All Chapters of じじばばにゃんこと異世界奇譚: Chapter 101 - Chapter 110

182 Chapters

アルネシア整備区画…

 ベルンガルド整備区画。 市場の喧騒とは別世界だった。 巨大な飛空艇が何隻も並び、 整備用足場が空中へ幾重にも組まれている。 蒸気。 金属音。 風魔導炉の低い駆動音。 さらに。 飛竜達の鳴き声まで響いていた。「おぉぉぉぉ……!!」 タマが完全に少年の顔になっている。 フィルニアも目を輝かせていた。「デカい!!」「近くで見ると迫力すげぇな!!」 ナギが腕を組む。「ここは大型整備場だからな」「軍用級も普通に入る」 その瞬間。 フィルニアが反応した。「軍用!?」「見たい!!」「食いつくと思った」 ナギが笑う。 その横で。 グランヴェルが周囲を見回していた。「アルネシアの技術力は相変わらずだな」「ヴォルグラードほど火力特化じゃないけどね」 ナギが答える。「代わりに長距離安定性はこっちが上」 アークも頷いた。「風脈制御技術はアルネシア随一ですから」 その時だった。 整備場奥から怒鳴り声が響く。「だから違うって言ってんだろ!!」「推進翼の角度だ!!」「いや炉圧だ!!」 かなり揉めていた。 ナギが肩を竦める。「また始まった」「日常茶飯事なのか?」 セレスが聞く。「整備馬鹿同士だからな」 ナギが苦笑する。 奥では整備士達が図面を囲んで言い争っていた。 しかも。 全員かなり本気だ。 タマがぽつりと呟く。「職人って怖ぇな……」「分かる」 フィルニアも頷く。 すると。 ナギが一行を手招きした。「ほら、こっち」「今日は特別に見せてやる」 案内された先。 そこには。 巨大飛空艇が停泊していた。 黒銀色の船体。 細長い形状。 大型推進翼。 しかも。 装甲が普通より分厚い。「おぉ……」 タマが見上げる。「かっけぇ……」 フィルニアも感動していた。 ナギが得意げに笑う。「高速輸送艦アルバトロス」「ベルンガルド最速級だ」「速そう」 ミーコが素直に呟く。 その時。 タマが船体側面を見て首を傾げた。「これ傷か?」 ナギの表情が少し変わる。「あぁ」「昨日帰ってきた便だ」「……何かあったの?」 ユキが小さく聞く。 ナギは少し黙った。「最近、風脈がおかしいんだよ」「昨日も輸送路で乱流が急変した」 アークが眉をひそめる。「ここでもか」「そっちも
last updateLast Updated : 2026-09-22
Read more

出航前夜…

 ベルンガルド滞在五日目。 夕暮れ。 空の港町は橙色へ染まり始めていた。 巨大な風車がゆっくり回る。 雲海には夕陽が反射し、海みたいに揺れて見えた。 市場通りも少し落ち着いている。 昼間ほど騒がしくない。 代わりに。 酒場の灯りが増え始めていた。「綺麗……」 ユキが雲海を見つめる。 ミーコも静かに頷いた。「空っていうより海みたいね」 その横で。 タマは焼き串を咥えていた。「この街うめぇ店多すぎる」「アンタ五日間ずっと食べ歩いてたでしょ」「旅ってそういうもんだろ?」「違うと思う」 フィルニアまで串焼きを持っている。「ここの香辛料肉好きだ」「お前も馴染んでるな」 グランヴェルが呆れたように言った。 その時。 ナギが整備区画側から歩いてくる。「おー、いたいた」「出航準備終わったぞ」 アークが反応した。「予定通り明日出るのか?」「風脈も落ち着いたしな」 ナギが頷く。「このまま北東航路入れば学術都市方面へ行ける」 ミーコが聞き返す。「学術都市……」「オルグディア魔導院国ですね」 セレスが答える。「世界最大級の魔導研究国家です」 タマが首を傾げた。「魔法オタクの国?」「ざっくり言えばそうだな」 アークが苦笑する。 フィルニアが嫌そうな顔をした。「難しい話ばっかしそうだな……」 セレスが静かに言う。「フィルニア様には少々相性が悪そうですね」「なんでだ!?」 フィルニアが即座に反応する。 レオネが小さく頷いた。「私も同感です」「お前まで!?」 港側で大きな鐘が鳴った。 ゴ ォ ォ ン…… 夕刻合図らしい。 一斉に街の空気が変わる。 酒場が賑わい始めた。 演奏。 笑い声。 料理の匂い。 ベルンガルドの夜が始まる。 タマの耳がぴくっと動いた。「……なんかいい匂いする」「はいはい」 ミーコが半笑いになる。「もう分かってたわよ」 ナギが笑った。「最後だし、一番人気の店連れてってやる」「マジか!!」 タマとフィルニアの声が重なる。 数十分後。 港沿い酒場《風見鯨》。 かなり大きな店だった。 中は既に満席に近い。 鳥人族達が楽しそうに飲んでいる。 楽団までいた。「おぉー……」 タマがきょろきょろする。 すると。 店主らしい大柄な鳥人族男性が
last updateLast Updated : 2026-09-22
Read more

北東航路…

 翌朝。 ベルンガルド上空。 巨大飛空艇グランドカーゴは、ゆっくりと港を離れていた。 朝日が船体を照らす。 雲海が金色に光る。 風は穏やかだった。 甲板では既に見送りが集まっている。「また来いよー!!」 ナギが大声で手を振っていた。 タマも両手を振り返す。「世話になったー!!」「今度は船壊すなよ!!」「壊してねぇ!!」 フィルニアが即座に反論する。 レオネがぼそっと呟いた。「半壊はしていました」「お前敵か!?」 港側から笑い声が上がる。 ミーコも小さく笑った。 短い滞在だった。 けれど。 かなり濃かった気がする。 やがて。 ベルンガルドの街並みが少しずつ遠ざかっていく。 巨大風車。 吊橋。 飛空艇塔。 全部が雲の向こうへ溶けていった。 その頃。 トシオは甲板端で海みたいな雲海を見ていた。 ミツコがお茶を持ってくる。「はいどーぞ」「おぉ」 湯気が風へ流れていく。 しばらく二人とも黙って空を眺めていた。 その横で。 タマが突然声を上げる。「おっ!!」「なんだ?」 アークが振り向く。 タマは空を指差していた。「あれ!!」 上空。 何か飛んでいる。 白い。 細長い。 群れだ。 ユキが目を丸くする。「綺麗……」 シェルファが説明した。「風渡りですね」「渡り鳥に近い魔物です」 数十匹。 いや。 百はいる。 風に乗りながら空を泳ぐように移動していた。 フィルニアまで見入っている。「すげぇな……」 すると。 一匹だけ群れから外れた。 ふらふらしている。「ん?」 ミーコが眉を寄せる。 高度が不安定だった。 翼も少しおかしい。 そのまま。 ふらつきながら《グランドカーゴ》へ近付いてくる。「危なくないか?」 グランヴェルが警戒する。 だが。 風渡りは攻撃してこなかった。 そのまま甲板へ降り立つ。 ぺたん。「……」 小さい。 近くで見ると妙に丸い。 しかも。 疲れ切っていた。 タマがしゃがみ込む。「なんだコイツ」「怪我してる?」 ユキがそっと近付いた。 右翼。 少し裂けている。 どうやら長距離飛行で傷めたらしい。 フィルニアがしゃがみ込む。「飛べんのかお前」 風渡りは小さく鳴いた。 ピュルル…… ミツコがそっと近
last updateLast Updated : 2026-09-22
Read more

雲海休憩所…

 北東航路三日目。 《グランドカーゴ》は安定した風脈を進んでいた。 空は青い。 雲海も穏やか。 昨日まで群れていた風渡り達の姿も、今日は遠くに少し見える程度だった。 甲板ではタマが寝転がっている。「平和だなぁ……」「気抜きすぎ」 ミーコが呆れたように言う。 すると。 フィルニアまで隣へ寝転がった。「分かる」「風気持ちいい」 その直後。 風でフィルニアの髪が盛大に乱れた。「ぶふっ」 タマが吹き出す。「お前すげぇ頭なってるぞ!!」「笑うな!!」 フィルニアが髪を押さえる。 ユキがくすくす笑っていた。 その頃。 操舵室側ではアークとシェルファが航路確認をしていた。「このまま行けば夕方には中継地点です」「予定より早いな」 アークが頷く。 グランヴェルが聞き返した。「中継地点?」「雲海休憩所ですよ」 シェルファが答える。「長距離航路用の浮遊施設です」 タマが反応した。「浮いてんのか!?」「浮いてます」「見たい!!」 フィルニアまで起き上がる。 数時間後。「うおぉぉぉぉ……!!」 タマが歓声を上げた。 雲海の上。 巨大な円形施設が浮かんでいた。 岩盤みたいな土台。 その上へ建物が並んでいる。 しかも。 周囲には何隻もの飛空艇が停泊していた。「なんだこれ……」 ミーコまで驚く。 シェルファが説明する。「浮遊中継都市クラウディア」「各国航路の休憩地点ですね」 フィルニアが目を輝かせた。「空の上に街作ったのか!?」「アルネシアの浮遊技術です」「すげぇな……」 やがて。 《グランドカーゴ》がゆっくり接岸する。 すると。 すぐに香ばしい匂いが流れてきた。 タマの耳がぴくっと動く。「なんか焼いてる」「反応早すぎるわよ」 ミーコが笑う。 休憩所内部はかなり広かった。 食堂。 宿泊所。 商店。 さらに。 簡易浴場まである。「風呂あるのか!?」 タマが驚く。 ナギなら絶対「旅人の命だぞ」って言いそうな施設だった。 フィルニアも興味津々である。「空の上で湯沸かしてんのか?」「風熱炉使ってるんだろうな」 アークが答える。 その時だった。 奥側から聞き覚えのある鳴き声がした。 ピュルルル!!「あ」 タマが振り向く。 風渡りだった。 しかも。
last updateLast Updated : 2026-09-22
Read more

静かなる夜行路…

 浮遊中継都市クラウディアを出発してから数時間。 《グランドカーゴ》は夜の航路を進んでいた。 昼とは違う。 静かだ。 雲海は月明かりを反射して銀色に揺れている。 遠くでは、小さな航路灯だけが瞬いていた。 甲板へ出ている者も少ない。 珍しく落ち着いた空気だった。 その中で。 ミーコは手すりへ頬杖をついていた。「静かね……」 ユキが隣へ並ぶ。「うん……」 風が優しい。 寒くはない。 むしろ少し心地いいくらいだった。 その頃。「ぬぉぉぉぉぉ!!」 フィルニアが妙な格好をしていた。 頭の上。 風渡りが乗っている。 しかも二匹。「動くなって!!」 タマが笑い転げている。「無理だろそれ!!」 どうやら風渡り達が完全にフィルニアを気に入ってしまったらしい。 一匹は頭。 もう一匹は肩。 ぴったり落ち着いている。 フィルニアは困り顔だった。「なんで俺様なんだ!?」 レオネが冷静に答える。「暖かいのでは?」「雑!!」 その横で。 シェルファが少し考え込んでいた。「……不思議ですね」「ん?」 アークが振り向く。「風渡りは警戒心が強い生物です」「ここまで懐くのは珍しい」 タマがニヤニヤする。「フィルニアって鳥類に人気あるんじゃね?」「嫌な言い方するな!!」 その時だった。 甲板奥。 トシオが何かを見ていた。 遠く。 雲海の向こう。「ん?」 ミツコが隣へ来る。「どしたん?」「……灯りかの」 確かに。 かなり遠く。 ぽつぽつと光が見える。 星ではない。 動いている。 アークが目を細めた。「夜間商船か……?」 シェルファが首を横へ振る。「航路が違います」 少し空気が変わる。 やがて。 灯りが近付いてくる。 すると。 全員少し驚いた。「……小さい?」 ミーコが呟く。 巨大船ではない。 むしろ逆。 木造。 細長い。 かなり古い型の小型飛空艇だった。 しかも。 ぼろい。 ところどころ補修跡だらけである。「飛べるのかアレ?」 タマが素直な感想を漏らす。 だが。 小型飛空艇は器用に《グランドカーゴ》へ接近してきた。 そして。 拡声管から声が響く。『そこの大型船ー!!』『塩あるかー!!』 数秒沈黙。「塩?」 フィルニアがぽかんとする。
last updateLast Updated : 2026-09-22
Read more

雲海図書庫…

 翌朝。 《グランドカーゴ》は静かな航路を進んでいた。 雲海は穏やか。 風も弱い。 珍しく船体がほとんど揺れていない。 そのせいか。 朝から船内は少しのんびりしていた。「平和だなぁ……」 タマが机へ突っ伏す。 フィルニアまで同じ姿勢だった。「眠い……」「アンタ達ずっと食って寝てるわね」 ミーコが呆れる。 その横で。 ユキは窓の外を見ていた。「あれ……?」「ん?」 ミーコも視線を向ける。 遠く。 雲海の上。 何か浮いている。 島? いや違う。 建物だ。「なんだアレ」 アークも気付いた。 シェルファが少し驚いた顔になる。「まさか……」「知ってるのか?」「雲海図書庫です」 全員が聞き返した。「図書庫?」 シェルファが頷く。「古い浮遊保管施設です」「各国の古文書や記録を保管している場所ですね」 タマが首を傾げた。「本の倉庫?」「規模が違います」 シェルファの表情が少し真面目になる。「数百年前の資料も眠っていると言われています」 その瞬間。 アークの顔が変わった。「……待て」「今の航路から見える位置にあるのはおかしい」 シェルファも頷く。「本来は隠蔽結界で見えません」 少し空気が変わる。 フィルニアが窓へ張り付いた。「図書庫だ!!」「お前本好きだったか?」 タマが笑う。 フィルニアは即答した。「秘密基地っぽいだろ!!」「なるほどな?」 妙に納得してしまった。 だが。 アークは少し考え込んでいた。「……気になるな」「寄れるか?」 操舵士が答える。「可能です」 結果。 進路変更となった。 数十分後。 《グランドカーゴ》は巨大施設へ接近していた。「でっか……」 ミーコが思わず呟く。 本当に巨大だった。 白い石造建築。 幾重にも重なる塔。 橋。 浮遊円盤。 さらに。 建物全体へ古代文字みたいな紋様が刻まれている。 フィルニアの目が輝く。「すげぇな……」 近付くほど空気が変わっていく。 風が妙に静かだった。 まるで。 長い間、誰にも見つかっていなかった場所みたいに。 やがて。 《グランドカーゴ》が接岸した。 入口は半壊していた。「壊れてるな」 グランヴェルが周囲を見る。 アークも眉を寄せた。「争った跡……か?」 
last updateLast Updated : 2026-09-22
Read more

封書庫の声…

 重い扉の奥。 薄暗い通路が続いていた。 青白い光だけが床を照らしている。 壁。 天井。 床。 すべてへ古代文字が刻まれていた。「なんか……空気違うな」 タマが周囲を見る。 さっきまでの図書庫部分とは明らかに違った。 本棚がない。 代わりに。 巨大な石柱が並んでいる。 しかも。 柱の内部を、光が流れていた。 ユキが小さく呟く。「生きてるみたい……」 確かにそう見えた。 施設そのものが呼吸しているようだった。 先頭を歩いていたシェルファが足を止める。「……ここから先は保管区画ではありませんね」「じゃあ何なんだ?」 アークが聞く。 シェルファは壁へ触れた。 すると。 淡い光が広がる。「封書庫」「ふうしょこ?」 フィルニアが聞き返した。「封印指定資料を保管する区画です」 少し空気が重くなる。 タマが眉を寄せた。「ヤバいやつ?」「はい」 即答だった。「危険文献」「古代術式」「封印指定魔導」「世界災害級記録」「そういう物が保管される場所です」「怖っ」 フィルニアが素直に言う。 だが。 その割に。 妙だった。 静かすぎる。 嫌な感じがない。 むしろ。 どこか穏やかだった。 その時。 ミツコがふと壁を見る。「……あら?」 小さな花が彫られていた。 花弁が波みたいに広がる模様。 ミツコは指先で軽く触れる。 すると。 ふわり。 光が広がった。「おぉ!?」 タマが驚く。 光は壁全体へ広がり。 やがて。 古い文字が浮かび上がった。『命を繋ぐ者へ』 全員が止まる。 シェルファが目を見開いた。「読めるのですか……!?」「え?」 ミツコがきょとんとする。「今普通に読んどったよ?」 今度はシェルファが固まった。「その文字は古代始原語です」「現代では解析不可能とされてます」「えぇ?」 ミツコ本人が一番困惑していた。 その横で。 トシオも壁を見ていた。 すると。 別の文字がぼんやり浮かぶ。『海を継ぐ者へ』 トシオが眉を寄せた。「……読めるのぅ」「じーちゃんまで!?」 ミーコが驚く。 その時だった。 ゴ ゥ…… 通路奥の光が強くなる。 さらに。 石柱の紋様まで反応し始めた。 青白い線が次々繋がっていく。 まるで。 施設そ
last updateLast Updated : 2026-09-22
Read more

海槍の眠る間…

 開いた石扉の先。 冷たい空気が流れていた。 潮の匂い。 ここは空の上のはずなのに。 まるで海底洞窟みたいだった。「……なんだここ」 タマが小声で呟く。 フィルニアも珍しく静かだった。 通路は下へ続いている。 しかも。 壁面には巨大な傷跡が無数に残っていた。 斬撃。 焼け跡。 砕けた紋章。 昔ここで戦いがあったのは明らかだった。 老人の幻影が先導する。『封書庫最深部』『海槍封印区画』 シェルファが周囲を見渡す。「こんな施設……文献に存在していません」『消されたからだ』 老人が答える。『始まりの民に関する記録は、多くが閉ざされた』 ミーコが眉を寄せた。「なんで?」『恐れられた』 短い答えだった。『力ではない』『繋ぐ力を持っていたからだ』 その言葉に。 ミツコが少しだけ目を細める。 老人は続けた。『種族』『国』『海』『空』『本来、世界は分かれていなかった』『始まりの民はそれを繋いでいた』 アークが低く聞く。「……それを閉じたのが“閉じる者”か」 老人は静かに頷いた。 通路はさらに奥へ続く。 やがて。 広い空間へ辿り着いた。「うわ……」 ユキが息を呑む。 巨大だった。 円形神殿。 中央には深い水盤。 その中心。 蒼い光が浮かんでいる。 そして。 そこにあった。 一本の槍。 誰も言葉を失った。 長い。 巨大。 普通の槍ではない。 まるで海そのものを削り出したみたいだった。 表面には蒼い紋様。 波みたいな光がゆっくり流れている。 フィルニアが呆然と呟く。「……でか」 タマも頷いた。「でかい」 グランヴェルですら目を細めている。「巨人族武装級だな……」 だが。 トシオは違った。 槍を見た瞬間。 胸の奥が妙に静かになった。 懐かしい。 知らないはずなのに。 ずっと前から知っていたみたいな感覚。 老人が静かに言う。『天裂海牙』 空気が震える。 シェルファが目を見開いた。「真名……!?」『海槍の本来名だ』 その瞬間。 槍の紋様が強く光る。 ブゥゥン…… 低い振動。 すると。 トシオの右手が反応した。 淡い光。 波紋みたいな紋章が浮かび上がる。「じーちゃん……!」 ミーコが息を呑む。 老人は静かに頷いた。
last updateLast Updated : 2026-09-22
Read more

古き航路の記録…

 黒い亀裂は一瞬で消えた。 だが。 嫌な感覚だけが残っている。 神殿内は静まり返っていた。 老人の幻影が低く呟く。『……早いな』 アークが眉を寄せる。「何がだ?」『侵食だ』 シェルファの表情が変わる。「まさか、もう封書庫へまで……?」 老人はゆっくり頷いた。『本来、この施設は外界から断たれていた』『永き封も限界が近い』 ミーコが周囲を見る。 壁の紋様。 一部が黒く滲んでいた。 墨を垂らしたみたいだった。 ユキが不安そうにミツコを見る。「大丈夫かな……」 ミツコは優しく頭を撫でる。「大丈夫よぉ」 その声だけで。 少し空気が和らぐ。 その時だった。 中央水晶柱が再び光る。 ブゥゥン…… 空中へ文字が浮かび上がった。『記録閲覧領域開放』「また何か始まったぞ!?」 フィルニアが目を丸くする。 すると。 神殿周囲の壁が光り始めた。 次の瞬間。 空中へ巨大な景色が映し出される。「うわっ……!」 ユキが声を漏らした。 海だった。 どこまでも広い。 さらに。 巨大船団。 空を渡る生物。 雲の上まで伸びる橋。 今のアルケシアとはまるで違う。 タマが呆然とする。「なんだこれ……」 老人が静かに言う。『始まりの時代』 映像の中では。 獣人も。 竜人も。 鳥人も。 皆が同じ港で行き交っていた。 フィルニアが小さく呟く。「普通に一緒にいる……」『本来はそうだった』 老人の声は静かだった。『世界は繋がっていた』 だが。 次の瞬間。 景色が変わる。 黒い霧。 崩れる門。 空が裂ける。 海が割れる。 ユキがミツコの袖を握った。「怖い……」 映像の奥。 黒い“何か”が蠢いていた。 形が定まらない。 見ているだけで嫌な感じがする。『閉じる者』 空気が重くなる。 その時だった。 蒼い光が走る。 巨大槍。 海鳴りみたいな轟音。 そして。 右手甲へ紋章を宿した誰かが立っていた。 ミツコが息を呑む。「似とる……」 額へ紋を宿した者達もいる。 今。 トシオ達へ現れ始めている紋様と同じだった。 さらに。 その槍。 間違いなく天裂海牙だった。 トシオは黙って見ている。 胸の奥がざわついていた。 映像の中。 槍を持つ男が振り向く。 顔は
last updateLast Updated : 2026-09-22
Read more

始まりの食卓…

ゴ ォ ォ ォ ォ ォ ッ !!!!!! 蒼い衝撃が神殿を貫いた。 黒い霧が吹き飛ぶ。 床を侵食していた闇が、一瞬だけ押し返された。 だが。 消えてはいない。 霧は神殿奥で蠢いていた。 生き物みたいだった。 トシオは天裂海牙を握ったまま動かない。 蒼い槍。 深海色の光。 神殿全体が低く唸っていた。 フィルニアが思わず呟く。「すげぇ……」 アークも目を細める。「さっきまでと別人だな」「別人ではない」 老人が静かに言った。『海槍が本来の力へ応え始めただけだ』 黒い霧が再び広がる。 今度は遅い。 様子を窺っているみたいだった。 その時。 ミツコが小さく首を傾げた。「……なんか、お腹空きそうな匂いやねぇ」 全員止まる。「は?」 ミーコが振り向く。 ミツコは黒い霧を見ていた。「焦げたみたいな匂いするぅ」 タマが鼻をひくつかせる。「……あ」「なんか分かる」 フィルニアまで頷いた。「焚き火消した後みたいな感じだな」 シェルファが少し驚く。「感じるんですか?」 老人だけが静かだった。『侵食とは、世界の火が消える事』 空気が変わる。 老人は黒い霧を見る。『閉じる者は、繋がりを断つ』『海を裂き』『空を断ち』『命の巡りを止める』 ミツコがぽつりと呟く。「だから冷たいんやねぇ」 その一言で。 なぜか神殿の空気が少し静かになった。 ユキがミツコを見上げる。「ばーちゃん……?」 ミツコは柔らかく笑う。「だったら温めたらええのよぉ」 数秒沈黙。 フィルニアが聞き返した。「何を?」「みんなのお腹」「この状況で飯を作る気か?」 アークが思わず聞く。「大事やよぉ?」 ミツコはいつも通りだった。 だから逆に。 張り詰めていた空気が少し崩れる。 その時だった。 老人がミツコを見る。『……変わらぬな』「ん?」『始まりの民も同じ事を言っていた』 全員が反応する。 ミーコが目を見開いた。「え……?」 老人はゆっくり目を閉じた。『争いの後』『飢えた者達へ鍋を振る舞った』『同じ火を囲めと』 静かな空気が広がる。 トシオが小さく笑った。「それならミツコの得意分野じゃのぉ」「任せときぃ」 ミツコが買い物籠をごそごそ漁る。 鍋。 野菜。 干し肉。 魚介。
last updateLast Updated : 2026-09-22
Read more
PREV
1
...
910111213
...
19
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status