放課後の家庭科室。窓の外では、雨上がりの夕陽が水滴を照らしていた。そういえば、6時間目に雨が降ってたっけ。音を立てないように家庭科室のドアを開けた。調理実習の片付けをしていたれいなちゃんは、エプロンの裾を軽く結び直していた。教室には、粉の匂いと甘い香りがまだ漂っている。「れいなちゃん」俺の声に振り返った彼女は静かに目を見開いた。「桐生くん。どうしたの」「れいなちゃんの顔、見たくなった」困ったように目を細めて、彼女は俺を家庭科室の中に招いた。抱きしめたい衝動と闘いながら、何事も無かった風を装って彼女の作業を手伝った。このとき、俺は黙って棚を整理していた。いつものように、何も言わず、れいなちゃんの動きを横目で見て手を動かす。ふと、違和感に気付いた。何だ?見られてる?れいなちゃんじゃない。廊下の方か?──ケバ嬢。ケバ嬢はスマホを持ち、鏡のように画面を見ながら髪を直していた。だが、視線の先はれいなちゃんと俺。あいつ、巻いたと思ったのに。ずっと見てたのか。ケバ嬢の唇が、にやりと歪んだ。「絢斗お。ちょっといい?」ケバ嬢はわざと声を甘く伸ばして家庭科室に入ってきた。れいなちゃんが顔を上げると、ケバ嬢はにこりと笑い、意味ありげに俺に近づいた。ケバ嬢はわざと声を甘く伸ばして教室に入ってきた。れいなちゃんが顔を上げると、ケバ嬢はにこりと笑い、意味ありげに俺に近づいた。そのにこりとした笑いを見て背筋が寒くなったのは気のせいでは無いだろう。「この前の課題、ノート貸してくれるって言ってたよね? ね、今見てもいい?」巻いたと思ったのに。さっきの教室での俺の放心も、家庭科室に近づく俺の動きも、全部こいつにバレていたのか。気配を消すのが上手過ぎる。もしかして、今まで気付いていなかっただけで、何度か尾行されていたのかもしれない。れいなちゃんを、一瞬見る。れいなちゃんは困ったように笑い、「ノート、机の上ね」と促した。ケバ嬢はその横をすり抜けながら、れいなちゃんの方にわざと強い香水の匂いを残した。彼女が咳き込んだ。彼女は香水の匂いが苦手だ。時間差で鼻水が止まらなくなったり、貧血を起こすこともある。ケバ嬢め、余計なことを。「先生、今日のスカートかわいいですね。どこで買ったんですかあ?」れいなちゃんは少し驚いたように笑い、「あ、ありがとう。そんなに高くないの
Last Updated : 2026-10-03 Read more