第79話 真実が一つでも、記憶は一つではありませんでした第三者記録の確認には、思っていた以上に時間がかかった。十七年前の資料だから、残っていないものも多い。気象局には年間の降水量と洪水発生記録が残されていたが、日ごとの水量までは分からない。中央会計局には堤防補修への補助金支出が記録されていたものの、実際にどこまで工事が終わっていたかについては現地報告と数字が一致していなかった。それでも、アルクとグレス、それから連邦側の記録官が数日かけて探した結果、いくつか重要な資料が見つかった。その中には、狼族側にも農耕側にも属していない商人の旅行記まであった。「こんなもの、よく残ってましたね」王城の資料室で写本を広げながら、ミオは思わず感心した。アルクが答える。「本人が大きな商会の会計責任者だったため、旅程と支出記録をかなり細かく残していたようです。日記というより業務記録に近いですね」「商人ってすごい」「金銭が絡むと、人はかなり正確になります」「妙な説得力がありますね」カエルも横から資料を覗き込む。「何が書いてある?」「十七年前の、水門騒動の三日前にデルナ川流域を通ってます」ミオは該当箇所を指で追った。『上流の堤、前年の崩落部いまだ補修不十分。通行荷車を一時停止。橋脚周辺に土嚢多数。』さらに、その二日後。『下流第三集落にて用水不足。住民より、上流より水来ずとの訴えあり。ただし途中水路二か所、崩落および漏水を確認。』ミオはそこで顔を上げた。「これ、かなり大事じゃないですか?」アルクも頷く。「はい。少なくとも、下流へ水が届かなかった原因が、上流側の水量制限だけではなかった可能性を示します」
Terakhir Diperbarui : 2026-10-05 Baca selengkapnya