カン…… カン…… カン…… 鍛冶音が朝の街へ静かに響いていた。 昨日まで黒煙鉱路を覆っていた侵食霧は消えている。 崩落した坑道では、朝早くからドワーフ達が復旧作業を始めていた。 折れた支柱。 砕けた搬送車。 歪んだレール。 被害は大きい。 だが。 街の空気に絶望は無かった。「持ち上げろぉ!!」「そっち傾いてんぞ!」「酒樽どこやった!!」「朝から飲むな!!」 うるさい。 実にドワーフだった。 宿の窓から外を眺めていたミツコが、柔らかく笑う。「みんな元気だねぇ」 ユキはまだ少し眠そうだった。「……ねむい」 その横では、タマが机へ突っ伏している。「腕いてぇ……」 フィルニアが即座に笑った。「だっせぇ!!」「お前昨日めちゃくちゃ吹っ飛ばされてただろ!」「俺様はピンピンしてるけど?」「竜人ズルくねぇ!?」 朝から騒がしい。 ミーコは呆れたようにため息を吐いた。『あなた達、本当に昨日死にかけた自覚あるの?』「あるぞ」 トシオが普通に答える。 しかも肉を食いながら。 焼き肉。 黒パン。 大量のスープ。 朝から凄まじい量だった。 フィルニアが椅子へ逆向きに座る。「で?」「結局なんだったんだよ、アレ」 空気が少し静かになる。 ミーコはしばらく黙っていた。 やがて静かに口を開く。『……境喰は、本来こんな場所へ現れる存在じゃない』 ユキが聞き返す。「そんなに危ないの?」『危険なんて言葉じゃ足りない』 ミーコの瞳は真剣だった。『あれは“境界”を侵す災厄』『普通の侵食滓とは格が違う』 バルドが腕を組む。「つまり鉱山の下に、何かあったってことか」『境界亀裂』 ミーコが頷いた。『かなり古いものだった』『昔から地下に眠っていたんだと思う』 タマが顔を上げる。「なんで急に動き出したんだ?」 ミーコは少し考え込む。『……侵食が広がってる』『世界全体で』 静まり返る。 遠くの鍛冶音だけが響いていた。 フィルニアが椅子を揺らした。「閉じる者、とか言ってたっけ」『ええ』『境喰は、その侵食側の存在』 バルドが低く唸る。「笑えねぇな」 その時だった。バ ァ ン!!! 宿の扉が勢いよく開く。「親方ぁぁぁ!!」 若いドワーフが飛び込んできた。 全員が振り向く。
Last Updated : 2026-09-22 Read more