All Chapters of じじばばにゃんこと異世界奇譚: Chapter 131 - Chapter 140

182 Chapters

大鍋の朝…

 翌朝。 グレイヴェル中央水路区。 まだ日も高くなっていない時間だった。 にもかかわらず。「なぁんでこんな事になってんだよ……」 タマが呆然としていた。 目の前。 巨大鍋。 二つ。 さらに。 積み上がる食材。 燻製肉。 干し魚。 大量の根菜。 麦袋。 樽スープ。 香草束。 野菜箱。 完全に炊き出し会場だった。 フィルニアも固まっている。「いやデカすぎんだろ」 その横で。 トシオが黙々と即席かまどを組んでいた。 石材。 鉄板。 木材。 全部その辺で調達済み。 兵士達まで手伝わされている。「そこ押さえろ」「は、はい!」「煙抜き塞ぐな」「す、すみません!」 既に現場監督だった。 シェリスが静かに呟く。「馴染みすぎでは?」『今さらよ』 ミーコは諦めた顔だった。 その時。 ミツコが“買い物籠”から次々食材を出していく。 終わらない。 まだ出る。 まだ出る。 兵士の一人が真顔になる。「……その籠どうなってるんです?」「便利なんだよぉ」 ミツコはニコニコしていた。 絶対説明する気が無い。 ユキは静かに野菜を洗っている。 その手際が異様に速い。 フィルニアが覗き込んだ。「慣れてんな」「……ばーちゃん仕込み」 ミツコが嬉しそうに笑う。「ユキちゃん丁寧だからねぇ」 タマは肉を切っていた。 だが。 量が多すぎる。「終わらねぇ!!」 フィルニアも途中参戦する。「貸せ!!」「切り方雑!!」「食えればいいだろ!!」『ダメよ!!』 ミーコまで巻き込まれた。 完全に大騒ぎである。 その頃。 水路区住民達は遠巻きに見ていた。「あれ何やってんだ?」「炊き出しらしいぞ」「マジか?」「今どき?」 疑いの目もある。 当然だった。 今のレイシスで、見返り無しの施しは珍しい。 その時。 昨日の兵士が現れる。「あ……」 かなり驚いていた。 本当にやっている。 しかも規模がデカい。 トシオは薪を割りながら聞いた。「人集まりそうか」「え?」「腹減ってる奴いるんだろ」 兵士は慌てて頷く。「そりゃいますけど……」「呼べ」 即答だった。 兵士が戸惑う。「いやでも、そんな大量に――」 その瞬間。 ミツコがまた籠から麦袋を出した。 まだある。
last updateLast Updated : 2026-09-22
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灰街の臨時仕事場…

 炊き出し二日目。 グレイヴェル水路区。 昨日より人が増えていた。「並んでくださーい!!」「押すな押すな!!」「ガキ優先!!」 フィルニアの声が朝から響いている。 完全に仕切り側だった。 タマも大鍋横で叫ぶ。「そっち空いてるぞー!」「パンまだあるから慌てんな!!」 昨日の炊き出しが広まった結果。 避難民だけでなく、貧民区画や水路労働者まで集まり始めていた。 だが。 人数が増えれば、当然問題も出る。「足場崩れてるぞ!!」「水路壁また割れてる!!」「荷運び人足りねぇ!!」 あちこちから怒鳴り声が飛ぶ。 グレイヴェルは限界寸前だった。 その時。 トシオが水路沿いを見回しながら呟く。「……人余ってんな」 シェリスが視線を向けた。「避難民ですね」「仕事無いから溜まってる」 トシオは少し考える。 そして。 近くの若い兵士を呼んだ。「おい」「は、はい!」「水路補修どこ困ってる」「え?」「崩れてる場所あるだろ」 兵士は戸惑いながら答える。「そりゃありますけど……」「案内しろ」 十分後。 トシオは水路区中央で腕を組んでいた。 周囲には避難民達。 兵士達。 労働者。 完全に人集りになっている。 ミーコが嫌な予感を覚えた。『……何始める気?』「仕事振る」『絶対面倒になる』「放っといても崩れる」 即答だった。 トシオは避難民達を見る。「石積み出来る奴」 数人が手を上げる。「木工」 また増える。「荷運び」 かなりいる。 トシオは頷いた。「なら出来る」 フィルニアが小声になる。「始まったな」 タマも苦笑する。「じーちゃん現場モード」 その頃。 避難民達は困惑していた。「え?」「仕事?」 トシオは普通に続ける。「飯出す」「代わりに働け」 ざわつく。 避難民達の顔色が変わった。 仕事。 今のグレイヴェルで、一番足りない物だった。 兵士が慌てる。「いや待ってください!!」「許可が――」「壊れてんだろここ」「そ、それは……」「直す奴いる」「飯もある」「なら使え」 理屈が強い。 兵士が詰まる。 その時。 マルダが吹き出した。「ははっ!」「豪快だねぇ旅人!!」 周囲にも笑いが広がる。 その後。 作業は本当に始まった。 水路補修
last updateLast Updated : 2026-09-22
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王女の名前…

 アクアリア=ヴァル=レイシス。 その名が告げられた瞬間から。 グレイヴェル水路区の空気は変わっていた。 誰も大声を出さない。 ざわめきはある。 だが。 それは恐怖ではなく、困惑と驚きだった。「本当に……?」「王女……?」「生きてたのか……?」 避難民達が小声で話している。 兵士達も落ち着かない。 監督官など、完全に顔色が消えていた。「そ、そんな……」 ミーコは静かに周囲を見る。 久しぶりだった。 “王女”として人前へ立つのは。 けれど。 不思議と怖くはなかった。 隣に皆がいるからだ。 その時。 トシオが薪を放り込んだ。ゴ ッ…… 鍋の火が大きくなる。 空気が少し戻った。 フィルニアが吹き出す。「じーちゃん通常運転すぎんだろ」「腹減るぞ」「そこなのかよ」 タマも笑う。 張り詰めかけた空気が、少しだけ緩んだ。 その間。 監督官はまだ混乱していた。「ほ、本当に……王族……?」 シェリスが静かに前へ出る。「偽名で王族騙る方が問題でしょう」「っ……!」 監督官が詰まる。 完全に立場が逆転していた。 周囲の兵士達も困惑している。 だが。 その中の一人が、ゆっくり膝をついた。「……失礼しました」 若い猫獣人兵だった。 その姿を見て。 他の兵士達も続く。 監督官だけが立ち尽くしていた。 ミーコは静かに言う。『誰も責めるつもりは無いわ』 監督官が顔を上げる。『でも』『止める前に、見てほしかった』 ミーコは周囲を見る。 避難民。 補修中の水路。 働く人達。 炊き出し。 笑顔でスープを食べる子供達。『この人達は、怠けていた訳じゃない』『生きる場所を失っていただけ』 監督官は言葉を失う。 その時だった。「監督官殿!!」 別の兵士が駆け込んでくる。「西水路側、崩落止まりました!!」 空気が変わる。「なに?」「補強組んだおかげで、水流逸れました!」 兵士の顔は明るかった。「橋下側も荷運び再開出来そうです!」 監督官が絶句する。 本当に改善していた。 タマが感心したように呟く。「じーちゃん、こういう現場ほんと強ぇな」「漁港と一緒だ」「規模違ぇだろ」 フィルニアが笑う。 その頃。 避難民達も変わり始めていた。「次どこだ!?」「木材運ぶぞ
last updateLast Updated : 2026-09-22
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動き始めた街…

 グレイヴェルへ滞在して五日目。 水路区の景色は、少しずつ変わり始めていた。 崩れかけていた石壁には補強が入り。 止まりかけていた荷運びも再開。 橋下へ寝泊まりしていた避難民達も、一部が空き倉庫へ移動出来るようになっていた。 劇的ではない。 だが。 確かに街は動き始めていた。「すげぇな……」 若い兵士が思わず呟く。 水路沿いでは、避難民達が汗を流して働いている。「縄もっと寄越せ!!」「石材こっちだ!!」「板浮かせろー!!」 活気が戻り始めていた。 その中央。「そこ角度違う」 トシオが木材を組みながら指示を飛ばしている。 完全に現場親方だった。 フィルニアが吹き出す。「もう旅人じゃねぇだろこの人」 タマも苦笑する。「馴染みすぎなんだよなぁ」 シェリスが静かに頷いた。「正直、ここまで動くとは思いませんでした」 ミーコは水路区を見回していた。 皆、疲れている。 だが。 止まってはいない。 それが大きかった。 しかも。 少しずつ物流も戻り始めている。 止まっていた荷車が動き。 水路輸送も再開し始め。 商人達も様子を見ながら戻ってきていた。「干し肉入ったぞー!!」「南区へ回せ!!」「麦袋こっち!!」 昨日より、明らかに物が流れている。 もちろん、まだ安定はしていない。 地区差も大きい。 値段も高い。 それでも。 “止まっていた街”ではなくなり始めていた。 その時。「アクアリア様!!」 小さな声。 昨日の子供達だった。 今度はちゃんと桶を持っている。「水運ぶんだぞー!!」 フィルニアが笑う。「マジで手伝い始めた」 タマも吹き出した。「行動力あるなぁ」 ミーコは少し笑う。『無理しちゃダメよ?』「だいじょーぶ!!」 元気な返事だった。 その時。 マルダがパン籠を抱えてやって来る。「差し入れだよ!!」「おぉー!!」 フィルニアとタマが即反応した。『あなた達はまず働きなさい』「働いてるだろ!?」「超働いてるぞ俺様!!」 だが。 実際かなり働いていた。 フィルニアは荷運びと力仕事担当。 タマは補修班と炊き出し班を行ったり来たり。 ユキは怪我人や子供達の世話。 自然に役割が出来ていた。 ミツコは大鍋へスープを足していた。「はいはい、まだあります
last updateLast Updated : 2026-09-22
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王都への便り…

 グレイヴェル滞在七日目。 朝の水路区は、以前とは別の街みたいだった。「荷車通るぞー!!」「橋板固定終わった!!」「次、西側倉庫だ!!」 怒鳴り声は相変わらず飛び交っている。 だが。 前みたいな絶望混じりではない。 ちゃんと“街が動いている音”になっていた。 水路には小型輸送船も戻り始めていた。 止まっていた物流。 停滞していた市場。 それらが少しずつ流れ出している。「魚入ってきたぞ!!」「マジか!?」「干物もある!!」 市場側が妙に盛り上がっていた。 トシオの耳が動く。「魚?」 タマが即座に察する。「あ、始まった」 フィルニアが吹き出した。「トシオ、絶対そっち行くだろ」 案の定。 次の瞬間にはトシオが市場側へ向かっていた。「じーちゃん待てって!!」「鮮度確認する」「なんでそんな真剣なんだよ!?」 ユキが小さく笑う。「……元気」 ミツコも柔らかく笑っていた。「今日は機嫌良さそうだねぇ」 市場では、海霊族の商人達が荷下ろしをしていた。「久々に通れたぜ……」「水路直ったの助かるな」「まだ全部じゃねぇけどな」 完全復旧ではない。 だが。 流れ始めた。 それが大きかった。 その時。 トシオが魚箱を覗き込む。「……悪くねぇ」 商人が目を丸くする。「分かるのか?」「目見りゃ分かる」「なんなんだアンタ」「元漁師だ」 海霊族の商人が笑った。「妙に納得した」 その頃。 ミーコは監督官と一緒に、水路区中央を歩いていた。「王女殿下」『ミーコでいいわ』「い、いやしかし……」 監督官はまだ慣れていない。 以前ほど怯えてはいないが、緊張はしている。 ミーコは苦笑した。『そんなに畏まらなくていいのに』「無理です……」 監督官が困った顔になる。 その時。 一人の兵士が駆け込んできた。「監督官殿!!」「どうした!?」「王都から伝書が!!」 空気が変わる。 監督官が表情を引き締めた。「……来たか」 ミーコも視線を向ける。 兵士は封筒を差し出した。 監督官は中身を見る。 その顔色が少し変わった。『何が書いてあるの?』 監督官は一瞬迷う。 だが。 隠せる内容では無かった。「……王都議会が動いています」『議会が?』「王女生存の件で、各地確認命令が出て
last updateLast Updated : 2026-09-22
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王都帰還便…

 グレイヴェル出発の日。 朝から港区が騒がしかった。「積み込み急げー!!」「水路便遅れるぞ!!」「王都行き最終確認!!」 空へ伸びる巨大塔。 係留鎖。 浮遊魔導炉。 そして。 停泊している巨大飛空挺――グランドカーゴ。 フィルニアが見上げながら口を開けていた。「やっぱデケェなこれ……」 タマも頷く。「初めて見た時マジでビビったもんな」 ユキは静かに空を見上げていた。「……飛んでる」『飛空挺だもの』 ミーコが少し笑う。 グランドカーゴ。 レイシス主要都市を繋ぐ大型輸送飛空挺。 本来ならもっと頻繁に動いていた。 だが。 物流停滞と各地混乱で、多くが停止していた。 そして今日。 王都便が正式再開する。 それはつまり。 レイシスが少しずつ動き始めた証でもあった。 その時。「アクアリア様ー!!」 聞き慣れた声。 振り返ると、水路区の子供達だった。 さらに。 マルダ。 兵士達。 商人達。 避難民達。 かなりの人数が集まっていた。 フィルニアが目を丸くする。「めっちゃ来てる」 監督官までいた。「皆さん……」 ミーコが少し驚く。 マルダが笑った。「見送りくらいするさ」「街救ってくれたんだからねぇ」『そんな大袈裟な……』「大袈裟じゃねぇよ!!」 市場の魚屋が叫ぶ。「王女様達来てから、マジで街変わったんだ!!」「水路戻った!!」「商人も戻ってきた!!」「皆また働けるようになった!!」 次々声が飛ぶ。 ミーコは少し困ったように笑った。 でも。 嬉しかった。 その時。 小さな子供が前へ出てくる。「これ!!」 差し出されたのは、小さな木彫りだった。 不格好な猫。『あら』「作ったんだぞ!!」 ミーコが目を丸くする。『……私?』「うん!!」 ミーコはその木彫りを大事そうに受け取る。『……ありがとう』 子供が満足そうに笑った。 その時。 港側から怒鳴り声。「王都便搭乗開始!!」 空気が少し変わる。 いよいよだった。 ミーコはグランドカーゴを見上げる。 帰る。 レイシス王都へ。 ずっと避けていた場所へ。 その時。 トシオが荷を担ぎながら言った。「荷物全部積んだか」「魚は積んだ!!」 フィルニアが即答する。『そこ重要なの!?』「超重要
last updateLast Updated : 2026-09-22
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雲海航路…

 グランドカーゴ出航から半日。 巨大飛空挺は、レイシス中央航路をゆっくり進んでいた。 眼下には雲海。 遠くには山脈。 さらにその向こうには、巨大河川と都市群。 ユキが窓へ張り付いていた。「……すごい」 フィルニアも身を乗り出している。「高っ!!」 タマが笑う。「落ちんなよ?」「分かってるわ!!」 船内はかなり広かった。 貨物区。 居住区。 食堂。 展望甲板。 長距離航路用らしく、小さな街みたいな構造になっている。 しかも今は王都再開便。 乗客も多い。 商人。 兵士。 避難民。 職人。 貴族風の者までいる。 そして当然。 ミーコ達へ向けられる視線も増えていた。「……見られてるな」 タマが小声で呟く。 フィルニアが肩を竦める。「まぁ王女様だしな」『やめてよその言い方』 ミーコが困った顔になる。 その時。 通路向こうから、小さな女の子が近付いてきた。「あの……」 獣人の子供だった。 かなり緊張している。 ミーコがしゃがみ込む。『どうしたの?』 女の子は、おずおずと花を差し出した。「ありがとう……ございました」『え?』「お母さん、グレイヴェルでお仕事もらえたの」 ミーコが目を丸くする。 女の子は続けた。「ご飯も食べられるようになった」「だから……」 そこで言葉が詰まる。 ミーコは優しく花を受け取った。『……ありがとう』 女の子が嬉しそうに笑う。 その後ろでは、母親らしき女性が何度も頭を下げていた。 フィルニアが小声になる。「王女してんなぁ」 タマも頷く。「ちゃんと届いてるんだな」 ミーコは少しだけ花を見つめる。 グレイヴェルでやった事は、小さい事ばかりだった。 炊き出し。 仕事振り。 水路補修。 でも。 ちゃんと誰かへ届いていた。 その時。「トシオ!!」 遠くから声。 海霊族の商人だった。「魚焼くぞー!!」 トシオの目が変わる。「行く」「早ぇよ」 フィルニアが吹き出した。 タマも笑う。「本当に魚好きだなじーちゃん」 その後。 一行は展望甲板へ移動した。 そこでは商人達が簡易炭焼き台を出していた。「王都便再開祝いだ!!」「今日は景気良くいくぞ!!」 かなり盛り上がっている。 しかも。 グレイヴェル再開の噂も広がっ
last updateLast Updated : 2026-09-22
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王都レイシア…

 グランドカーゴは、ゆっくり高度を落としていた。 巨大な船体の窓から見える景色が近付いてくる。 白亜の外壁。 幾重にも重なる巨大水路。 空中橋。 浮遊灯。 そして中央。 空へ突き刺さるようにそびえる巨大王城。 フィルニアが口を開けたまま固まっていた。「……なんだこれ」 タマは懐かしそうに王都を見つめる。「相変わらずデケェなぁ……」 ユキも静かに外を見ていた。「……変わってない」 ミーコは窓の外を見つめたまま、小さく息を吐いた。『……レイシア』 王都レイシア。 獣人族最大国家レイシスの中心都市。 ミーコ達の故郷。 だが。 近付くほど分かる。 綺麗なだけじゃない。 外壁周辺には補修跡。 一部水路は止まり。 下層区画には崩れた建物も見える。 王都ですら、傷付いていた。 その時。 船内鐘が鳴る。ゴ ォ ン……「王都レイシア到着準備!!」「着陸甲板へ近付くなー!!」 船員達が動き始める。 乗客達も慌ただしくなった。 商人達は荷物確認。 兵士達は整列。 避難民達は不安そうに窓を見ている。 その空気の中。 ミーコだけは静かだった。 タマが横を見る。「……緊張してる?」『少しね』 嘘じゃない。 帰ってきた。 でも。 もう昔の王都ではない。 その時。 ユキがそっとミーコの手を握る。「……大丈夫」 ミーコが少し笑った。『ありがとう』 その頃。 後方貨物区では。「違う」「そこ冷える」 トシオが海霊族商人へ指示を出していた。 海霊族商人が頭を抱える。「なんでそこまで魚管理に詳しいんだよアンタ!?」「漁師だからだ」「納得しか出来ねぇ……」 フィルニアが笑う。「トシオ、完全に魚職人じゃねぇか」 ミツコも柔らかく笑った。「今日はいっぱい魚食べられそうだねぇ」 ちなみに魚は既にミツコの買い物籠へ収納済みだった。 見た目は普通の買い物籠。 だが内部は異空間。 入れた物の時間が止まる特殊収納である。 そのまま。 グランドカーゴは王都中央空港へ降下していく。 巨大な係留塔が近付く。 飛空挺用浮遊鎖。 大型搬入口。 無数の作業員。 そして。 兵士の数。 フィルニアの顔が少し真面目になる。「……多くね?」 確かに。 警備が異様に多かった。 タマも眉を
last updateLast Updated : 2026-09-22
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王都の風…

 王都レイシア中央空港。 グランドカーゴ到着直後だというのに、周囲は異様な熱気に包まれていた。「本当に帰ってきたのか……?」「アクアリア様だぞ……」「生存してたってマジだったのか」 ざわめきが止まらない。 兵士達も落ち着かない。 議会関係者らしき者達は慌ただしく走り回っている。 その中央を。 ミーコ達は歩いていた。 フィルニアが小声で呟く。「すげぇ見られてんな」 タマも周囲を見回す。「まぁ王都だしなぁ……」 ユキは静かにミーコの隣を歩いていた。 ミーコ自身は、なるべく平静を保っている。 だが。 やはり緊張はしていた。 王都の空気は地方とは違う。 人も多い。 視線も多い。 そして。 何より、“思惑”が多い。 その時。「アクアリア様」 前方から声。 白銀鎧の獣人騎士達だった。 王都騎士団。 周囲の空気が少し張る。 騎士団長らしき男が片膝をついた。「王都騎士団所属、レクターです」「お迎えに参りました」 ミーコは少し驚く。『……迎え?』「議会側より、王城への護送命令が出ています」 フィルニアが眉を上げる。「もう王城行くのか?」「本来なら正式審議が必要です」 レクターは静かに答える。「ですが現在、王都内はかなり混乱しています」「アクアリア様を放置出来ないという判断です」 シェリスが小さく息を吐く。「想像以上に早いですね」 その時だった。「アクアリア様ー!!」 別方向から声。 振り返ると、一般市民達だった。「本当に生きてたんだ!!」「帰ってきてくれたのか!!」「王女様ー!!」 フィルニアが目を丸くする。「うお、めっちゃ来る」 兵士達が慌てて規制線を作り始める。「押すな!!」「下がれー!!」 だが。 市民達の顔は暗くなかった。 期待。 安堵。 希望。 そんな表情だった。 ミーコは少し驚いていた。 もっと。 怖がられると思っていた。 もっと。 冷たい空気を想像していた。 その時。 一人の老婦人が前へ出てくる。「帰ってきてくださって……本当に良かった……」 震える声だった。 ミーコは思わず足を止める。 老婦人は涙ぐみながら続けた。「最近の王都は、皆余裕が無くてねぇ……」「争いも増えた」「商人も兵士も、皆疲れてたんだ」 小さく笑う。「
last updateLast Updated : 2026-09-22
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王城前広場…

 王都騎士団の車両は、中央水路沿いをゆっくり進んでいた。 王都レイシア。 巨大都市の中心部へ近付くほど、建物はさらに密集していく。 高層建築。 空中歩道。 複雑に交差する水路橋。 巨大商業塔。 そして、絶え間なく行き交う人々。 フィルニアが窓の外を見ながら呟く。「ほんと規模おかしいなここ……」 タマは懐かしそうに街並みを眺めていた。「昔からこんなんだったけどな」 ユキも静かに外を見る。「……人、増えた気がする」 ミーコは黙って街を見る。 懐かしい。 けれど。 どこか息苦しい。 街全体に余裕が無い。 それが分かる。 その時。 中央街路沿いの掲示板が見えた。【南区画 夜間封鎖継続】【中央倉庫物資制限】【議会臨時会議開催】 フィルニアが顔をしかめる。「なんかずっと物騒だな」 レクターが低く答えた。「今の王都は、表面だけ取り繕っている状態です」「各地問題が一気に噴き出している」 タマが腕を組む。「地方だけの話じゃなかったか」「えぇ」 レクターは窓の外を見る。「今のレイシスは、かなり危うい均衡の上にあります」 その時だった。「おい見ろ!!」 外から声が上がる。「騎士団車両だ!!」「まさか……」 ざわめきが広がる。 人々の視線が車両へ集まり始めた。 そして。「アクアリア様だ!!」 一気に空気が変わった。 フィルニアが目を丸くする。「うわ、広がるの早ぇ」 市場帰りの住民。 職人達。 子供達。 様々な人が車列へ集まってくる。「本当に生きてたんだ……」「王女様……」「戻ってきてくれたのか……」 だが。 喜び一色ではない。「議会どうなるんだ?」「また揉めるぞこれ……」「でも王女様戻ったなら……」 不安と期待が混ざっている。 ミーコは静かに外を見る。 これが今の王都。 皆、先が見えない。 だから。 小さな希望へも縋りたくなる。 その時。 一人の若い女性が車列へ向かって深く頭を下げた。「……ありがとうございます」 疲れた顔だった。 でも。 目だけは真っ直ぐだった。「最近、王都ずっと空気が重くて……」「皆、ピリピリしてて……」 小さく息を吐く。「だから」「王女様が帰ってきたって聞いて」「少しだけ安心したんです」 ミーコはその言葉を静かに受
last updateLast Updated : 2026-09-22
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