Alle Kapitel von 京極社長は善良すぎる女に飼われたい……2つのダイヤが秘密を暴く: Kapitel 41 – Kapitel 50

83 Kapitel

41.三度の驚き

「凪さん、実はちょっと、話があるんですけど……」「小森さん……どうしたんですか?」京極と、ネックレスについての新情報を披露しあって数日が過ぎたある日のこと。小森がいつになく神妙な表情で凪に声をかけた。「……ちょうどお昼時だし、下の中華料理店にでも行きますか」サバンナビルディング取り壊しのニュースが入った時は動揺していた店主も、今はすっかり落ち着きを取り戻し、笑顔で出迎えてくれた。ラーメンとチャーハンを注文し、凪は小森の話が始まるのを待つ。「……実は田舎の母が事故で骨折してしまってね」「え……?!」思いがけない知らせに血の気が引いた……母が事故に遭ったと知らせを受け、病院に駆けつけた4年前がよみがえる。「一人で暮らすのは難しくなりそうだから、僕がそばにいてやろうと思うんだ」「それはもう……もちろんです。こちらのことは心配せず、明日にでも帰ってあげてください」「はい。……急で本当に申し訳ない」介護士としても人としても頼れる小森が、つまみっ子倶楽部を去ってしまうのは、凪にとって大きな痛手だった。なにしろ、母が開設した当時からのスタッフだ……母の事を話せる数少ない人が離れていくなんて。凪の心に深い悲しみが広がる。「……あとね、先に僕から報告したほうがいいと思うから話すんだけど」別件だとしながら、小森が頬を染めて話した内容に……凪は声も出ないほど驚いた。「小森さん、いろいろあったみたいだね。餃子で精をつけてよ!」食べ終わって店を出ようとした2人に、店主が親しげに声をかけ、美味しそうな焼き餃子のパックを小森に差し出した。「えぇ?本当に?嬉しいなぁ……」小森は店主に握手を求め、これまでのお礼をのべた。「僕がいなくなる分、困った時は凪さんを助けてやって」小森の言葉に涙を浮かべた時だ。店主はふと思い出したらしい。「そういやさ、いつだったか……ここにお宅のこと聞きに来た人がいたんだよね」店主がポン、と手を打って話しはじめた。「つまみっ子倶楽部のことですか?」「そうそう。何時頃までやってるのか、とか……あと運営者について、凪ちゃんのことをさ」「……私?」店主によると、その人物は初めて店にやって来たお客だという。「小綺麗なスーツを着た年配の男性だよ。……汐沢さんって人がお母さんの後を継いでやってるってことと、夜の7時頃までは誰かし
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-10
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42.新しい風は津軽から

京極はひどく機嫌が良かった。「まさか、はじめから2人をくっつける魂胆だったんですか?」「…………あっ?」京極はカレーを食べる手を止め、目線を泳がせた。……なんだか変なリアクションだと思いながら、中華料理店で結婚を打ち明けてくれた小森の表情を思い出し、凪の表情は明るくなる。「だとしても……小森さんについていくことにしたんですね。……山田さんってカンが鋭そうだから、小森さんに運命を感じちゃったのかなぁ」「小森さんはすぐについてきて欲しいとは言わなかったらしいぞ?」「そうなんですか?」すんなりと話がまとまったような口ぶりだったが……さすがに山田さんのキテレツぶりに少しは悩んだのだろうか。「山田には社長秘書という仕事があるからな」「……あっ!そうかっ!」「凪、完全に忘れてただろ?……ああ見えて山田は、俺が社内で信用する数少ない部下だ。そして変人ではあるが、仕事はできたし頼りにしていた」京極は食べる手を完全に止め、思い出を辿るように視線を彷徨わせる。「……もしかして、寂しいんですか?」「というより……」テーブルに両肘をついて身を乗り出し、京極は凪にまっすぐな笑顔を向けた。「ホッとした!山田の良さをわかってくれる男がいて良かった!……教え子を嫁に出すような気分だな」「……出た!京極先生!」凪の言葉に声を上げて笑う京極。……こんなに嬉しそうな笑顔は初めて見る。内心、凪は思った。京極李仁という人は、自分が思うよりずっと、愛情深い人なのかもしれないと。ところが、そんな京極の笑顔が再び複雑になる出来事は、間近に迫っていたらしい。それから2日ほどが過ぎ、ひとまず3日間の予定で帰省することになった小森。引っ越しと母親の介護に加え、結婚まで決めたので相当バタバタしている。「まずは骨折した母を助けながら、山田ちゃんとの結婚を報告します。その後……こっちの住まいを片付けて、彼女のご両親に挨拶に行って……あぁっ!めっちゃ忙しい!」「つまみっ子倶楽部のことは本当に心配しないで、自分の体調にも気をつけてくださいね?!」「そうですね!それではとりあえず……行ってきます!」スタッフや利用者に見送られ、ドアを出ていこうとした小森……何やら思い出したように凪のそばへ戻ってきた。「そうそう、僕が紹介した介護士、名前は新田耕平くんといいます。……夕方にはこっ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-10
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43.厄介な男

「……小森さんとは高校生の時のボランティア活動で知り合ったんですね?!」「そうなんス。小森さんはわたスに、弱き人を助ける尊さを教えてくれた人なんス」履歴書を確認する凪に、新田は小森との出会いを身振り手振りで語ってくれた。その話があまりにコミカルで、しかも小森らしさにあふれていて、凪は思わず大笑いしてしまった。「……というわけで、わたスは怪しいもんじゃないとわかってもらえまスたか?」「もちろんです!とても楽しい方を紹介していただけて、嬉しく思います」凪から握手を求め、笑顔で応じる新田。……その瞬間、ドンッと変な音がして、辺りを見渡す2人。先に出入り口を確認した新田が、足元から少しずつ目線をあげ、つぶやいた。「……あれれ、どうしたんだべか、」明らかに誰かいるのだと思った凪も、慌てて確認しに行く。脳裏に浮かぶのは、数日前小森と一緒に行った1階の中華料理屋の店主の話……凪のことを探るような人物が現れたと言っていた……「……え?!」開いたドアの向こうには、眉間にシワを寄せ、赤面した京極が立っていた。「……別に、立ち聞きしてた訳じゃないぞ?」「わかってますよ。来たなら普通に入ってくればいいのに」「……あのぅ」コーヒーを淹れて2人の前に置く凪に、新田が首を傾げ、はてな顔で口を挟んだ。「……この方は、凪社長の……おとう、いや……兄さんかなんかで?」「……やだ!新田さん、社長なんて呼ばないでくださいよ!」「先に否定するのはそこじゃないだろ?」照れる凪と不機嫌になる京極。新田は素直な笑顔になり、頭をかきながら続けた。「いや、兄さん……えらいカッコいいスから!美人の凪ちゃんと似てるなぁって!」「……急に凪ちゃんかよ?距離感ぶっ壊れてんな」「アハハハ!よく言われるス……!」嫌味が通じない晴れやかな新田の笑顔を見て京極は思った……こういう奴は厄介だと。「本当に、1人で大丈夫ですか?」「はい!これがありまスから!……そりでは明日から、よろしくお願いしまス!」新田は、今どきそんなものが売っているのかと思うような大きな地図をヒラヒラさせながら立ち去った。心配そうに見送る凪の横で、京極はスラックスのポケットに両手を突っ込む。「ハンナベリーホテルだろ。超有名なホテルだから絶対にたどり着ける」「でも……一泊いくらするんですかね」「さぁな」
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-11
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44.社長の誤算 side.京極

「本当に、いいんですか?」 思わず言ってしまった言葉に、凪は思いのほか嬉しそうな反応を示した。 「いいさ、別に……1人も2人も変わらないからな」 「ありがとうございます!……ここからなら駅まで歩いて電車に乗っても近いし、少しの間だけでも置いてもらえたら、仕事をしながら物件探しができます!」 もう一度元気に「ありがとうございます」を繰り返し、スキップして玄関に向かう凪の後ろ姿を、京極は目を細めて見つめる。 まぁ、いくらこちらが部屋を貸すと言っても……見知らぬ人の家に平気で上がり込めるかどうかはあの津軽訛りの男次第。 「遠慮する可能性だってあるわけだ……」 ……それより京極には、どうしても気になることがひとつだけあった。 その話を口にしたのは、翌朝、山田が迎えに来た車の中でのこと。 「山田……」 「はい!?……先ほど終了した早朝会議の結果であれば、間もなくタブレットに共有され、確認できますが」 「いや、それは出社して確認する」 「かしこまりました」と返事をした山田が、バックミラー越しにこちらを窺っている。……意識して姿勢を正し、ミラー越しに山田と目を合わせると、ハッとしたように目をそらされた。 「なんだよ。あからさまにそらすんじゃない」 「はぁ。でも少し様子がおかしいので……こういうときは触らぬライオンに祟りなしです」 「またお前はそういう……」 まぁいいや。ライオンでもヒョウでもなんだってかまやしない。ただ……ひとつだけ山田に聞きたいことがあって声をかけたのだが、聞けないまま話がそれてしまった。 「とりあえず3日間の予定で小森さんは実家に帰ってるそうだが……山田は次の帰省で一緒に行くんだろう?」 「はい……そうなります。すみません、本当に急で」 「……小森さんは後任の介護士を紹介したらしいな?」 小森という名前を出しただけで、バックミラーに映る山田の目尻がだらしなく下がるのがわかった。……それをチャンスと見た京極は、山田にしか聞けないことを口にする。 「その後任の介護士に、初対面で凪の父親に間違われてな。……俺はそんなに老けて見えるか?」 「は……?!お父さんですか?」 「途中で兄さんに変えてたけどな。……おとう、まで言ったから、あれはお父さんと言いたかったんだと思う」 バックミラー越しに遠慮のない視線が突き刺さる…
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-11
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45.墓石を背負った男

「2階の和室を使え」差し出された新田の手を指先で軽く握り、放り出すように離すと、京極は凪の背中を軽く押してリビングへと向かう。「ありがとうごぜぇまス!」新田は振り払われた自分の手を笑顔で見つめると、何事もなかったように、京極の背中に向かって頭を下げた。……そしてかけ声と共に荷物を背負う。「あ、1人じゃ重いでしょう」2階へと上がっていくヨロヨロした背中に、凪が心配そうに声をかけた。「……大丈夫だろ、自分で持ってきた荷物だ」「そんなこと言って……部屋の場所もわからないんですよ!」「和室はひとつだけ引き戸だ。扉にはいかにも和風の梅の花が彫ってある!……誰が行ってもひと目でわかるわ!」語気を強める京極をなだめるように笑い、凪は荷物を背負って左右に揺れる新田へと駆け寄りながら振り返った。「京極社長、お腹すいたんですか?……荷物運んだらすぐに作りますから、残りの荷物を持ってきてあげてください!」「……なんで俺が?」不機嫌になりながらも、つい言われた通り新田の荷物に手をかける京極。…………ところが、京極が持ち上げようとした荷物はびくともしない。眉間に深いしわが刻まれ、次の瞬間、怒声が響いた。「新田……!お前田舎から何を持ってきた?石でも持ってきたのか?!」「あ、はい!そうなんでス、恥ずかしいでス……」赤面する新田に、さすがの凪も呆れて口をポカンと開けた。「本当に、苦労かけまスた。新田家の墓を守るもんがいなぐなるとご先祖さんも寂しいど思っで……持ってきたんでスけど、」「……墓石を持ってきたのかっ?!」「はい……墓じまいで引き取った石でス」異様に重い新田の荷物の正体に驚愕しながら……3人はようやく食卓についた。京極と新田には先に入浴を済ませてもらい、凪はその間に夕食を準備。今夜のメニューはキノコの炊き込みご飯と銀ムツの煮魚、ほうれん草のおひたしと豚汁だ。「トレーニング以外で俺にあんなに重いものを持たせるとは……しかも墓石……論外だな」京極の前に座った新田は、ご飯茶碗を手に固まる。「はぁ……お詫びに、凪ちゃんの風呂さ終わっだら、心を込めて風呂掃除をさせていただきまスんで……」「凪の風呂のあとで?……お前、別の魂胆があるだろ?」「京極社長!変なこと言わないでください!」京極の隣で、凪がその腕をパシッと叩く。「魂胆なんでとんでもね
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-12
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46.謎の着信 Side.京極

「京極社長!おはようございまス!今朝はおらが朝食を準備させてもらいまスんで……!」 「あぁ。変わったものは作るなよ」 ……昨夜はよく眠れなかった。 昔から睡眠不足は体調に響く体質だ。こういうときに慣れないものを食べるのは危険だとわかっている。 「変わったもんなんで、作りゃしませんでス!」 たった1日だが、新田の性格はそれなりに理解した。 京極はタブレットを開きかけて、キッチンに立つ新田のそばに行った。 「何を作ろうとしてる?」 「うちの田舎につだわる、精のつく料理だス!裏山で採れたキヤの子を干して、イノシシの肉と一緒に炊くんでス!」 「イノシシはいいとして、そのキヤの子ってのはなんだ?」 水を張ったボウルの中で、正体不明の何かが戻されている。その黒い見た目は、キクラゲや干し椎茸に見えなくもないが…… 「それは……おらにもよくわかんねだス!」 頭をかきながら照れくさそうに言う新田の背中を小突き、京極は天を仰いだ。 この純朴でキテレツな田舎者に冷たくすると、凪に冷たい態度を取られてしまう。それだけは避けたかった。 「……キヤの子が何なのか、まずは調べろ」 京極は新田の背中を押してキッチンから追い出すと、脱がせたエプロンを自分の腰に巻いた。謎の食材を冷蔵庫に押し込み、代わりに取り出したのはベーコンと卵。……ベーコンエッグくらいなら、自分にも作れる。 すると凪が慌てた様子でリビングに入ってきた。なんだかチグハグな上下と寝起きの顔、ボサボサの髪…… 「あぁっ、ごめんなさい!寝坊しちゃって、私……」 「いいから、落ち着いて用意を、」 「あ!髪結ぶんでス?……子供の髪をよくやってたから、おらが結んでやりまス!」 京極の言葉にかぶせるように新田が言った。凪も彼の言葉しか聞こえなかったようで、新田について行ってしまう。 ……ベーコンエッグのそばを離れるわけにいかず、京極はその場で腕を組み、2人の後ろ姿を見送った。 ……凪と新田の姿が消え、静かになったキッチンで、京極はふと昨夜の電話を思い出した。 凪を下心なく寝室に誘ったのに撃沈して1人ベッドに入り、明かりを消そうとした時だ。 携帯が着信を知らせた。 山田が遅い時間に連絡してくるとしたら、それは緊急事態だが……今はうちが扱っている案件にそんな心配なものはない。 しかも……携帯の画
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-12
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47.名刺に残された番号

「……山田さん、寂しくなります」「凪さん、短い間でしたが、仲良くなれて嬉しかったです……」その後数日が過ぎ、山田と小森が彼の故郷へと旅立つ日となった。2人そろってつまみっ子倶楽部に挨拶に来てくれて、凪と山田は涙ぐんで抱きしめ合う。「結婚式はうちの方になっちゃうから少し遠いけど……必ず来てくださいね」「もちろんです……!2人の晴れ姿を見られる日を心待ちにしていますからね」見送るスタッフと握手を交わす2人。後ろの方で新田のすすり泣く声が聞こえる……「そうだ、凪さん……京極社長の次の秘書なんですけど、あんまり気にしない方がいいですから」「え?」聞き返そうとしたが、時間がないと言って慌ただしく行ってしまった。気にはなったが、凪はそれ以上気にしないようにして、仕事に戻った。……その夜のことだ。「凪さん……ですよね?」新田と一緒に帰り支度をし、つまみっ子倶楽部を出たところで、凪は見知らぬ男性に呼び止められた。「真壁です。息子を紹介するのに一度だけ会いましたよね。……お忘れですか?」「あっ、この度は……」真壁との結婚を断ったことを、その父親になんと言えばいいのか、とっさに迷った。「いいですよ。うちの息子に魅力を感じなかったということでしょ?……まぁ、好みというものもありますからね」皮肉を言われていると感じた。真壁は涼し気な整った顔立ちで、誰が見ても好感を抱く人だと思う。……目の前の父親は、いかにも「どこが気に入らないんだ?」と聞きたそうだ。「……わざわざこんなところまで、何かありましたか?」まさかそんなことが言いたくて来たわけではないだろう。凪は新田より一歩前に出て聞いてみた。「ちょっと聞きたいことがありましてね。良かったら食事でもごちそうしますよ」「……それは、どのようなお話でしょうか?」「息子とあなたの、今後のことについて少しね」そう言われては断るわけにもいかないが……新田を京極邸に連れて帰らなければならない。「今夜急にはちょっと……明日でもよければ、私から御社に伺いますが」「もしかしたら……お邪魔でした?」新田のことを新しい恋人とでも誤解したのだろう。口元に嫌な笑みを浮かべて聞かれた。「まさか、彼はうちの新しいスタッフで……」「そうでスっ!……おらたちは、れっきとした社長と従業員だス!凪さんにはもっと立派な恋人
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-13
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48.きらびやかな社長室

「……面白いな」「何が、ですか?」「息子との結婚が破談になった女に、わざわざ父親が会いに来る。そのうえ、俺の携帯番号まで調べている」京極は携帯をテーブルに置き、凪を見た。「明日、俺も行く」「えっ? 一緒にですか?」「あぁ。俺にも聞きたいことができた」翌日、約束通り真壁コーポレーションへ向かった。社長室に通された凪の隣に京極がいるのを見て、真壁は一瞬……驚きの表情を見せた。「これはこれは……思いがけない方がご一緒ですな」「京極REAL ESTATEの……京極です。御社の噂はあちこちで耳にしていますよ」「恐れ入ります。……真壁と申します」名刺交換をする2人を一歩下がって見つめ、凪は通された社長室をそれとなく見渡した。「どうぞおかけください」促されて腰を下ろしたソファは、ふわりと包み込むような柔らかさなのに、体を沈めすぎず座り心地がいい。すると一瞬遅れて座った京極が言った。「|Caschelant《カッシェランテ》ですね。相変わらずいいものを作っているようだ」「おわかりになりますか?さすがは京極グループの方ですね」……どうやら高級な家具メーカーのソファらしい。名前からして海外だと思いながら、凪はさらにあちこちに目をやる。壁にはどこか見覚えのある絵画が飾られ、サイドボードにはきらびやかなグラス。真壁コーポレーションの社長室には、芸術的価値の高いものや高価な調度品や家具で埋め尽くされているように見えるが……なぜ白石物産に資金援助までして事業提携をしたのだろう。この部屋を見れば、真壁社長がどれほど成功しているのか、誰にでもわかる。凪は以前にも抱いた疑問を思い出しながら、目の前の真壁に視線を戻した。「それで今日は私に、どんなお話があるのでしょう?」コーヒーを持ってきた社員を見送って、凪のほうから問いかけた。「それはまぁ、息子にあなたとの結婚が破談になったと聞いたものの、私のほうが諦められなくてね……白石物産とも約束通り事業提携して資金援助をした。……あの子のどこを直せばもう一度結婚を考えてくれるのか、聞いてみたかったんですよ」「それは……父の会社のことは、娘として感謝しております。でも会社と私の結婚は別の話であり、そのうえで価値観の違いをお互いに認め、雅人さんには結婚の話を白紙に戻すことで納得していただいております」「価値
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-13
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49.雨に隠した恋心

「京極さん、あなたに話して解決することなんて、何も……ありませんよ」真壁がぐったりソファの背に寄りかかった。落ち着きなく彷徨っていた視線が、力なく足元に落ちた。ソファに沈み込んだ体からは、すっかり生気が失われている。「凪さん……あなたも、数奇な運命を背負いましたね」虚ろな目が凪に向けられた。先ほどまでとは別人のような真壁の姿に、背筋が冷たくなる。それでも、聞かずにはいられなかった。「母について、何か知ってるんですか?」「いや……」直前までネックレスの話をしていたことから、母に関連することを言っていると思ったが、真壁は即座に否定し、それ以上何も言ってくれなかった。「明らかに様子がおかしくなったよな」「はい。京極社長がネックレスは京極家由来のものだと認めてから……ですかね」「真壁社長はどこかで俺の携帯番号を聞いて、ネックレスのことを聞きたいと接触を試みたんじゃないのか?」社長室を追い出されるようにして駐車場へと戻ってきた2人は、車に乗り込みながら不可解な真壁について話し合う。「そもそも、どうしてネックレスを探してたんですか?真壁社長にとって、何か意味のあるものだったんですかね?」「手に入れて換金するなんて短絡的な話じゃないよな。……だとしたら、」言い淀む京極の顔を覗き込み、凪は次の言葉を待つ。「真美かもしれない。贈ったものだから離婚しても返還は求めなかったからな。高価なネックレスを持っていることで、逆に何かトラブルに巻き込まれていたのか……」「どうして、返してもらわなかったんですか?……京極家に伝わる大切なダイヤを使ったネックレスだったのに」聞きたくない答えを覚悟しながらも、聞かずにはいられなかった。凪は表情を悟られないようまっすぐ前を向く。……暗い空に雷鳴が低く響いた。「まぁ、結婚して家族になった女だったしな。正直に言えば、俺と別れた後……生活に困ったら売却して金に変えてもいいと思っていた。……京極家のダイヤは2つあるし、ひとつはそうやって一族の手を離れてもいいと勝手に考えていたわけだ」凪の脳裏に、いつか見た真美の写真がよみがえった。あの可愛らしい笑顔が、この人を癒したことも多かったはず……凪は運転席の京極を見つめた。「……愛していたんですね。とても、深く」「過去の話だ」昔を思い出すような京極の横顔。車は信号で停ま
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-14
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50.ベッドまでの距離

「泣いてませんよ、ちょっと雨が吹き込んできて顔に……」「窓は開いてないぞ」凪は心配そうな京極の視線から逃れるように、携帯を取り出した。そしてこの後の天気について調べると、わざと絶望的な声で言う。「雨はしばらくやみそうにないですね……車は置いて、電車で帰りますか?」「アホか。電車だって下手すれば止まってる」「そっか……困りましたね」京極はしばらく凪の顔を真剣な表情で見つめ、その後ダッシュボードや後部座席に手をやる。……何か探しているようだが、どうしたのだろう。「傘が役に立つかはわからんが、とりあえず2つある。……そこを入った高台の脇道なら邪魔にはならないから、車を降りて歩くぞ。その先に、ホテルが見えるだろ」京極の視線の先に、確かに看板が見える。……いわゆるラブホテルのようだ。「このままだと車が浸水するかもしれないし、車で帰れない可能性だってある。雨の勢いも変わらないしな」「そう……ですね」「……ほかに選択肢がないから行くんだからな?変な意味じゃないぞ?」京極は念を押すように言ったが、凪には、なぜか自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。確かにこの場合、仕方がない。京極に気持ちはないと悟ったばかりなのに、まさかの泊まりになるなんて。凪は差し出された折りたたみ傘を大雨の中で開きながら思っていた。……部屋がニつ空いているといいな、と。「あの……私の部屋は?」「……ここだけだ」「え? 二人で一部屋?」「……そういうシステムだ」到着するやいなや、京極は入り口に設置してあるタッチパネルの中で、一番広そうな部屋を素早く選んでキーを受け取った。他に客はいないが、いくつも並ぶ部屋の写真のほとんどが暗くなっていて、部屋は埋まりつつあるとわかる。エレベーターに乗り、部屋を開けて凪を先に入れると、京極は「……あー、」と言ってこめかみを押さえる。「ベッドが、丸いですね……そして鏡が多い……」「それを言うな」『そういうこと』をするための部屋だということは、ドアを開けてから理解した凪。実際に入ったのは初めてだが、友達から話は聞いたことがある……「ごめんな。……こんな部屋で」京極は立ち尽くす凪の頭にポン、と手を置いた。「いえ……非常事態に近かったんですから仕方ないです。……それと、安心してください。私、襲ったりしませんので!」少し疲れ
last updateZuletzt aktualisiert : 2026-10-14
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