第99話 帰りたくないのではなく、「帰るのが少し寂しい」と私は言いました西方獣人連邦での滞在最終日が近づくにつれて、ミオの手帳には市場の問題よりも、帰るための予定のほうが多く書き込まれるようになった。区画協議会の試験運用については、市場管理局が引き継ぐ。乾魚店と穀物店の排水量測定は一週間継続し、費用分担についてはその数字を見てから再協議する。共同水場では時間帯を分けた試験運用を始め、鳥人商会の大型看板についても、可動式の枠を一部で試してみることになった。どれも、まだ終わっていない。むしろ始まったばかりだ。けれど、その「終わっていない」ということに、以前ほど不安を覚えなくなっている自分に、ミオは少し驚いていた。「本当に残らなくていいんですか?」朝食の席で、ルシアンから三度目の確認をされ、ミオはパンへ蜂蜜を塗りながら顔を上げた。「残りませんよ。三か月の試験運用なのに、私が三か月ここにいたら、何のための試験か分からなくなるでしょう」「一週間くらいなら?」「それ、昨日も聞きました」「昨日は三日って聞いた」「増えてますよね」「駄目?」「駄目です」ルシアンは目に見えて残念そうな顔をした。友達になってからというもの、この若い銀狼王は、ミオの前で王らしい顔を隠すことをほとんどやめている。もともと距離の近い人ではあったが、最近は「寂しい」「嬉しい」「つまらない」といった感情まで、ずいぶん簡単に口へ出すようになった。「市場の人たちも、もう自分たちで次の会議を決めましたし、管理局も記録方法を変えました。私が残って細かいところまで口を出すより、一度離れたほうがいいです」「分かってるんだけどね」「じゃあ、どうして引き止めるんです?」「友達になったばかりなのに帰るから」あまりにも普通
Última atualização : 2026-10-12 Ler mais