All Chapters of 夫と愛人に保険金目当てで殺された私は、別人としてよみがえり復讐する: Chapter 91 - Chapter 100

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話したいこと

「誰が、何を話すんですか?」 千紘が尋ねても、芹奈は答えなかった。 テーブルの上のグラスに触れ、視線を落とす。「……例えばの話です」「例えば?」「事故だと思われていたけど、本当はそうじゃなかったとして。そのことを知ってる人が警察に話したら、信じてもらえるのかなって」 千紘は慎重に言葉を選んだ。「話の内容によるんじゃないですか?」「証拠がなくても?」「私に聞かれても分かりません。でも、いつ、どこで、何があったのかを具体的に話せるなら、少なくとも話は聞いてもらえるんじゃないですか?」 芹奈は黙り込んだ。 千紘は追及したい衝動を抑えた。 ここで「あなたは何を知っているの」と迫れば、芹奈はまた逃げるだろう。「相沢さん」「はい」「もし何か知っていて、それを話したいと思ってるなら、私じゃなくて警察に相談した方がいいと思います」「……そうですよね」「私に話しても、できることはほとんどありませんから」 芹奈は小さく頷いた。 その表情には、これまで凛に向けていた敵意も嫉妬もなかった。 ただ怯えているように見えた。     ◇「雨宮さんは」 しばらくして、芹奈が口を開いた。「もし人を傷つけてしまって、そのあとずっと後悔してる人がいたら、どう思います?」「傷つけたって、どの程度ですか?」「取り返しがつかないくらい」 千紘の胸の奥に、冷たいものが広がった。「後悔したからって、なかったことにはならないと思います」 芹奈の顔が強張る。 千紘は静かに続けた。「でも、本当に後悔してるなら、まず自分がしたことに責任を取るんじゃないですか?」「責任……」「隠し続けることが後悔だとは、私は思いませ
last updateLast Updated : 2026-09-13
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消しておきたいもの

 翌朝、芹奈は古いスマートフォンをバッグに入れて家を出た。 自宅に置いておくことが急に怖くなったのだ。 彰人には合鍵を返してもらっている。勝手に部屋へ入られるはずはない。それでも、一度疑い始めると安心できなかった。 通勤途中、駅のコインロッカーが目に入ったが、さすがにそこへ預ける気にはならない。 結局、その日はバッグに入れたまま出社した。     ◇ 昼過ぎ、芹奈が会議から戻ると、彰人から社内メッセージが届いていた。『少し話せる?』 断る理由も思いつかず、芹奈は彰人の執務室へ向かった。「何?」「昨日、雨宮さんと会った?」 心臓が跳ねた。「……どうして?」「雨宮さんから聞いたわけじゃないよ」「じゃあ何で知ってるの?」「お前、昨日定時で出ただろ。最近また連絡してるみたいだったから、そうかなと思っただけ」 単なる推測だったらしい。 芹奈は少しだけ肩の力を抜いた。「会ったよ」「何話した?」「別に」「またそれ?」 彰人の声に苛立ちが混じる。「凛に聞けば?」「雨宮さんを巻き込みたくないから、お前に聞いてるんだよ」「もう十分巻き込んでるでしょう」「誰のせいだよ」 芹奈の表情が強張った。「……また私のせい?」「そういう意味じゃない」「だったら何?」 彰人は一度黙り、声を落とした。「お前、最近おかしいよ。雨宮さんに何を話そうとしてる?」「何も」「本当に?」「彰人さんこそ、何をそんなに怖がってるの?」 その瞬間、彰人の目つきが変わった。 芹奈はバッグの持ち手を握りしめる。 中には、古いスマートフォンが入っている。「……芹奈」「何?」「あの頃のもの、まだ持ってる?」 息が止まりそうになった。「あの頃って?」「千紘が死ぬ前のものだよ。メッセージとか、写真とか」 芹奈は何とか平静を装った。「急にどうしたの?」「俺、最近ちょっと整理しててさ」「何を?」「古いデータ。もう必要ないだろ」 彰人は何でもないことのように言った。「お前も残ってるなら、消しておいた方がいいんじゃないかと思って」 芹奈は返事ができなかった。 昨日、自分が考えたことが頭をよぎる。 ――彰人が気づいたら、消されるかもしれない。 まさか本当に、翌日にそんな話をされるとは思わなかった。「何で?」「何でって?」「何で
last updateLast Updated : 2026-09-14
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消された記録

 芹奈と会った翌日、千紘は仕事をしながら、ふと自分のスマートフォンへ目を落とした。 彰人は手帳を捨てたと言っていた。 では、自分が死ぬ直前まで使っていたスマートフォンはどうなったのだろう。 友人とのやり取りや写真はもちろん、彰人とのメッセージも残っていたはずだ。そして、三枝へ調査を依頼したあとなら、その連絡もある。 千紘はそこで手を止めた。 三枝との連絡は彰人に知られないよう注意していた。それでも、死後に端末を確認されていれば、何かに気づかれた可能性はある。 手帳だけではない。 自分が死んだあと、彰人は遺品をどこまで確認したのだろう。     ◇ 帰宅後、千紘は生前使っていたサービスを、思い出せる範囲で書き出してみた。 個人用のメール。写真を保存していたクラウドサービス。SNS。結婚後、彰人と共有していたものもある。 けれど今の自分は雨宮凛だ。 榊原千紘のアカウントへ、本人としてアクセスするわけにはいかない。「……死ぬ予定なんてなかったもんね」 当たり前のことを呟く。 彰人の浮気を疑い、三枝にも調査を頼んでいた。それでも、自分が殺されるとは思っていなかった。 あの頃に想定していた最悪の未来は、夫に裏切られて離婚することだったのだ。 スマートフォンが震えた。 彰人からだった。『今週末、空いてますか?』『土曜日なら』『じゃあ食事でもどうですか?』『近場ですよね?』『もちろん』 千紘は『分かりました』とだけ返した。 今は無理に探らない。 彰人と芹奈の間には、すでに亀裂が入っている。焦らなくても、どちらかが自分から動くはずだ。     ◇ その頃、芹奈は自宅で一台のスマートフォンを見つめていた。 少し前まで使っていた端末だ。 最新機種が発売されたのを機に買い替え、こちらは初期化して売るつもりだった。面倒で後回しにしているうちに、彰人を疑い始め、中身を消せなくなった。 画面には、千紘が死んだ翌日のやり取りが表示されている。『昨日のこと、誰にも言うな』 彰人からのメッセージ。『分かってる』 芹奈の返信。 さらに、『あれは事故だった。それで通す』 と続いている。 そして最後に、『余計なものは消しておいて』 当時は当然だと思った。 不倫を知られれば疑われる。だから彰人との写真やメッセージをいくつも
last updateLast Updated : 2026-09-14
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知らないふり

 土曜日、千紘は彰人と駅近くのレストランで向かい合っていた。 遠出はしないという約束通り、待ち合わせ場所から歩いて数分の店だった。人目も多い。それだけで、以前より気持ちは楽だった。「この前のプレゼン、評判よかったですよ」「本当ですか?」「社内でも通りそうです。雨宮さんにお願いして正解でした」「それならよかったです」 仕事の話から始まり、最近見た映画や休日の過ごし方へと話題が移っていく。 千紘は自分から妻の話をしなかった。 手帳についても、スマートフォンについても聞かない。 彰人が何を話すのかを見る。 そう決めていた。「雨宮さん、最近あまり妻のこと聞かなくなりましたね」 結局、その話を持ち出したのは彰人だった。「前にも言いましたけど、聞きすぎたかなと思って」「気にならなくなった?」「気にはなりますよ。でも、私が調べることでもないでしょう?」 千紘は料理を口に運びながら、何でもないことのように続けた。「相沢さんも、最近はあまり言わなくなりましたし」「……芹奈と、まだ連絡取ってるんですか?」「この前少し会いました」 彰人の表情が変わった。「何のために?」「相沢さんに誘われたからです」「何を話したんですか?」 千紘はわざと不思議そうに彰人を見る。「どうしてそんなに気にするんです?」「また変なこと吹き込まれてないかと思って」「大丈夫ですよ」「妻の事故について何か言ってました?」 聞き方が具体的だった。 千紘はすぐには答えず、グラスへ手を伸ばした。「前と似たような話です」「似たようなって?」「もし事故じゃなかったらどうする、とか」 彰人の手が止まった。「芹奈がそう言ったんですか?」
last updateLast Updated : 2026-09-14
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何を残している

 芹奈は旧端末を手にしたまま、部屋の中を見回した。 どこへ隠す。 そう考えたところで、馬鹿らしくなった。 彰人は話をしに来るだけだ。家探しをされると決まったわけでもない。それなのに、秘密の証拠を隠すような真似をしている自分は、明らかに普通ではなかった。 それでも、机の引き出しへ戻す気にはなれない。 迷った末、芹奈は端末を普段使っていない旅行鞄の内ポケットへ入れた。 その直後、インターホンが鳴った。     ◇「急に何?」 彰人を部屋へ入れても、芹奈は玄関から動かなかった。「雨宮さんに何を話した?」 挨拶すらなかった。 芹奈の表情が強張る。「またその話?」「警察のこと聞いたんだって?」 凛だ。 すぐに分かった。「……彰人さんから聞いたの?」「今日会った」 胸の奥に嫌な感情が広がったが、今は嫉妬している場合ではない。「それで、凛が全部喋ったんだ」「全部って何だよ」「私が話したこと」「何でそんなこと聞いた?」 彰人は質問に答えなかった。「証拠がなくても、本当のことを話したら警察は信じるかって。何で雨宮さんにそんなこと聞く必要がある?」「ちょっと気になっただけ」「何が?」「別に」「芹奈」 彰人の声が低くなる。「警察に行くつもりなのか?」 芹奈は黙った。 行くと決めたわけではない。 けれど、ここで「絶対に行かない」と答えることにも抵抗があった。「……分からない」「は?」「分からないって言ってるの」 彰人が目を見開いた。「何考えてるんだよ」「彰人さんが怖いの」「俺が?」
last updateLast Updated : 2026-09-14
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残しておく理由

 芹奈は旧端末のメッセージを遡っていった。 千紘が死んだ翌日のやり取りだけではない。その前にも、今になって読み返すと意味の違って見える言葉がいくつも残っていた。『千紘には俺から話す』『芹奈は出てこなくていい』 その翌日には、『やっぱり来て』 そして旅行当日の朝。『着いたら連絡して』 短い文章ばかりだった。 これだけを見ても、何が起きたのかまでは分からないだろう。 それでも少なくとも、自分が彰人に何も知らせず、勝手に旅行先へ押しかけたわけではないことは分かる。 芹奈は画面を閉じた。 自分だけ助かりたいわけではない。 そんなことを考えた直後、自分で自分に嘘をついていると思った。 助かりたい。 怖い。 刑務所になど行きたくない。 今まで築いてきたものを失いたくない。 けれど、それ以上に怖いのは、彰人がすべてを自分のせいにすることだった。     ◇ 翌朝、芹奈はほとんど眠れないまま出勤した。 彰人とは顔を合わせたものの、互いに何も言わなかった。 仕事だけなら、それで済む。 昼過ぎ、雨宮凛から仕事のメールが届いた。 いつも通りの文面だった。 昨夜、彰人が自宅へ来たことを知っているのだろうか。 おそらく知らない。 芹奈は返信を書き、送信した。 そのまま個人のスマートフォンへ手を伸ばしかけて、やめた。 凛にこれ以上話せば、また彰人へ伝わるかもしれない。 それ以前に、自分でも次に何を口走るか分からなかった。 これまでも、少し探るだけのつもりだった。彰人が何を話しているのか知りたかっただけなのに、気づけば千紘の死が事故ではなかった可能性まで匂わせている。 このままでは、いつか取り返しのつかないことを言ってしまう。 芹奈はスマートフォンを伏せた。 少なくとも今は、凛に連絡しない方がいい。     ◇ その頃、千紘は佐伯と次の案件について話していた。「榊原さんのところ、次で一段落かな」「そうですね。修正がなければ」「雨宮さん、ずいぶん気に入られてるよね」 不意に言われ、千紘は顔を上げた。「仕事をですか?」「いや、雨宮さん本人を」「やめてください」「分かりやすいじゃん」 佐伯は笑った。「まあ、仕事に持ち込まなきゃ俺は何も言わないけど」 千紘は曖昧に笑って話を戻した。 彰人との仕事上の接点が減る
last updateLast Updated : 2026-09-15
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消したはずの写真

 数日間、何も起こらなかった。 芹奈から個人的な連絡はなく、彰人も仕事以外では静かだった。 千紘も自分から二人へ近づかなかった。 三枝に言われた通り、今は待つことにしたのだ。 そんな日の午後、千紘のもとへ律からメッセージが届いた。『これ、千紘の写真整理してたら出てきたんですけど』 続けて一枚の写真が送られてくる。 千紘は画面を見て、思わず目を細めた。 大学時代の写真だった。 律を含めた友人たちと旅行へ行ったときのもので、まだ彰人と出会う前だ。『若いですね』『そこ?』『他に何て言えばいいんですか』『雨宮さん、たまに千紘と同じ返しするんですよね』 千紘の指が止まった。 冗談なのだろう。 それでも、一瞬だけ胸がざわついた。『気のせいですよ』 そう返して、スマートフォンを伏せた。     ◇ 一方、芹奈は昼休みに写真フォルダを整理していた。 彰人に古いデータを消すよう言われてから、逆に何が残っているのか気になって仕方がない。 千紘が死ぬ以前の写真はかなり消した。 彰人と二人で写ったものも、不倫を疑われそうなものは事件のあとに削除したはずだった。 けれど、数か月分を遡ったところで指が止まる。「……何、これ」 見覚えのない写真が一枚あった。 彰人が写っている。 撮影したのは芹奈自身だった。 場所はレストラン。 向かいに座る彰人を何気なく撮っただけの写真で、二人の関係を直接証明するようなものではない。 問題は、日付だった。 千紘が死ぬ少し前。 彰人が妻には仕事だと言っていた日だ。 芹奈は当時のことを思い出した。 この日、彰人は千紘に嘘をついて自分と会っていた。 写真そのものは大した
last updateLast Updated : 2026-09-15
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残っているもの

 帰宅した芹奈は、旧端末を取り出した。 彰人に何が残っているのかと聞かれたとき、写真のことしか答えなかった。 メッセージについては、何も言っていない。『あれは事故だった。それで通す』『余計なものは消しておいて』 この二つが残っていると知れば、彰人はどうするだろう。 また消せと言うだけなのか。 それとも。 そこまで考えて、芹奈は首を振った。「考えすぎ……」 貸金庫を契約しようとしたときと同じだ。最近の自分は、何でも悪い方へ考えている。 けれど、端末を初期化して売る気にはなれなかった。 芹奈は旧端末を充電器につなぎ、今度は写真ではなくメッセージを遡った。 旅行当日。 彰人とのやり取りは多くない。『着いた』『どこ?』『駐車場』『そこで待ってて』 それからしばらく時間が空いている。 次のメッセージは、千紘が転落したあとだった。『先に帰って』 芹奈の返信。『彰人さんは?』『俺は残る』『大丈夫なの?』『いいから帰って』 当時は恐怖で何も考えられなかった。 彰人に言われるまま車へ戻り、一人でその場を離れた。 その後、彰人が何をしたのか。 芹奈は知らない。     ◇ 翌朝、彰人からメッセージが届いた。『昨日はごめん』 芹奈は返さなかった。『言い方が悪かった』 それにも返さない。『ちゃんと話したい』 以前なら、謝られれば会っていたかもしれない。 けれど今は、二人きりになること自体に抵抗があった。『仕事の話なら会社で』 ようやくそれだけ返した。『仕事じゃない』『じゃあ今は話し
last updateLast Updated : 2026-09-15
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妻は離婚を考えていた

 律との電話から二日後、千紘は仕事帰りに一人でカフェへ立ち寄った。 注文したコーヒーにはほとんど手をつけないまま、先日の会話を思い返していた。『最後に会ったときも、ちょっと変だったな』『旦那さんのことで悩んでるみたいだった』 そして律は、千紘がこんなことを言っていたと話した。『このままだったら離婚かな』 千紘自身、その言葉を口にしたことを忘れていた。 当時はまだ、彰人の浮気を確信していたわけではない。ただ、帰宅が遅くなり、休日出勤が増え、夫婦の間に以前とは違う空気が流れ始めていた。 だから、律に愚痴をこぼした。 それだけだったのだろう。 けれど今になって考えれば、律は自分が死ぬ前から夫婦関係に問題があったことを知っている。 手帳はもうない。 自分がそこに何を書いていたのかも証明できない。 それでも、すべてが消えてしまったわけではなかった。 自分が生きていたときに話した言葉を、覚えている人がいる。 もし、いつか千紘の死が改めて調べられることになったなら、律の記憶にも意味が生まれるかもしれない。 千紘はスマートフォンを取り出しかけて、やめた。 今は誰にも話さなくていい。 律自身が覚えている。 それで十分だった。     ◇ その夜、彰人は自宅で千紘の写真を眺めていた。 凛と知り合ってから、以前より妻のことを思い出すようになった。 顔は似ていない。 声も違う。 それなのに、時折ひどく似ていると感じる。 返事の仕方。何かを考えるときの間。そして何より、千紘について妙に知りたがること。 最初は、亡くなった妻に興味を持ってくれることが嬉しかった。 けれど今は違う。 芹奈は凛に何かを話し始めている。そして凛は、千紘の死が事故ではなかった可能性を疑っている。 偶然にしては、出来すぎている。「……まさかな」 彰人は小さく呟いた。 馬鹿げている。 千紘は死んだ。 あの日、自分の目の前で。 そんな考えを振り払おうとしたとき、スマートフォンが震えた。 芹奈からだった。『話があります』 彰人は眉を寄せる。『電話でいい?』『会って話したい』 数日前までとは逆だった。     ◇ 翌日の仕事帰り、芹奈が指定したのは駅近くのファミリーレストランだった。 彰人は席につくなり尋ねた。「何?」「確認したいこと
last updateLast Updated : 2026-09-16
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知らない相手

 芹奈と別れたあと、彰人はしばらく店に残っていた。『私、ちゃんと覚えてるから』 芹奈の言葉が頭から離れない。 忘れているはずがない。 あの日、芹奈は最初から最後までそこにいた。 それでも二人は、事故として処理されたあと、あの日のことをほとんど話さなくなった。 口にしない方がいい。 思い出さない方がいい。 そうしていれば、すべて終わったことにできると思っていた。 けれど、終わってなどいなかった。 彰人は冷めたコーヒーへ手を伸ばしかけ、やめた。 芹奈の旧端末に何が残っているのか。 凛にどこまで話したのか。 そればかり気にしていた。 けれど、もっと前から気にするべきことがあった。 千紘は、自分の浮気を調べていた。 彰人はそれを知っていた。 だからこそ、あの日も千紘に言ったのだ。 ――お前、俺たちのことを調べてただろ。 だが。「誰に頼んだんだ……?」 今になって、彰人は呟いた。 千紘が誰に調査を依頼したのか。 その相手が何を調べ、どこまで知っていたのか。 彰人は何も知らなかった。     ◇ 翌日の昼休み。 彰人は芹奈を呼び止めた。「昨日のことで、もう一つだけ聞きたい」「まだあるの?」「千紘が調査してたこと、覚えてるよな?」 芹奈の顔が強張った。「……覚えてるよ」「誰に頼んでたか知ってる?」「知らない」「何か聞いてない?」「千紘さんから?」「ああ」「聞くわけないでしょう」 当然だった。 当時の芹奈は、彰人の秘書であり、不倫相手だった。千紘と個人的に親しくしていたわけではない。「でも、千紘さんは私だって知らなかったよ」「何が?」「浮気相手」 彰人は黙った。「あの日、私を見て驚いてたでしょう。『まさか相沢さんなの?』って」「……ああ」「あの時点でも知らなかったんだから、調査で私まで辿り着いてなかったんじゃないの?」「そうかもしれない」「だったら何を気にしてるの?」 彰人はすぐには答えなかった。「調べてたのは千紘だけじゃないだろ」「どういう意味?」「誰かに頼んでたなら、その相手がいる」 芹奈の表情が変わった。「……探偵とか?」「たぶん」「たぶんって」「俺だって知らないんだよ」 彰人は苛立ったように声を落とした。「千紘が自分で尾行してたわけじゃないだろ。誰かに頼
last updateLast Updated : 2026-09-16
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