ハンバーグの表面で、甘ったるいソースがくつくつと小さな泡を立てていた。 カトラリーが皿に当たるカチャリという軽い音と、テレビから流れるバラエティ番組の笑い声が、ダイニングの温かい空気の中に溶けていく。「真帆、ソースもう少し使う? フォンドボー足して少し煮詰めたんだけど」 悠人がフライパンを手にして、真帆の顔を覗き込んだ。真帆の好きな味付けだ。玉ねぎを粗みじんにせず、じっくりと狐色になるまで炒めて肉汁を閉じ込める焼き方も、真帆が昔、何気なく言った好みを悠人がずっと覚えているからだった。「……ありがとう。すごく美味しい」「よかった。七海はどう? お肉、固くない?」「おいしい! パパのハンバーグ、だいすき!」 七海がフォークを握りしめ、口の端にソースをつけたまま弾んだ声を上げた。悠人は目元を和らげ、テーブルに置かれたティッシュで七海の口元を優しく拭い取ってやる。 前夜の雨が嘘のように、家の中には平和な日常が戻っていた。 食事の途中、七海は学校で育てている鉢植えの話を始めた。朝、水をあげたら葉っぱに小さな虫がついていたこと。隣の席の子が大声を出して先生に笑われたこと。悠人は箸を止めて一つ一つ相槌を打ち、ときどき大げさに驚いてみせる。七海はそのたびに嬉しそうに笑った。 真帆もつられて口元を緩めた。こういう時間は、確かに何年も積み重ねてきたものだった。休日に三人で買い物へ行き、帰りにアイスを買う。七海が熱を出せば悠人と交代で看病し、運動会の朝には二人で早起きして弁当を作る。疑い始める前の暮らしが、いきなり全部嘘だったわけではない。 だからこそ、真帆は余計に分からなくなった。目の前の男と、自分に隠れて娘を別の女へ会わせていた男を、同じ一人の人間としてうまく重ねられなかった。 ポストに入っていたピンク色のメッセージカードは、真帆のバッグの奥底に押し込められたままだ。『これ、パパの字を真似したみたいな字だもん』という七海の一言が、頭の片隅で鈍く引っかかっていたが、目の前で穏やかに微笑む悠人の姿を見ていると、自分の頭がおかしくなってしまったのではないかという気がしてくる。 学童のお迎え登録も、付箋
Last Updated : 2026-09-03 Read more