結婚式まであと三週間。社内では葵と紬の祝宴に向けた準備が着々と進められていた。副社長室のデスク。紬が真剣な表情で結婚式の招待客リストをチェックしていると、ドアが静かに開いた。「……紬、少し休め」入ってきた葵は、相変わらず一切の隙もない完璧なスーツを着こなし、氷のように冷ややかで整った美貌を漂わせている。だが、その瞳が紬を捉えた瞬間だけ、氷が溶けるようにかすかな熱が宿る。葵は紬の前に立つと、長い指先で彼女の丸メガネをすっと外し、デスクに置いた。「あ……葵さん、まだチェックの途中です……」「リストの確認なら俺が済ませた。……それより、お前の目元に疲れが出ている」葵は冷徹な顔立ちのまま、抗う隙を与えず紬の細い腰を引き寄せた。そのまま静かに唇を重ねてくる。深く、逃がさないように慈しむ濃厚な口づけ。「……葵さん……会社ですよ……っ」「誰も入って来られないように鍵は掛けてある。……お前が俺の側から離れようとするたび、こうして俺の印を刻みたくなる」冷たい素振りの裏にある、どこまでも狂おしい独占欲。葵のクールな愛に包まれ、紬は胸を甘く痺れさせながら身を委ねていた。その日の午後。葵が役員会への出席で秘書室を空けた際、紬のもとに「挙式で使用するドレスの最終確認」という名目で、一通のプライベート便が届けられた。サロンからの確認書類だと思い開封した紬は、息を呑んだ。中に同封されていたのは、確認書類ではなく――ひとつの高級な銀のイヤリング。そして、ワイルドな筆跡で書かれた小さなメッセージカードだった。『似合いそうだと思って買ったんだ。 葵のつける冷たいダイヤより、君の肌にはこういう熱い輝きの方が似合うんじゃない? 挙式当日、僕が迎えに行くから……それまで大事にとっておいてよ。――蓮』カードから漂うのは、ウッディな葵の香りとは対照的な、少しタバコのニュアンスが混ざった甘くスモーキーな香り。「神楽……常務……」指先でイヤリングを握りしめる紬の胸が、ドクンと跳ねる。警察の手を逃れているはずなのに、すぐ近くで自分を見つめているかのような距離感。力任せではなく、こうした思わせぶりでキュンとさせるような仕草で揺さぶってくるのが、蓮の恐ろしさであり魅力でもあった。その時――。「……何を持っている」背後から低く、氷点下の声が響いた。振り返ると、ド
Last Updated : 2026-10-15 Read more