彼は義務で私を娶り、愛したのは遅すぎた のすべてのチャプター: チャプター 21 - チャプター 30

100 チャプター

第21章

数分後、ロドリゲスはNLEグループの本社に到着した。エレベーターの扉が開くと、最上階の静かな廊下が目の前に広がった。彼は探す必要さえなかった。ダイアナがすでに待っていた。彼女はエレガントな黒いドレスを身にまとい、何気なく携帯電話を指先で弄んでいた。ロドリゲスの姿を見つけると、彼女は顔を上げた。「来てくれたのね。」ロドリゲスは立ち止まらなかった。「ジュリアについて、俺に話したいことがあると言ったな。」その声は冷たかった。明らかに、時間を無駄にするために来たわけではない。ダイアナは彼の後を追った。「ええ。」二人は彼女のオフィスに入った。ロドリゲスは後ろ手にドアを閉めると、彼女へ振り返った。「話せ。」ダイアナはしばらく黙っていた。言葉を探しているようだった。やがて、彼女は携帯電話をデスクの上に置き、写真を表示した。ロドリゲスは画面に目を向けた。そして、固まった。その表情が一瞬で変わった。この写真……。彼は知っていた。四年前、事故が起きた日に撮られたものだった。そこには、車のそばに立つジュリアの姿が写っていた。ほんの数分後、彼女は彼を助けるために、自分の命を危険にさらすことになる。ロドリゲスは画面に近づいた。「これをどこで見つけた?」「昨日、受け取ったの。」彼は勢いよく顔を上げた。「誰からだ?」ダイアナは深く息を吸った。「その日に、現場にいた人からよ。」ロドリゲスは何も言わなかった。ダイアナは、さらに声を落として続けた。「本当に何が起きたのかを知っている人。」胸が不快な圧迫感に締めつけられた。「何が言いたい?」ダイアナは彼に向かって数歩歩いた。「事故は、あなたが思っているほど単純なものじゃなかったのかもしれない。」ロドリゲスは動かなかった。「ロドリゲス……あの日、誰かがあなたを傷つけようとしていたの。」彼の視線は再び写真へ戻った。数秒間、彼の目にはジュリアの姿しか映らなかった。そして、すぐに一つの疑問が浮かんだ。「それで、ジュリアは?」ダイアナは視線を落とした。「ジュリアは、ただ運悪く、その場にいただけよ。」ロドリゲスは突然、背筋を伸ばした。「いつから知っていた?」ダイアナはためらった。その短い沈黙だけで、ロドリゲスの目に冷たい怒りが宿った。「数日前から。」「それな
last update最終更新日 : 2026-09-05
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第22章

ロドリゲスは、ただ一つの思いを胸に、NLEグループの本社を後にした。真実を突き止めなければならない。車に乗り込むと、ダイアナから渡された封筒を助手席に置いた。それでも、すぐにはエンジンをかけなかった。両手はハンドルの上に置かれたままだった。あの写真が、何度も何度も頭の中に蘇ってくる。ジュリア。あの日のことを、彼は今でも覚えていた。ジュリアは彼に向かって突っ込んでくる車を見つけると、何も考える暇もなく、彼を守るために飛び出した。あの頃の彼は、ただ彼女の行動を勇敢な女性の行動だと思っていた。だが今は、もう同じようには考えられなかった。もし、あれが偶然ではなかったとしたら?そのとき、携帯電話が鳴った。ロドリゲスはすぐに電話に出た。「クロード。」「何か見つかったか?」ロドリゲスの声には緊張が滲んでいた。「まだだ。でも、あの車の元の所有者の名前を突き止めた。」ロドリゲスは座席から身を起こした。「誰だ?」クロードは短く沈黙した。「以前、NLEグループと契約していた警備会社だ。」ロドリゲスは眉をひそめた。「俺の会社の人間なのか?」「そこを今、確認しているところだ。」ロドリゲスは目の前の道路を見つめた。しかし、その視線はどこか遠くを見ているようだった。数秒考えてから、彼は答えた。「慎重に調べろ。誰にも気づかれるな。」「分かった。」通話が切れた。ロドリゲスはしばらく動かなかった。やがて、携帯電話を置いた。ようやくエンジンがかかった。しかし、彼は本社へ向かう道を選ばなかった。交差点でハンドルを切り、ジュリアのアパートへと続く道に入った。---ジュリアはキッチンにいた。そのとき、玄関のドアがノックされた。彼女は急いで手を拭き、玄関へ向かった。サムだと思っていた。ドアを開けた瞬間、彼女の顔がわずかに明るくなった。しかし、その笑顔はすぐに消えた。そこに立っていたのは、ロドリゲスだった。「どうしてここに?」彼はすぐには答えなかった。ただ、彼女の顔をじっと見つめた。ジュリアは変わっていた。以前より落ち着いているように見えた。そして、何よりも、自由になったように見えた。その事実が、彼が認めたくないほどの痛みを胸に与えた。「君と話したかった。」ジュリアは数秒間、迷いながら彼の前に立っていた。や
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第23章

サムは後ろ手に、ゆっくりとドアを閉めた。数秒間、誰も何も言わなかった。彼の視線がジュリアからロドリゲスへと移る。二人の間に漂う緊張を、何も言われなくてもすぐに感じ取った。「君に誰か来ているとは知らなかった。」サムは静かに言った。ジュリアは小さく微笑んだ。「ロドリゲスはもう帰るところよ。」ロドリゲスはゆっくりと彼女へ顔を向けた。その数少ない言葉が、思っていた以上に彼の胸を刺した。帰る。それでも彼は、四年間彼女の夫だった。四年間。同じ家で暮らし、同じ名前を持ち、同じ人生を分かち合ってきた。それなのに今、ジュリアのものとなったこのアパートで、彼はまるで他人のような気がしていた。「ただ、彼女の様子を知りたかっただけだ。」彼は答えた。サムは腕を組んだ。「彼女なら大丈夫だ。」ロドリゲスの目が険しくなった。「君に聞いたんじゃない。」「もうやめて。」ジュリアが割って入った。声は大きくなかった。それでも、その一言だけで二人を黙らせるには十分だった。彼女はロドリゲスへ向き直った。「あなたは私と話したかった。それで話したでしょう。」ロドリゲスは黙った。まだ何か言いたかった。あと数分だけここにいるための理由が欲しかった。しかし、自分にはもうここにいる場所がないことを分かっていた。しばらくして、彼は頷いた。「帰るよ。」彼はドアへ向かった。手が取っ手に触れたところで、足を止めた。そして振り返った。「ジュリア。」彼女は顔を上げた。「何?」ロドリゲスは息を吸った。「君に戻ってきてほしいとは言わない。」ジュリアは少し驚いたように彼を見つめた。彼は続けた。「でも、赤ちゃんのそばにはいさせてほしい。」今度は、彼女はすぐには答えなかった。お腹へ視線を落とし、それからゆっくりと顔を上げた。「分かった。」ロドリゲスは頷いた。そしてドアを開け、何も言わずに外へ出ていった。---廊下に出ると、彼はその場で立ち尽くした。背後でドアが小さく音を立てて閉まった。ロドリゲスは目を閉じた。そのとき、ドア越しにサムの声が聞こえてきた。「大丈夫?」続いて、ジュリアの声。「うん。」たった一言。それ以上は何もなかった。それでも、ロドリゲスの胸は締めつけられた。まだ二人が夫婦だった頃、ジュリアが同じ優しい声で自分
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第24章

ロドリゲスは、長い間ずっと車の中に座っていた。膝の上には、開いたままの書類が置かれていた。何度読み返しても、そこに記された名前が変わることはなかった。アンリ・ンレ。父親の名前だった。ロドリゲスは、今知った事実が消えてしまえばいいと願うかのように、顔に手を当てた。「……そんなはずはない……」声がわずかに震えた。彼は携帯電話を取り出し、クロードに電話をかけた。何度か呼び出し音が鳴ったあと、通話がつながった。「父さんに関係するすべての取引を調べてくれ。事故が起きた前後の日付を中心に頼む」電話の向こうで沈黙が流れた。「ロドリゲス、本当にそこまで調べるつもりなのか?」「もちろんだ」クロードはまだ迷っていた。「それが君の家族に関わることだとしても?」ロドリゲスは膝の上の書類に目を落とした。しばらく黙ったあと、静かに答えた。「家族が関わっているなら、なおさらだ」そう言って電話を切った。今度は、考え込んでいる暇などなかった。ロドリゲスは車のエンジンをかけた。---アパートでは、ジュリアもまだ眠れずにいた。ソファに横になり、薄暗い天井を見つめている。片手はお腹の上に置かれ、頭の中では同じことが何度も繰り返されていた。ロドリゲスが赤ちゃんのことを知ってから、彼女はどうしても心を落ち着かせることができなかった。怖かった。ロドリゲス自身が怖いわけではない。この妊娠によって、二人の関係が変わってしまうことが怖かった。自分の子供が、ロドリゲスが自分のそばに残る理由になってほしくなかった。彼女は、自分自身を選んでほしかった。義務感からではなく。二人の間に子供ができたからでもなく。彼女は数秒間、目を閉じた。すると、キッチンのほうから物音が聞こえた。ジュリアが体を起こすと、サムが何かを作っているのが見えた。「まだ寝てないの?」サムは振り返りながら尋ねた。ジュリアは小さく笑った。「それはこっちのセリフじゃない?」サムは軽く肩をすくめた。「君に何か食べさせようと思って」ジュリアは静かに首を横に振った。「そこまでしてくれなくてもいいのに」「分かってる」サムは彼女の前に皿を置いた。「でも、僕がそうしたいんだ」ジュリアは皿を見つめ、それから顔を上げてサムを見た。数秒間黙ったあと、彼女は尋ねた。「どうしていつも、
last update最終更新日 : 2026-09-06
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第25章

ロドリゲスは、もう動かなかった。彼は父親をじっと見つめていた。アンリは、息子がこんな表情をするのを初めて見た。まるで、見慣れたその顔の中に、自分がずっと信じてきた父親の姿を探しているかのようだった。「俺に危険が迫っていることを知っていたのに……何も言わなかったのか?」アンリはゆっくりと目を伏せた。「状況が危険になる前に、私が解決できると思っていた」ロドリゲスは、短く笑った。そこには少しの喜びもなかった。「そして、失敗した」声が震えていた。怒りは確かにあった。だが、その奥には、何年もの間、心の奥底に押し込めていた恐怖があった。「ジュリアは死にかけたんだぞ!」アンリは目を閉じた。数秒間、何も答えられなかった。「……分かっている」「いや。父さんは分かっていない」ロドリゲスはテーブルの上に置かれていた書類をつかみ、父親の前に激しく叩きつけた。「父さんは、あの日俺が何を見たのか知らない。ジュリアが俺をかばって、あの車の前に飛び出したとき、俺がどんな気持ちだったのかも知らない!」思い出すだけで、今でも手が震えた。アンリは何も言わなかった。ロドリゲスは部屋の中を数歩歩き、それから突然振り返った。「なぜ?」その視線が父親をまっすぐ射抜いた。「なぜ誰かが俺を殺そうとしたんだ?」アンリは大きく息を吸った。言葉を選ぶように、しばらく黙っていた。「お前に私の後を継がせたくない人間がいたからだ」ロドリゲスは眉をひそめた。「俺に後を継がせたくない?」「当時、私はすでにお前への事業継承の準備を始めていた。だが、会社の中にはそれに反対する者もいた」ロドリゲスの心臓が速く鼓動し始めた。「誰だ?」アンリは黙った。そして、ほとんど聞こえないほどの声で答えた。「お前の叔父だ」ロドリゲスの体が固まった。「クロード?」「違う」アンリは首を横に振った。「もう一人の叔父だ。お前がほとんど聞いたこともない男だ」ロドリゲスは理解できないという顔で父親を見つめた。「俺にもう一人叔父がいるのか?」アンリはゆっくりとうなずいた。「名前は、ビクター・ンレだ」ロドリゲスはその名前を記憶の中で探した。だが、何も思い浮かばなかった。そんな男の存在を、これまで一度も聞いたことがない。「どうして今まで誰も俺に話さなかった?」アンリは視
last update最終更新日 : 2026-09-06
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第26章

ジュリアは、ひどい夜を過ごしていた。前夜にかかってきた匿名の電話以来、目を閉じるたびに、あの声が頭の中に蘇ってきた。「NLE家に残っていればよかったのに」ただ怖がらせるための脅しなのかもしれない。そう自分に言い聞かせても、彼女の本能は、その言葉を軽く考えてはいけないと告げていた。リビングでは、サムがソファで眠っていた。病院まで付き添ったあとも、彼は家に帰ろうとしなかった。ジュリアが本当に大丈夫なのか、確かめたかったのだ。幸い、医師は二人を安心させてくれた。赤ちゃんは無事だった。その言葉を思い出すたび、ジュリアは大きな安堵を感じた。彼女はそっとお腹に手を当てた。「誰にも私たちを傷つけさせないからね」そのとき、ベッドサイドのテーブルに置いていた携帯電話が突然振動した。ジュリアはびくっと肩を震わせた。すぐに携帯電話を手に取る。メッセージが届いていた。ロドリゲス:「元気か? 赤ちゃんは?」ジュリアは数秒間、画面を見つめた。どうして、この男からのたった数文字のメッセージが、今でもこんなにも自分の心を揺らすのだろう。彼女はやがて返信を打った。「私たちは大丈夫よ」ほとんど間を置かず、ロドリゲスから返事が来た。「ありがとう」ジュリアは眉をひそめた。彼女は、別の言葉を待っていた。まだ痛むのか?何か必要なものはあるか?何でもよかった。けれど、携帯電話は静かなままだった。ジュリアはやがて、それをテーブルに置いた。数分が過ぎた。すると、再び画面が光った。二通目のメッセージだった。「ごめん」ジュリアの体が固まった。彼女はその三文字を何度も読み返した。ごめん。とても簡単な言葉だった。それなのに、ロドリゲスからその言葉を受け取ったことで、彼女は思っていた以上に心を揺さぶられた。4年間。彼は、ほとんど彼女に謝ったことがなかった。自分の間違いを認められなかったわけではない。心のどこかで、彼はいつも二人の結婚を、彼女が支払うべき借りのように考えていたのだ。まるで、彼の妻であるというだけで、彼女が受けるすべての仕打ちを正当化できるかのように。でも、今は……。彼はようやく、彼女がどれほど傷ついていたのかを理解し始めたようだった。ジュリアは携帯電話を胸に押し当て、目を閉じた。何も感じたくなかった。そのほうが
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第27章

ダイアナは、ジュリアの部屋の前で数秒間、動けずに立っていた。自分でも気づかないうちに、両手を強く握りしめていた。さっき目の前にいたジュリアは、かつて知っていた控えめで、どこか影の薄い女性とはまるで別人だった。彼女は変わった。そして、その変化がダイアナを落ち着かない気持ちにさせていた。そのとき、手の中の携帯電話が振動した。ロドリゲスからのメッセージだった。「どうしてジュリアに会いに行った?」ダイアナは数秒間、画面を見つめた。つまり、彼は自分がここへ来たことを知っている。彼女は急いで返信を打った。「ただ話をしたかっただけよ」すぐに返事が届いた。「俺の許可なしに、もう彼女のところへ行くな」ダイアナの顔がこわばった。俺の許可なしに?いつからロドリゲスは、こんなにもジュリアのことを気にするようになったのだろう?彼女は携帯電話をロックし、バッグの中へしまった。今度こそ確信した。ロドリゲスに何かが起きている。そして、その変化にはジュリアが関係している。---その頃、ロドリゲスはクロードに頼んでいた情報を受け取ったばかりだった。彼は机の上で資料を開いた。ページをめくるたびに、そこには彼がこれまで本気で知ろうとしたことのなかった、ジュリアの人生の一面が記されていた。彼女はずっと、自分自身の会社を立ち上げたいと思っていた。絵を描くことが好きだった。旅行をして、他の国を訪れ、二人の日常とは違う世界でさまざまな経験をすることを夢見ていた。何より、二人が結婚したあと、彼女には仕事上のいくつものチャンスがあった。それなのに、ジュリアはすべて断っていた。彼のために。ロドリゲスは、しばらくの間、書類の前で黙り込んでいた。喉の奥が締めつけられるようだった。ほとんど忘れていた記憶が、少しずつ蘇ってきた。結婚生活の中で、ジュリアは何度も彼のそばに座り、自分の夢について話していた。自分が成し遂げたいことを話すとき、彼女の瞳には小さな輝きがあった。しかし、当時のロドリゲスはほとんど聞いていなかった。心は別の場所にあった。ダイアナと一緒だった。彼は、何をしてもジュリアは自分のそばにいると思っていた。だから、彼女の言葉を真剣に受け止めることはなかった。彼女がそばにいることを、当然のことだと思っていたのだ。ロドリゲスは顔に手を当
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第28章

ジュリアは電話を切ったあとも、長い間その場に座っていた。携帯電話はまだ手の中にあったが、もう画面を見る気にはなれなかった。ただ目の前の一点を見つめ、ロドリゲスの最後の言葉を頭から追い払うことができずにいた。「君を完全に失ってしまうことを考えると……自分が思っていた以上に苦しい」ジュリアは静かに息を吐き、首を横に振った。「……また期待しちゃダメ」彼女は誰よりもロドリゲスのことを知っていた。優しく気遣ってくれたかと思えば、翌日には冷たくなり、心を閉ざしてしまう。彼女は、そんな彼の変化を何度も経験してきた。もう、都合のいいときに口にされた甘い言葉だけを頼りに、自分の未来を築きたくなかった。もし本当に彼の気持ちが変わったのなら、ロドリゲスはそれを自分に証明しなければならない。約束ではなく。行動で。---翌朝、ジュリアはいつものように会社へ向かった。バッグを置き、椅子を引いたばかりのところへ、同僚が急いでオフィスに入ってきた。「ジュリア、部長が呼んでるわ」ジュリアは顔を上げた。「私?」「そう。今すぐ来てって」不思議に思いながら、ジュリアは立ち上がり、部長のオフィスへ向かった。ドアを二度軽くノックしてから、中へ入った。「お呼びでしょうか?」男性は彼女に笑顔を向け、座るように手で促した。「ああ。君に提案したい仕事がある」彼は机の上に置いてあったファイルを手に取り、ジュリアへ差し出した。「新しいプロジェクトが入ってきた。大きな個人邸を全面的に改装する仕事だ。依頼主は、最初から最後まで工事を任せられる人間を探している」ジュリアはすぐにファイルを開いた。最初のページをめくり、続いて設計図に目を通す。その瞬間、彼女の目がわずかに見開かれた。心臓が強く鼓動し始める。それは、まさに彼女がずっとやりたかった種類の仕事だった。大きなプロジェクト。本当の責任。そして何より、自分にどれだけの力があるのかを証明できるチャンスだった。ジュリアは顔を上げ、部長を見た。「どうして私なんですか?」「君のこれまでの仕事が、すべてを物語っているからだよ」ジュリアは再びファイルへ目を落とした。その瞳に、ほんの少しためらいが浮かんだ。「いつから始めればいいですか?」「受けるなら、月曜日からだ」今度は、もう迷う必要はなかった。ジュリ
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第29章

ジュリアはグラスに視線を落とし、何気なく指でグラスの脚をなぞっていた。「まるで、何もかも簡単みたいに言うのね」ロドリゲスは静かに首を横に振った。「いや。簡単じゃないことくらい、よく分かってる」彼は少し間を置いてから、まっすぐ彼女の目を見つめた。「四年間、俺はこの結婚がただの義務だと思っていた。でも今になって分かったんだ。俺たちの生活をめちゃくちゃにしたのは、何より俺自身だった」ジュリアは喉の奥が詰まるような感覚を覚えた。ずっと、ずっと聞きたかった言葉だった。なのに、どうして今になって聞くと、こんなにも胸が痛むのだろう。「今になって、やっと分かったの?」「そうだ」ロドリゲスは目をそらさなかった。言い訳もしなければ、誰かに責任を押しつけようともしない。その予想もしなかった誠実さに、ジュリアは戸惑った。小さく息を吸ってから、彼女は尋ねた。「それじゃあ……ダイアナは?」ロドリゲスの表情がわずかに曇った。彼は数秒黙り、慎重に言葉を選んでいるようだった。「ダイアナは、俺の過去だ」ジュリアはゆっくりと顔を上げた。「あなたは彼女を愛していた」「そう思っていた」「じゃあ、今は?」ロドリゲスは深く息を吸ってから答えた。「今は……あの頃の気持ちが本当に愛だったのか、それとも、ただ過去の思い出に執着していただけなのか……分からない」ジュリアは黙り込んだ。何と答えればいいのか分からなかった。ロドリゲスは彼女から目を離さず、続けた。「君は違う」その言葉に、ジュリアの心臓が小さく跳ねた。けれど、彼女は何も感じていないふりをした。「君がそばにいた頃、俺は君がそこにいることさえ、当たり前だと思っていた。でも君がいなくなってから……どこにいても、君の存在を感じるんだ」ジュリアはすぐに視線を落とした。その言葉は、今でも彼女の心を揺らす力を持っていた。それが、たまらなく嫌だった。彼女は、この男から自分の心を守ろうと必死だったのだから。「ロドリゲス……」「今夜、何かを求めているわけじゃない」彼の唇に、かすかな笑みが浮かんだ。「ただ、君には正直でいたかった」それからの夕食は、不思議な空気の中で進んでいった。久しぶりに二人は、何気ない話をした。ジュリアは新しい仕事について話した。いくつかの計画について話しているうちに、自然と
last update最終更新日 : 2026-09-06
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第30章

ジュリアがアパートのドアを開けて中に入ったばかりのとき、携帯電話が震えた。彼女は鍵をテーブルの上に置き、画面を確認した。知らない番号からメッセージが届いていた。『あなたは本当に、自分の夫のことを知っていると思う?』ジュリアは眉をひそめた。数秒間、返信もせずに画面を見つめる。いったい誰が、こんなメッセージを送ってきたのだろう。再び携帯電話が震えた。『彼に聞いてみなさい。なぜあなたと結婚したのか』ジュリアの胸の奥に、小さな塊ができたような感覚がした。番号をブロックすることもできた。メッセージを全部消して、何もなかったことにすることもできた。むしろ、それが一番よかったのかもしれない。しかし、彼女が決断する前に、三通目のメッセージが届いた。今度は写真が添付されていた。ジュリアは少しためらってから、それを開いた。画像が表示された瞬間、彼女の表情が変わった。そこに写っていたのは、ロドリゲス。そして、ダイアナ。写真は、ジュリアがロドリゲスと結婚する数日前に、ホテルの前で撮られたものだった。ダイアナはロドリゲスの腕にしがみつき、二人とも笑っている。ジュリアは二人の過去を知っていた。ダイアナが、かつてロドリゲスの人生にとって重要な存在だったことも知っている。それでも、この写真を見た瞬間、胸の奥に奇妙な違和感が生まれた。彼女は写真を拡大した。そして、動きを止めた。ロドリゲスの手には、小さな箱があった。ジュリアはすぐに気づいた。それは、結婚式の日に彼から贈られた指輪が入っていた箱だった。ジュリアは長い間、画面に映るその小さな箱を見つめ続けた。なぜ結婚前に、その箱がダイアナと一緒にあったの?ジュリアは再びメッセージ画面を開いた。新しいメッセージが届いていた。『あなたには、すべての真実を知る権利がある』そして数秒後。『明日15時に会いに来て。ロイヤルホテル。ひとりで来て』ジュリアはゆっくりと携帯電話をテーブルに置いた。本当なら、すべて消すべきだった。すぐにロドリゲスへ電話するべきだった。それなのに、体が動かなかった。頭の中では、たった一つの疑問が何度も繰り返されていた。なぜ、あの指輪が結婚する前からダイアナのもとにあったの?―――同じ頃、ロドリゲスはまだ自分のオフィスにいた。夜はすっかり更けていた。そ
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