噂で回ってるのは、知っていた。「絢斗、今は二年の子と付き合ってる」って。“今は“って何だよ。みんな、本当は俺とれいなちゃんとのこと、知ってたのかよ。知っててみんな、黙っててくれたんだろうか。みんな、いいやつじゃんか。でも今は……。れいなちゃんと別れた今は、みんな、面白がって言う。今ならみんな、声に出せるからだろうか。俺は、平気な顔をする。恋愛なんて自由だろって顔をする。でも本当は、自由とかじゃない。れいなちゃんの代わりがほしいわけじゃない。れいなちゃんを忘れたいわけでもない。ただ、「誰かが俺のことを好きでいてくれる」って状態がないと、俺は立っていられない。空っぽになるから。……だから、指輪をする。指輪なんてさ、あれ、誓いじゃない。俺にとっては“予防線”だ。「俺はちゃんとしてる」って自分に言い聞かせるための小道具。周りに対しての“免罪符”みたいなもの。だけど、指輪をしてる俺が、れいなちゃんに近づく。それがどれだけ汚いことか、分かってる。分かってるのに、やる。だって、れいなちゃんが笑うと、俺の中の何かが“生き返る”から。れいなちゃんの声を聞くだけで、勝手に世界の色が戻るから。それが、もう癖になってる。中毒だ。自分から振ったとか、そういう話じゃない。れいなちゃんは“終わらせようとしてる”んだ。俺は“終わらせたくない”んだ。それだけ。なのに、れいなちゃんは疲弊していく。当然だよな。別れ話のたびに泣いて縋られて、情で揺らされて、やっと離れたと思ったら、また近づいてくる男がいる。しかもそいつは、指輪までしてる。ふざけんなって話だ。れいなちゃんが、横井先生と飲みに行ってるらしいと、目撃したやつがいた。……そこ、刺さる。めちゃくちゃ刺さる。横井先生は“聞かない”んだろ。深くは尋ねない。でも察する。それで、れいなちゃんにとっての逃げ場になる。大人の包容力、ってやつ。俺には、できない。俺は、聞かないふりをしながら、結局“答え”がほしくなる。俺は、包むふりをしながら、結局“自分の不安”を押しつける。だから、れいなちゃんは横井先生のところへ行く。……俺、負けたのか。いや、違う。勝ち負けじゃない。れいなちゃんがやっと呼吸できる場所を見つけただけだ。俺が奪ってた呼吸を、取り返してるだけだ。分かってる。分かって
Last Updated : 2026-10-18 Read more