All Chapters of 仮面の告白〜甘美な誘惑に堕ちたわたしたちは、甘い蜜から逃げられない〜: Chapter 51 - Chapter 60

82 Chapters

敵は近くにいる③

放課後の家庭科室。窓の外では、雨上がりの夕陽が水滴を照らしていた。そういえば、6時間目に雨が降ってたっけ。音を立てないように家庭科室のドアを開けた。調理実習の片付けをしていたれいなちゃんは、エプロンの裾を軽く結び直していた。教室には、粉の匂いと甘い香りがまだ漂っている。「れいなちゃん」俺の声に振り返った彼女は静かに目を見開いた。「桐生くん。どうしたの」「れいなちゃんの顔、見たくなった」困ったように目を細めて、彼女は俺を家庭科室の中に招いた。抱きしめたい衝動と闘いながら、何事も無かった風を装って彼女の作業を手伝った。このとき、俺は黙って棚を整理していた。いつものように、何も言わず、れいなちゃんの動きを横目で見て手を動かす。ふと、違和感に気付いた。何だ?見られてる?れいなちゃんじゃない。廊下の方か?──ケバ嬢。ケバ嬢はスマホを持ち、鏡のように画面を見ながら髪を直していた。だが、視線の先はれいなちゃんと俺。あいつ、巻いたと思ったのに。ずっと見てたのか。ケバ嬢の唇が、にやりと歪んだ。「絢斗お。ちょっといい?」ケバ嬢はわざと声を甘く伸ばして家庭科室に入ってきた。れいなちゃんが顔を上げると、ケバ嬢はにこりと笑い、意味ありげに俺に近づいた。ケバ嬢はわざと声を甘く伸ばして教室に入ってきた。れいなちゃんが顔を上げると、ケバ嬢はにこりと笑い、意味ありげに俺に近づいた。そのにこりとした笑いを見て背筋が寒くなったのは気のせいでは無いだろう。「この前の課題、ノート貸してくれるって言ってたよね? ね、今見てもいい?」巻いたと思ったのに。さっきの教室での俺の放心も、家庭科室に近づく俺の動きも、全部こいつにバレていたのか。気配を消すのが上手過ぎる。もしかして、今まで気付いていなかっただけで、何度か尾行されていたのかもしれない。れいなちゃんを、一瞬見る。れいなちゃんは困ったように笑い、「ノート、机の上ね」と促した。ケバ嬢はその横をすり抜けながら、れいなちゃんの方にわざと強い香水の匂いを残した。彼女が咳き込んだ。彼女は香水の匂いが苦手だ。時間差で鼻水が止まらなくなったり、貧血を起こすこともある。ケバ嬢め、余計なことを。「先生、今日のスカートかわいいですね。どこで買ったんですかあ?」れいなちゃんは少し驚いたように笑い、「あ、ありがとう。そんなに高くないの
last updateLast Updated : 2026-10-03
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背徳の味①

扉が閉まったあと、れいなちゃんは小さく息をついた。「……ありがとね、助かった」れいなちゃんに背を向けたまま、俺は答えた。「別に。俺がイラついただけだし」「でも……白石さん、最近ちょっと怖くて。何か、ずっと見られてる気がして」「気にしない方がいい。あいつ、すぐ飽きるから」俺のの声は淡々としていたが、その手は机の角を無意識にぎゅっと握っていた。俺はまだ、知られたくなかった。——誰にも。れいなちゃんを守っている理由も、想いも。家庭科室のカーテンを、俺はそっと閉めた。小さく笑う彼女の背中を、ふわりと包んだ。「──絢斗?」「ちょっと、補充させて」れいなちゃんの長い髪に顔を埋める。シャンプーの、いい香りがする。きつすぎる香水をつけて歩き回るケバ嬢達とは雲泥の差だ。ああ、この人は俺の天使だ。女神だ。「絢斗。まだ勤務時間中だから」「まだ待って」柔らかい髪に、柔らかい身体。今すぐ全部触れたい。れいなちゃんの啼く声が聴きたい。「なあ、ここでしちゃ……」「だめだってば」「したくなった」「無理。仕事中。誰かに見られたら私社会人として終わる……って!……ふう……んん」我慢が出来ない。れいなちゃんの服の上から膨らみを揉みしだいて先端を見つけた。もう硬くなってんじゃん。意識が、快楽に支配されていく──。だめなのに。ここ、学校なのに。職場なのに。私は教師で、絢斗は生徒なのに。誰かに見られたら絶対に終わる。私の人生が、社会人生命が、終わる。特に、さっきの白石さんに見られたら。動画なんて撮られてたら弁解すら出来ない。ブラウスの裾から絢斗のごつごつした手のひらが侵入した。触られたいけど、そのまま受け入れたいけど、今はだめ。「んはあっ……あんっ……けん、と……ね、待って……」「無理」太腿に、硬くなった彼が主張していた。そのまま視界が反転しそうになって、彼の胸を押し返す。「れいなちゃん?」そんな悲しそうな顔しないで。今すぐここで全部受け止めたくなる。「まだ、白石さんが」絢斗は静かに身体を離した。がっかりしたかな。でも、本当に、ここでするわけにいかない。窓辺でカーテンを少し開け、閉じた彼はまた私を包み込んで唇を奪った。「ふ……んん……?絢斗……?」「白石はもう、校門を過ぎてた。だから、大丈夫」「え、大丈夫って」調理台に身体を倒された
last updateLast Updated : 2026-10-03
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背徳の味②

「──なあ、一緒に帰ろうよ」「私勤務中だってば」さっきから、何度この会話を繰り返しただろう。交わった後の絢斗は、いつもにも増して甘えん坊になる。「もう手伝ってもらえる作業は無いのよ」「俺、何でも運ぶよ?」「受験生は受験勉強しておいで」ちぇー、とむくれるその表情すら可愛いと思ってしまう。最早末期症状だ。黒板の上の時計に目をやった。「そろそろ鈴木先生が降りてくる時間なの。絢斗がここにいる理由が、説明つかないわ」「鈴木か……それは面倒だな」それでも何かと理由をつけて居残ろうとする絢斗をやっと家庭科室から出した。追い出すみたいな形になっちゃって、一瞬可哀想に思った。でもそれは教師としての感覚ではおかしいと思わないといけない。職場にいるときは仕事モードに徹しないと。自分自身も絢斗も守れない。「あー疲れた。やってらんない」家庭科教官室に鈴木が戻る、ぎりぎりのタイミングで戻った。部活の顧問大変アピール乙です。「檀さんはいいよねえ。顧問無いんだから」ありがたい限りです、なんて言ったら処刑確定だな。「吹奏楽部の顧問って、誰でも出来るものではありませんから。やっぱ鈴木先生じゃないと」「そうなんだけどお。でも働き方改革なんだから外部から講師呼んでくれないと」ああ、私おべっかのレベルがまた上がったな。鈴木の相手をしながら視線を窓の外にやる。絢斗が校門への道を歩いているのが見える。吹奏楽部の子たちだろうか。絢斗の数メートル後ろに2・3人ぐらいのグループが連なっていた。良かった。絢斗が今歩いていても不自然じゃない。「だからあ。あの子達は私の言うこと聞いとけば金賞とれるはずなの!なのに全然違うやりかたばっかりするんだから」吹奏楽部でもやりたい放題なわけね。外部講師、本当に呼んであげた方がいいかも。吹奏楽部員達は、鈴木の言うことに異議を唱えて自分達なりにやっているのだろう。実際に外部講師を呼んだところで、鈴木のご機嫌を上手に取れる人じゃないと駄目なんだろうな。そこか出来ないとすぐに鈴木に追い出される。私自身、中学生当時は吹奏楽部だった。顧問が熱い人で、金賞は当然、全国目指すのが当たり前なところだった。この高校の吹奏楽部の音は、申し訳ないけど汚い。練習次第でもっと綺麗な音になるのに。健気に頑張ってる吹奏楽部の部員達は、私の家庭科の授業態度がみんな良い
last updateLast Updated : 2026-10-04
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背徳の味③

電車の中でも、視線があるような、無いような。言いようのない不安を感じた。一度疑い出したら全方向が疑わしい。今日は満珍軒寄らずにまっすぐ帰ろう。スマホのメッセージアプリを起動する。『今日は満珍軒寄るの、やめとくね』『どうして?』『気のせいかもだけど……私、つけられてる気がするので』『白石が近くにいる?』『わかんない。でも、今日は大人しくしておくよ』『わかった。俺、塾から直接れいなちゃんの家行くよ』 おーい。受験生。塾から私の家に直行ってどうなのよ。それでもつい、笑みが浮かんでしまう。『今日は大人しく、それぞれ帰ろう?』『やだ。れいなちゃんを摂取しないと俺集中できない』『もう摂取したでしょ?』『足りない』『変態w』満員電車の中で、スマホいじりながらひとりで口角が上がるのを我慢していた。だからかな。隣の車両にいた白石さんに、私は気付けなかった。駅のホームに降りる。うん、誰かになんて見られてない。誰にも見られてなかったんだな。「檀せーんせ?」……嘘でしょ。「白石、さん……?」きつい香水を漂わせて彼女は私に近づいた。「先生も駅、ここなんですかあ?」「えっ……と」ここが最寄りだってバレたら絶対にいけない。本能がそう囁いていた。「白井さんのお宅、この近くなの?」「ううん、反対方向」反対方向って。その薄ら笑いが更に恐怖なんですけど。「先生は?家、この辺なの?」「家は、この辺ではないの」嘘は、ついていない。ここから5分ぐらい歩くのであって、徒歩1分以内ではないからこの辺ではない。「じゃあどうしているんですかあ?誰かの家行くとか?」どんどん距離を詰めてくる。表情変えずに。やめてよ。夢に出てきそうな真顔。「叔母の家に用事があるの。私、急いでるから」「え、ちょっと先生」白石さんを振り切ってタクシー乗り場に向かう。うまい具合に、タクシーがちょうど待機していた。家まではタクシー必要無いけど、ここは色んな安全の為だ。ドアが開いているタクシーに乗り込むと、すぐにドアが閉まった。「近いんですけど、本町通りまで。お願いします」「はい」タクシーが動き出した。高校生にはタクシーはハードルが高いはず。偏差値の高い高校ではあるけれど、高校生が日常的にタクシーを使うような、セレブ校ではない。どうやら巻けたようだ。見失わせれば、こ
last updateLast Updated : 2026-10-04
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背徳の味④

「メイク落としたんだ」「お風呂入ろうとしてたから。絢斗まだ時間かかるって言ってたし」部屋の隅に鞄を置いた絢斗の手が腰に伸びた。あっという間に腕の中に包まれた。耳が赤い。よく見たら、顔全体が赤くなっていた。「絢斗、どしたの?」「え?」「顔が赤い。熱でもある?」「ね、熱って」額に手を伸ばそうと試みた。手を握られたまま、唇を奪われる。「ん……ふ、ふあ……」キスだけで脳が溶けそう……。このキスを受けられるの、私の特権なんだな。うっすらと白石さんの顔を思い浮かべた。そうよ、あなたはこのキスを受けられない。優越感に浸る私に激しい快楽が脳を走った。「ブラ着けてないの?だめだよ、こんなエロい格好したら」膨らみを揉みしだきながら、Tシャツの上から先端を口に含まれていた。直接の刺激でないのがもどかしい。「んあ、はあっ……ね、絢斗、あの……」服の上からじゃなくて、直接触れて欲しい。そんなこと、言えない。「ここ、お尻?」「ん、んん……」なんで、わかりきったことを……と思考を巡らせていた。絢斗の手がTシャツワンピの裾から侵入して、お尻の割れ目の上のくぼみを執拗に撫で始めた。え、何、これ……。なん、だか、息が……荒く、なる……。自然と手が絢斗の硬くなったそれに伸びる。早くこれを、挿れてほしい。お尻のくぼみを執拗に攻められた私は、理性なんてとうに溶けていて。優しく包んで少しずつ前後に動かした。「ね、絢斗、おね、がい……」他のところも触って欲しい。服も早く脱がせて欲しい。私の身体の最奥が、絢斗の刺激が欲しくて欲しくてしょうがない。焦らされている。明らかに、焦らされている。口角を上げた絢斗が、上手く開かない私の目に映った。楽しそうに、意地悪そうに笑うその表情は、いつも学校で見る生意気な高校生とは違っていた。私に触れるときの絢斗は、ただひとりの男の人だ。「これからお風呂、入るんだっけ?」「そう、だよ……?」だから、ベッドの上だとあんまり良くない。ベッドの布団には綺麗な身体で入りたいから。「俺も一緒に入る」「え?」「俺、今日ここに泊まる。れいなちゃん、いいでしょ?」「絢斗、勉強は……?」「こんなときに勉強とか言わないの。でも心配しないで。後からちゃんとやるから」促されて浴室に入る。明るい浴室の鏡に、私だけでなく絢斗の裸体まで映された。「全
last updateLast Updated : 2026-10-05
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そろそろお腹いっぱい/兜の緒を締めよ①

はあ……。何なんでしょうか。禁断の恋をしている方々は酔ってらっしゃるのでしょうか?何故にこんなエロ話を大して仲良くもない私にこんなに語る?いや仕事なんだけどね、私。「惹かれちゃいけない相手と、こんなに、あんなことやこんなこと、してるんです」ってそんなに言いたいか?禁断の果実ってそんなに美味しいの?そんなに自慢したいやつなの?普通の人生を送ってきた私にはわからない。理解出来ない。いや普通って何だ?でも少なくとも、檀さん達や麻子さん達の経験してきたことの方が少数派よきっと?しかしなあ。檀さんも桐生さんも、白石さんのヤバさに本当に気付いてるんだろうか?バケモノの予感でいっぱいだぞ?高校生の恋愛ってこんな感じだったんだろうか。私達の頃も、私が知らないだけで先生とヤリまくってたり、ヤバめなストーカーになったりしてたんだろうか。好きな子と目を合わせるだけで精一杯だった当時の私、相当ピュアだったな。うん自画自賛。結局今の話って白石さんを巻いて、檀さんの部屋で欲に溺れまくってるってことよね。この調子だとこのふたりのどっちか……たぶん檀さんが白石さんに後ろから刺される未来しか見えないよ?そしたらこの記事お蔵入り?「壇せんせえ、いますかあ?」「白石さん。いらっしゃいますか、ぐらい言えるようにならないと恥ずかしいわよ」──また来た。白石蘭々《らら》。絢斗からこれでもかと塩対応を喰らってたみたいで、最近は絢斗に付きまとうことはやめたらしい。ところが最近この白石さんは、なんと私に付きまとうようになった。「それぐらい、いいじゃないですかあ、鈴木せんせえ」「……壇先生、白石さん」「……はい」家庭科教官室のドアから一番遠いところに私の席があって良かった。白石さんが来る度に鈴木が対応してくれていた。そのまま追っ払ってくれたら今までの鈴木に対する悪い印象チャラにしてあげてもいいんだけどな。「今日は、何?」しばらくは愛想笑いをしていた。でもこの2週間程、学校がある日は毎日突撃を受けていたものだから、だんだんと営業スマイルにも限界が生じてきた。「あれ?せんせえ、首もと赤あい?キスマークですかあ?」「虫刺されよ。私忙しいから要点をまとめてくれる?」無表情の即答。これぐらいの口撃にも慣れてきた。所詮、女子高校生。鈴木のイビリの前では恐竜と蟻ぐらいの差がある。勿論、白石
last updateLast Updated : 2026-10-05
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兜の緒を締めよ②

「壇先生。会議、あと5分で始まるけど」澤田先生から突然のキラーパス。え?会議?今日あったっけ?こんな中途半端な時間に?「えっ?あ、そうか。白石さん、今日はすぐこの後会議だから」「ええ……」まだ不満そう。会議ってワードに何故屈しない。高校生だよね?会議という言葉の意味、わかってるよね?「あなたの用事、緊急じゃないでしょう。色んな機密情報扱うから早く退室してくれる?」つまり、早く帰れと鈴木先生は白石さんに言ってくれている。白石さんは不満そうな顔をしていたけど家庭科教官室を出て行った。良かった。今日の犠牲は8分で済んだ。「ありがとうございました。あの、会議って……」私聞いてなかったんですけど、とか言ったら鈴木に怒られるでしょうか?「ああ、会議か……どうする?澤田先生?」「そうですね……今日の会議は場所を変えましょうか」「いいね。私、プレリュードがいい」鈴木が唐突に出したプレリュードというワード。私には有名なケーキ屋の名前としてしか認識できない。「プレリュード?ですか?」「そう、プレリュード。壇さん、澤田さん、今日は16時からプレリュードで製菓の研修ね」製菓ってことは……もしや、『ただケーキを食べに行くだけ』ではないよね?「いらっしゃいませ」「イートインで。壇さん、ここは先に食べるケーキを決めてから入るのよ」クラシックピアノが流れる店内。今流れてるのはショパンのピアノ協奏曲第一番。誰の演奏だろうか?アニメ『ピアノの森』を視聴していた私は、色んなピアニストがショパンコンクールに挑んでいるのをYouTubeでリアルタイム視聴していた。ケーキのショーケースの上部にはクリームのあるケーキとゼリーが、下部にはフルーツのタルトが並んでいた。タルトの方がお値段張るなあ。でも、このいちごのタルトが私を呼んでる……。「壇さん決まった?入るよ」この二人はケーキを決めるときも即断即決なのだろうか。それとも実はどのケーキを食べるか決めてから来てたとか?「私ショコラガトーで。クーポンお願いします」鈴木……先生がお財布から赤く印刷されたクーポンを取り出した。クーポン持ち歩く人なんだ。「こちらのクーポンは1枚で2名様までしか使用できないんです。当店のインスタグラムをフォローしていただけるとお連れ様も使用できますが」「壇さん、インスタやってる?」
last updateLast Updated : 2026-10-06
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兜の緒を締めよ③

心当たり?ありまくりのアリ寄りですよ?でもそんなこと言えない。『絢斗と付き合ってるのが絢斗に横恋慕してる白石にバレて、しつこく付きまとわれている』だなんて、言えない。 「うーん。檀さん。ちょっと嫌かもしれないけど言っていい?」 えっ⁉︎何⁉︎絢斗とのこと、バレてた?でもバレてたなら鈴木先生が絶対黙ってないはず。知ってたとして、澤田先生、言わないでお願い。 「最初の頃さ、授業、大変そうだったじゃん?」 「はい」 大変どころじゃなかった。揚げ足取られまくって全然授業が進まなくて、本当に困ってた。 「そうだったね。それ、どうやって改善したの?」 鈴木先生の追及。正直に吐いてしまうのをぐっと堪えた。でないと絢斗とのこと、全部バレちゃう。 「男の子が、怒ってくれたんです。授業の邪魔は時間の無駄だって」 出来るだけ、私を庇ったのではないとアピールしておかないと。 「桐生くんでしょ。そのエピソード、結構有名だよ」 なんですと⁉︎鈴木先生ですら知ってたわけ?私が絢斗の名前伏せたの意味無いじゃん! 「それ以降、檀さんの授業だけじゃなくて、全教科の授業、静かになったって有名」 「それは知りませんでした。他の先生の授業まで……」 今更ながら、絢斗ってこんなに影響力ある人だったんだ。──翌日、白石さんは来なかった。来られなかったのだ。期末試験2週間前から、各教科の教官室には生徒は立ち入り禁止になる。彼女だって受験生の端くれ。テスト前はテスト勉強しているのだろう。それは絢斗も同じで。なんだかんだ、絢斗が私の家に来ると欲に流されてしまう。絢斗は、私の家に行くことを自ら禁じた。その期間は予備校の自習室に通うと話していた。満珍軒の手伝いも、お父さんに止められたと話していた。家庭科のテストの作成は数日前に終わっていた。澤田先生、鈴木先生の二重チェックを終えた渾身の作は、早々と印刷して私の真後ろのロッカーに保管していた。鍵のかかる家庭科教官室内だから流出の心配は無い。そもそも家庭科のテストなんて、流出狙う人はそうそういない。ドラマだって流出してたのは大抵数学だもんね。そう思うと数学の先生は大変なのかな?「檀先生!」背後から大人の男性の声。振り向くと横井先生が私に向かって足早に駆けてきた。横井先生は数学科の先生だ。私の2つ上の先輩だけど、校内で顔を合わせる
last updateLast Updated : 2026-10-06
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兜の緒を締めよ④

横井先生にバレないように周りを見渡す。歩いているのは全然知らない方々。うちの職場の関係者、どうしてこんなときに限ってやって来ないのよ!「あ、檀先生!横井先生も」澤田先生が私と横井先生に気付いた。澤田先生。お願いだから、ここから私を連れ出して!「澤田先生、飲み、行きませんか?」お願い!うんと言ってください!「私今日用事があるんだよね」がーん……。本当に用事があったのか。「でも女子限定の用事だから、檀先生も来る?」「え?」「今日ね、商社の人たちとの飲み会。女の子ひとり足りなくなっちゃって。檀先生彼氏いないでしょ?一緒に行こうよ」え、ちょ、何?この展開は。澤田先生は商社との飲み会?それも出会い目的なやつ?てか私、絢斗と付き合ってるし!オープンに言えないけど!「いえ、あの、彼氏はいるんで……」あああ。言いたくなかったけど、この状況では言わざるを得ない。「え、檀先生、彼氏いたんですか……」顔色失わないで横井先生!何?もしかして私を狙ってた?「あ、えっと、はい、います」「そうですか。では」諦めて帰ってくれるよね?「焼き鳥屋、行きましょう。職場の親交を深めるだけなら、問題無いですよ?」「うん、行っておいでよ。彼氏がいたらこっちの飲み会はまずいけど、職場の親交目的なら問題無し!」ちょっと澤田先生……太鼓判押すのやめてくれますか?居酒屋の引き戸を開けると、仕事帰りであろうスーツ姿の男性が沢山いた。若い女性が沢山いる、映え狙いのお高いだけのお店より、ビールジョッキ片手に焼き鳥をにかぶりつくお店の方が美味しいのは自明の理だ。カウンターの椅子を勧められた。私は壁際の席が良かったけど、もう既に気怠そうなイケメンがそこで飲んでいた。絢斗の10年後ぐらいってこんな感じなんだろうか。……って!ちょっと待て!絢斗の10年後って28歳。私の10年後って……33歳⁉︎え、ちょっと私、おばさんじゃん!私はまだまだおばさんなんて遠い未来だと思っていた。でも違う。絢斗との年齢差って一生縮まらない。回復魔法効きすぎて若返るとか、何か怪しげな薬飲んで若返るしか道は無い。そんなのできないってわかりきってる。若作りがイタイのもわかってる。私が絢斗と同じ年齢の子と同じメイクや服装したら色んな意味で終わるって、そこはわきまえているの私。「檀さん、生でいい?」
last updateLast Updated : 2026-10-07
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兜の緒を締めよ⑤

えーっと……。教育理念、か……。無いな。そんなこと考える余裕、今の今までの無かったわ。「教育理念を考える余裕すら、ありませんでした」ええがっかりするでしょうよ。がっかりしてごらんなさい。構いません。1〜2分で考えた教育理念が横井先生の教育理念とやらに対抗出来る気なんて全くしませんもの。「そうですか……」はいがっかりね。ここからお説教でもするつもりでしょうか。『教師たるもの……』とか。『教育とは……!』とか。帰りたいなあ。帰ってのんびりして、お風呂が終わったぐらいに絢斗にLINEでもして脳を緩めたい。「いや、素晴らしいですね!」は?「素晴らしいですよ。それだけ目の前のことに集中してきたってことなんですから」「はあ」やたらと目を輝かせる横井先生に、はあ、とかへえ、とか、ハ行の返ししか出来ない状況で、また時が進む。私の表情筋、段々と動きをフリーズしてきている気がする。あと何分耐えたらこのジャイアンリサイタルバリのトークが終わるんだろうか。目の前の豚の角煮が唯一の救い。美味しい。まだせめて、横井先生のビジュアルがそこの気怠いイケメンぐらいの水準だったらな。あのイケメン、私の絢斗と張れる顔面偏差値の高さだな。横井先生がお手洗いに立った。これでやっとひと息つける。今日って何で私横井先生と飲んでるんだっけ?そうだ、親睦を深める的な話だったな。親睦を深めるのと愛想笑いが張り付いて表情筋が固まるのってイコールだったっけ?ふと、右側から視線を感じた。カウンター席の、ひとつ飛ばしてその隣に例の気怠そうなイケメンがこちらを見ていた。目が合った。やっぱイケメンは顔面偏差値が高くて見目麗しい。「おねえさんさ」声もいい感じに鼓膜に響く。でもこの人左手薬指に指輪はめてる。なんだ結婚してるのか。いや私は絢斗だけなんだけど。「愛想笑いばっかしてるとメンタルやられるよ。ずっと我慢し続けてると、そのうち全てが嫌になる」「……へ?」何このイケメン。私が横井先生に愛想笑いばっかしてるのは認めるけど。でも全てが嫌になるって何?「そのうちわかるよ。愛想笑いを続けて、ストレス溜めて、美味しいはずのここの酒もつまみも美味しくなくなる。その男に愛想笑いしかできないなら、おねえさんにとってそいつはいい男じゃない」え、いきなり何?横井先生とどうにかなるなんて考えてないけど。「
last updateLast Updated : 2026-10-07
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