彰人が玄関を開けたとき、芹奈はひどく不機嫌そうな顔をしていた。「入って」 それだけ言って、彰人は先にリビングへ向かう。 以前なら、芹奈が突然訪ねてきてもこんな態度は取らなかった。人目さえなければ恋人同士として過ごし、千紘の前ではできなかった話もした。 今は、同じ部屋にいることさえ億劫そうだった。「それで?」 彰人はソファに座った。「何が言いたいんだよ」「さっき言ったでしょう。私だけ悪者にしないで」「誰もそんなこと言ってない」「言ってるのと同じじゃない。凛には私が勝手に彰人さんにつきまとってるみたいな話をしてるんでしょう?」「そんな話はしてない」「じゃあ、私たちのことを話した?」 彰人が黙る。 その反応だけで十分だった。「ほら」「今さら全部話せるわけないだろ」「どうして?」「分かってるだろ」 芹奈は彰人の向かいに座った。「だから、それを言ってるの。彰人さんだって分かってるじゃない。私たちは、都合が悪くなったから別れましょうで済む関係じゃない」「声落とせ」「ここ、彰人さんの家でしょう?」「そういう問題じゃない」 彰人は苛立ったように芹奈を睨んだ。 しばらく沈黙が続いたあと、彰人が低い声で尋ねる。「雨宮さんに、どこまで話した?」「何度も聞くね」「答えてないからだよ」「彰人さんとのことは、ほとんど話してない」「ほとんどって何だよ」「……千紘が旅行を楽しみにしてなかったこととか」「それは知ってる。他には?」 芹奈は答えなかった。 彰人の表情が険しくなる。「事故のこと、何か言った?」「言ってない」「本当に?」「彰人さんこそ、何を怖がってるの?」「お前が余計なことを喋るのが怖いんだよ」 その言葉に、芹奈の顔色が変わった。「私だけ?」「そういう意味じゃない」「私だけ黙ってればいいみたいに聞こえる」「芹奈」「最初に決めたでしょう」 彰人が黙った。 芹奈は声を落として続ける。「あの日のことは、二人とも何も言わない。何を聞かれても、あれは事故だった。それで終わりって」「分かってる」「だったら、私ばっかり疑わないでよ」 彰人は顔を背けた。 あの日。 その言葉だけで、二人には十分だった。「……雨宮さんに、事故じゃないかもしれないって言った?」 芹奈の肩が僅かに動く。 彰人はそれ
Last Updated : 2026-09-11 Read more