「誰が、何を話すんですか?」 千紘が尋ねても、芹奈は答えなかった。 テーブルの上のグラスに触れ、視線を落とす。「……例えばの話です」「例えば?」「事故だと思われていたけど、本当はそうじゃなかったとして。そのことを知ってる人が警察に話したら、信じてもらえるのかなって」 千紘は慎重に言葉を選んだ。「話の内容によるんじゃないですか?」「証拠がなくても?」「私に聞かれても分かりません。でも、いつ、どこで、何があったのかを具体的に話せるなら、少なくとも話は聞いてもらえるんじゃないですか?」 芹奈は黙り込んだ。 千紘は追及したい衝動を抑えた。 ここで「あなたは何を知っているの」と迫れば、芹奈はまた逃げるだろう。「相沢さん」「はい」「もし何か知っていて、それを話したいと思ってるなら、私じゃなくて警察に相談した方がいいと思います」「……そうですよね」「私に話しても、できることはほとんどありませんから」 芹奈は小さく頷いた。 その表情には、これまで凛に向けていた敵意も嫉妬もなかった。 ただ怯えているように見えた。 ◇「雨宮さんは」 しばらくして、芹奈が口を開いた。「もし人を傷つけてしまって、そのあとずっと後悔してる人がいたら、どう思います?」「傷つけたって、どの程度ですか?」「取り返しがつかないくらい」 千紘の胸の奥に、冷たいものが広がった。「後悔したからって、なかったことにはならないと思います」 芹奈の顔が強張る。 千紘は静かに続けた。「でも、本当に後悔してるなら、まず自分がしたことに責任を取るんじゃないですか?」「責任……」「隠し続けることが後悔だとは、私は思いませ
Last Updated : 2026-09-13 Read more