「いいなあ……」はうっ……つい本音が。「いいな、って、何が」イケメンが不思議そうに眉を上げた。「私も、彼と思い出の場所、欲しいなって。で、そんな風に惚気るように言われたいなあって、思っちゃいました」ふふ、と笑みが漏れた。絢斗のことは大好きだけど、堂々と人前でデートできる間柄じゃない。秘密の恋って、難儀だ。本当は、「この人が私の大事な人なんです!」って世界中に向かって叫びたい。でもできない。それをやってしまったら、私たちは引き離されてしまう。絢斗のお父さんは察してくれているというのに。黙って見守ってくれてるのに。互いの立場のせいで、私たちは自由に愛を叫べない。「いやあ、トイレ、混んでましたよ」横井先生が戻ってきた。イケメンはすっと視線をカウンターの大将に戻した。「それでですね、やはり大人である僕たちも学びは続ける必要があって……」ええ……。この人、まだこの話題引っ張るの?勘弁してよ。理想論とか私どうでもいい。静かにイケメンが席を立った。もう帰るのかな。「すいません、私も、お手洗いに」「あ、はい、どうぞ」レジに向かう例のイケメンにそっと近づいていった。私はまだ、話し足りない。横井先生と話してる──一方的に話を聞かされている──よりも、この人との会話の方が、私には有意義だった。「あのっ……」レジでお会計をしているイケメンがこちらを一瞥した。「言いたいことは言う。帰りたいなら帰りたいと言う。言えないなら、上手く言い換えるんだな。今のおねえさんに必要なのは処世術。彼氏が守ってくれないときは、自分で自分の身を守らないといけない」イケメンはそれだけ言うと、「じゃあな。上手くやれよ」と言ってるかもしれない表情で私を振り返ってお店の外に消えた。何だったんだろう、あのイケメン。居酒屋に現れる妖精か何か?うん妖精だ。だって通りすがりの生きた人にしては顔面偏差値が高過ぎた。帰りたい?はい、帰りたいです。帰ってゆっくりして、今この瞬間にも勉強しているであろう絢斗に頃合いを見計らって連絡したい。いくら相手が高校生でも、受験生でも。1日の最後に声を聞いたってバチは当たらないだろう。うん、帰ろう。でもどうやって?まだ横井先生は宵の口。これからまだまだ飲むよ?な雰囲気でいる。家族の誰か、具合悪くなってもらおうか。そうだ、私が一人暮らしをしていることはまだ横
Last Updated : 2026-10-08 Read more