その夜、芹奈はまた旧端末を開いていた。 彰人に言われたことが気になっていたのだ。 千紘が浮気調査を依頼していた相手。 それが誰なのか、芹奈にはまったく心当たりがない。 千紘とは仕事で顔を合わせることはあっても、個人的な話をするような関係ではなかった。まして、夫の浮気を疑っているなどと相談されるはずもない。 あの日、岸壁で自分を見た千紘の顔を、芹奈は今でも覚えている。『まさか……相沢さんなの?』 本当に驚いていた。 だから少なくとも、千紘は最後まで浮気相手が自分だとは知らなかったのだろう。 けれど、調査を依頼された誰かは違うかもしれない。 芹奈はメッセージを遡った。 千紘が死ぬ一か月ほど前。 彰人との何気ないやり取りが並んでいる。『今日は無理』『また?』『千紘が最近うるさいんだよ』『バレた?』『たぶん疑ってるだけ』 さらに数日後。『しばらく外で会うの控えよう』『どうして?』『千紘が俺の予定をやたら聞いてくる』 当時は面倒だと思っただけだった。 妻に浮気を疑われた男が警戒している。それ以上の意味など考えなかった。 けれど今なら分かる。 この頃にはもう、千紘は調べ始めていたのだ。 芹奈は画面を見つめたまま、長く息を吐いた。 彰人は、これも消してほしいのだろうか。 おそらくそうだ。 けれど、もう消すつもりはなかった。 ◇ 翌日、芹奈は昼休みに一人で会社を出た。 向かったのは警察署――ではない。 駅前の喫茶店だった。 店の隅の席へ座り、スマートフォンで何度も同じ言葉を検索する。 自首。 共犯。 事故に見せかけた殺人。 検索結果を開いては
Last Updated : 2026-09-16 Read more