じじばばにゃんこと異世界奇譚 のすべてのチャプター: チャプター 71 - チャプター 80

182 チャプター

樹上都市シルヴァレイン…

朝。列車が、ゆっくり減速していく。窓の外には、巨大樹しか見えなかった。幹。枝。葉。その全てが、普通の尺度を超えている。しかも。枝の上へ、街が存在していた。ユキが、窓へ近付く。「ほんとに街だ……」木造家屋。吊橋。空中庭園。巨大花畑。全部、樹の上。しかも。かなり広い。フィルニアが、笑う。「落ちたら終わりだな!!」タマが、即答する。「縁起悪ぃ事言うな」⸻列車が停車する。シルヴァレイン中央樹都。森精族最大都市。ホームそのものが、巨大枝の上だった。しかも。風が気持ちいい。葉の匂い。花の香り。湿った森の空気。ユキが、少し嬉しそうだった。「……好きかも」ミツコが、優しく笑う。「落ち着く?」ユキが、小さく頷く。⸻駅構内は、オルグディアと真逆だった。静か。木造建築ばかり。機械音も無い。代わりに。水音。鳥の声。風の音が聞こえる。タマが、周囲を見回す。「なんか平和だな」その瞬間。頭上から、大量の果実が落ちて来た。ボトボトボト!!フィルニアが、反射でキャッチする。「うお!?」上を見ると。巨大猿みたいな生き物が、枝の上から逃げて行った。森精族駅員が、普通に言う。「朝はよくあります」「よくあんのかよ」⸻駅前へ出ると。さらに凄かった。都市全体が、巨大樹と一体化している。建物を“建ててる”というより、“樹と共生してる”感じだった。幹の内部が店。枝が通路。葉が屋根。しかも。精霊光が、街中を漂っている。ユキは、完全に見入っていた。「あっ……」小精霊達が、またユキの周囲へ集まり始める。淡い緑。金色。水色。森精族達が、少しざわついた。「また寄ってる……」「珍しい」タマが、小声で言う。「ユキ人気だな」ユキは、困ったように笑った。⸻宿へ向かう途中。巨大吊橋を渡る。下。見えない。樹海が深過ぎる。フィルニアが、普通に手すりへ乗った。タマが、即座に引き戻す。「やめろ!!」「大丈夫だって!」「お前が言う“大丈夫”信用出来ねぇんだよ!」その横で。トシオは、普通に橋を歩いていた。ギシ……橋がちょっと沈む。通行人達が、静かに振り返る。タマが、顔を覆う。「橋壊すなよ……」
last update最終更新日 : 2026-09-22
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星花の墓標…

朝。シルヴァレインの空は、薄く白んでいた。巨大樹の葉が、朝露を揺らしている。ユキは、宿外廊下で一人、樹海を見ていた。静かだった。風の音。鳥の声。精霊光。全部優しい。その時。小さな鈴音が聞こえた。チリン――ユキが振り向く。そこに居たのは、森精族の少女だった。年齢は、十くらい。淡い若葉色の髪。大きな籠を抱えている。少女は、少し緊張した様子で言った。「旅の人?」ユキが、小さく頷く。「うん」少女は、少し迷ってから聞いた。「……お花、運ぶの手伝ってくれる?」⸻朝食後。ユキは、少女について行く事になった。名前は、リノア。樹都の外れで、祖母と暮らしているらしい。籠の中には、白い花が大量に入っていた。星みたいな形。淡く光っている。ユキが、そっと覗く。「綺麗……」リノアが、少し嬉しそうに笑った。「星花っていうの」「夜に光くんだよ」⸻樹都外周。巨大吊橋を渡る。さらに奥。人通りが減っていく。フィルニア達は、別行動だった。市場。空中庭園。樹上狩猟見学。完全に観光モードである。タマだけは、少し心配そうだった。「暗くなる前には戻れよ」ユキが、小さく頷く。⸻森の奥は、さらに静かだった。精霊光も少ない。代わりに。白い花が、あちこち咲いている。ユキが、周囲を見回す。「いっぱい……」リノアは、少しだけ寂しそうに笑った。「ここ、お墓だから」ユキが、足を止める。そこには。無数の木碑が並んでいた。石じゃない。樹だった。細い木へ、名前が刻まれている。風が吹く度、葉が揺れる。まるで。眠っているみたいだった。⸻リノアは、その奥へ進む。そして。一本の木の前で止まった。小さな木碑。まだ新しい。少女が、そっと星花を置く。ユキは、静かに隣へ座った。しばらく。リノアは、何も喋らなかった。やがて。小さな声で言う。「お兄ちゃんなんだ」ユキが、木碑を見る。刻まれている名前。『ルクス』リノアは、少し俯いた。「樹海調査で、帰って来なかったの」風が吹く。白花が揺れる。ユキは、静かに話を聞いていた。⸻「森精族はね」リノアが、ぽつりと続ける。「死んだら、樹へ還るって言うの」「だから、
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還樹祭…

シルヴァレインへ来て、五日目。朝の樹都は、霧に包まれていた。巨大樹の枝葉を、白い靄がゆっくり流れていく。遠くから、木鐘の音が聞こえていた。低く。柔らかい音。ユキは、宿外廊下でその音を聞いていた。森の国は静かだ。風と葉擦れが、街そのものの呼吸になっている。その時。後ろで、扉が開いた。トシオだった。まだ少し眠そうだ。「早ぇな」ユキが、小さく笑う。「じーちゃんこそ」トシオは、外を見た。霧の向こうで、巨大樹が揺れている。「海とは違うな」ぽつりと呟く。ユキは、その言葉を少し考えた。トシオは、海を見て生きて来た人だ。この森を見て、何を思っているのか。少し気になった。⸻朝食後。宿主から、今日が“還樹祭”本番だと聞かされた。昨夜見た灯籠流しは、前夜祭だったらしい。今日は、樹都全体で祈りを捧げる日。森精族にとって、かなり大切な行事だった。フィルニアは、珍しく静かに話を聞いていた。「死んだ奴を送る祭りか」宿主が、穏やかに頷く。「ええ」「別れではなく、還る日です」タマは、少しだけ視線を落とした。“還る”。その言葉が、妙に胸へ残った。⸻昼前。一行は、中央神樹広場へ向かった。今日は、いつもの市場通りも静かだった。派手な売り声が無い。代わりに。白花と木灯籠が、通りのあちこちへ飾られている。風が吹く度、小さな鈴が鳴った。ユキは、その音を聞きながら歩いていた。昨日のリノアを思い出す。兄を亡くした少女。泣くのを我慢していた顔。森精族は、死を受け入れている。でも。受け入れる事と、寂しくない事は違う。ユキは、なんとなくそれを考えていた。⸻中央広場には、既に大勢集まっていた。森精族達は、皆白い布を身に付けている。派手さは無い。けれど。どこか神聖だった。神樹の周囲では、祈り歌も始まっている。低く静かな旋律。樹海の風と混ざり、広場全体へ広がっていた。フィルニアは、空を見上げる。「……この国、音が柔らけぇな」タマも、少し頷く。騒がしくない。でも。静か過ぎる訳でもない。不思議な空気だった。⸻その時。広場奥で、小さな列が動き始めた。白花を抱えた人達。老人。親子。若い夫婦。皆、静かに神樹
last update最終更新日 : 2026-09-22
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雨眠る樹海…

朝から雨だった。シルヴァレインでは、珍しくないらしい。巨大葉へ当たる雨音が、樹都全体へ響いている。ポツ……ポツポツ……やがて。ザーッ……樹海の雨は、普通の森と音が違った。葉が巨大過ぎる。だから。一滴一滴の音が深い。ユキは、宿窓から外を見ていた。霧。雨。揺れる巨大樹。遠くの回廊も、白く霞んでいる。ミツコが、後ろから湯気立つ茶を置いた。「今日は静かやねぇ」ユキが、湯呑みを両手で持つ。「雨好きかも」「落ち着く?」「うん」⸻今日は、外へ遠出しない事になった。雨量が多い。樹上回廊も滑りやすいらしい。フィルニアは、若干不満そうだった。「暇だなー」タマが、椅子へ座ったまま返す。「たまには休め」「休んでると体鈍る」「お前常に動いてんな」その横で。トシオは、既に窓際へ座っていた。静かに雨を見ている。ミツコが、少し笑う。「昔から雨の日好きやったもんねぇ」トシオが、小さく頷いた。「海止まるからな」その言葉に、タマが少し顔を上げた。「漁って、雨だと休みなのか?」「海荒れる時は出ねぇ」トシオは、窓の外を見る。「無理すると帰れなくなる」その声音は、妙に実感があった。⸻昼頃。宿の下層共有広間では、森精族達が集まっていた。皆、雨宿りらしい。暖炉。木椅子。静かな会話。樹液灯の橙色が、部屋全体を柔らかく照らしている。ユキは、暖炉近くで本を読んでいた。オルグディアで借りた、簡易歴史書だった。そこへ。小さな影が来る。昨日の少女、リノアだった。「いた」ユキが、少し笑う。「こんにちは」リノアは、濡れた髪を拭きながら座った。「今日は雨だから、お墓行けないの」少し残念そうだった。⸻その時。宿主が、暖炉へ薪を追加する。パチ……火が揺れる。森精族達の会話も、どこか穏やかだった。誰かが歌い。誰かが編み物をし。誰かが茶を淹れている。ユキは、なんとなく現世を思い出した。雨の日。古い家。テレビの音。ミツコの料理。縁側。静かな時間。不思議だった。異世界なのに。時々、現世と重なる。⸻午後。雨はさらに強くなった。巨大葉へ打ち付ける音が、少し低く響いている。その時。宿入口が開いた。数人の森精族が
last update最終更新日 : 2026-09-22
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樹海の出口…

朝。シルヴァレイン樹都は、久しぶりに晴れていた。巨大葉に溜まっていた雨粒が、朝陽を受けて輝いている。ユキは、宿外廊下で空を見ていた。深い青。樹海の隙間から、光が差し込んでいる。数日続いた雨のせいか、今日は空気まで軽かった。後ろで、扉が開く。タマだった。まだ少し眠そうだ。「早ぇな」ユキが、少し笑う。「タマこそ」タマは、頭を掻きながら外を見る。「晴れると全然違うな」本当にそうだった。雨の樹海は静かだった。だが。晴れた樹海は、生命そのものだった。鳥の声。葉擦れ。遠くの獣声。全部動いている。⸻朝食中。リーフパンと果実湯を食べながら、フィルニアが聞いた。「で?次どうすんだ?」ミーコが、静かに答える。「そろそろ出る」その一言で、食卓が少し静かになる。長く滞在した。スノウリアほどではない。でも。この樹海でも、色んな事があった。ユキは、少しだけ窓を見る。森精族の祈り。還樹祭。星花。静かな死生観。胸へ残るものが多かった。⸻宿を出る前。リノアが、見送りに来ていた。今日は、少し元気そうだった。「もう行くの?」ユキが、小さく頷く。「うん」リノアは、少し寂しそうに笑った。そして。小さな袋を差し出す。中には、白い星花の押し花が入っていた。「お守り」ユキが、そっと受け取る。「……ありがとう」リノアは、少し照れ臭そうに笑った。「また来てね」ユキも、静かに頷いた。⸻樹都中央駅。巨大樹上ホームでは、既に列車準備が始まっていた。森精族の駅員達が、静かに動いている。騒がしさは無い。でも。流れは止まらない。エルシアも、見送りに来ていた。フィルニアが、少し笑う。「今度はもっと奥行きてぇな」エルシアが、穏やかに答える。「深層樹海は危険ですよ」「余計行きたくなるな!」「お前はそういう奴だと思ってた」タマが、小さく呟いた。⸻発車直前。ユキは、最後に樹都を見上げた。巨大樹。吊橋。白花。漂う精霊光。静かな国だった。でも。弱い訳じゃない。生と死を、ちゃんと受け止めてる国だった。その時。小精霊が、またユキの肩へ止まる。淡い緑光。ユキが、少し笑った。「またね」精霊は、風と一緒に樹海へ
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飛竜便を追え…

中継都市ガルディア。列車を降りた瞬間。音の量が変わった。鐘。呼び込み。飛行艇の汽笛。荷車。怒鳴り声。笑い声。全部が混ざっている。フィルニアが、ホーム中央で叫ぶ。「すっげぇぇぇ!!」タマが、荷物を抱えながら顔をしかめる。「うるせぇ」だが。正直、タマも少し圧倒されていた。樹海の静けさから一転。ここは、生き物の熱気そのものだった。⸻ガルディア駅は、巨大渓谷へ張り付くように作られていた。上層。中層。下層。全部橋と昇降機で繋がっている。しかも。頭上を、大量の飛竜便が飛んでいた。鳥人族輸送便。小型飛行艇。荷運び飛竜。なんでも飛んでる。フィルニアは、ずっと上を見て歩いていた。タマが、即座に腕を掴む。「前見ろ!」その瞬間。荷車と激突しかけた。「危なっ!?」荷車の商人が怒鳴る。「おらぁっ!!小娘!!」フィルニアが、即座に頭を下げた。「悪ぃ!」タマが、深く溜息を吐いた。「着いて五分だぞ……」⸻宿へ向かう途中。巨大交易通りを歩く。露店数が異常だった。香辛料。武具。発光魚。浮遊果実。謎生物。しかも。売り子が全員うるさい。「見てけー!!」「本日限定!!」「南方産海晶石!!」フィルニアが、完全に目移りしていた。「なぁタマ!」「見ろ!!肉回ってる!!」本当に回っていた。巨大串肉が、魔導回転台でぐるぐる回っている。タマが、呆れ顔になる。「食い物しか見てねぇな」「腹減った!!」⸻その時だった。頭上から、凄まじい悲鳴が響く。「どけぇぇぇぇぇ!!」全員見上げる。飛竜便だった。だが。様子がおかしい。荷物が、崩れている。しかも。大量の木箱が、空から落ち始めた。フィルニアが、即座に叫ぶ。「うお!?」ドガァ!!木箱着弾。果実爆散。市場絶叫。さらに。別箱が落ちる。タマが、反射で子供を引っ張った。直後。巨大魚箱が、地面へ突き刺さる。ズドォ!!市場大混乱。⸻飛竜便操縦士が、半泣きで叫ぶ。「止まれぇぇぇ!!」だが。飛竜が完全暴走していた。渓谷上空を、ぐるぐる飛び回っている。しかも。荷物がまだ落ちる。フィルニアが、完全に目を輝かせる。「面白ぇ!!」タマが、即怒鳴る。「面白くね
last update最終更新日 : 2026-09-22
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境界市場…

朝。ガルディアは、最初から騒がしかった。鐘。飛竜便。荷車。怒鳴り声。どこかで金属音まで響いている。シルヴァレインとは、真逆だった。ユキは、宿窓から街を見下ろしていた。巨大渓谷沿いへ、建物が積み重なっている。橋。飛行艇。空中回廊。しかも。街全体が動いていた。人も物も、止まらない。ミツコが、後ろから声を掛ける。「眠れた?」ユキが、少し笑う。「なんとか」「夜でも街の音すごかった」ミツコも、苦笑する。「港町みたいやねぇ」⸻朝食中。フィルニアは、既に元気だった。「今日はどこ行く!?」タマが、パンを齧りながら返す。「お前昨日暴れてたろ」「暴れてねぇ!」「飛竜乗ってただろ」「結果助けた!」「否定になってねぇんだよ!」ユキが、少し吹き出した。⸻今日は、交易中央区を見る予定だった。ガルディア最大市場。七種族全部が集まる場所。ミーコ曰く、“情報も集まる”らしい。外へ出た瞬間。熱気が凄かった。香辛料の匂い。焼き肉。海産物。薬草。全部混ざっている。フィルニアが、完全に落ち着かない。「あっち何!?」「おい見ろ!!魚浮いてる!!」本当に浮いていた。海霊族の露店らしい。巨大魚が、水球の中を泳いでいる。タマが、呆れる。「お前毎回楽しそうだな」「楽しいだろ!!」⸻市場中央通り。そこは、完全に別世界だった。竜人族の鍛冶露店。鳥人族の空輸商。森精族の薬草店。獣人族の食堂。しかも。言語まで混ざっている。ユキは、少し周囲を見る。「すごい……」誰も、誰かを気にしていない。種族が違うのが、普通だった。その時。トシオが、足を止める。視線の先。焼き魚屋台だった。巨大炭火。香ばしい匂い。店主は海霊族。青髪。鱗耳。トシオが、少しだけ目を細める。「……うまそうだな」ミツコが、笑う。「じーちゃん魚ばっかりやねぇ」⸻だが。問題はそこからだった。フィルニアが、屋台横で変な物を見付ける。「なんだこれ?」小さな球だった。銀色。しかも。ぷるぷる動いている。店主が、慌てて叫ぶ。「あっ!!触るな!!」遅かった。フィルニアが、普通に持ち上げる。その瞬間。球が弾けた。ポン!!白煙噴射。フィル
last update最終更新日 : 2026-09-22
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橋上の夜灯…

夜。ガルディアの街は、昼より派手だった。渓谷沿いへ、無数の灯りが並んでいる。飛行艇灯。橋灯。露店灯。空中回廊の誘導灯まで、全部色が違う。ユキは、宿窓からその景色を見ていた。街が光っている。いや。動いていた。夜なのに、人の流れが止まらない。ミツコが、隣へ来る。「眠らへん街やねぇ」ユキが、小さく頷いた。「ずっと音してる」遠くで、飛竜便の鐘が鳴る。その下では、まだ市場の声も聞こえていた。⸻その頃。別室では。フィルニアが、まだ不機嫌だった。「なんでまだ光ってんだよ……」角がキラキラしていた。銀粉が、完全に落ち切っていない。タマが、椅子へ座りながら吹き出す。「ぶっ……」「笑うな!!」「いや無理だろ」「お前、夜だと余計光ってんぞ」フィルニアが、枕を投げた。タマ回避。後ろの壁直撃。ドゴッ。ミツコが、部屋外から声を掛ける。「壊さんでねー?」二人停止。⸻夕食後。ミーコが、静かに言った。「少し外見る」タマが、顔を上げる。「一人でか?」「近くだけ」そう言って、ミーコは外へ出た。ユキは、その背中を少し見ていた。最近、時々ああいう顔をする。何か考えている顔。レイシス紋章を見てから、特に増えた気がした。⸻一時間後。フィルニアが、窓際で叫ぶ。「暇だ!!」タマが、本を読みながら返す。「寝ろ」「まだ夜だぞ!」「お前ずっと元気だな」その時。ユキが、小さく言った。「ミーコ、まだ戻ってない」部屋が少し静かになる。タマが、窓の外を見る。確かに遅い。フィルニアが、立ち上がった。「探すか?」タマも、本を閉じる。「……行くか」⸻ガルディア夜市場。昼より人が増えていた。酒場。屋台。露店。音楽。しかも。夜特有の危うさもある。酔っ払い。賭博。路地商人。色んな奴が居た。フィルニアは、人混みを見回す。「ミーコどこ行った?」タマが、周囲を観察する。「多分静かな場所探してる」「この街で?」「無理そうだな」⸻その時。遠くで、聞き覚えある声がした。「……だから違う」ミーコだった。タマ達は、即座に路地奥を見る。そこには。ミーコ。そして。黒衣の男が三人居た。全員、同じ紋章を付けて
last update最終更新日 : 2026-09-22
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溪谷崩落戦…

ドゴォォォォン!!二発目の爆音が、ガルディア全域を揺らした。橋が軋む。飛竜便が悲鳴みたいな鳴き声を上げ、一斉に旋回する。市場は、完全に混乱していた。「逃げろぉぉ!!」「渓谷側が崩れた!!」「境界異常だ!!」ユキが、思わずミツコの腕を掴く。空がおかしかった。黒い。いや。黒い亀裂。空間そのものへ、裂け目が走っている。しかも。そこから、何かが落ちて来ていた。⸻ミーコが、即座に叫ぶ。「全員動く!!」その声で、空気が切り替わった。タマが、周囲を確認する。崩落は、渓谷外縁橋付近。まだ人が多い。しかも。空中回廊が、半分崩れている。フィルニアが、牙を見せて笑った。「やっと暴れられるな!!」タマが、即座に怒鳴る。「調子乗んな!!」⸻次の瞬間。黒裂け目から、巨大影が落ちた。ズドォォォン!!着地。橋陥没。悲鳴。現れたのは。獣だった。だが。普通じゃない。四足。漆黒外殻。身体中へ、紫亀裂が走っている。目が無い。代わりに。顔中央が、裂けていた。そこから、黒霧が漏れている。周囲が、一瞬静まる。黒衣男が、低く呟く。「侵食獣……!」次の瞬間。獣が吠えた。ギャアァァァァァ!!衝撃波。窓ガラス爆散。市場崩壊。⸻タマが、即座に前へ出た。「ユキ!!ばーちゃん達守れ!!」フィルニアは、もう飛び出している。「うおぉぉぉ!!」地面爆砕。一直線。侵食獣へ突撃。獣も、即座に反応した。巨大腕振り下ろし。フィルニア、正面から迎撃。 ド ゴ ォ !!衝突音が、渓谷へ響いた。橋全体が揺れる。周囲絶叫。フィルニアが、歯を剥く。「重っ!!」侵食獣の腕が、異常に硬い。しかも。ぶつかった場所から、黒い霧が漏れ出した。フィルニアが、即座に距離を取る。「なんだコイツ!?」⸻タマが、横から飛び込む。低姿勢。速い。腰の短剣を抜く。銀刃。そのまま。侵食獣脚部へ斬撃。ザギィィ!!だが。浅い。黒外殻が、火花を散らしただけだった。タマが、舌打ちする。「硬ぇ!!」次の瞬間。侵食獣の尾が来た。速い。タマ、反射回避。直後。後方屋台群が吹き飛ぶ。ドゴォォ!!市場崩壊。フィルニアが、目を剥いた
last update最終更新日 : 2026-09-22
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裂けた空の下で…

ガルディア中央渓谷。空が割れていた。黒亀裂は、さらに拡大している。空間そのものが、軋んでいた。ギギギ……耳障りな音が、街全体へ響いている。避難民達は、既に下層区域へ流れ始めていた。橋管理員達が、怒鳴りながら誘導している。「上層から離れろ!!」「渓谷橋閉鎖だ!!」だが。混乱は収まらない。飛竜便は暴走気味。荷車も詰まっている。しかも。侵食獣はまだ残っていた。⸻フィルニアが、橋中央へ着地する。周囲には、破壊された屋台残骸。黒霧。崩落した欄干。その向こうで。新たな侵食獣が、渓谷壁を這い上がっていた。人型だった。異様に細長い。腕が長過ぎる。しかも。関節が逆向きだった。タマが、短剣を構える。「キモっ……」次の瞬間。侵食体が消えた。速い。タマの目が、即座に動く。「上!!」フィルニアが、反射で腕を交差する。直後。 バ ゴ ォ !!黒腕叩き落とし。橋石畳が砕ける。フィルニアが、歯を食いしばる。「こいつ速ぇ!!」⸻侵食体は、壁面へ張り付いていた。首が、不自然に曲がる。そして。笑った。いや。口裂けが開いた。ギチギチギチ……タマが、嫌そうな顔をする。「笑うな気持ち悪ぃ!!」侵食体突撃。残像レベル。タマも動く。低空加速。正面衝突直前。滑り込む。黒腕回避。そのまま。腹部へ短剣連撃。ザザザザッ!!火花。浅い。だが。侵食体の動きが、一瞬止まる。フィルニアが、即座に飛び込んだ。「おらぁぁ!!」竜拳。 ド ォ ォ ン !!侵食体吹き飛ぶ。建物激突。石壁崩壊。⸻だが。死なない。黒霧が、崩れた身体を繋ぎ直していく。ユキが、顔を強張らせる。「再生してる……!」ミーコが、即座に答える。「核型じゃない!」「中枢を壊さないと止まらない!!」黒衣男達も、術式展開を始める。だが。その瞬間。空がまた鳴った。ギィィィィ……巨大裂け目が、さらに開く。そこから。黒い雨が降り始めた。⸻最初に異変が起きたのは、建物だった。黒雨が触れた場所から、侵食が始まる。木材腐食。鉄変色。石が崩れる。周囲がざわつく。「雨に触るな!!」「避難急げ!!」ユキが、水防壁を展開する。淡青結界。黒雨が弾
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