出発の朝、ノエルはいつもより早く目を覚ました。 まだ空は白み始めたばかりで、窓の外の庭も薄い灰色をしている。 鳥の声も少ない。 屋敷全体が眠っているようで、それでいて、どこか起きている。 旅の日の朝は、変な静けさがある。 ノエルは寝台の上でしばらく動かなかった。 布兎を胸に抱き、目だけを動かして部屋を見る。 机の上。 小さな鞄。 その横に置かれた旅の紙入れ。 布兎の青いリボン。 昨日、小さな布袋に入れた黄色いリボン。 箱は部屋の端にある。 青い紐で閉じられ、横には黄色い花が一輪置かれている。 箱は留守番。 三枚の紙は旅。 何度も確認した。 それでも、朝になると少し違って見えた。 夜に決めたことは、朝になると本当にできるのか試される。 ノエルは布兎を抱えたまま、箱へ近づいた。 床に膝をつき、箱の横の黄色い花を見る。 花はまだ元気だった。 少しだけ首を傾げているが、しおれてはいない。「おはようございます」 ノエルは小さく言った。 箱は答えない。 当然だ。 けれど、その答えない感じが、今日は少し安心でもあった。 箱が急かさない。 箱が泣かない。 箱が「置いていくのですか」と言わない。 ただ、そこにある。「行ってきますは、まだ早いです」 ノエルは言った。「朝ごはんのあとです」 それから、布袋を手に取った。 中から黄色い
Last Updated : 2026-10-24 Read more