บททั้งหมดของ 冷酷総帥の身代わり花嫁 〜植物状態のはずの億万長者に溺愛され、私を見捨てた偽りの家族を地獄に落とします〜: บทที่ 31 - บทที่ 40

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第30話:星を穿つ刃

山あいの夜は底冷えした。暖房のない土間の工房で、真白は息を白く吐きながらルーペを覗き込んでいた。手元にあるのは、泥と濁りに覆われた無骨なスタークォーツの原石。ペンライトの鋭い光を様々な角度から当てても、表面のクラック(亀裂)と不純物に遮られ、光は鈍く拡散するだけだった。(どこ……? どこに光条(アステリズム)の軸があるの……?)スタークォーツは、内部に含まれる微細な金紅石(ルチル)の針状結晶が特定の三方向に交差することで、光を浴びた際に六条の星を浮かび上がらせる。だが、その結晶軸(C軸)を正確に見極め、球面の頂点に据えるように割り出さなければ、星は歪むか、完全に消えてしまう。時計の針は深夜二時を回った。指先がかじかみ、タガネを握る手が小刻みに震える。焦りがじわりと真白の胸を締め付けた。(落ち着いて、真白。石を見るんじゃない……石が育ってきた『時間』を追うのよ)真白は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。蓮から課された「百の石の解剖」を思い出す。あの過酷な夜、石のわずかな結晶構造の傾き、比重の偏り、屈折の違和感を指先と感覚で掴み取った記憶。真白はタガネを置き、素手で原石を包み込んだ。泥だらけの表面を、指の腹でミリ単位で撫でていく。冷たい鉱物の感触。だが、ある一点だけ、他よりもわずかに熱を帯びたように滑らかな筋があった。「……ここだ」ライトを斜め四十五度から当て、表面の微細な成長線(条線)を辿る。光が濁りの奥を透過した瞬間、真白の網膜に、かすかにクロスする極細の金色の針が映し出された。「見えた……! C軸はこのラインに対して垂直、ここが星の頂点になる……!」迷いは消えた。真白はタガネの刃先を、狙いを定めたクラックの基点へとあてがった。右手に握ったハンマーを持ち上げる。力任せに叩けば砕け散る。必要なのは、石の目に沿って力を逃がす、一瞬の鋭い打撃。「お願い……応えて!」カーン――!澄んだ金属音が静寂の工房に響き渡った。◇翌朝、午前六時。ガラガラと引き戸が開き、作業着姿の片桐武造が工房に入ってきた。「おい小娘、時間だ。諦めて東京へ――」言葉が途切れた。作業台の前に、立ったままの真白がいた。目の下に隈を作りながらも、その琥珀色の瞳は凛と冴え渡っている。真白は無言で、手のひらを片桐の前に差し出した。そこに乗っていたの
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第31話:花の都の洗礼

シャルル・ド・ゴール空港を抜けた専用車が、石造りの重厚な街並みを滑るように走る。車窓の外には、朝靄に煙るエッフェル塔とセーヌ川。世界中のモードと芸術の頂点――パリ。「すごい……本当に、パリに来ちゃったんだ……」真白は窓に張り付くようにして街並みを見つめていた。膝の上には、頑丈なジュラルミンケース。中には、甲府の片桐武造が極限まで研磨し、真白が徹夜で組み上げた『BLANC』の処女作――スタークォーツとプラチナワイヤーによるチョーカー『星辰(せいしん)』が収められている。「観光に来たのではないぞ」隣で英字の経済紙をめくっていた蓮が、低く釘を刺した。完璧に着こなしたチャコールグレーのスリーピース。長時間フライトの疲れなど微塵も感じさせない横顔は、すでに欧州のビジネスを睨む総帥のものだった。「今回の『オート・ジュワイアリー世界サロン』は、ヴァンドーム広場に店を構えるグランサンク(五大ジュエラー)や、王族御用達の老舗だけが参加を許される閉ざされた社交界だ。アジアの新興ブランドなど、石畳の塵ほどにも思われていない」「分かっています。一条様にも言われました。『世界中から引きずり降ろされる戦場だ』って」真白はケースをぎゅっと抱き直した。恐れはない。むしろ、世界最高峰の目利きたちが自分の作品をどう見るのか、胸の奥で闘志がチリチリと燃え盛っていた。◇サロンのプレ展示会が開かれる会場は、歴史ある豪奢な宮殿ホテル『ル・ルクシオール』の大回廊だった。金箔の漆喰彫刻、巨大なクリスタルシャンデリア、そしてイブニングドレスやタキシードを纏った欧州貴族や大富豪、名門ジュエラーの当主たち。「真白様、割り当てられた展示ブースはこちらです」現地法人のスタッフに案内された場所を見て、真白は思わず足を止めた。大回廊の中央、最も華やかなメインストリートから大きく外れた、非常口近くの薄暗い柱の陰。通りすがる招待客の視界にすら入らないような、あからさまな「最下席」だった。「……随分と分かりやすい洗礼ね」真白が小さく呟くと、背後から冷ややかな笑い声が降ってきた。「あら、ご不満かしら? 東洋の小娘さん」振り返ると、そこには見事なブロンドの髪をアップにまとめた長身の白人女性が立っていた。エメラルドグリーンのドレスに身を包み、胸元には目も眩むような大粒のダイヤモンドネックレ
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第32話:光の強奪

「力づくで中央へ引きずり出す、ですか……?」真白が振り返ると、蓮は冷ややかな眼光のまま、大回廊の中央にそびえ立つメインブースを一瞥した。そこにはジュリア・ランバールが君臨し、無数のシャンデリアの光を独占するように、巨大なダイヤモンドのティアラが燦然と輝いている。招待客や名門バイヤーたちが群がり、まるで女王の宮廷のような熱狂を作っていた。「ここパリのサロンに集まる連中は、伝統と権威を崇める一方で、誰よりも強烈な『新しい刺激』に飢えている。退屈な優等生など一瞥もされんが、常識を焼き払う異端者には群がる習性がある」蓮はポケットからスマートフォンを取り出し、画面をタップした。「高杉。ル・ルクシオールのオーナーと電気保安責任者を呼べ。……今夜のプライベートディナーの予約金として、予定の三倍を積め」「えっ、黒羽さん、何を……!?」「お前の作品は、光を浴びて初めてその牙を剥くのだろう。ならば、光を用意してやるのが俺の仕事だ」蓮が淡々と告げた数分後、会場内の照明にわずかな変化が起きた。大回廊全体を均一に照らしていた天井の光量が、メンテナンスと称してわずかに絞られ、逆に真白のいる非常口側の柱の陰へ、極細の特注高演色LEDスポットライトが一筋、鋭いレーザーのように落とされたのだ。「照明の位置を変えただけでは、客は来ませんわ」「客を呼ぶのは光ではない。お前の石だ。……開けろ、真白」蓮に背中を押され、真白はジュラルミンケースの留め金を外した。カチリ。蓋が開かれた瞬間、黒いベルベットの台座に乗ったチョーカー『星辰』が姿を現した。無骨な泥を被っていたはずの山梨産スタークォーツは、片桐武造の神業によって、完璧な放物線を描くドーム状のカボションカットへと研磨されていた。そして――真白が編み上げた、極細のプラチナワイヤーフレーム。ただ石を囲むのではない。星雲が渦を巻くように立体的に組み上げられた黒と銀のワイヤーが、天井からの一筋のスポットライトを正確に石の中心へと集約する。――ボォッ!まるで水晶の内部で青白い炎が着火したかのようだった。光を呑み込んだスタークォーツの奥底から、鮮烈な六条の光の星が爆発するように射出された。その光条は石の表面にとどまらず、計算され尽くしたプラチナワイヤーの反射角を通じて、柱の陰の薄暗い大理石の床や壁へと幾重もの光の波紋を広げて
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第33話:亡霊の足音

「結衣が、保釈されて出国した……?」 大回廊の喧騒から離れた宮殿ホテルのテラス。冷え込むパリの夜風の中、蓮は手元のタブレットに視線を落とした。 画面には、成田空港の国際線ゲートを抜けるサングラス姿の女――白河結衣の姿が鮮明に捉えられていた。 「保釈金を積んだのは、海外の幽霊ファンドです。背後にいるのは、欧州ジュエリーカルテルの元締め、クリストフ・ヴァディム卿。彼らは黒羽グループの欧州進出を阻止するため、総帥と真白様を揺さぶる駒として結衣を買い取った模様です」 執事の高杉が淡々と報告を重ねる。 蓮は端末を胸ポケットへ戻すと、紫煙を燻らせるように吐息を落とした。 「あの害虫にそこまでの知恵はない。誰かに操られているだけの人形だ。……真白にはまだ余計な心配をかけるな。明日の本審査に集中させる」 「かしこまりました」 テラスの扉が開き、ドレス姿の真白が小走りで駆け寄ってきた。 先ほどのプレ展示会で欧州の名門バイヤーたちから名刺の山を受け取ったばかりの真白は、頬を紅潮させ、息を弾ませていた。 「黒羽さん! 探しましたよ、こんなところで何をしていたんですか?」 「風に当たっていただけだ」 蓮は表情を一切崩さず、真白の肩に自分のジャケットをそっと羽織らせた。 温かなウールの重みと、かすかな白檀の香り。真白の心臓がトクンと小さく跳ねる。 「プレ展示の感触はどうだ」 「大盛況でした! イギリスやイタリアのセレクトショップのオーナーたちから、『本審査の後にぜひ独占契約を結びたい』って言ってもらえて……。片桐さんの研磨と、日本の石の力が、ちゃんと世界に届いたんです!」 無邪気に喜ぶ真白の頭に、蓮は大きな手をぽんと乗せた。 「浮かれるな。明日の本審査は、各国の審査員が密室で点数をつける。ジュリア・ランバールのような既得権益の連中が、裏でどんな根回しをしてくるか分からんぞ」 「はい、油断はしません。どんな理不尽な審査基準を突きつけられても、作品そのものの説得力でねじ伏せてみせます!」 琥珀色の瞳をまっすぐに輝かせる真白。 蓮はその迷いのない顔を見つめ、わずかに口元を緩めた。 「頼もしいことだ。……今夜はもう休め。部屋まで送る」 ◇ 真白に割り当てられたスイートルームの前。 蓮を見送り、部屋に
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第34話:泥濘の檻

石畳を叩く冷たい雨が、真白のコートの裾を濡らしていた。 タクシーを降りた先は、セーヌ川の支流沿いに広がる旧工業地帯。街灯の光も届かない薄暗い廃倉庫が、夜の闇の中に巨大な怪物の骨組みのように聳え立っている。 胸元に抱きしめたジュラルミンケースの金属の冷たさが、真白の焦燥をわずかに引き締める。 (罠だと分かっていても……母のノートを灰にさせるわけにはいかない) 軋む鉄扉を押し開けると、湿ったカビと錆の匂いが鼻を突いた。 水たまりが点在するコンクリートの床。その中央、ドラム缶の上で揺れる裸電球の真下に、一人の女が立っていた。 「時間通りね、お姉様」 くぐもった声とともに振り返ったのは、白河結衣だった。 かつての華美なドレス姿は見る影もない。黒い革のジャケットを羽織り、乱れた金髪の間から覗く瞳は、飢えた獣のように濁った狂気を宿していた。 その手元には、ライターの青い炎と、焼け焦げた母のデザインノートが握られている。 「結衣……ノートを返しなさい!」 「返して欲しければ、そこに跪いて土下座しなさいよ!」 結衣が甲高い声で叫んだ。 ライターの火をノートの端へ近づけると、紙の焼ける嫌な臭いが立ち込める。 「神崎の坊ちゃんも、お父様も、麗奈様も……全部あんたのせいで破滅した! 私の輝かしい未来も、全部あんたが奪ったのよ! 身代わりのくせに、何が『BLANC』よ! 何が世界最高峰のサロンよ!」 「奪ったんじゃないわ。自業自得よ」 真白は一歩、泥濘んだ床を踏みしめた。 恐怖で震えそうになる膝を叱咤し、結衣を真っ向から見据える。 「他人のデザインを盗み、他人の石を壊してまで手に入れようとした偽物の栄光が崩れただけ。……結衣、目を覚ましなさい。そんなことをしても、あなたの人生は一歩も前に進まない!」 「黙りなさいよ! 上から目線で説教しないで!」 結衣の顔が激しく歪む。 その瞬間、暗がりの奥から二人の大柄な男が音もなく姿を現した。 彫りの深い顔立ちに無骨な革ジャン。欧州の裏社会で金で雇われた手配師たちだった。 「私のバックにはね、ヴァディム卿がついているのよ。欧州のサロンを牛耳る本物の貴族がね! あの方の指示よ……『東洋の小娘の作品を奪い、右手を潰して二度とヤスリを握れないようにしろ』ってね!
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第35話:ヴァンドームの審判

宮殿ホテル『ル・ルクシオール』の非公開審査ホール。豪奢なクリスタルシャンデリアの下、長円形のテーブルには各国の審査員たちが居並び、重苦しい空気が張り詰めていた。 その上座に座るのは、欧州ジュエリーカルテルの頂点に君臨するクリストフ・ヴァディム卿。白髪を完璧に撫で付け、胸元にアンティークの懐中時計を覗かせた老貴族は、冷淡な眼差しで手元の審査シートを眺めていた。 「開始時刻まで残り五分。……東洋の推薦枠『BLANC』は、まだ現れんのか」「ええ、連絡もつかないようですわ」 隣に座るジュリア・ランバールが、隠しきれない嘲笑を浮かべた。 「昨夜のプレ展示で少しばかり注目されたからと、プレッシャーに耐えきれず逃げ出したのでしょう。所詮はその程度の素人ですわ」「ふむ。ならば不戦敗として処理――」 ギィィ……。 ヴァディムがペンを走らせようとした瞬間、重厚なオーク材の二重扉が静かに開かれた。審査員たちの視線が一斉に入り口へと集まる。 現れたのは、真白だった。シンプルな漆黒のイブニングドレス。雨に濡れた髪はきつく束ね直され、胸元には焦げ跡の残る母のノートが抱えられていた。その隣には、一寸の乱れもないタキシードを纏い、氷刃のような眼光でホールを睥睨する黒羽蓮。 「な……っ!?」 ジュリアの息が止まった。廃倉庫に送り込んだ手配師たちが失敗したのだと察し、ヴァディムの眉がわずかにピクリと跳ねる。 「失礼いたします。『BLANC』代表、白河真白です。エントリー時刻に間に合いました」 真白は淀みないフランス語で名乗りを上げ、審査台の前へと進み出た。泥濘を駆け抜けてきた疲労など微塵も見せない。背
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-22
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第36話:凱旋と消えぬ牙

パリの最高峰サロンでの満点評価とグランプリ獲得の一報は、瞬く間に世界中のモード界とビジネス紙を席巻した。新興ブランド『BLANC』の名は、伝統と権威に胡坐をかいていた欧州ジュエリー界に風穴を開けた新星として刻まれ、国内に戻った真白のもとには、世界各国の百貨店や名門メゾンからの提携オファーが殺到していた。だが、南青山の『BLANC』本店アトリエの奥。真白は熱狂の渦に溺れることなく、作業着に身を包み、拡大鏡を覗き込みながら黙々とヤスリを動かしていた。シュッ、シュッ――と、規則正しい研磨の音が静かな室内に響く。「……相変わらず、祝杯をあげるよりも削り粉を被る方が性に合っているようだな」低く滑らかな声とともに、作業室の引き戸が開いた。姿を現したのは、黒羽蓮だった。黒羽グループ本社の激務を終えて直行してきたのか、上質なスリーピースのジャケットを脱ぎ、ネクタイをわずかに緩めている。「黒羽さん! お仕事、もう終わったんですか?」「一通りの片付けは済ませた。欧州カルテルを牛耳っていたヴァディム卿の不正取引網は、インターポールと現地金融庁の手で完全に解体された。ジュリア・ランバールのメゾンも、カルテル解体の連座とブランドイメージの失墜で、欧州デザイナー協会の理事職を追放されたそうだ」蓮は作業台の脇の丸椅子を引き寄せ、腰を下ろした。卓上に散らばるデザイン画と、真白の指先に巻かれた絆創膏を一瞥し、わずかに口元を緩める。「お前を潰そうとした連中は、全員己の蒔いた種で自滅した。……誇るべき完全勝利だ」「ありがとうございます。でも、私が勝てたのは……黒羽さんが光を信じて、隣で支えてくれたからです」真白は工具を置き、照れくさそうに笑った。身代わりの花嫁として絶望の底にいたあの日から、ここまで走り抜けてこられたのは、この冷徹で誰よりも不器用な男が、常に自分の可能性を信じ抜いてくれたからだ。「……勘違いするな。俺はただ、お前の才能に正当な投資をしたにすぎん」蓮はそっぽを向くように視線を逸らしたが、その耳元がわずかに熱を帯びているのを、真白は見逃さなかった。蓮はポケットから一枚のカードキーを取り出し、作業台の上に置いた。「パリのサロンを制したことで、一条麗華が正式に『BLANC』との合同コレクションを日本国内で立ち上げると申し出てきた。これは、その発表会場とな
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-23
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第37話:深淵からの蠢動

東京湾の埠頭に打ち寄せる黒い波音が、夜の冷気と混ざり合っていた。 密輸用の貨物船から降ろされた白河結衣は、ずぶ濡れのコートを抱え、錆びたコンテナの影で小刻みに震えていた。 パリの病院から脱走し、偽造パスポートと貨物船の底に揺られて辿り着いた日本。 かつての華美な美貌は失われ、頬はこけ、爪の間は垢で黒ずんでいる。だが、その濁った瞳の奥で燻る憎悪の炎だけは、以前よりも遥かにどす黒く燃え盛っていた。 「……白河結衣だな」 暗がりから響いた低く乾いた声に、結衣はビクッと肩を跳ね上げた。 現れたのは、仕立ての良い漆黒のレインコートを纏った壮年の男だった。顔の上半分は帽子の鍔で隠れているが、コートの襟元には金色の蛇が絡みつく不気味なピンが光っている。 「だ、誰よ、あなた……! 私をパリから逃がしたのは誰なの!?」 「質問する立場か、身代わりの妹よ」 男は冷徹に言い放ち、革手袋をはめた手で薄いアルミケースを差し出した。 「ヴァディム卿のような老いぼれが失脚しようと、東洋の市場をあの黒羽蓮と、泥上がりの女デザイナーに独占させるわけにはいかんのだ。我ら『オフィディアン・グループ』にとって、あの二人は目障りな障壁にすぎない」 「オフィディアン……? 裏の宝石シンジケート……!?」 「お前が奴らを殺したいほど憎んでいることは知っている。利用してやる。このケースを開けろ」 結衣はおずおずと手を伸ばし、留め金を外した。 中に収められていたのは、鈍い黒紫色の光を放つ、親指大の不気味な原石だった。表面には無数の微細な亀裂が走り、見る者の神経を逆撫でするような歪な気配を放っている。 「これは……?」 「放射線処理によって人工的に結晶格子を狂わせた、極めて脆く毒性の高い変異トパーズだ。触れるだけで金属の接合を脆化させ、わずかな衝撃で周囲を巻き込んで破裂・粉砕する欠陥石の極み」 男は冷酷な笑みを口元に浮かべた。 「来週開催される、一条麗華と『BLANC』の合同コレクション。そのランウェイでお前の姉が身に纏うメインピースの留め金を、これで擦り、すり替えろ。……照明の熱と熱気で、石は壇上で無残に砕け散り、プラチナのフレームごと姉の肌を切り刻むだろう」 「肌を……切り刻む……」 結衣の唇が、歓喜に歪んだ。 あの忌々しい
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-24
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第38話:侵入者と毒石の罠

クロハ・グランドシアターの照明が落とされ、夜間警備の静寂が館内を包んでいた。舞台裏の最奥、特別保管室の電子ロックが赤く点滅している。指紋認証と二重暗証番号で厳重に封鎖された扉の前に、青い清掃員の作業着を纏った人影が音もなく忍び寄った。深く被った帽子の下から覗く目は、血走り、病的な光を放っている。白河結衣だった。「ふふ……黒羽蓮、いくら警備を固めたって無駄よ」結衣はポケットから、裏シンジケート『オフィディアン』から渡された特殊なハッキング端末を取り出した。端末の端子を電子錠の配線パネルに差し込むと、微小なパルス音が鳴り、わずか数秒で表示が緑へと変わる。――カチリ。防音扉がゆっくりと開いた。部屋の中央、強化防弾ガラスのケースの中に飾られていたのは、明日の合同コレクションのトリを飾る真白の最高傑作――『白夜の翼』だった。一条麗華との競演のために創り上げられた、プラチナと極上ホワイトダイヤモンド、そして透き通るようなパライバトルマリンが織りなす圧倒的な造形美。暗闇の中でも自ら発光するかのような清廉な輝きに、結衣は激しい吐き気を覚えた。「憎らしい……! こんな綺麗なものを作って、世界中から拍手を浴びて……あんただけが光の中にいるなんて、絶対に許さない!」結衣は震える指先で、懐からアルミケースを取り出した。中から取り出したのは、鈍い黒紫色の光を放つ変異トパーズ。人工的な放射線処理で内部の結晶構造を破壊された、触れる金属を腐食させる毒石。結衣はピンセットで毒石を掴むと、『白夜の翼』のメインフレーム――真白の首元に直接触れる留め具の裏側へ、毒石の鋭利な角を強く擦り付けた。目に見えないほどの微細な亀裂がプラチナの接合部に刻まれ、毒石の微粉末が金属の隙間へと染み込んでいく。「これで終わりよ、真白。明日のランウェイで、スポットライトの熱を浴びた瞬間……このフレームは砕け散り、あんたの首筋をズタズタに引き裂くわ」醜い歓喜の笑みを漏らしながら、結衣は毒石を隠し持ち、足早に保管室を後にした。◇翌朝、合同コレクション当日。グランドシアターの客席は、世界各国のVIP、ファッション誌の編集長、そして一流ジュエラーたちで超満員となっていた。開演一時間前の控室。真白は純白のシルクドレスに身を包み、ドレッサーの前で深く息を吸い込んでいた。手元には、保管庫から
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-09-25
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第39話:断ち切られた因縁

開演まで、残り二十分。 劇場のバックヤードでは、研磨と金属加工の甲高い音が緊迫した空気の中に響いていた。 「ヤスリとピンセットを!」 「はい、こちらですわ」 控室のドレッサー前。真白の横で手際よく道具を渡しているのは、なんと一条麗華だった。 世界最高峰のデザイナーが自ら助手を務めるという異例の事態の中、真白は純白のドレスの袖をまくり、鬼気迫る表情で拡大鏡を覗き込んでいた。 ニッパーで毒石の粉末に侵された留め具をミリ単位で切断し、予備の純プラチナワイヤーを編み直していく。 指先が震えれば、極小のパライバトルマリンのセッティングに傷がつく。だが、真白の呼吸は静かに整い、手元には一切の迷いがなかった。 (壊されたなら、もっと強く美しく編み直すだけ……!) ◇ 一方、グランドシアター地下二階の機械室通路。 非常口の非常灯が薄暗く灯る中、清掃員姿の結衣は息を切らしながら鉄扉のハンドルを必死に押し下げていた。 「な、なんで開かないのよ……!?」 ガチャガチャと激しく音を立てるが、扉はびくともしない。 全館の出入口はすでに電子制御で完全封鎖されていた。 手にしたスマートフォンの画面を見るが、電波は完全に遮断されている。背後にいたはずの裏シンジケート『オフィディアン』の連絡員とも繋がらない。 「くそっ、見捨てたのね……! あいつら、私を使い捨てにしたんだわ!」 結衣が恐怖と焦燥で爪を噛んだその時――。 コツ、コツ、コツ……。 静まり返ったコンクリートの通路に、規則正しく響く革靴の足音が近づいてきた。 闇の奥から現れたのは、仕立ての良いタキシードに身を包んだ黒羽蓮だった。 冷酷に研ぎ澄まされた漆黒の瞳。その背後には、無言で通路を塞ぐ屈強な黒羽家の護衛たちが並んでいる。 「ひっ……!」 結衣は腰を抜かし、背中を鉄扉に叩きつけた。 「れ、蓮総帥……!」 「鼠の逃げ道にしては、あまりにお粗末だな」 蓮は結衣の三歩手前で足を止め、冷淡に見下ろした。 その全身から放たれる凍てつくような殺気に、結衣の歯の根がガチガチと鳴る。 「変異トパーズによる腐食工作。……真白の命を奪おうとした罪、もはや親族の情など一欠片も適用されんぞ」 「ち、違う! 私は唆されただけよ! オフィディアン
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