All Chapters of じじばばにゃんこと異世界奇譚: Chapter 91 - Chapter 100

182 Chapters

朝飯戦争…

 翌朝。 カルド砦は、早朝から騒がしかった。 飛竜便の離陸音。 商隊の出発準備。 鍛冶場の槌音。 山岳交易路の朝は早い。 そして。「腹減ったぁぁぁ……」 タマは朝から死んでいた。 酒場《黒角亭》二階。 宿泊部屋。 机へ突っ伏したまま動かない。 ミーコが呆れた顔をする。「昨日あれだけ食べたでしょ」「酒飲むと腹減る……」「知らないわよ」 その横では。 フィルニアも床へ転がっていた。「水……」「お前ら完全に飲み過ぎだろ」 トシオが呆れる。 昨夜の歓迎会。 後半は完全に宴会戦争だった。 特にタマとフィルニア。 あの二人が竜人傭兵達と意気投合した結果、酒場半分巻き込む騒ぎになっていた。 グランヴェルが静かにため息を吐く。「だから言ったんだ」 セレスも無言で頷いている。 レオネは窓際で腕を組んでいた。「フィルニア様」「んぁ……?」「朝です」「知ってる……」「本日移動予定です」「俺様はあと五時間寝る……」「却下です」 即答だった。 ミーコが吹き出す。「レオネ強っ」「昔からこうなん?」 タマが聞く。 グランヴェルが頷いた。「フィルニアの世話役みたいなものだからな」「苦労人だ……」 セレスまで小さく頷く。「……否定出来ません」「セレスまで言う!?」 すると。 部屋の扉が開いた。「朝ご飯出来たよぉ」 ミツコだった。 その瞬間。 タマとフィルニアが飛び起きた。「飯!?」「どこ!?」「復活早っ!?」 ミーコがツッコむ。 ミツコはにこにこしながら買い物籠を机へ置く。 そして。「はい」 次々料理が出てきた。 焼き魚。 卵焼き。 味噌汁。 漬物。 炊き立てご飯。 さらに。「なんで朝からこんな豪華なんだよ!?」 タマが叫ぶ。 ミツコが困ったように笑う。「いっぱい食べる子多いからねぇ」「完全に大家族のお母さんなんよ……」 ミーコが遠い目をする。 しかも。 普通に美味そうだった。 焼き魚の匂いが凶悪。 フィルニアが完全復活している。「いただきます!!」「早ぇよ!!」 だが次の瞬間。 タマとフィルニアの箸が同時に同じ焼き魚へ伸びた。「「あ」」 沈黙。「それ俺の」「違う、俺様のだ」「先に触った!!」「竜人族の反応速度舐めるな」「知ら
last updateLast Updated : 2026-09-22
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空の市場…

 カルド砦中央広場。 そこは完全に祭り状態になっていた。 空王国大型輸送艦グランドカーゴの到着。 その影響は凄まじい。 普段は山岳交易中心の砦だが、今日は別世界みたいだった。 香辛料。 空果実。 魔導織布。 浮遊鉱石。 鳥人族特有の軽量装飾具。 見た事もない品が並んでいる。「すっげぇぇぇ!!」 タマが子供みたいに目を輝かせた。「これ全部空王国のか!?」「そうみたいやねぇ」 ミツコも楽しそうだった。 市場の空気は嫌いじゃない。 人の活気。 料理の匂い。 賑やかな声。 それだけで少し元気になる。 一方。 ミーコは既に疲れていた。「待って」「人多すぎ」「アンタ達はしゃぎすぎ」 原因は明確だった。 タマ。 フィルニア。 この二人。 完全に祭りテンションである。「あっち行くぞ!!」 フィルニアが駆け出そうとした瞬間。 グランヴェルが首根っこを掴んだ。「お前は少し落ち着け」「ぐえっ」 その横で。 タマまで前へ身を乗り出している。「見ろフィルニア!!」 タマが指差した先。 そこには巨大串焼き屋台。 しかも。 鳥人族向けサイズなのか異常にデカい。「でっっっっか!!」「肉だ!!」 完全に同じ反応だった。 ミーコが頭を抱える。「なんで真っ先に食べ物なのよ……」「市場と言えば食い歩きだろ」「分かる」「フィルニアまで乗らないで!!」 ユキが苦笑している。 その横で。 セレスが静かに呟いた。「……平和ですね」 レオネも少し肩の力を抜いていた。「ええ」 空間異常。 侵食。 各国の不穏。 問題は山積みだ。 だが今だけは。 こういう時間も悪くない。 その時だった。「おっちゃん!! これ何肉!?」 タマが屋台主へ聞く。 鳥人族の店主が胸を張った。「高山岩羊の炭火焼きだ!!」「岩羊!?」「うまそう!!」 フィルニアが即反応する。 店主は豪快に笑った。「空王国名物だぞ!!」「食う!!」「俺も!!」 完全一致だった。 数分後。「うっっっっっま!!」「なんだこれぇぇぇ!!」 二人揃って叫んでいた。 肉汁。 香辛料。 炭火焼き。 かなり美味いらしい。 フィルニアが串肉へ齧り付きながら言う。「これ帝国でも売れそうだぞ!!」「分かる!!」 
last updateLast Updated : 2026-09-22
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落ちてきた少女…

「きゃぁぁぁぁぁっ!?」 鳥人族の少女が空中で大きく体勢を崩した。 風魔法が乱れている。 翼の動きもおかしい。 観客達の歓声が悲鳴へ変わった。「落ちるぞ!!」「誰か!!」 だが。 高度が高すぎる。 普通では間に合わない。 その瞬間だった。 タマが叫ぶ。「フィルニア!!」「分かってる!!」 二人が同時に飛び出した。 ミーコが目を見開く。「ちょっ!?」 フィルニアが砦中央の荷台を蹴る。 ド ン!! 凄まじい脚力。 竜人族特有の身体能力で一気に上空へ跳び上がった。 一方。 タマは屋台天幕を駆け上がる。「うおぉぉぉぉ!!」 観客達がどよめく。「速っ!?」「なんだあの獣人!?」 フィルニアが空中で少女へ手を伸ばす。 だが。「届かねぇ!!」 高度が足りない。 その時だった。 タマがさらに上から飛び込んだ。「フィルニアァァァ!!」「タマ!?」 空中。 タマがフィルニアの肩を蹴る。「うおっ!?」 加速。 フィルニアがさらに跳ね上がった。 次の瞬間。 ガシッ!! 鳥人族の少女の腕を掴む。「捕まえた!!」 観客達から歓声が上がった。 だが。「やっべ」 フィルニアの顔色が変わる。「重力忘れてた!!」「馬鹿ぁぁぁぁぁ!!」 ミーコが叫ぶ。 当然だった。 上がったら落ちる。 しかも今は少女込み。 フィルニアが落下を始める。「うぉぉぉぉぉ!?」 タマも空中で目を剥いた。「俺まで届かねぇ!!」 その瞬間だった。 ゴ ォ ォ ォ ォ ッ!! 突風。 市場全体へ風が吹き抜ける。 観客達が顔を上げた。 空。 そこへ巨大な影が飛び込んでいた。「なっ――」 鳥人族の青年。 いや。 デカい。 翼を広げた瞬間、周囲へ暴風が走る。 純白の翼。 蒼銀の装束。 風を纏った高速飛翔。 一瞬でフィルニア達へ追い付いた。「掴まれ!!」 次の瞬間。 青年がフィルニアごと少女を抱え込む。 ド ォ ン!! 風圧。 そのまま空中旋回。 落下速度を強引に殺した。「うおぉぉぉぉ!?」 フィルニアが叫ぶ。「すっげぇぇぇ!!」 タマまで興奮している。 青年は市場中央へ着地した。 ザァァァッ!! 風が吹き抜ける。 観客達が歓声を上げた。「助かった!!」「おぉぉ
last updateLast Updated : 2026-09-22
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空王国からの招待状…

 カルド砦の夕暮れ。 空は赤く染まり始めていた。 市場の賑わいも少しずつ落ち着き始めている。 それでも。 中央広場にはまだ人が多かった。 空王国大型輸送艦グランドカーゴが停泊している影響だろう。 巨大艦を見上げながら歩く旅人も多い。 そんな中。「なぁアーク!!」 タマが完全に懐いていた。「その飛び方どうなってんだって!!」「だから風流操作だと言っただろう」「意味分かんねぇ!!」「感覚だ」「余計分かんねぇ!!」 フィルニアまで腕を組む。「空飛ぶ奴ら説明雑だよな」「竜人族にだけは言われたくない」「なんだと?」 もう普通に馴染んでいた。 ミーコがため息を吐く。「仲良くなるの早すぎでしょ……」 ユキは少し笑っている。 アークの妹――リュナも、さっきより元気そうだった。 ミツコのスープが効いたらしい。「本当にありがとうございました……」 ぺこりと頭を下げる。 礼儀正しい子だった。 ミツコがにこにこしている。「もう大丈夫かねぇ?」「はい!」 その瞬間。 リュナのお腹が鳴った。 空気が止まる。「…………」 少女の顔が真っ赤になった。 タマが吹き出す。「腹減ってんじゃねーか!!」「タマ!!」 ミーコが肘を入れた。 だが。 ミツコは笑っただけだった。「いっぱい動いたもんねぇ」 ミツコが買い物籠をごそごそ漁る。「なんか腹に溜まるもん作ろうかねぇ」 次々と食材が出てきた。 肉。 野菜。 香草。 瓶入り調味料。 さらにパン生地まで出てくる。 リュナが目を丸くする。「す、凄い……」 アークも籠を見ていた。「どれだけ入っているんだ……?」 その横で。 タマがニヤニヤしている。「ばーちゃんの籠すげぇだろ」「底見えないんだぞ」 フィルニアまで得意げだった。 ミーコが呆れる。「なんでアンタ達が誇らしげなのよ……」 ミツコは慣れた手つきで調理を始める。 包丁捌きが早い。 火加減も正確。 しかも迷いがない。 セレスが静かに見ていた。「……無駄がありませんね」 グランヴェルも頷く。「野営慣れしている動きだ」 数分後。 簡易机の上へ、湯気立つシチューと焼きたてパンが並んでいた。 香りが凄い。 周囲の通行人まで振り返るレベルだった。「うわぁ……」 リュナの翼が
last updateLast Updated : 2026-09-22
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蒼銀の艦長…

 《グランドカーゴ》甲板。 吹き抜ける風は地上より遥かに強い。 雲海の上。 夕焼け空。 巨大輸送艦の上とは思えないほど景色が広かった。 その中央で。 一人の女性が静かにこちらを見ていた。 長い蒼銀髪。 白翼。 鋭い金色の瞳。 空王国軍装。 周囲へ自然と緊張感を生む存在感。 アークが頭を下げる。「艦長」 女性は静かに頷いた。 そして。 視線がトシオへ向く。「……貴方が、風脈異常を感知した異邦人ですね」 低く落ち着いた声だった。 トシオは頭を掻く。「なんか変な感じしただけだ」 艦長の目が細くなる。「それを感じ取れる者は空王国でも限られます」 その声には僅かな警戒があった。 当然だろう。 風脈。 空王国の生命線。 それを異邦人が感じ取った。 普通ではない。 ミーコが少し困った顔をする。「えっと……じーちゃん、そういう難しい事は感覚でやっちゃうから……」「感覚型だな」 フィルニアが頷く。「分かる」「アンタ達は分かり合わなくていいのよ」 ミーコが即ツッコんだ。 艦長は数秒沈黙した後、小さく息を吐く。「失礼しました」「私は《グランドカーゴ》艦長――」 一歩前へ出る。「シェルファ=アルネシアです」 空気が少し変わる。 アークや周囲兵士達の反応を見る限り、かなり上位らしい。 すると。 フィルニアが目を丸くした。「アルネシア?」 シェルファが頷く。「王族傍系です」「やっぱ偉い奴じゃねぇか」 タマが素直に言った。 シェルファは少しだけ口元を緩める。「貴方達も十分大物でしょう」 視線がフィルニアへ向く。「ヴォルグラード帝国第二王女」 次にミーコ達を見る。「そしてレイシス王国関係者」 空気が静かに張る。 だが。 シェルファはそれ以上踏み込まなかった。「安心してください」「我々は交易国家です」「他国事情へ軽率には介入しません」 セレスが静かに観察していた。 嘘は言っていない。 少なくとも今は。 その時だった。 タマが手を挙げる。「質問!!」「……なんでしょう」「この船デカすぎない?」 数秒沈黙。 アークが顔を覆った。 ミーコが頭を抱える。「そこなの!?」 だが。 シェルファは真面目に答えた。「長距離大量輸送用です」「山岳国家や海上国家との
last updateLast Updated : 2026-09-22
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黒雲航路…

 《グランドカーゴ》内部通路。 さっきまで穏やかだった空気が、一気に張り詰めていた。『第二風脈帯、乱流拡大!!』『進路維持困難!!』 艦内魔導放送が何度も響く。 乗組員達が慌ただしく動き始めていた。 シェルファが即座に指示を飛ばす。「第三推進翼、出力補助!」「高度維持を優先しなさい!」「了解!!」 空王国の乗組員達は動きが早かった。 混乱していない。 長距離航行慣れしている。 だが。 それでも空気は重い。 窓の外。 黒雲が広がり始めていた。 しかも。 普通の嵐ではない。 雲そのものが脈打つみたいに揺れている。 アークが眉をひそめた。「おかしい……」「ここまで急変するはずがない」 セレスも窓の外を見ていた。「魔力反応がありますね」 グランヴェルが低く唸る。「自然現象ではないか」 その時だった。 ゴ ォ ォ ォ ォ…… 艦が大きく揺れた。「うおっ!?」 タマがよろける。 フィルニアが即座に腕を掴んだ。「落ちんなよ!」「お前もな!!」 二人とも普通に危ない。 ミーコがため息を吐く。「アンタ達ほんと落ち着きなさいよ……」 その横で。 トシオは黒雲を見続けていた。「……嫌な感じだ」 低い声。 ミツコが隣へ来る。「海の時みたいやねぇ」「似とる」 空気。 圧。 流れ。 どこか、以前遭遇した境界異常に近い。 その時だった。 艦橋側から兵士が駆け込んでくる。「艦長!!」「報告を」「前方風脈帯で飛竜部隊が消息を断ちました!」 空気が止まる。 アークの顔色が変わった。「何?」「通信途絶です!!」 シェルファが即座に動く。「観測窓を開放」「前方視界を最大投影しなさい」 直後。 通路中央の大型魔導板へ映像が映し出された。 黒雲。 渦。 そして。 その奥。 何か巨大な影が動いた。「……は?」 タマが目を見開く。 長い影。 翼。 だが。 飛び方がおかしい。 グニャリと空間が歪んでいる。 セレスが即座に剣へ手を掛けた。「来ます」 次の瞬間だった。 ズ ァ ァ ァ ァ ッ!! 黒雲の中から巨大な何かが飛び出した。「なっ――」 飛竜。 だが。 違う。 全身が黒く侵食されている。 片翼は崩れ。 目が赤黒い。 しかも。 複数いた。
last updateLast Updated : 2026-09-22
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雲海の魔眼…

 《グランドカーゴ》内部。 壁をぶち抜かれた通路へ、冷たい風が吹き込んでいた。 侵食飛竜は消えた。 だが。 誰一人、安心していない。 窓の外。 黒雲の奥。 そこに。 巨大な赤い目が浮かんでいた。「……なんだアレ」 タマの声が掠れる。 フィルニアも流石に笑っていなかった。「デカすぎるだろ……」 シェルファが険しい顔で前へ出る。「総員警戒態勢」「艦を第三防護陣形へ移行」『了解!!』 艦内が一気に慌ただしくなる。 乗組員達が走る。 風魔導炉の出力が上がったのか、床が微かに振動していた。 セレスが静かに呟く。「……視線を感じますね」「見られてるな」 グランヴェルも剣を握る。 その時だった。 黒雲が蠢く。 ズ ズ ズ ズ…… 巨大な何かが動いていた。 長い。 いや。 デカい。 雲の中に収まり切っていない。 ユキが青ざめる。「蛇……?」 違う。 翼がある。 さらに。 全身が黒い霧みたいなものへ侵食されていた。 アークが息を呑む。「古代飛竜級……!?」 シェルファの表情が険しくなる。「こんな高度へ出現するはずが……」 その時だった。 巨大な魔眼が開く。 ギ ロ リ 空気が凍る。 瞬間。 乗組員数人が膝をついた。「ぐっ……!?」「頭が……!」 ミーコが顔をしかめる。「なにこれ……」 嫌な圧迫感。 頭へ直接響いてくる。 侵食瘴気。 しかも今までより遥かに濃い。 だが。 ミツコが前へ出た瞬間。 空気が変わった。 柔らかい。 温かい。 あの感覚。 買い物籠から取り出した小刀――結命が淡く光っていた。 スゥ…… 優しい光が広がる。 乗組員達の顔色が戻っていく。「楽になった……?」「瘴気が消えてる……!」 シェルファが目を見開いた。 あれほど濃い侵食を抑え込む。 普通ではない。 一方で。 トシオはずっと黒雲を見ていた。「……怒っとるな」 誰へ向けた言葉なのか分からない。 その時だった。 黒雲が裂ける。 ド ォ ォ ォ ォ ン!! 巨大飛竜が飛び出した。「来るぞ!!」 アークが叫ぶ。 直後。 古代飛竜級が《グランドカーゴ》へ突撃してきた。 デカい。 今までの侵食飛竜とは比較にならない。 しかも。 黒霧を撒き散らしている。
last updateLast Updated : 2026-09-22
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風脈の底…

 《グランドカーゴ》艦橋。 空王国乗組員達が慌ただしく動き続けていた。『第三風脈帯、完全崩壊!!』『浮遊制御低下しています!!』『左翼推進炉、出力低下!!』 警報が鳴り止まない。 艦全体が不規則に揺れている。 窓の外。 黒雲はさらに広がっていた。 まるで空そのものが腐っていくみたいだった。 シェルファが前方を睨む。「風脈核を探知できませんか」「ダメです!!」 観測士が叫ぶ。「流れそのものが乱れています!!」 普通の嵐ではない。 風脈自体が暴れている。 つまり。 空王国の航路そのものが崩壊しかけていた。 その時だった。 トシオが黒雲を見ながら呟く。「……底におるな」 全員が振り向く。「底?」 アークが眉をひそめた。 トシオは窓の外を見ている。「流れ暴れとる原因が下におる」「下……?」 シェルファが目を細めた。 だが。 次の瞬間。 艦が大きく傾く。 ゴ ァ ァ ァ ァ ン!! 床を固定していた金属箱が滑る。 通路奥で食器が派手に転がった。「うおっ!?」 タマが柱へしがみつく。 フィルニアは踏ん張りながら笑っていた。「ちょっと楽しくなってきたな!!」「アンタだけよ!!」 ミーコが叫ぶ。 その時だった。『下方より大型反応!!』 観測士が叫ぶ。『来ます!!』 直後。 雲海が爆発した。 ド ォ ォ ォ ォ ォ ン!!!「なっ――」 巨大な何かが飛び出す。 長い。 黒い。 しかも。 翼ではない。「蛇……!?」 タマが目を見開く。 違う。 魚だ。 巨大な海蛇みたいな魚。 だが。 全身が侵食されている。 黒霧。 赤黒い目。 さらに。 周囲へ黒い風を撒き散らしていた。 シェルファが息を呑む。「風喰い……!?」「知ってるのか?」 グランヴェルが聞く。 シェルファの表情が険しい。「古代災害種です」「通常は深層風脈へ存在するはず……」 風喰い。 その名の通り。 風脈を喰らう魔物。 つまり。 コイツが暴走している限り、空路そのものが崩壊する。 次の瞬間。 風喰いが咆哮した。 ゴ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ッ!!! 衝撃。 黒風。 《グランドカーゴ》が吹き飛ばされる。「うわっ!?」 タマが床を滑る。 フィルニアが片腕を掴んだ。
last updateLast Updated : 2026-09-22
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空の港町ベルンガルド…

 翌朝。 《グランドカーゴ》は高度を下げ始めていた。 窓の外。 広がっているのは巨大な断崖都市。 岩山へ張り付くように築かれた街並み。 無数の吊橋。 風車。 飛竜用発着塔。 さらに。 崖下には巨大な雲海が広がっていた。「おぉぉぉ……」 タマが窓へ張り付く。「すっげぇ……」 フィルニアまで目を輝かせていた。「ほんと空の国なんだな」 シェルファが静かに説明する。「中継空港都市ベルンガルドです」「空王国西部最大級の交易拠点になります」 ミーコが周囲を見回す。 既に上空には大量の飛空艇が飛んでいた。 大型輸送船。 小型連絡艇。 飛竜便。 空を埋め尽くすほどだ。「忙しい街なのね……」「ここは各国物流の中心ですから」 アークが答える。 やがて。 《グランドカーゴ》が巨大停泊塔へ接続される。 ゴ ォ ォ ォ ォ…… 重い振動。 そして。 空王国港町ベルンガルドへ到着した。 甲板へ出た瞬間。「うわぁ……」 ユキが息を呑む。 風が気持ちいい。 高い。 遠い。 まるで空の上へ街が浮いているみたいだった。 市場通りには既に大量の人。 鳥人族が多いが、他種族もかなりいる。 交易都市らしい。 その時だった。『《グランドカーゴ》だ!!』『戻ってきたぞ!!』『第二風脈帯通ったって本当か!?』 港側がざわつき始める。 どうやら通信途絶が起きていた事は伝わっていたらしい。 整備員達が慌ただしく動いている。 アークが小さく息を吐いた。「思ったより騒ぎになってるな……」 シェルファが冷静に答える。「第二風脈帯で通信が切れれば当然です」 その時だった。「アーク!!」 甲板下から女性の声が響く。 勢いよく駆け上がってきたのは、茶色い翼の鳥人族女性だった。 短髪。 活発そうな顔。 工具袋持ち。 完全に現場系である。 女性はアークを見るなり叫んだ。「無事なら通信くらい入れろっての!!」「悪かった」「こっちは墜落したかと思ったんだぞ!?」 かなり心配していたらしい。 その視線が一行へ向く。 特に。 トシオで止まった。「……あー」 察した顔だった。 ミーコが嫌な予感を覚える。「その顔やめてもらえる?」 女性は苦笑した。「いやだって」「“第二風脈帯で何か暴れてた異邦
last updateLast Updated : 2026-09-22
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空港市場の1日…

 ベルンガルド中央市場。 朝だというのに、とんでもない賑わいだった。 空魚。 乾燥香草。 浮遊果実。 巨大肉串。 飛空艇部品。 風魔導具。 ありとあらゆる物が並んでいる。「おぉぉぉ……」 タマが窓へ張り付く。「すっげぇ……」 フィルニアもキョロキョロしている。「ほんと空の国なんだな」 シェルファが静かに説明する。「ベルンガルドは西部最大級の交易拠点です」「各国の品が集まりますので」 ミーコが市場を見回す。 鳥人族だけじゃない。 獣人族。 竜人族。 森精族。 かなり多種族が入り混じっていた。「思ったより色んな人いるのね」「交易都市ですから」 アークが答える。 その横で。 ナギが笑った。「ここじゃ珍しい種族の方が人気出るぞ?」「どういう意味だ?」 タマが首を傾げる。「観光客扱い」「なるほど」 フィルニアが頷く。 すると。 近くの屋台から香ばしい匂いが流れてきた。 肉。 焼き魚。 甘い蜜菓子。 タマの耳がぴくっと動く。 フィルニアまで反応していた。「……腹減ったな」「分かる」 二人とも完全に同じ顔である。 ミーコが小さく吹き出した。「アンタ達ほんと分かりやすいわね」 その時。 ぐぅぅぅ…… 静かな音。 タマがニヤニヤする。「フィルニア、朝から全開だな」 フィルニアが胸を張った。「当たり前だ!!」「昨日あんだけ暴れたんだぞ!?」「肉十人前は食える!!」 ミーコが笑う。「それはちょっと食べすぎじゃない?」 すると。 ナギが親指で市場奥を指差した。「ベルンガルド名物食うか?」「空魚串おすすめだぞ」「魚!!」 タマが即反応した。「行く!!」「俺様もだ!!」 フィルニアまで同時に動く。「だーかーらー! 勝手にはしりまわないのーー!!」 ミーコの声が市場へ響いた。 だが。 もう遅い。 二人は既に屋台へ突撃していた。 屋台の店主が豪快に笑う。「元気だな兄ちゃん達!!」「これなんだ!?」 タマが串を指差す。 青白い肉。 少し透き通っている。「空クラゲだ」「クラゲ!?」 フィルニアが目を丸くした。「食えるのか?」「揚げると美味いぞ」 店主が得意げに答える。 数秒後。 タマが串を齧る。 フィルニアも続いた。 そして。 
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