第11話 裏切ったのは、最後まで信じてくれた人だった六月二十一日、午後一時二十二分。世界各地の研究者を集めた緊急オンライン会議が始まったとき、橘宗一郎はすでに機嫌が悪かった。正確に言えば、怒っていた。しかし今までのように、怒りに任せて誰かを責めれば済む状況ではないことも理解していた。パソコンの画面には三十六人の研究者が並んでいる。アメリカ、フランス、ドイツ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、アルゼンチン、日本。気候学、海洋学、大気物理学、農業気象学、古気候学、それぞれ専門も国籍も違う人間が、一つの異常事態を理解するために集められていた。その中には三年前、宗一郎の論文を批判した者もいる。逆に、最後まで擁護した者もいる。だからこそ、厄介だった。会議開始前から空気は重かった。誰もが、研究チーム内のドラフト資料が外部へ流れたことを知っている。ニュースでは朝から、《来年も夏は来ない》という言葉が世界中を駆け巡り、食料だけでなく種子、肥料、飼料、防災用品まで買い占めが広がっている。研究者たちは観測データを分析するために集まったはずだった。それなのに、今は互いの顔を疑っている。宗一郎が最も恐れていた状態だった。「始めます」宗一郎は静かに言った。声を荒らげるつもりはなかった。その代わり、普段以上に低い声になった。「最初に、今日の会議では二つの問題を扱います。一つは昨夜からの解析結果。もう一つは、研究チーム内資料の外部流出です」何人かが視線を逸らした。アーロン・グレイが口を開く。『先に解析をやらないか』宗一郎はグレイを見る。「なぜです」
Última actualización : 2026-09-20 Leer más