が熱くなる。そんな凪の頬に彼の指先が伸びてくることに凪は気づかない。「そ、そんなこと、関係……」「そう。俺たちは信頼関係で結ばれた最高のバディだ」関係ない、と言おうとして……京極が凪の言葉を遮り、真壁の手を払い除けた。わずかに息を弾ませているのがわかる。そんなに急いで来たのか……「……はや、いですね」「飛ばしてきた。2人きりにしておきたくなかったからな」どうしてそんな、と言おうとして、京極の手が肩にかかったことに気づく。……いわ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-08
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38.手放すはずが……side. 京極

人生最大の失敗をやらかした…… 「そもそも、電話をしたタイミングが悪かったのか……?」 久しぶりの休日。 京極は、祖父と暮らした屋敷にやって来た。 「仕方ないよな。……メッセージの返事がなくて、どうしても気になったんだから」 かつては使用人が開けてくれた大きな門を自分で開け、車を中に乗り入れた京極は、正面玄関を通り過ぎて庭へ回ってみる。 定期的に入っている庭師によって、きちんと手入れがされていてホッとした。 じいさんは、2階の書斎からこの庭を眺めるのが好きだったな…… 庭に置いてある椅子に座り、テーブルに肘をついて考え込む京極。 「……謝ったのが良くなかったのか」 真壁と一緒にいると聞いて頭に血がのぼった。かつて毛嫌いしていた元婚約者と、どうして食事に行くんだ?……何より、あいつはネックレスについて何か知っている。それなのに2人きりだと?……冗談じゃない。 何も考えずに車を走らせ、店に横付けした。 ドアを開けた自分にスタッフが寄ってくるのも気づかず、凪だけを探した。 砕けた様子の2人の雰囲気が、まず気に入らない。もっと警戒心を持てと、説教してやりたくなる。……自分だって有無を言わさず同居させて、同じ部屋に寝かせているくせに。 頭の中で交差する常識的な自分とそうではない感情的な自分を整理できないまま、凪を真壁から引き離した。 そして……気づいたらキスをしていた。 夢のなかにいるようだった。触れ合えたことが嬉しくて……30代も半ばになって、胸があんなに激しく高鳴るとは……理性が離したくない気持ちに負けて、思ったまま口に出してしまった…… 『凪の唇は俺のもの……』 アホなのか俺は……?何さまのつもりだ?……あの夜に戻れるなら、自分の横っ面を張り倒してやりたい。 「愛した女に離婚を突きつけられて、そのキズを癒すために女を求めた俺のような男、凪に相応しくないのに……」 汐沢凪という女性がどんな人物か理解してからは、距離を置いているつもりだった。……彼女のために。ネックレスの謎さえ解けたら、手放すはずだったのに。 キスに浮かれていたのはその夜だけだった。 家に連れ帰ったものの、凪は広すぎて眠れないと言っていた自室に戻り、そっと確認してみるとウォークインクローゼットで眠っていた。 自分で自分がやらかしたこととはいえ、もう安心できる
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-08
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39.3つ目の表情

「社長は離婚後、確かに女性関係が荒れている時があったんです」休日……山田からランチに誘われ、都内のおしゃれなカフェにやって来た凪。広々とした店内には客もまばらで、2人は窓側のソファに案内された。「そうなんですか。京極社長みたいな人なら、遊ばれてもいいって思う人がいるのかもしれませんね」「そうなんですよ!私からしたら信じられないんですけど……って、ごめんなさい」「いえ……」そこへスタッフがやってきて、凪の前に野菜がたっぷり盛られたハンバーグプレートを運んできた。何を食べるかなかなか決められない凪に、山田がすすめてくれた料理だ。続いて山田の前には重箱のような箱が置かれた。……普通ならうな重でも入っていそうだが、どうやらそうではないらしい。「このカフェ、ボリュームもあって美味しくて、ちょっと変わってて大好きなんです!」「確かに、お重って変わってますね」蓋を開ける手もとを覗き込んでみれば、平らにならした白米の上に、海苔が市松模様に敷き詰められている……「え、のり弁……ですか?」まさかこんなおしゃれなカフェで、そんなシンプルな弁当に出会うと思わなかった。やや目を見開いて尋ねる凪に、山田は笑顔になる。「ここ、ちょっとだけ裏通りだからお昼時も混みあわなくて、ちょっとした穴場なんです!」「いえ、のり弁なんですか?って聞いたんですけど……」……なんだかもう笑ってしまう。実は、京極とキスを交わした翌日、謝罪されたことが凪の心に引っかかっていた。彼にとっては、謝らなければならないほど後悔する出来事だったのだろうか……ずっと気持ちが塞いでいた。「あの……京極社長は凪さんに出会ってみるみる変わりましたよ?」「そうなんですか?」「はい。もし……社長との間に何かあったとしても、落ち込んだり考え込んだりするのは社長も同じです。実際、最近の社長はおかしいので」山田は市松模様の白米に箸を入れた。すると中から肉や野菜の料理が出てきて驚いた……「それ、ご飯でおかずを挟んでるのり弁なんですか?」「そうなんです!からあげとハンバーグと筑前煮が隠れてるんですよ!」山田は嬉しそうだが、潰れてしまう分、上に乗せたほうがいいのではないかと思う凪。「……確実にご飯とおかずを一緒に食べられるからいいですね!」「そう!そこなんです!わかってもらえます?!」理
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-09
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40.丸めて捨てた恋

京極が指し示した名前には、凪も記憶があった。 「小山内裕貴……小山内鑑定士のお孫さん、でしたっけ?」 凪は難しい表情でうなずく京極に、思いつくまま言葉をぶつける。 「確か、京極社長が連れて行った女性の指輪、サイズを直して出来上がってるって言ってましたよね。……その後、取りに行ってちゃんと渡しました?」 「あーーーーーーーー……」 言葉の途中で声を被せてきたが、負けずに最後まで言ってやる凪に心が折れたのか、手帳のページを前に戻す京極。 「この、京極Dとは、ダイヤのことだと思うんだが……」 「そうかもしれませんね……それにしても、」 凪はページを押さえる京極の手の甲をペシッと叩き、もう一度ページをめくる。 「……裕貴さんの名前の横のこれ、なんでしょう?」 そこには、加工……と書いてあった。 「加工……か。ダイヤを指輪とネックレスに加工したことを指してるのか?」 「でも、それならどうして裕貴さんのお名前が?」 「……そこなんだよな。加工したのは、じいさんである小山内さんのはずなんだが……」 京極は手帳に視線を落とし、しばらく考え込んだ。 「小山内さんが言ってたろ?ダイヤそのものに細工がされているって」 「文字のような刻印があるっておっしゃってましたよね。特殊な光を当てないと読めないかもしれないって」 「そうだ。京極Dをダイヤだとして、依頼と受け取りの日付……祖父の手帳なんだから、祖父が依頼して覚え書きしたと考えるのが自然だ」 「そうですね。……でもどうしてダイヤに文字なんか?」 「さぁな。わざわざ読めないような細工をしたんだ。何か意味があるんだろう」 もう一度手帳をパラパラと見つめる京極。凪も横から覗き込む。 日付が印刷されていないその手帳は、メモをするたびに自分で日付を書くシンプルなもの。他に書かれているメモの日付は確認できたが「京極D・依頼・受取り」のメモに書かれた日付はこすれてよく見えない。 それほど何度も見返していた?……何かを書き残そうとしていた? 「裕貴の名前だけがわからんな……どうして名前を書いたんだ?」 「依頼したときに、対応してくださったとか?」 「……そうかもしれないけどな」 手帳をしまったので、京極からの話は終わったとみた凪。 真壁から聞いた話をしようと思いながら、必然的にキスをした夜のことが
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-09
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