All Chapters of じじばばにゃんこと異世界奇譚: Chapter 151 - Chapter 160

182 Chapters

仕立て屋の苦悩…

 王城から正式招待が届いた翌日。 離宮は朝から少し慌ただしかった。「採寸?」 タマが嫌そうな顔をする。 広間には数人の仕立て職人が来ていた。 王城直属。 王族衣装を担当する者達らしい。 ベルドが静かに説明する。「三日後の正式謁見に向け、礼装準備が必要との事です」「王城側から派遣されました」 ユキが少し緊張したように服を見る。 机には大量の布地。 銀糸。 刺繍見本。 王家紋章。 かなり本格的だった。「……すごい」 フィルニアは布を触りながら言う。「これ高いやつだな」「分かるのかよ」「竜装束も高ぇからな」 職人達はかなり緊張していた。 当然である。 失踪していた王族。 その帰還直後。 しかも本人達の礼装制作。 国単位の大仕事だった。 その中の年配女性職人が、震えながら頭を下げる。「本日は、皆様の礼装を担当させて頂きます」「どうぞよろしくお願い致します」 ミーコは少し慌てる。『そんな固くならなくていいよ?』「い、いえしかし……!」 逆に緊張が増した。 タマが苦笑する。「まぁそうなるよな」 その時。「俺様、動きやすいやつがいい」 フィルニアが即注文する。「あとメシ食いやすいやつ」 タマが即座に頷く。「そうそう、汁物飛ばしても分かりにくいやつ……って、そこ重視なんかよ」「重要だろ」 職人達が困惑していた。 ユキが慌てて補足する。「えっと……出来れば軽めでお願いします」「動きやすい方が助かるかなって」「承知しました!」 職人達が一斉にメモを始める。 タマは椅子へ座りながらぼやいた。「なんか一気に王族感出てきたな……」 すると。 ベルドが静かに言う。「元々王族です」「それはそう」 採寸は順番に始まった。 まずユキ。 女性職人達が囲む。「お綺麗……」「凄くお似合いになりそう……」 小声が漏れていた。 ユキは少し困った顔をする。「そんな大袈裟な……」「いえ、本当に!」「白銀系のお色が映えますね……!」 ユキは少し照れたように視線を逸らした。 次。 タマ。「失礼します」「うわ待っ、くすぐってぇ!」「動かないで下さい!」「無理だって!」 フィルニアが爆笑している。「弱っ!」「うるせぇ!!」 職人達も少し笑っていた。 場が和み始めている。
last updateLast Updated : 2026-09-22
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訪問前夜…

 王城訪問を翌日に控えた夜。 離宮には、どこか落ち着かない空気が漂っていた。 広間では暖炉の火が静かに揺れている。 外は夜。 王都の灯が遠くに見えていた。 フィルニアはソファへ寝転がりながら天井を見ている。「なんかソワソワすんな」「なんでフィルがソワソワすんだよ」 タマが笑う。 フィルニアは腕を頭の後ろへ回した。「王城って、帝国でもやっぱ空気違うし」「めんどくせぇ奴いっぱいいる」「それは否定出来ねぇ」 タマも遠い目になる。 ユキは静かに茶を飲んでいた。「……でも、ちゃんと行かなきゃね」 その言葉に。 空気が少し静かになる。 王城。 国王。 正式謁見。 つまり。 本当に“王族として戻る日”が来るという事だった。 ミーコは窓際へ座っていた。 夜風が白銀の髪を揺らす。 まだ記憶は曖昧だ。 でも。 最近、少しずつ増えていた。 離宮の景色。 王都の音。 噴水広場。 食卓。 ぼんやりとした断片。 その時。 ミツコが隣へ座る。「考え事?」 ミーコは少し迷い。 小さく頷いた。『……なんか変な感じ』「うん?」『帰ってきたって思うのに』『まだ全部思い出せてないから』『本当にここにいていいのかなって』 ぽつりと零れた本音だった。 ミツコは静かに聞いていた。 急かさない。 否定しない。 ただ隣にいる。「でもねぇ」 ミツコは優しく笑った。「皆、ミーコちゃん達が帰ってきて嬉しそうだったよ」『……うん』「それってきっと」「ちゃんと帰る場所だったって事じゃないかなぁ」 ミーコは窓の外を見る。 王都の灯が揺れている。 温かい景色だった。 その時。 トシオが静かに広間へ入ってきた。 手には木箱。「ん?」 タマが見る。「なんだそれ」「市場で貰った干物」「まだあったのか」 トシオは暖炉近くにどかっと腰をおろす。 そして。 焼き始めた。「今!?」 ユキが驚く。「腹減った」「この時間に!?」 フィルニアが即起き上がる。「俺様も食う!」「お前絶対来ると思った」 しばらくして。 広間に香ばしい匂いが広がった。「……うまそう」 タマが負け始める。「食うか」「食う」 即答だった。 結局。 全員集まる。 ミツコが苦笑していた。「夜食になっちゃったねぇ
last updateLast Updated : 2026-09-22
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白銀の王城…

 翌朝。 離宮はいつもより早い時間から動いていた。 廊下を行き交う使用人達。 磨き直される銀器。 整えられていく玄関。 静かだが、どこか張り詰めた空気が漂っている。 今日は。 王城へ向かう日だった。 広間には、完成した礼装が並べられていた。 王城直属の仕立て職人達が仕上げた正式衣装。 朝日を受け、布地が静かに輝いている。「おぉ……」 タマが思わず声を漏らした。「すげぇなこれ」 ライガル家紋入りの護衛礼装。 白と銀を基調とした軽装型。 肩周りは動きやすさ重視。 だが細部の刺繍はかなり細かい。 王家直属護衛としての格式がきっちり出ていた。「絶対高ぇ」「そこかよ」 ユキが少し笑う。 一方。 フィルニアは自分の礼装を広げていた。「おぉー……」 黒と深紅を基調にした竜装束風礼服。 長マント。 軽量化された腕周り。 竜人族用に角周辺まで調整されている。「カッケェ」「めちゃくちゃフィル用だな」「分かってる奴が作った」「絶対職人苦労したぞ」 タマが苦笑いする。 フィルニアは満足そうだった。「ちゃんと動けそうだしな」「そこ重要なんだな」「戦えねぇ服は嫌だ」「今日は戦わねぇよ」「分かんねぇだろ」「分かるわ」 ユキの礼装は、柔らかな白銀色だった。 細い銀刺繍。 長めの袖。 派手過ぎない。 だが目を引く。「綺麗……」 ユキ自身が一番驚いていた。 ベルドが静かに頷く。「よくお似合いです」「ありがとうございます……」 少し照れたように笑う。 タマはそんなユキを見ていた。「なんか本当にお嬢様っぽいな」「なにそれ」「いや、雰囲気」「タマも似合ってるよ?」「俺?」「うん」「護衛感すごい」「それは褒められてんのか?」「多分」 その頃。 トシオも自分用の礼装を見ていた。 紺色を基調にした和装寄り。 余計な装飾は少ない。 だが。 着るだけで妙な迫力が出る。「……漁師って感じしねぇな」 トシオがぼそっと呟く。 ミツコが笑った。「余計に男前になったねぇ」「そうか?」「うん」 ミツコ自身も、落ち着いた和装風礼服だった。 柔らかな薄桃色。 派手ではない。 だが不思議と目を引く。 王都側職人達もかなり悩んだらしい。 王族ではない。 だが王族達の“家族”。
last updateLast Updated : 2026-09-22
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いざ…王の間へ…

 王城へ足を踏み入れた瞬間。 最初に感じたのは静けさだった。 もちろん人はいる。 近衛騎士。 使用人。 文官。 多くの者達が行き交っている。 だが。 王都の賑わいとは違う。 一つ一つの動きに規律があり、無駄な音が少ない。「なんか空気違うな」 タマが小声で呟く。「王城だからな」 フィルニアも周囲を見回していた。 珍しく大人しい。 いや。 正確には観察している。 廊下。 警備配置。 騎士達。 出入口。 完全に武人目線だった。 ユキが苦笑する。「フィル、何見てるの?」「ん?」「いや、警備しっかりしてんなって」「そこなの?」「そこだろ」 ベルドが先導する。「こちらです」 一行は王城内部を進んでいく。 白い回廊。 高い天井。 壁に飾られた絵画。 巨大な窓。 差し込む陽光。 王城そのものが、一つの歴史書のようだった。 ミーコは静かに周囲を見る。 知らない。 でも。 どこか懐かしい。 不思議な感覚だった。 その時。 廊下の先で、数人の使用人達が足を止めた。 視線が集まる。 驚き。 緊張。 そして。 どこか嬉しそうな表情。 一人の年配女性が小さく頭を下げた。「お帰りなさいませ」 それだけだった。 だが。 その言葉に込められた想いは伝わった。 ミーコも笑顔で返す。『ただいま』 女性の目が少し潤んだ。 ベルドは何も言わない。 ただ静かに歩き続ける。 途中。 中庭が見えた。 大きな噴水。 手入れされた花壇。 白い石畳。 ユキが思わず足を止める。「綺麗……」 ミーコも静かに見つめる。『……とても懐かしい感覚だな』 すると。 ベルドが説明する。「王妃様がお好きだった場所です」 一瞬。 空気が静かになる。 ユキが噴水を見る。 ミーコも見る。 記憶は戻らない。 だが。 胸の奥が少し温かくなった。「お母様が……」 ユキが小さく呟く。「はい」 ベルドは頷いた。「よく皆様を連れて来られていました」 フィルニアが周囲を見回す。「なんか分かる気がする」「なにが?」 タマが聞く。「落ち着く」 それは珍しく真面目な感想だった。 ベルドも少しだけ笑った。「そうですね」「王妃様もそう仰っておりました」 しばらく進む。 やがて。
last updateLast Updated : 2026-09-22
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王と王妃…

 王の間は広かった。 高い天井。 白銀の柱。 壁を彩る王家の紋章。 左右には近衛騎士達が整列している。 だが。 議会の時とは空気が違った。 張り詰めてはいる。 しかし敵意は無い。 むしろ。 長く待っていた者達が息を潜めて見守っているような空気だった。 ミーコはゆっくり前へ進む。 隣にはユキ。 タマ。 少し後ろにトシオとミツコ。 そしてフィルニア。 ベルドも静かに付き従っていた。 玉座は高い場所にあった。 そこへ座る男がいる。 白銀の髪。 鋭い目。 年齢は五十代半ばほど。 王冠は被っていない。 だが。 その存在感だけで王だと分かる。 フェルディオ=ヴァル=レイシス。 現レイシス王国国王。 ミーコの叔父だった。 しばらく。 誰も言葉を発さない。 静寂。 広い王の間に、僅かな衣擦れの音だけが響く。 そして。 先に口を開いたのは王だった。「……大きくなった……」 それだけだった。 威厳ある王の言葉ではない。 叔父としての言葉だった。 ミーコは少し目を瞬かせる。 記憶は戻っていない。 それでも。 その声を聞いた瞬間。 胸の奥が少しだけ温かくなった。 フェルディオは玉座から立ち上がる。 周囲が少しざわめく。 王が玉座を降りる。 本来なら滅多に無い事だった。 フェルディオはゆっくり階段を降りる。 一歩。 また一歩。 そして。 ミーコ達の前まで来た。 フェルディオの目が揺れる。 普段なら誰にも見せない顔だった。「……生きていてくれて良かった」 その一言に。 王の間の空気が変わる。 ユキが目を伏せる。 タマも静かだった。 ミーコは何も言えなかった。 どう返せばいいのか分からない。 記憶は戻っていない。 けれど。 この人がずっと心配していた事だけは伝わってきた。 フェルディオは優しく微笑んだ。「帰ってきてくれた……」「それだけで十分だ」 王ではない。 家族の顔だった。 ユキも小さく頭を下げる。「ご心配をお掛けしました」「本当にな」 フェルディオが少し笑う。「王城中が大騒ぎだった」 タマも頭を下げた。「申し訳ありません」「当然だ」 フェルディオは頷く。「ベルドなど、毎年離宮の修繕計画を立てていたぞ」 ベルドは少しだけ目を伏せる。
last updateLast Updated : 2026-09-22
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家族として…

 王の間を後にした頃には、すっかり昼を過ぎていた。 一行はベルドの案内で王城内を進む。 その途中。 フィルニアはやたらとソワソワしていた。 タマが吹き出す。「お前、分かりやすすぎるだろ」「なんだよ」「いや、なんでもない」 ユキはニコニコしながら言った。「フィルちゃん、なんか嬉しそう」「別に」「絶対嬉しいでしょ」「別に」 だが。 口元は全然隠せていない。 フィルニアは少しだけ視線を逸らした。「……歓迎会なんだろ?」 タマが笑う。「結局そこか」「ご馳走出るよな」「出ると思うぞ」「よし」 機嫌がさらに良くなった。 ベルドも少しだけ口元を緩める。「晩餐の準備は整っております」「さすがだなベルド」「ありがとうございます」 フィルニアは満足そうに頷いた。 一行はそのまま食事の席へ向かった。 やがて。 大きな扉が開く。 そこには食卓が並ぶ広間が広がっていた。 長い机。 美しい装飾。 柔らかな灯り。 高い窓。 離宮の食堂とはまた違う雰囲気だった。「まぁ……」 ミツコが思わず声を漏らす。「綺麗だねぇ」 ユキも周囲を見回していた。 フィルニアは―― 料理が運ばれてくる入口を見ていた。 タマが気付く。「落ち着けフィル」 ミーコも小さく笑った。 フェルディオは既に席へ着いている。 そして皆も席に着いた。 一行を見ると柔らかく頷いた。「改めて」「おかえり」 一瞬。 ミーコ達は目を丸くした。 王としての言葉ではない。 形式的な歓迎でもない。 家族へ向けた言葉だった。 ミーコの耳がぴくりと動く。『ありがとう』 そして少しだけ首を傾げた。『えーっと……』 少し考えて。 照れたように笑う。『ただいまっ!』 フェルディオは心から嬉しそうに笑った。「うむ」 ユキも微笑む。「ただいま戻りました」 タマも少し照れ臭そうに頭を掻いた。「……ただいま戻りました」 フェルディオは静かに頷く。 そして。 料理が運ばれてくる。 焼き魚。 煮魚。 魚介のスープ。 肉料理。 香草焼き。 大皿料理。 次々と並んでいく。 トシオの目が光る。 フィルニアの目も光る。「魚だ」「肉だ」 ほぼ同時。 タマが吹き出した。「じーちゃんまで!?」 トシオとフィルニアが
last updateLast Updated : 2026-09-22
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ミレーユとの再会

 王城で迎える最初の朝。 窓から差し込む陽光が客室を柔らかく照らしていた。 昨夜は長い一日だった。 故郷への帰還。 議会での顔合わせ。 フェルディオとの再会。 そして王家の晩餐。 慌ただしく過ぎた一日だったが、不思議と目覚めは悪くなかった。 朝食を終えた頃。 客室へベルドが訪れる。「皆様、おはようございます」「おう」「おはようございます」 ベルドは丁寧に一礼した。「陛下がお呼びです」 ミーコが首を傾げる。『叔父様?』「はい」「庭園にてお待ちです」 王の間ではないらしい。 一同は顔を見合わせた。 だがベルドはそれ以上を語らない。「ご案内いたします」 一行はベルドの後に続いた。 王城の庭園は朝の光に包まれていた。 色鮮やかな花々。 丁寧に整えられた芝生。 穏やかな水音を響かせる噴水。 心地良い風。 王城の中とは思えないほど穏やかな空間だった。「綺麗だねぇ」 ミツコが微笑む。「立派なもんだな」 トシオも周囲を見回した。 やがて。 庭園の奥に人影が見えた。 フェルディオだ。 そしてその隣には一人の女性が立っている。 柔らかな金髪。 穏やかな雰囲気。 優しい眼差し。 一目で王族だと分かる女性だった。 一行が近付く。 その瞬間だった。 女性の瞳が大きく見開かれる。 唇が震える。 込み上げる感情を抑えきれないように。 女性はミーコ達に駆け寄った。 フェルディオが何か言うよりも早く。 真っ直ぐに。 そして。 ミーコとユキとタマ、3人を抱きしめた。 強く…… 強く…… 肩が震えている。 腕も震えている。「よかった……」 掠れた声だった。「本当に……」 涙が零れる。「本当によかった……」 何年も。 探し続けた。 願い続けた。 諦めなかった。 だからこそ。 今この瞬間が信じられなかった。「おかえりなさい……」 震える声。「おかえりなさい……アクアリア」「おかえりなさい……セレフィーナ」「おかえりなさい……グラディオ」 涙が止まらない。 それでも。 その顔は笑っていた。 ミーコ達は言葉を失っていた。 まだ思い出すことはできないけれど。 この人がずっと自分達を待っていた事だけは伝わってくる。 しばらくして。 ミーコが小さく口を開く。
last updateLast Updated : 2026-09-22
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転移魔法陣…

 離宮での暮らしが始まって数日が過ぎた。 王都での生活にも少しずつ慣れ始めている。 朝。 離宮には穏やかな時間が流れていた。 ミツコは朝のお茶を淹れている。 トシオは中庭の椅子に腰掛けていた。 ユキは庭いじり。 花壇の手入れをしながら、小さな花々を眺めている。 ミーコは中庭の日陰で読書中だった。 一方その頃。「返せ!」「やだ!」 中庭の反対側ではちょっとした騒ぎが起きていた。 タマとフィルニアである。 二人の視線の先には焼き菓子。 最後の一個だった。「さっき俺が取ったんだぞ!」「取っただけだろ!」「俺のだ!」「まだ食ってないなら俺様のだ!」 意味不明だった。 ミツコが苦笑する。「朝から元気だねぇ」「元気というかアホだな」 トシオが呆れたように言う。 ミーコも本から顔を上げた。『またやってる』 ユキもため息をつく。「毎日ですね」 そんな騒がしい朝だった。 その時。 離宮の正面から声が聞こえてきた。「お邪魔してもよろしいかしら?」 聞き覚えのある声だった。 ミーコが顔を上げる。『叔母様!』 離宮へやって来たのはミレーユ達だった。 ミレーユ。 そしてフェルディオ。 二人揃っての訪問である。 ミレーユは嬉しそうに笑った。「おはよう」『おはよう!叔母様!』 ミーコは本を閉じる。 ユキも庭仕事の手を止めた。「おはようございます」 タマも焼き菓子争奪戦を中断する。「おはようございます」 ミレーユは嬉しそうに三人を見つめた。「皆元気そうね」「はい」 ユキが微笑む。 ミレーユは満足そうに頷いた。 そんな穏やかな時間を過ごしていた時だった。 ベルドが慌ただしくやって来る。「陛下」「どうした?」 フェルディオが尋ねる。 ベルドは少し困ったような顔をしていた。「離宮の整理中に妙な場所が見つかりました」「妙な場所?」 フェルディオが眉を上げる。「はい」 ベルドは頷く。「私も存在を知りませんでした」 一同が顔を見合わせる。「案内いたします」 離宮の奥へ進む。 普段使われていない区域。 やがて。 行き止まりに見える壁の前でベルドが足を止める。「ここです」 壁が開く。 現れたのは隠し通路だった。 フェルディオもミレーユも知らない場所。 全員が驚いて
last updateLast Updated : 2026-09-22
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思い出の部屋…

 隠し部屋で記憶を取り戻した翌日。 離宮の朝はいつもより少し遅かった。 昨日の出来事が大きすぎたのである。 ミーコ達三人はもちろん、フェルディオやミレーユも夜遅くまで話し込んでいた。 朝食を終えた頃。 フェルディオがふと思い出したように言った。「そういえば」 全員が顔を上げる。「まだ見せていない場所があったな」『まだあるの?』 ミーコが首を傾げる。 フェルディオは頷いた。「ある」「正確には、お前達のために残していた部屋だ」 ミーコ達が顔を見合わせた。 ミレーユも小さく頷く。「昨日の記録水晶のことですっかり忘れていたわ」「本来ならもっと早く案内するつもりだったんだがな」 フェルディオが苦笑する。「行ってみるか?」 三人は即答した。『行く!』「行きます」「もちろん!」 フィルニアも当然のように立ち上がる。「俺様も行く」「お前は関係ないだろ」「気になる」「何が気になるんだよ」 タマが呆れた顔をした。 そんなやり取りをしながら一行は離宮の奥へ向かった。 離宮二階。 昔は王族用の居住区だった場所。 廊下へ足を踏み入れた瞬間。 ミーコの足が止まる。『あ……』「どうした?」『ここ』 懐かしかった。 自然と景色が重なる。 幼い自分。 笑い声。 走る足音。『ここでタマと競争した』「したな」 タマも思い出したらしい。「俺が勝った」『負けてない』「負けた」『負けてない』「泣いたろ」『泣いてない』「泣いた」『泣いてない!』 即座に始まる言い争い。 ユキが苦笑した。「まだ覚えてるんだぁ」「覚えてる」「覚えてるな」 二人が同時に答える。 フェルディオとミレーユはそんな様子を見ながら笑っていた。 やがて一つ目の部屋へ到着する。 扉には小さな銘板。 アクアリア。 そう刻まれていた。 ミーコは息を呑む。 フェルディオが扉を開いた。 中は綺麗に保たれていた。 本棚。 机。 椅子。 窓辺の小さな花瓶。 まるで昨日まで使われていたかのようだった。『……』 ミーコはゆっくり中へ入る。 本棚へ近付く。 そして固まった。『多い』「全部お前の本だ」 フェルディオが即答した。『多すぎる』「もっとあったぞ」『もっと!?』 トシオが棚を眺める。「こりゃ
last updateLast Updated : 2026-09-22
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白銀の森へ…

 離宮で見つかった古い地図。 そして。 そこに残されていた一文。 ――もしもの時は『白銀の森』へ。 それから三日後。 離宮の会議室では珍しく全員が集まっていた。 テーブルの中央には地図が広げられている。 フェルディオが腕を組んだ。「調べられるだけ調べた」 全員の視線が集まる。「だが白銀の森についての記録はほとんど残っていない」「王城にもですか?」 ユキが尋ねる。 フェルディオは頷いた。「ああ」「古い文献に名前が出てくる程度だ」 ミレーユが地図を指差した。「位置はおそらくこの辺り」 レイシス北方。 山岳地帯に近い深い森だった。「昔は王家管理区域だったらしいわ」『らしい?』 ミーコが首を傾げる。「記録が消されているの」 ミレーユの表情は真剣だった。「意図的にね」 部屋が静かになる。 トシオが地図を見ながら言った。「ますます怪しいな」「そうですね」 ベルドも頷く。「普通の森ではないでしょう」 その時だった。 タマが立ち上がる。「じゃあ行こう」 全員が見る。「調べても分からねぇなら行くしかない」 実にタマらしい結論だった。 だが。 誰も否定しなかった。 ミーコも頷く。『私も行きたい』 ユキも続く。「私もです」 フェルディオはしばらく考え込んだ。 そして。 小さく笑う。「止めても行くだろうな」「行く」「行きます」「もちろん!」 三人が即答した。 フィルニアも当然のように手を挙げる。「俺様も行く」「お前は関係ないだろ」「気になる」「何が気になるんだよ」「たまに体を動かさないとな!」「絶対それだけじゃねぇだろ」 タマが呆れる。 そんなやり取りを見ていたミレーユが微笑む。「賑やかね」 久しぶりだった。 こうして旅の話をしている時間が。 冒険が始まる。 そんな空気が部屋に広がっていた。 翌朝。 王都北門。 出発の日だった。 空は快晴。 風も穏やかだった。 見送りにはフェルディオ達も来ている。「無理はするな」 フェルディオが言う。「何かあればすぐ戻れ」「分かってる」 トシオが答えた。 ミレーユはミーコ達三人を順番に抱き締める。「気を付けてね」『うん』「はい」「行ってきますっ!」 三人も笑顔で頷いた。 少し前なら違った。
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