午前7時30分。駅まであと5分。突然、雨が降ってきた。しかも結構強い。傘はない。天気予報では曇りだったはず。私は近くのバス停の屋根へ走り込んだ。先客が1人。60代くらいの女性。大きな花柄の傘を持っている。「降ってきたねえ」「びっくりしました」屋根は小さい。2人なら十分。でも風が吹くと、端から雨が入ってくる。足元を見ると、彼女は赤いレインシューズを履いていた。傘も派手。靴も派手。「雨の日仕様ですね」私が言うと、彼女は足を少し前へ出した。「せっかく濡れる日なんだからね」「晴れの日は?」「普通」「雨の日だけ?」「そう。嫌な天気の日に、嫌な格好までしなくていいでしょ」その発想はなかった。女性が少し内側へ詰めた。「こっちおいで」「ありがとうございます」雨音が一気に強くなる。道路が濡れていく。「傘持ってないの?」「予報信じました」「予報は責任取ってくれないからね」強い。「そちらは?」「私は毎日持ってる」大きな傘を見せる。花柄。かなり派手。「かわいいですね」「でしょ? 娘には派手って言われるけど」「そのくらいが雨の日いいかも」「そうなのよ。空が地味なんだから傘くらい派手でいいの」なるほど。バスはまだ来ない。私は時計を見る。少し焦る。女性が気づく。「急いでる?」「ちょっと」「でも今走ったら濡れるよ」「ですよね」「5分くらい待ちなさい」
Last Updated : 2026-09-30 Read more