All Chapters of 仮面の告白〜甘美な誘惑に堕ちたわたしたちは、甘い蜜から逃げられない〜: Chapter 61 - Chapter 70

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兜の緒を締めよ⑥

「いいなあ……」はうっ……つい本音が。「いいな、って、何が」イケメンが不思議そうに眉を上げた。「私も、彼と思い出の場所、欲しいなって。で、そんな風に惚気るように言われたいなあって、思っちゃいました」ふふ、と笑みが漏れた。絢斗のことは大好きだけど、堂々と人前でデートできる間柄じゃない。秘密の恋って、難儀だ。本当は、「この人が私の大事な人なんです!」って世界中に向かって叫びたい。でもできない。それをやってしまったら、私たちは引き離されてしまう。絢斗のお父さんは察してくれているというのに。黙って見守ってくれてるのに。互いの立場のせいで、私たちは自由に愛を叫べない。「いやあ、トイレ、混んでましたよ」横井先生が戻ってきた。イケメンはすっと視線をカウンターの大将に戻した。「それでですね、やはり大人である僕たちも学びは続ける必要があって……」ええ……。この人、まだこの話題引っ張るの?勘弁してよ。理想論とか私どうでもいい。静かにイケメンが席を立った。もう帰るのかな。「すいません、私も、お手洗いに」「あ、はい、どうぞ」レジに向かう例のイケメンにそっと近づいていった。私はまだ、話し足りない。横井先生と話してる──一方的に話を聞かされている──よりも、この人との会話の方が、私には有意義だった。「あのっ……」レジでお会計をしているイケメンがこちらを一瞥した。「言いたいことは言う。帰りたいなら帰りたいと言う。言えないなら、上手く言い換えるんだな。今のおねえさんに必要なのは処世術。彼氏が守ってくれないときは、自分で自分の身を守らないといけない」イケメンはそれだけ言うと、「じゃあな。上手くやれよ」と言ってるかもしれない表情で私を振り返ってお店の外に消えた。何だったんだろう、あのイケメン。居酒屋に現れる妖精か何か?うん妖精だ。だって通りすがりの生きた人にしては顔面偏差値が高過ぎた。帰りたい?はい、帰りたいです。帰ってゆっくりして、今この瞬間にも勉強しているであろう絢斗に頃合いを見計らって連絡したい。いくら相手が高校生でも、受験生でも。1日の最後に声を聞いたってバチは当たらないだろう。うん、帰ろう。でもどうやって?まだ横井先生は宵の口。これからまだまだ飲むよ?な雰囲気でいる。家族の誰か、具合悪くなってもらおうか。そうだ、私が一人暮らしをしていることはまだ横
last updateLast Updated : 2026-10-08
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兜の緒を締めよ⑦/噂①

「……もしもし」「れいなちゃん。やっと電話できた」「うん。待ってた……声、聞きたかった」「俺も……聞きたかった」何なのこのやり取り。最高かよ。最高じゃんかよ。ああもう、どうして今日は横井先生とのサシ飲みという、意味のわからんイベントが発生していたのだろうか。絢斗の声を摂取するだけで私の1日は完璧だというのに。「勉強、どう?」「ああ、めっちゃ疲れる。でも」「でも?」「俺、れいなちゃんの横に堂々と立てる男になりたいんだよ。だから俺、極限まで偏差値上げる」ぐっはああああああ……。スマホの声で、耳元で最高の最高の最高の台詞、頂きましたー!何これ失神するじゃん。私の恋愛運インフレしまくり。どうしようこれが最高潮だったら。絢斗の側にずっといたいのに、ここから運勢下げるとかほんとやめてね神様。「……嬉しすぎて言葉が見つからないや。あはは」「いいの。それで。俺の所信表明をれいなちゃんが聞いてくれればそれでいいの」ああもう!最高!最高過ぎるよ私の彼氏様!早く高校卒業しないかな。そしたら私たち、普通のカップルとして堂々としていられる。でも、我慢我慢。あと数ヶ月でそれは叶うの。そう、私たちの、秘密の数ヶ月。──なんて、呑気なことを考えていられたのは、その頃までだったのかもしれない。「──では、これは事実無根だと?」「はい。どうしてこんな話が出たのか、私にはさっぱりわからないというのが正直なところです」テストも終わって、あと少しで夏休みだというのに。校長室に呼び出された。副校長と鈴木先生もいる。「一時期……テストの前ぐらいでしたか、3年生の白石さんが執拗に檀先生に付きまとっていました。頻繁に家庭科教官室に来ていたので、困っておりました」「鈴木先生、それは……報告すべきでしたね」聞いてないぞ、といった表情の副校長。はっきりとした実害が無かった、というのが白石さんの絶妙なところだった。「まあ、副校長先生。はっきりとした実害が無いと迷うものですよ」「しかし、校長先生。迷うなら管理職に上げないと」SNSに、翠嶺高校の新人の家庭科教師が3年生の男子生徒と親密にしている、との匿名での投稿があった。翠嶺高校の新人の家庭科教師って時点で私特定じゃん。でも、絢斗の名前は無かった。書き込んだ本人は私に害を与えたいけど、絢斗は守りたいようだ。状況的に、書き込んだ
last updateLast Updated : 2026-10-08
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噂②

「よし!今日は飲もう!」「鈴木先生、店は角屋《かどや》でいいですか?」「この際映えとかどうでもいい!今日の肴はあなたよ!檀さん」え、何この流れ。「あ、もしもし……はい、予約を。18時から3人で」澤田先生予約始めてるし。私行くって言ってないし。お説教から逃れた代償はまな板の上の鯉ってこと?さっき私校長室に呼ばれてたんですけど。校長、副校長、鈴木先生に囲まれて詰んだと思ったんですけど。思いの外鈴木先生が味方になってくれて助かったけど。うん、これは身を差し出して肴になる運命だね。しかしなあ……。絢斗のことを正直に言うわけにはいかないんだよね。カモフラージュで、大学の後輩と付き合ってるとか言えば誤魔化せるかな?絢斗には言わなくてもいいよね?心配してるかもだから、とりあえず鈴木先生達が味方になってくれたって知らせておこうかな。『れいなちゃん、大丈夫?SNSの話、出回ってるけど』『絢斗も知ってるんだね。でも大丈夫。さっき校長に呼ばれたけど鈴木先生が味方になってくれたの』『そうなんだ。俺、何もできなくてごめん。俺が名乗り出たら、れいなちゃん、余計きつくなるかなって』『それでいいの。今日、鈴木先生達と飲むことになった』『え、それ大丈夫?』『行くしかないの。今後味方になってもらうしかないんだから』そこでLINEは途切れた。既読は付いたけど、返信は無い。電車にでも乗ったかな。でも電車なら返信できそうだけど。「檀さん、出るよー!」 「あ、はーい!行きます!」行きますよ。今日はお姉様方を味方に付けるための接待だ。二次会のコーヒーまで覚悟しないと。でも角屋なら一次会だけで済むかな。近くにカフェ無いし。お姉様方との飲み場所が、こないだ横井先生と飲んだ店と同じってのが滑稽だな。ん?ということは、こないだのイケメン妖精いるかな?「で?檀さん、今度はどんな人なわけ?てか、前の人と別れて結構すぐなんじゃない?」ひええ。鈴木先生、どストレート。他の話題で軽くジャブ打つとかじゃないのね。「前の人……ストーカーになっちゃって」「まじか。そこから守ってくれたとか?」「お、澤田さん、その設定いいね」「ストーカーからヒロインを守るヒーロー……美味し過ぎます」「え、あの、その」私、はいもいいえも言ってないんだけど。このふたり、お酒飲むとどんどん話進めちゃう人達
last updateLast Updated : 2026-10-09
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噂③/ほのかの叫び①

──白石さんを巻く。どうするか。一番いいのは、絢斗と私に対する、彼女の執着を失くすこと。それには、白石さんに誰か言い寄ればいい。それも、白石さんのお眼鏡にかなうイケメンが。そんなに都合良くイケメンが白石さんに近づくだろうか?そのイケメンにだって好みはあるからな。これを絢斗に相談すべきか?醜い女だと思われるだろうか。そんな風に思われたら、私の恋心は死んでしまう。絶望とともに。「ねえ、絢斗」久しぶりのデート。私の部屋。絢斗に触れられたのも、膣内で感じたのも、本当に久しぶりで、さっきまで文字通り溶けていた。「ん?」あああ!その角度、ダメ絶対!なんで高校3年生なのにその色気が出るのよ!脳が死ぬ!ああ駄目……好き……。神様ありがとうございます。「その……白石さんさ」「こんなときに白石の名前なんて聞きたくないんだけど」明らかに不機嫌な顔になった。まずかったか。「ふあっ……はあっ……」彼の指先が、膨らみの頂をつまんだ。脳天に刺激が走る。「今俺はれいなちゃんといるの。れいなちゃんを味わいたいの」まだ溢れたままの蜜壺をかき混ぜるその指が、私の奥のいいところを擦る。「ひゃあっ……ああ……やあ……ね、おねが、い……」絢斗はもう、挿入《はい》る準備ができていた。「はあっ、あっ……あんっ……け、んと……」律動が私の全身を貫く。もうとっくに溶けてた私の脳は、既に使い物にならなかった。白石さんの対策をしないといけないのに。絢斗が与えてくれる刺激に、快感に、今はどうしても身を委ねたかった。最奥を突かれる度に、背中が弓なりにしなる。絢斗に抱きつきたいのに。絢斗にも気持ちよくなって欲しいのに。もう腕の力なんて残ってなくて、枕を握りしめて絢斗を潤んだ目で見上げた。「れいな……可愛い。俺だけの、れいなだ……」応えたいのに。私も言葉を紡ぎたいのに。私の喉奥から出てくるのは、はしたない喘ぎ声だけ。壊れたラジオみたい。何度達しても、絢斗はすぐにまた求めてくる。高校3年生の体力、とんでもない。絢斗は私を廃人にしてしまうのかもしれない。ベッドから抜けられる気がしない。身体が繋がったまま、絢斗は唇を重ねてきた。柔らかい。うん、だめ。絶対、絢斗のこの唇は私だけのもの。誰にも触れさせちゃいけない。今は一体何時なんだろう。何度も何度も抱かれているから、時間の感覚
last updateLast Updated : 2026-10-09
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ほのかの叫び②/戦いのとき①

甘いなあ……。このふたり、考えがすっごい甘い気がする。絢斗さんは確かに元彼かられいなさんを守ったよ?でもさ、何で白石さんからはれいなさんを守ろうとしない?欲望に流されてるだけじゃん。舐めてるのかなあ、白石さんを。執着し始めた女はね、暴走したら怖いよ?もう既にSNSにれいなさんが特定されちゃう事態になってるんだよ?万が一今の高校退職した後、あれがあったら採用されないと思う。デジタルタトゥーって怖い。目の前で微笑む、れいなさん。今の危機に気付いてますかー?気付いてないよね?気付いてたら呑気に私にインタビューなんかされてないよね。華やかなアフタヌーンティーの写真、さっきからスマホで角度を研究して撮りまくってるけど。研究するべきは白石さんの対策だと思うぞ?岳さんと麻子さんはアンハッピーエンドを迎えた。それぞれに覚悟はそれなりに合ったみたいだけど、麻子さんは愛し過ぎた。もっと我儘になっても良かったかもしれないけど、旦那さんを裏切り切ることも出来なかった。気持ちはわからないでもない。このふたりはどうなるんだろう。白石さんというモンスター、このまま放っといたら破滅に向かうのは確実だな。ただ浮かれてるだけのこのおふたり、どう記事にしたものか。白石さんが暴走したら、次の記事を書くタイミングかな。『翠嶺高校の若い家庭科教師が男子生徒と親密だ』SNSでこの投稿を見たときは血の気が引いた。どう考えてもれいなちゃんと俺だ。そしてこの投稿をしたであろう人物も、どう考えても白石だ。さあどうする?白石を問い詰める?問い詰めて大人しく引き下がる輩とは思えない。れいなちゃんが校長室に呼ばれたらしい。不幸中の幸いは、同席していた鈴木先生が味方をしてくれたことだ。あの鈴木が。れいなちゃんに嫌味を言いまくって長い長いお説教をしまくっていた、あの鈴木が。れいなちゃんの味方をしてくれるなんて。白石がれいなちゃんに付き纏っていたことを証言してくれたと、れいなちゃんから聞いた。じゃあ俺は?俺、今回のことで何もできていない。れいなちゃんを守るんじゃなかったのかよ。俺が校長に訴える?一発アウト。俺はセーフかもしれないけど、れいなちゃんがクビになるだろう。でも校長あたりは鈴木が何とかしてくれそうだから大丈夫か。ああ、他力本願かよ俺。俺の力って本当に無いんだな。ああでも。この噂を止めることは
last updateLast Updated : 2026-10-11
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戦いのとき②

「……下手に動いたら、れいなちゃんに迷惑がかかるだろ?」「じゃあ何もしないわけ?」律樹……。今日は一段と攻めるなあ。「逆に聞くけど、俺に何が出来るんだよ?」「俺だったら……白石の周りを固めてくかな」「白石の周り?」あのケバ軍団のことを言っているのか?俺、できればあの軍団には近寄りたくないんだけど。花粉症でもないのに、あいつらの近くに行くとくしゃみが止まらなくなるのは、俺には香水アレルギーがあるのかもしれない。でもれいなちゃんの香水は問題無いんだよな。れいなちゃんはDIORのluckyのボディミルクをハンドクリーム代わりにしている。隣で喋ってるとふわっと香って俺の理性が削がれる。服をひん剥くと今度は服の中でこもってた別の香りが鎖骨のあたりから香る。あの香りのせいで、真剣な話をしていたはずなのに、いつも性欲に負けてしまう。白石への対応をれいなちゃんと話し合わないといけないってわかっている。その話をしないで、情事に流されがちなのが、れいなちゃんを不安にさせてるって、わかっている。でも駄目なんだ。いっそ、れいなちゃんに香水つけるのやめてもらおうか。でもれいなちゃんの身体の匂いと混ざったあの香りが嗅げないなんて、無理だ。あれは俺の精神安定剤なんだ。「……絢斗?」「ほんと、れいなちゃん、いい匂いなんだよなあ……」れいなちゃんの匂い思い出しただけで血が集まってきた。ダメだダメだ、まだ会ってもいないのに。「おい絢斗!俺結構真剣な話してんだけど⁈」「……え?……うわあっ、なんだ、律樹か」目の前には愛しのれいなちゃんではなく、心底呆れた表情の律樹がいた。「お前さ、どんだけ溶かされてんの」「お前も恋をしたらわかるよ。本当の恋ってやつをな」「格好つけてる場合かよ。その本当の恋が現在進行形でピンチってお前わかれよ」「さーせん」いかん、現実に戻らなければ。そもそも、今日律樹を呼んだのは、現在の俺とれいなちゃんのピンチをどう切り抜けるかについて相談する為だった。「で、どうしたらいいんだろ」「だから。白石の周りから攻めるんだよ」「周りから攻める、ねえ……」どう攻めるんだよ。どうせあいつら、噂に尾鰭をつけて面白おかしく語ってるだけだろ。「お前らの噂よりも、楽しいことを差し出せばいい」「楽しいこと……?」嫌な予感しかしない。「俺の友達、
last updateLast Updated : 2026-10-11
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戦いのとき③

白鷺学院から地下鉄で2駅にある繁華街。その大きなカラオケ屋の一室で、俺と律樹の計画は決行された。白鷺学院の奴らは4名。男子校で育っているはずなのに、女の扱いは律樹より上手いとの前評判。どういうことだよ。勉強できて女も選べてって何その人生イージーモード。対して、翠嶺の女子は5人。仲介人の律樹を入れて男が5人というカウントだ。俺はそのカラオケ部屋の隣に待機。何だよこれ。バラエティ番組で見たことあるやつ。ウケる。律樹のスマホ、LINE通話しっぱなし状態。おかげで様子が俺にもよくわかるという、白鷺学院の幹事、輝羅の発案らしい。期末テストが終わった、その土日。れいなちゃんは採点で忙しいらしい。俺の今日の予定、塾に籠るということになっている。裏切るわけではないんだ。ごめんな、れいなちゃん。宴が始まった。『翠嶺の女子ってこんなに可愛いんだな』と輝羅の声が聞こえる。サービストークか。女子勢を口説き始めたら律樹が席を外してこっちに来る算段だ。『俺、ちょっとトイレ……ええ〜、律樹くん、わたしも行くう……』うわまじか。ナントカ沙智ってやつが律樹に絡んでる。こいつ、律樹狙いだったか。『トイレぐらいひとりで行かせろよ……ええ〜、でもお〜……しょうがないなあ、早く戻って来てね……』うわあ……律樹頑張れ。逃げ切るんだ!音も無く、そっとドアが開いた。律樹がげんなりした顔で俺のいる部屋に入ってきた。「ああ……無理、あいつら。香水キツくて俺の鼻水止まんねえ」「律樹、ありがとうな」くしゃみを連発する律樹は俺から1人分の間隔を空けてソファにどかっと座った。音を立てて鼻をかんでいた。それぐらい許そう。律樹は花粉症だ。どうやら香水もダメらしい。れいなちゃんの香水はただただ最高なんだけどな。あの香り、俺の理性を削ぐんだよな。何とかならないか。でもあの香りはつけてくれないとな。あれも含めてれいなちゃんなんだ。「あの絡んできた女は大丈夫なん?」「輝羅が何とかするだろ。同時に2人相手するとか余裕とか言ってたし」同時に2人相手するとか余裕とか。人生で一度、言ってみた……い訳ではないな。でも、れいなちゃんが2人だったら最高だな。うん、最高の妄想……。「──で、ヤル前提……なわけ?」「だろうな。絡んできた女は俺の腕に胸押し付けてきたし、谷間見せてきたよ」「
last updateLast Updated : 2026-10-11
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戦いのとき④

足を忍ばせてその部屋に近づく。部屋のドアから3メートルぐらい。女たちの喘ぎ声が聞こえる。まずいじゃんこれ。店員来たら一発アウトじゃん。周囲を見渡すと、他の部屋も同じような状況になっていたことに今更気付いた。嘘だろ。ここって、ヤリ部屋目的のカラオケ屋だったわけ?俺、去年ツレと来たときそんなことなかったぞ?喘ぎ声なんて皆無だった。……ああそうか。あの時は男しかいなかったからか。男祭りしてたからそういう感じの階の部屋ではなかった。そういうことか。店員もグルなのか。裏で金でも握らせてるのか。「白鷺学院の生徒の御用達カラオケらしいぞ」そう言っていたのは律樹だ。律樹はこの店の闇を知ってるのかもな。さあ、うちの女子たちの喘ぎ声を聴かされたからもういいか。……じゃなくて。白石だ。今回の目的は、白石の俺とれいなちゃんへの執着を削ることだ。それには白鷺学院の誰かに白石が抱かれてしまえばいい。白石のことだ。あいつは顔と学力の偏差値と女子間のマウントが取れるキラキラさがあればいいんだから。俺に目をつけたのも、そういうことだろう。一応確認しとくか。見たくも聞きたくもないけど。本当だ。知ってるやつの最中って全く興奮しない。嫌悪しか無い。ああ、れいなちゃんに会いたい。じゃなくて。白石。白石はどこだ。嫌な汗が止まらねえな。ドアの窓に自分が映らないように。ぎりぎりの斜めから目視。暗めの照明。限界まで照度落としたな。ヤってるのが見えないように、か。人の塊が4箇所。そのうちの……奥左側。いた。上に乗っかってるし。ねちっこいキスをする男らしい。揉まれながら腰動かして、まあ、楽しんでんだな。確認できた。よし。長居は無用。足音を立てないように。早く律樹のもとへ戻ろう。「──え?」視線の先に、絶対に見間違えない、その人がいた。どうしてれいなちゃんが、このカラオケ屋にいるんだ……?嘘だろ?れいなちゃんは今日は採点で忙しいって……。あれは、れいなちゃんじゃないのか?俺が間違えるわけがない。骨格のつくり、髪の艶、何よりも空気感。あれはどう考えてもれいなちゃんだ。考えるよりも先に足が動いた。様子を見ればいいのにって、後から思うのだろう。でもできない。今動くしかない。れいなちゃん、なぜだ。なぜ俺に嘘ついてカラオケ屋なんかに来てるんだ。しかもヤリ部屋兼ねてる階にいるってどういうことだよ!れい
last updateLast Updated : 2026-10-11
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知りたくなかった①

まさか、絢斗がここに来てたなんて。テストの採点があと少しになったとき。匿名の情報提供があった。『大きなカラオケ屋をラブホテル代わりにしている高校生がいる』という内容だった。そのとき校内にいたのは私、鈴木先生、横井先生だけだった。他の先生方は帰った後だった。「──何で私が休日出勤してるときにこんな通報来るのよ」とブツブツ言う鈴木先生を宥めながら横井先生と合流した。匿名とはいえ、通報があったら様子を確認したという履歴を残さないといけない。採点は無事に終わった。本当は絢斗と合流したかったけど、絢斗は今日塾にいるって言ってたからそれは叶わない。時間外労働なのが気になるけど、行く以外の選択肢は無かった。「通報によると、いわゆる乱交をしているようです」横井先生はスマホでデータ化した今回のメモを読み上げた。「どうせ偏差値低い高校の子達でしょ?ウチにそんなことやる子なんていないわよ」鈴木先生の言葉に同意だった。それなりに大変さは味わってるけど、でも偏差値高いので有名なのが我が校、翠嶺だ。カラオケ屋の一室を取る。この3人でカラオケって。事情を知らない人が見たらカオスだ。笑っちゃう。何も見つからなかったら、もういっそこのメンツで歌うのもアリかもしれない。土曜日のカラオケ屋は満室とは言わなくても、それなりに混んでいる。このカラオケ屋はビルの一階からかなり上の階まで、全てカラオケルームになっていて、地区の中では一番大きい。ということは、このビルの部屋、全部チェックするのか。気の遠くなる作業に軽く眩暈がした。休日出勤なんて、するもんじゃない。拠点を出て、3人で手分けして部屋をチェックしていく。ドアの縦に長い窓から見えるのは、休日にカラオケを楽しむ中高生、学生、ZOOMをしている社会人。キッズルームなんてあるのか。広い部屋に小さな子が遊ぶマットがあって、それを見ながらママさん達が歌を歌わずにずっとお喋りしている様子だった。この階は特に問題無し。即席で作ったグループLINEに報告する。次の階か。あれ?横井先生だ。『5階、該当しそうな高校生いる部屋が沢山います。5階に集合願えますか?』目星が付いたのか。やだな。乱交の瞬間に私踏み込むの?あんまり見たくないんだけど。うちの生徒がいないってわかっちゃいるけど、それでもいい気分にはならない。『わかりました。向かいま
last updateLast Updated : 2026-10-12
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知りたくなかった②

横井先生の目。完全仕事モード。取り調べ開始の目をしている。嘘でしょ。今回の件に、絢斗が絡んでいる……?そんなはず、無い!絢斗には私がいるもの。絢斗がカラオケ屋で女の子と乱交だなんて。そんなこと、するはず無い!「俺がっ……誰と来てたって、いいだろ」どうして焦るの?絢斗。焦るような状況なの……?「そうもいかないんだよ」横井先生が淡々と取り調べを続ける雰囲気を醸し出す。無理。絢斗がそんなことするはず無いけど……けど……。万が一、そんなことしてたとしても、私がその取り調べに立ち会うなんて出来ない。過呼吸でも起こして倒れる自信満々だ。「先生、桐生くんは該当しないかと……」早くこの場を終わらせたい。この場からはなれて、絢斗と直接話したい。「どういうことです?」「私たちが見つけないといけない生徒たちは、そういう目的であるなら、強めの香水を選ぶかと」普段から絢斗は香水を付けなかった。私の付けてるDIORの練り香水やボディクリームをほんの少しハンドクリームに混ぜてるのは好きみたいだけど。でも絢斗は自分では付けない。絢斗から香るのは、いつもGATSBYのボディシートの香料だった。横井先生が絢斗の肩周りを嗅ぐ。「確かに。むしろ汗臭い」「ほっとけよ!」イラつきを隠さない絢斗。駄目、その表情では横井先生はあなたを解放してくれない。「ごめんね桐生くん。ちょっとね、人を探してて」「人?」絢斗が怪訝そうな表情をするのと、鈴木先生の声が後方から聞こえたのは同時だった。絢斗の顔から、血の気が引いていく。え、どうして。絢斗、やっぱりあなたも何かやらかしているの?あなたもこの階の件に関わっているの?嘘でしょ……?「あの、もういいですか?今日は俺、菅原と来てて」菅原くん。私と絢斗の秘密を唯一知ってる菅原くん。そうよね、あの冷静で賢い菅原くんと絢斗の組み合わせでこの階の件に関わるなんて……。でも、だったら、どうして今日絢斗は「塾に籠る」なんて嘘をついたの?菅原くんと出かけるって言えばいいじゃない。私に言えない、何かをしている──?考えたくない。でも、目の前の絢斗は血の気が引いてて、私に嘘をついていたのは明白で。今すぐふたりきりになって追及したいけど、私の真横には横井先生と鈴木先生がいる。「ちょっと何この階!どの部屋も該当者だらけじゃないのよ」呆れ顔の鈴木先生
last updateLast Updated : 2026-10-12
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