「そこは私の部屋なのに、どうして私が……」琴葉が拒絶しようとした矢先、視界の隅で、碧斗に挨拶していた男たちが一斉にこちらを振り返るのが見えた。その目は呆気に取られていた。琴葉の言葉はピタリと喉の奥に引っ込んだ。海翔はわざとらしく首を傾げてみせた。「どうしたんだい、琴葉さん?」「なんでもないわ」琴葉はその場で反論するのを呑み込んだ。他人の前では離婚の事実を公にしないという、碧斗との取り決めがあったからだ。だが、たとえ自分が拒まなかったとしても、今夜碧斗が自分の部屋に来るはずがない。行くとしたら、雪乃の部屋に決まっている。悔やまれるのは昨日のことだ。連休の予定を聞かれた際、どうして素直に自分のスケジュールを伝えておかなかったのか。今日自分がこのクルーズパーティーに来ると前もって知っていれば、彼だって間違いなく顔を合わせないよう避けていたはずなのに。海翔は彼女が異を唱えないのを見て取り、すかさずスタッフに言った。「よし、君はもう戻っていいよ」スタッフが立ち去ると、ビジネスパートナーの男2人も空気を読んで口を開いた。「では、我々はこれでお邪魔します。あちらへ行っておりますので」人払いが済むなり、琴葉は険しい顔で傍らの男を睨みつけ、声を潜めて凄んだ。「手を離して」「……ああ」碧斗は、彼女の細く柔らかい腰に添えていた手を渋々といった様子で下ろした。琴葉はさらに、2人にしか聞こえない声で釘を刺した。「さっさとあなたの友達を連れて、ここから消えて」碧斗がそれに乗じて彼女の耳元へ顔を寄せ、何か言い返そうとしたその時。カツカツとヒールを鳴らす足音が近づいてきた。「碧斗、こんなところにいたのね」同じ側に座っていた碧斗と琴葉、そして帆夏と琉馬が同時に顔を上げる。雪乃の姿を認めた瞬間、4人は見事に揃って眉をひそめた。水を差された不快感が、全員の顔にありありと表れていた。その露骨な反応に、雪乃は顔の笑みを僅かに引きつらせた。気まずさを誤魔化すように、海翔へと顔を向けて声をかける。「こんばんは、海翔さん」海翔は淡々と口角を上げた。「雪乃さん」「まさかこんなところで会うなんて、奇遇ね。私もご一緒して構わないかしら?」そう言いながら、彼女はすがるような視線を碧斗に向けていた。だが、碧斗が口を開くよ
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