All Chapters of ねえ、5分だけ付き合ってーーMorning Side: Chapter 41 - Chapter 50

65 Chapters

猫には好かれるんです

土曜の朝9時。保護猫の譲渡会に来ていた。猫を飼う予定はない。というより、マンションがペット不可。なのに来た。理由は簡単。猫を見たかったから。それだけ。会場には10匹くらいの猫。白。黒。三毛。茶トラ。私は最初に三毛猫の前でしゃがんだ。「かわいい……」三毛猫がこちらを見る。手を近づける。ぷい。顔を逸らされた。「冷たい」スタッフの女性が笑う。「その子、人を選ぶんです」「選ばれなかった?」「今のところ」悲しい。もう1回。指を出す。無視。「脈なしですね」「結構はっきりしてます」猫に朝から振られた。隣のケージへ移動する。黒猫。こっちを見る。今度こそ。指を出す。くんくん。そして、ぺろ。舐められた。「勝った」何にか分からないけれど、嬉しい。スタッフが笑う。「珍しい。その子、初対面には結構慎重なんですよ」「じゃあ私、猫にはモテる?」「猫には」強調された。「そこ、猫だけって言わなくても」「事実なので」土曜の朝から容赦ない。黒猫はさらに顔を寄せる。私の指へ頭をこすりつける。「名前は?」「くろまめ」「見たまま」「仮名なんで」「くろまめ」呼ぶ。こっちを見る。かわいい。「抱いてみます?」
last updateLast Updated : 2026-10-10
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写真、撮りましょうか

土曜の朝8時20分。山のロープウェイに乗った。休日なのに早起きした理由は、朝の景色がきれいらしいから。それだけ。ゴンドラには私を含めて4人。途中駅で2人降りて、残ったのは私と男性1人だった。30代前半くらい。黒いパーカー。首から小さなカメラ。窓の外をかなり真剣に見ている。「写真、好きなんですか?」私から聞いた。「好きです。でも下手です」即答。正直。窓の外には、山と朝霧。きれい。私もスマホを出す。撮る。確認する。「……違う」実物のほうが100倍きれい。彼が笑う。「分かります」「写真にすると急に普通」「僕も毎回それです」「じゃあそのカメラ何のために?」「失敗するため」「深いですね」「全然」また笑った。頂上駅。2人とも降りる。展望台へ向かう。風が少し強い。雲の隙間から、朝日が出る。思わず、「わあ」と声が出た。彼も隣でカメラを構える。「撮れた?」「たぶん失敗」「見せて」画面を見る。意外ときれい。霧の向こうに、光の筋。「上手じゃん」「景色がいいだけです」「その言い方ずるい」「何が?」「褒めても本人が受け取らない」彼が少し考える。「じゃあ、ありがとうございます」素直。少し歩くと、撮影スポットの看板。
last updateLast Updated : 2026-10-10
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少しくらい歪んでも

日曜の朝10時。ガラス工芸の体験教室に来ていた。休日にしては、かなり健全。昨日の夜までは、「明日は昼まで寝る」と決めていたのに。朝8時に目が覚めて、二度寝にも失敗して、スマホを眺めていたら、〈当日参加OK ガラスの豆皿作り〉という文字を見つけた。その1時間後には、ここにいる。休日の自分は、たまに行動が読めない。作るのは小さな豆皿。先生は40代くらいの女性。短い髪。腕まくり。シンプルな黒いエプロン。かなり格好いい。「色、選んでください」机の上には、青。緑。ピンク。黄色。透明。小さなガラスの欠片が並んでいる。私は迷った。「どれが人気ですか?」先生が私を見る。「人気で選ぶの?」いきなり返された。「いや……参考までに」「自分の皿でしょ?」「はい」「なら、自分が見たい色にすればいいよ」確かに。私はもう一度、ガラスを見る。「じゃあ青」「好きだから?」「たぶん」「なら青」簡単。こういう人、好きだ。私は青いガラスを集めた。濃い青。水色。少し白っぽい青。透明に近いもの。まずは丸く並べる。均等に。きれいに。左右対称に。――しようとした。でも、どうしてもずれる。右側が大きい。左側が小さい。隙間も違う。直す。さらに
last updateLast Updated : 2026-10-11
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葉っぱの向こうで

日曜の朝9時30分。大きな温室植物園に来た。雨の日でも濡れない。静か。緑だらけ。日曜日にちょうどいい。入口を入ると、湿った空気と、土の匂い。巨大な葉っぱ。見たことのない花。私はスマホを出した。写真を撮る。葉っぱ。次も葉っぱ。また葉っぱ。どれも同じに見える。「それ、少し下から撮るときれいですよ」声をかけてきたのは、30代前半くらいの男性。首から小さなカメラ。薄いカーキ色のシャツ。「詳しいんですか?」「植物じゃなくて、写真だけ」「じゃあお願いします」私はスマホを渡した。彼がしゃがむ。巨大な葉の下から、光が透ける角度。シャッター。「ほら」見せてもらう。全然違う。葉脈まで光っている。「すごい」「葉っぱがすごいんです」「写真撮った人は?」「少し」謙虚なのか、面倒なのか。そのまま少し一緒に歩く。名前も知らない花。派手な赤。小さな紫。「これ何だろう」私が聞く。「分からない」「詳しくないんだ」「最初に言いました」そうだった。奥の温室。小さな滝。湿度が高い。だんだん前髪がうねってくる。鏡はないけれど分かる。最悪。私は前髪を押さえた。「髪、気になります?」彼が聞く。「かなり」「写真撮るなら、今のほうがいいですよ」「なんで?
last updateLast Updated : 2026-10-11
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桃は押さないでください

午前7時25分。駅近くの広場に、期間限定の朝市が出ていた。野菜。花。卵。そして、やたらいい匂いの桃。別に買う予定はなかった。でも、通り過ぎるには甘すぎる香りだった。私は1つ手に取る。柔らかいかな。少しだけ確かめようとした瞬間。「それ、押さないほうがいいですよ」横から声がした。見ると、30代前半くらいの男性。白いTシャツに黒いシャツを羽織っている。片手には桃が3個入った紙袋。「押してません」「今、押そうとしてました」「触っただけです」「桃は繊細なので」ずいぶん桃側に立つ人だ。「詳しいですね」「実家が果樹園です」急に説得力が増した。私は手の中の桃を見る。「じゃあ、どれがおいしい?」「食べるの今日ですか?」「たぶん」彼は桃の前へ少し近づいた。1個ずつ香りを確かめる。「これ」差し出された桃を受け取る。甘い。さっきのより明らかに香る。「違う?」「全然違う」「でしょう」ちょっと得意そうだ。私も別の桃を持ち上げる。「これは?」「まだ若い」「じゃあこれは?」「明後日」「桃と会話できるんですか?」「まあまあ」真顔で言うから笑ってしまった。朝市の店員さんまで笑っている。「じゃあ明日のは?」「これかな」「明日の桃まで選べるんだ」「桃の予定管理は得意です」「自分の予定は?」一瞬止まった。「苦手です」そこは苦手なんだ。
last updateLast Updated : 2026-10-12
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そのコート、私のです

午前7時50分。駅前のクリーニング店で、預けていたコートを受け取った。黒。膝丈。何の変哲もない。店員さんに渡されて、そのまま店を出る。風が少し冷たい。さっそく袖を通す。「あれ?」なんか違う。肩が少しきつい。ポケットの位置も微妙に違う。そして、右ポケットに手を入れると、知らない飴が出てきた。梅味。私は梅味を買わない。左ポケット。ハンカチ。これも私のじゃない。完全に違う。店へ戻ろうとした瞬間、後ろから女性の声がした。「すみません! それ私のです!」振り返る。30代後半くらいの女性が走ってくる。そして彼女が着ているコートを見る。黒。膝丈。私のだ。2人で黙る。彼女も自分の袖を見る。私も自分の袖を見る。「……交換ですね」「ですね」店員さんが異変に気づき、外へ出てきた。顔が真っ青。「申し訳ございません!」「大丈夫です」2人同時に言った。それから、朝の歩道で知らない女性とコート交換。かなり変な光景だ。「ポケット、見ました?」彼女が聞く。「梅の飴」「見られた」「私のは?」彼女が目を逸らす。「レシートが3枚」「それは忘れてください」「あと、チョコの包み紙」「それも」恥ずかしい。「でも安心しました」彼女が言う。「何が?」「私だけじゃなかった」
last updateLast Updated : 2026-10-12
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空に近いベンチ

午前7時20分。いつも通るビルの入口で、見慣れない看板を見つけた。〈屋上庭園 朝7時より開放〉こんなのあったんだ。いつもなら、そのまま通り過ぎる。でも今日は少し早い。10分くらいなら。エレベーターで最上階へ上がった。扉が開く。思ったより広い。小さな芝生。花壇。木製のベンチ。そして、ビルの隙間から見える空。朝の風が少し冷たい。私は端のベンチに座った。スマホを出しかけて、やめた。せっかくだから、何も見ないでいよう。しばらくすると、隣のベンチに年配の夫婦が座った。奥さんが紙袋から小さなおにぎりを出す。旦那さんが聞く。「鮭?」「梅」「昨日も梅だった」「じゃあ食べない?」「食べる」やり取りが可笑しくて、少し笑ってしまった。奥さんがこちらを見る。「ごめんなさいね、うるさくて」「いえ。仲いいですね」旦那さんが即答する。「良くないですよ」奥さんも言う。「45年一緒にいるだけ」「それを仲いいって言うんじゃないですか?」私が言うと、2人とも少し黙った。そのあと。「そうなの?」旦那さん。「知らない」奥さん。また笑った。奥さんが紙袋を見る。「食べる?」小さなおにぎりを1つ差し出した。「え、いいんですか?」「作りすぎたの」旦那さんが横から言う。「いつも作りすぎる」「あなたが食べると思って」「
last updateLast Updated : 2026-10-13
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その箱、大きすぎません?

午前7時35分。マンションの宅配ロッカーを開けた瞬間、私は固まった。届いた荷物が、想像の3倍大きかった。通販で買ったのは、小さな卓上加湿器。のはず。でもロッカーから出てきた箱は、ほぼ私の上半身サイズ。「何買ったんですか?」隣から声がした。30代前半くらいの男性。片手には、薄い封筒1枚。「加湿器」「業務用?」「違います」箱を見る。彼も見る。「中身、加湿器じゃない気がします」「嫌なこと言わないで」送り状を見る。私の名前。間違いない。試しに持ち上げる。軽い。でも大きすぎて前が見えない。「駅まで?」彼が聞く。「そうです」「危ないですよ」「大丈夫」3歩歩く。柱にぶつかった。ゴン。「大丈夫じゃないですね」笑われた。悔しい。「持ちます?」「知らない人に荷物渡すのも怖い」「確かに」彼は少し考える。「じゃあ片側だけ」箱の右側を持った。私は左側。2人で巨大な箱を抱えて歩く。前から見ると、たぶん箱が歩いているように見える。「何か共同作業っぽいですね」彼が言う。「朝から変なこと言わないでください」「結婚式とは言ってません」「今、言った」「言わせたのそっちです」面倒だ。でもちょっと笑った。歩道の段差。彼が言う。「上げますよ。せーの」箱を持ち上げ
last updateLast Updated : 2026-10-13
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手、貸してください

午前7時15分。駅近くのイベントスペースで、妙な看板を見つけた。〈朝の15分陶芸体験〉朝から陶芸。誰がやるんだろう。そう思った。そして5分後。私は土を触っていた。自分でもよく分からない。参加者は私1人。講師は30代前半くらいの男性だった。黒いエプロン。袖は肘までまくっている。「何作ります?」「15分でできるもの」「正しい」候補は、小皿か箸置き。私は小さな豆皿にした。土を丸める。押す。広げる。簡単。――のはずだった。3分後。「歪んでますね」「味です」「かなり味あります」「褒めてないですよね?」彼が笑う。「このままだと、豆皿より灰皿に近いです」「今どき灰皿?」「確かに」2人で笑う。彼が私の手元を見る。「手、貸してください」「え?」「ちょっと直します」私の後ろへ回る。両手を軽く包むようにして、土の形を整える。彼の指が、私の指の上に重なった。土はひんやり冷たい。でも、背後にいる彼の体温は近い。朝から、距離が近すぎない?「力抜いて」耳の近くで言われた。「抜いてます」「入ってます」「近いから」言ってから止まった。彼の手も一瞬止まる。「僕が?」「……土が」「土はずっと同じ距離ですけど」返す言葉がない。彼が
last updateLast Updated : 2026-10-14
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朝定食は半分でいい

午前7時40分。商店街の小さな食堂で、私は朝定食を頼んだ。焼き魚。味噌汁。卵焼き。漬物。そして、山盛りのご飯。完璧。ただし、量が多い。かなり多い。「食べきれる?」カウンターの向こうから、女性店主が聞いた。50代くらい。エプロンのポケットにボールペンが3本刺さっている。「たぶん」「そのたぶん、怪しいね」見抜かれている。隣の席には40代くらいの女性。彼女の前にも同じ朝定食。でもご飯は半分。「私、最初から半分にしてもらった」知らない人なのに教えてくれた。「賢い」「昔は無理して全部食べてたけどね」店主が笑う。「この人、残すの申し訳ないって言って、毎回苦しそうに食べてたの」「それ言わなくていいから」「だって本当」私は自分のご飯を見る。このままでは、朝から戦いになる。「減らせます?」「もちろん」店主が茶碗を持っていく。半分になって戻ってきた。急にちょうどよく見える。なんだ。最初から言えばよかった。隣の女性が卵焼きを食べながら言う。「こういうの、何でもそうなんだよね」「何が?」「最初から少なめでいいって言えばいいのに、つい全部受け取っちゃう」店主がすぐ割り込む。「朝から深い話しない」「まだ7時台」「確かに」3人で笑った。焼き魚を食べる。皮がぱりっとしている。味噌汁も温かい。ご飯は半分でちょうどいい。「足りなかっ
last updateLast Updated : 2026-10-14
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