午前7時50分。駅前の小さな香水工房に入った。店先に「朝の10分調香体験」と書いてあったからだ。今日は少し早く家を出た。10分なら。店の中には小さな瓶が並んでいる。柑橘。花。木。石けん。「好きな香り、あります?」声をかけてきたのは40代くらいの女性調香師。白いシャツに黒いエプロン。短い髪。「甘すぎなくて、強すぎないの」「嫌いなものから決めるタイプね」いきなり見抜かれた。「ダメですか?」「全然。むしろ選びやすい」彼女は3本の瓶を出した。最初はベルガモット。次はジャスミン。最後は、少し木のような落ち着く香り。「これ好き」「シダーウッド」私はもう1度嗅いだ。「顔に出てる」「そんなに?」「これだけ2回嗅いだ」自分では気づかなかった。彼女は3種類を小さなビーカーに入れる。「好きな香り全部入れればいいわけじゃないんですね」「全部好きでも、混ぜたら喧嘩することあるよ」「人みたい」「人より分かりやすい」さらっと言う。少しベルガモットを足してもらうと、香りが軽くなった。「好き」「じゃあ仮完成」「仮?」「肌につけると変わるから」彼女が私の手首を指す。「ここにつけていい?」「お願いします」小さく1滴。手首を振る。最初は柑橘。少しすると花。最後に木。「変わる」「でしょ」「面白い」彼女が腕を組む。「香りって、最初の印象だけで決めると失敗するのよ」「深いこと言いそう」「言わない。香水の話」
Last Updated : 2026-10-15 Read more