All Chapters of 完璧社長の過剰な執着~隠れ優秀秘書は、二人のハイスペに奪い尽くされる~: Chapter 51 - Chapter 60

68 Chapters

第51話

結婚式まであと三週間。社内では葵と紬の祝宴に向けた準備が着々と進められていた。副社長室のデスク。紬が真剣な表情で結婚式の招待客リストをチェックしていると、ドアが静かに開いた。「……紬、少し休め」入ってきた葵は、相変わらず一切の隙もない完璧なスーツを着こなし、氷のように冷ややかで整った美貌を漂わせている。だが、その瞳が紬を捉えた瞬間だけ、氷が溶けるようにかすかな熱が宿る。葵は紬の前に立つと、長い指先で彼女の丸メガネをすっと外し、デスクに置いた。「あ……葵さん、まだチェックの途中です……」「リストの確認なら俺が済ませた。……それより、お前の目元に疲れが出ている」葵は冷徹な顔立ちのまま、抗う隙を与えず紬の細い腰を引き寄せた。そのまま静かに唇を重ねてくる。深く、逃がさないように慈しむ濃厚な口づけ。「……葵さん……会社ですよ……っ」「誰も入って来られないように鍵は掛けてある。……お前が俺の側から離れようとするたび、こうして俺の印を刻みたくなる」冷たい素振りの裏にある、どこまでも狂おしい独占欲。葵のクールな愛に包まれ、紬は胸を甘く痺れさせながら身を委ねていた。その日の午後。葵が役員会への出席で秘書室を空けた際、紬のもとに「挙式で使用するドレスの最終確認」という名目で、一通のプライベート便が届けられた。サロンからの確認書類だと思い開封した紬は、息を呑んだ。中に同封されていたのは、確認書類ではなく――ひとつの高級な銀のイヤリング。そして、ワイルドな筆跡で書かれた小さなメッセージカードだった。『似合いそうだと思って買ったんだ。 葵のつける冷たいダイヤより、君の肌にはこういう熱い輝きの方が似合うんじゃない? 挙式当日、僕が迎えに行くから……それまで大事にとっておいてよ。――蓮』カードから漂うのは、ウッディな葵の香りとは対照的な、少しタバコのニュアンスが混ざった甘くスモーキーな香り。「神楽……常務……」指先でイヤリングを握りしめる紬の胸が、ドクンと跳ねる。警察の手を逃れているはずなのに、すぐ近くで自分を見つめているかのような距離感。力任せではなく、こうした思わせぶりでキュンとさせるような仕草で揺さぶってくるのが、蓮の恐ろしさであり魅力でもあった。その時――。「……何を持っている」背後から低く、氷点下の声が響いた。振り返ると、ド
last updateLast Updated : 2026-10-15
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第52話

結婚式を二週間後に控えた夜。都内の高級ホテルで、鷹司グループ主催のプレ・ウエディングパーティーが華やかに催されていた。会場を埋め尽くす政財界の重鎮やセレブリティたち。葵の側に立つ紬は、葵がこの日のために仕立てさせた美しいオフホワイトのドレスに身を包んでいた。丸メガネを外し、上品なメイクを施された紬の凛とした美しさに、会場中の視線が集まっている。「……綺麗なドレスだな、紬」葵が低く甘い声で耳元に囁く。黒のタキシードを完璧に着こなした葵は、相変わらず冷徹で隙のない美貌を誇っていたが、紬の腰に添えられた手には、誰にも渡さないという力強い独占欲が込められていた。「ありがとうございます、葵さん……。でも、少し緊張してしまって……」「俺の側から離れなければいい。お前の視線も、心も、すべて俺だけに向けていれば十分だ」葵のどこまでも冷たく濃密な愛。 その温もりに包まれ、紬が微かに微笑んだ――その瞬間だった。会場の照明がわずかに落とされ、歓談のざわめきが一瞬で静まり返った。エントランスの重厚な扉が開き、一人の男がゆっくりと歩み入ってきたのだ。暗めのシルバースーツをラフに着こなし、ノータイのシャツのボタンを少し開けた男。背が高く、シュッとした抜群のスタイル。少し崩した黒髪の間から覗く危険で美しい瞳と、不敵な笑み――神楽蓮だった。「な……神楽常務……!? なぜここに……!」パーティー会場に動揺が走る。指名手配中であるはずの蓮が、堂々と表舞台に姿を現したのだ。蓮の周りには、海外ファンドのトップや有力な政治家たちが警護のように侍っていた。蓮は周囲の驚きなど気にも留めず、まっすぐに向かってくる。その立ち振る舞いには、息を呑むほど洗練された色気が満ちていた。「やあ、葵。お祝いに駆けつけたよ」蓮はポケットに手を突っ込んだまま、軽快な足取りで葵と紬の目の前で足を止めた。「神楽……。何の真似だ」葵の全身から、氷点下の殺気が溢れ出す。葵は紬をかばうように自分の背後へ引き寄せ、冷酷な黒瞳で蓮を射抜いた。だが、蓮は葵の殺気など意にも留めず、葵の背後から覗く紬へと視線を移した。その途端、蓮の瞳に甘く熱い光が宿る。「……すごく綺麗だ、紬さん」蓮は葵の制止を無視するように一歩踏み出すと、紬の目の前に屈み込み、彼女の細い手先をそっとすくい上げた。「っ……
last updateLast Updated : 2026-10-16
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第53話

パーティー会場から半ば強制的に連れ出されるように、葵は紬の手を引いて自身のプライベートリムジンへと乗り込んだ。重厚なドアが閉まり、車内が外の喧騒から完全に遮断される。途端に、車内を支配したのは氷のように冷たく、そして熱を帯びた葵の重い沈黙だった。「……葵さん」隣に座る葵の横顔をそっと見上げると、葵の整った涼やかな眉間には深いシワが刻まれていた。葵は前を向いたまま、紬の手首を誰にも渡さないという強い力で自分の膝の上に引き寄せ、指先を強く握りしめた。「あいつのどこがそんなに気になる」低く、押し殺したような葵の声。氷のように冷徹なその響きの中には、抑えきれない激しい嫉妬と、紬を奪われるかもしれないという恐怖からくる焦燥が渦巻いていた。「っ……違います、葵さん! 私は神楽常務を見ていたわけじゃありません。ただ、突然あんな風に現れたから驚いてしまって……」「俺の目の前で、他の男にあんな風に手に触れられた。……その事実だけで、俺の中の何かが狂いそうになる」葵はゆっくりと顔を向け、その冷たい黒瞳で紬を真っ直ぐに射抜いた。葵の手が紬の丸メガネを外し、サイドのシートへ放り投げる。そして、逃げ場を塞ぐように紬の顎を強くすくい上げた。「お前は俺のものだ、紬。あいつがどんなに甘い言葉をささやこうと、お前の未来も、心も、身体も、すべて俺の支配下にある。……それを忘れるな」冷酷なまでの過保護と、独占欲の塊のような言葉。けれど、その瞳の奥に揺れていたのは、間違いなく自分を失うことを恐れる葵の「深い愛」だった。紬は怯えることなく、むしろ葵の肩にそっと自分の手を添えた。「……忘れません、葵さん。私は、あなたの側から逃げたりしません。だから、そんなに不安にならないでください……」紬の温かい言葉に、葵の瞳がわずかに揺らいだ。葵は紬を自分の胸へと強く引き寄せると、息が詰まるほど深く、執着を刻み込むような濃厚な口づけを重ねた。外の景色が夜の闇に溶けていく中、二人は互いの温もりを確かめ合うように、長い時間を過ごしたのだった。その頃、パーティー会場を優雅に後にした神楽蓮は、待たせていた高級セダンの後部座席に深く身を沈めていた。助手席の側近が、タブレットの画面を覗き込みながら声を潜める。「蓮様、警察の包囲網をかいくぐっての会場潜入、リスクが大きすぎました。それに、
last updateLast Updated : 2026-10-17
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第54話

結婚式まで、残すところあと一週間。秋の澄んだ空気が都心を包む中、副社長室にはどこか心地よい緊張感と温かな空気が漂っていた。「……葵さん、披露宴の席次表、最終稿の確認をお願いいたします」デスク越しに書類を差し出す紬。その指先には、先日葵と共に選びに行ったシンプルなプラチナの婚約指輪が美しく輝いていた。葵は書類を受け取る代わりに、紬の手首をすっと掴み、自分の膝の上へ引き寄せた。「あ……葵さん、秘書室の誰かが入ってきたら……っ」「鍵は閉めてある。……少し黙れ」葵は冷徹な素顔のまま、抗う隙を与えずに紬の丸メガネを外し、露わになった目元から唇へと深く、慈しむような口づけを重ねた。冷酷な完璧主義者として恐れられる鷹司グループ副社長。けれど、こうして二人きりの時に見せる過剰なまでの熱と執着は、すべて紬一人だけに向けられたものだった。「挙式が終われば、お前は名実ともに俺の妻だ。……二度と神楽のような害虫を、お前の視界にすら入れさせない」「葵さん……」葵の低く冷ややかな声の奥にある、狂おしいほどの深愛。自分の仕事と意志を認めつつも、その腕の中で完璧に抱え込もうとする葵の温度に、紬は甘い痺れを感じながら胸を寄せる。「私も……葵さんの奥さんになれる日を、心から待っています」二人の絆は、確かなものとして深まり、揺るぎないものになりつつあった。しかし同刻。都内の地下駐車場に停められた黒いセダンの車内。後部座席に深く身体を預けた神楽蓮は、仕立ての良いジャケットの袖を少し捲り上げ、高級腕時計の針を見つめていた。シュッとした長身に、少し乱した黒髪。ボタンを一つ外したシャツの襟元から覗く男らしい首筋と、どこかやんチャでスリルを楽しむような色気のある瞳。「蓮様、海外ファンド経由での『例の文書』のリーク準備、すべて完了いたしました。挙式当日の開式15分前、全メディアおよび参列者の端末へ一斉送信されます」側に控える部下の報告に、蓮はフッと不敵な笑みを漏らした。「よくやってくれたね。……葵の奴、自分が築き上げてきた完璧な城が、結婚式の直前に内側から崩れ去る気分はどうだろうな」蓮はポケットから一輪のドライフラワーを取り出し、細い指先で愛おしそうになぞった。 それは、かつて紬がオフィスで落とした小さな押し花だった。「葵の冷たい過保護は、彼女を幸せにするためじ
last updateLast Updated : 2026-10-17
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第55話

結婚式当日。都内の最高級ホテルのグランドチャペルは、祝福の熱気と色とりどりの花々に包まれていた。控室の大きな姿見の前。純白のウェディングドレスに身を包んだ紬は、自分の姿を静かに見つめていた。丸メガネを外し、繊細なレースのヴェールを纏った姿は、息を呑むほど可憐で美しかった。「……とても綺麗だ、紬」重厚な扉が開き、タキシード姿の葵が入ってきた。隙のない完璧な仕立ての衣装を纏った葵は、相変わらず冷静沈着な氷の美貌を誇っていたが、紬を見つめるその黒瞳には、狂おしいほどの情熱と愛おしさが宿っていた。葵は紬の前に立つと、優しくその頬をすくい上げ、ヴェール越しに短い口づけを重ねた。「今日から、お前は名実ともに俺の妻だ。……誰もお前を俺の手から奪うことはできない」「葵さん……はい。私は一生、葵さんの側にいます」深く見つめ合い、互いの絆を確かめ合う二人。過保護な金の檻を乗り越え、対等なパートナーとして共に歩む誓いの瞬間が、すぐ目の前まで迫っていた。だが――挙式開始のわずか15分前。控え室の外が、突如として不穏な騒がしさに包まれた。 葵の専用端末と、式場に参列する政財界の幹部たちのスマートフォンが一斉に高い警告音を鳴らし始めたのだ。「……何事だ」葵が眉をひそめ、端末の画面に目を落とした瞬間、そのアイスブルーの瞳が冷たく凍りついた。画面に映し出されていたのは、鷹司グループの創業家が過去に隠蔽してきたとされる、巨大な海外不正送金の極秘文書。そして――その最終承認者の欄に印刷されていたのは、葵の亡き父親と、葵自身の署名だった。「そんな……! 葵さんがこんな不正に関わるはずが……!」画面を覗き込んだ紬が息を呑む。明らかに、精巧に作られた偽造データと、巧妙なリーク工作。「……神楽か」葵の低く冷ややかな声が落ちる。葵は即座に状況を察知し、冷徹な思考で反撃の指示を出そうとした――その時。控え室の非常口の扉が、静かに開いた。そこに立っていたのは、ダークグレーのスーツを崩して着こなし、どこかやんちゃで危険な色気を漂わせた男――神楽蓮だった。「やあ、二人とも。おめでたい日に水を差してごめんね」シュッとした長身をドアの枠に預け、蓮は不敵で甘い笑みを浮かべた。その手には、タバコではなく一輪の青いバラが握られている。「神楽……! よくもぬけぬけと姿を
last updateLast Updated : 2026-10-19
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第56話

「紬さん……僕のところへおいで」差し出された蓮の細い手。ノータイのシャツの胸元から覗く男らしい色気と、どこか切なさを含んだ不敵な瞳。危険で甘いその佇まいは、差し伸べられた手に応じれば、この混乱と絶望から今すぐ連れ出してくれるような不思議な惑わしさを持っていた。この手を取れば……葵さんを『不祥事の渦中』から救えるの……?脳裏をよぎるのは、蓮が言った「君も巻き込まれてすべてを失う」という言葉。もし自分が葵の側に残り続ければ、世間は自分をも標的にし、葵の再起の邪魔になってしまうかもしれない。紬の身体が、葛藤でわずかに震える。その瞬間――。紬の手首を、力強く、けれど壊れ物を扱うように優しい温もりがしっかりと包み込んだ。「……惑わされるな、紬」葵の声だった。どんな窮地に陥ろうとも決して乱れることのない、氷のように透き通った冷徹な声。葵は紬を手繰り寄せると、自らの広い背中の後ろへと完全に庇い隠した。そして、差し出された蓮の手をアイスブルーの瞳で見下ろし、冷たく言い放った。「神楽。……俺がこの程度の工作で崩れ落ちるとでも思ったか」「強がりはよせよ、葵」蓮は差し出した手をゆっくりと引っ込め、ポケットに突っ込むと、シュッとした長身を揺らしてフッと鼻で笑った。「君の端末も、会社のメインサーバーも完全にロックした。今頃、チャペルの外にはリークを受けた報道陣が群がっている。……君がどれだけ有能でも、この数分間で状況を覆す手段なんてないはずだ」蓮の口元に宿るのは、スリルと勝利を確信したヤンキー感のあるワイルドな笑み。だが、葵の氷の表情は、一片も崩れなかった。「……手段がない、だと?」葵はポケットからプライベートの別の暗号化端末を取り出すと、画面を一度だけタップした。「俺が神楽グループの海外裏資産の動きを追っていたのは、お前が仕掛けた不祥事工作のためだけではない。……お前が今日、この式場に『どのルート』で侵入し、どのサーバーを経由してリークを行ったか、そのすべての通信ログをリアルタイムで検察庁の特別捜査部へ転送完了した」「……なに……!?」初めて、蓮の余裕に満ちた表情に亀裂が入る。「お前が放ったリーク文書は、すでに偽造データとしてサイバー犯罪対策課によって差し止められた。報道陣が追っているのは、鷹司グループの不祥事ではない。……指名手配犯で
last updateLast Updated : 2026-10-19
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第57話

パイプオルガンの荘厳な音色が、高い天井のチャペル内に響き渡る。ステンドグラスから降り注ぐ光の中、ゆっくりとバージンロードを歩む紬。その隣には、漆黒のタキシードを完璧に着こなした葵が立っていた。先ほどまでの緊張感や狂気は跡形もなく消え去り、葵のアイスブルーの瞳には、紬だけを映し出す深く穏やかな熱が宿っていた。祭壇の前で向かい合う二人。「藤咲紬。どんな時も己を信じ、私と共に歩んでくれるか」司式者の言葉を遮るように、葵が低く、けれど確固たる声で問いかける。誓いの言葉すら自らの手で刻み込もうとする葵の強い執着。紬は優しく目を細め、まっすぐに葵を見つめ返した。「はい、葵さん。どこへ行っても、私はあなたの隣にいます」葵の長い指先が紬の繊細なヴェールをゆっくりと持ち上げる。露わになった紬の可憐な顔立ちに、葵の美しく冷徹な素顔が近づき、誓いのキスが交わされた。触れ合うだけの唇から、やがて紬の息を奪うような深くて甘い口づけへ。参列者からの温かい拍手の中で、二人は名実ともに夫婦となったのだった。その夜。都心を一望する超高層マンションの最上階、葵の自邸。披露宴を終え、静まり返ったリビングで、紬はウェディングドレスから軽やかなルームウェアに着替えてホッと息をついていた。バルコニーから夜景を見つめていると、背後から無言で強い腕が回され、一瞬で葵の胸の中へと引き寄せられた。「あ……葵さん……っ」「……ようやく、俺だけのものになったな」葵の低い声が首筋に直接響き、甘い吐息が肌をくすぐる。葵は紬の丸メガネをそっと外し、サイドテーブルへ置くと、彼女の身体を横抱きにすくい上げた。「葵さん、まだお風呂も……」「後だ。……一日中、他の大勢の視線にお前をさらしていたせいで、気が狂いそうだった」拒む隙など一切与えず、葵は紬をベッドへと降ろした。覆いかぶさる葵の身体からは、いつも以上の圧倒的な独占欲と熱量が溢れ出している。葵の手が紬の華奢な手首をベッドに優しく固定し、逃げ場を完全に塞ぐ。「お前はもう、鷹司紬だ。俺の許可なくどこへも行かせないし、誰にも触れさせない」「葵さん……逃げたり、しません……っ」紬が葵の首元に手を回し、自ら身を寄せると、葵の黒瞳が狂おしいほどの愛おしさで揺れた。「……分かっている。お前が俺を選んでくれたことは……生涯、命を懸けて
last updateLast Updated : 2026-10-20
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第58話

柔らかい朝の光が、自邸の寝室を優しく包み込んでいた。紬がゆっくりと目を覚ますと、すぐ至近距離に葵の整った冷徹な素顔があった。葵の強靭な腕は紬の細い腰をしっかりと抱きすくめており、ひとときも離さないと言わんばかりの強い力で密着している。「あ……葵さん、おはようございます……」身動きが取れず小さな声を漏らすと、葵の長いまつ毛が揺れ、漆黒の瞳が開いた。目覚めた瞬間の少し眩しそうな眼差しが、紬を捉えた瞬間に狂おしいほどの甘い熱を帯びる。「……おはよう、紬」葵は低く掠れた声で囁くと、そのまま紬の額、目元、そして深く重なるように唇へと口づけを落とした。逃がさないように抱きすくめる腕の強さは、昨夜から何一つ変わっていない。「葵さん、朝の準備をしないと……会社に遅れてしまいます……っ」「いい。今朝は俺が許す。秘書である前に、お前は俺の妻だ」葵は紬の丸メガネをサイドテーブルから取り上げて優しくかけてやると、露わになった彼女の首筋に愛おしそうに深く顔をうずめた。「お前が俺の隣で目を覚ます……それだけで、胸の奥が満たされていくのを感じる。……ずっとこうしてお前を閉じ込めておきたい衝動と、毎日戦っているんだ」冷酷なまでに完璧な副社長が見せる、甘く切ないほどの過保護と執着。夫婦になったことでさらに濃密さを増した葵の愛に、紬は胸を熱くしながら、そっとその背中に手を回したのだった。数時間後、鷹司グループ本社の副社長室。指輪をはめた手で端末に向かい、データ分析を進める紬。結婚後も秘書としての業務を継続することを認めてくれた葵のおかげで、紬は充実した日々を送っていた。葵さんの隣で仕事をして、一緒に家に帰る……それがこんなにも幸せだなんて。だが、葵の「過保護さ」は以前にも増して徹底されていた。紬の移動には常に専用の護衛がつき、社内での打ち合わせも副社長室の見える範囲に限られている。葵は冷たい素振りを崩さないまま、その鋭い黒瞳で常に紬の安全と行動を見守っていた。「……藤咲秘書、いえ……鷹司秘書」専務室のスタッフが、書類を持って部屋に入ってくる。「来週開催される『国際経済フォーラム』の招待状が届いております。副社長とご一緒に、秘書として同行されるスケジュールになっておりますが……」「はい、拝見します」紬が書類を受け取ろうとした、その時だった。書類の束
last updateLast Updated : 2026-10-21
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第59話

国際経済フォーラム前夜。自邸のドレスルームで、紬は葵がこの夜のために用意させた深いネイビーのイブニングドレスを身に纏っていた。夜空を切り取ったようなシルクの生地が、紬のしなやかな身のこなしに合わせて美しく揺れる。「……葵さん、いかがでしょうか……?」姿見の前で照れくさそうに振り返る紬。ドアの枠に身を預けていた葵は、氷のように冷徹な素顔のまま、ゆっくりと紬へ歩み寄ってきた。その黒瞳には、息を呑むほど激しい熱と執着が宿っている。葵は紬の前に立つと、長い指先で彼女の丸メガネをそっと外し、露わになった目元と華奢な鎖骨へ、吸い付くような濃密な口づけを落とした。「……美しすぎる。正直に言えば、明日のフォーラムなどキャンセルして、お前をこの部屋に閉じ込めておきたい」「あ……葵さん……っ」低い声で囁きながら、葵の手が紬の華奢な腰を強く抱き引き寄せる。指輪をはめた紬の指先を葵の大きな手がしっかりと包み込み、決して解けない結び目を確かめるように握りしめた。「明日もお前の側を片時も離れない。……俺の視界の外へ出ることは許さないぞ」冷酷なまでの過保護。けれど、その裏にあるのは失うことへの焦燥と、狂おしいほどの愛だった。紬は葵の胸にそっと額を預け、その強い体温を全身で受け止めていた。翌夜。都内の外資系ホテルで開催された国際経済フォーラム。政財界の要人たちが集う絢爛豪華な大広間で、葵と紬は一際の注目を集めていた。完璧なタキシードを纏った葵は、冷酷な副社長としての隙のない笑みを浮かべつつも、紬の腰に添えた手には片時も緩みを見せなかった。「素晴らしい奥様ですね、鷹司副社長」「ええ、私の大切な秘書であり、かけがえのない妻です」葵の迷いのない言葉に、紬の胸が温かく満たされる。だが――フォーラムの中盤、葵が海外の要人と緊急の個別協議に入るため、一時的にVIP控室へ向かわざるを得ない時間が訪れた。「……紬、ここで待っていろ。警護を二人つけてある。絶対に一人で動くな」「はい、葵さん。いってらっしゃいませ」葵が厳重な警護を残して控室の廊下へと消えていく。一人、会場の端にあるテラス近くでグラスを手に待っていた紬。その時、かすかな夜風とともに――あのスモーキーで甘い香りが鼻腔をくすぐった。「……ドレス、すごく似合っているよ。紬さん」耳元で聞こえた、低く甘
last updateLast Updated : 2026-10-22
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第60話

月光が照らすホテルのテラス。冷たい夜風が吹き抜ける中、蓮の手首を掴む指先には、逃れられないほどの熱量が宿っていた。「離して……ください……っ」身を引こうとする紬だが、蓮はシュッとした長身を滑り込ませるようにして壁際へと追い込み、彼女の逃げ場を静かに塞いだ。ノータイのシャツの胸元から漂う、タバコのニュアンスを含んだスモーキーで甘い香り。やんちゃでワイルドな雰囲気を纏いながらも、その眼差しには胸がキュンと締め付けられるような切ない色気が満ちていた。「葵は君を守っているつもりかもしれないけれど……それはただの過保護な『縛り』だよ、紬さん」蓮は少し首を傾げると、紬の耳元へと顔を近づけ、甘く危険な吐息を吹きかけた。「君のその素晴らしいアナリストとしての才能も、自分らしく笑う時間も、葵の冷たい腕の中じゃ全部押し潰されてしまう。……僕なら、君に自由な翼をあげられるのに」「違います……! 葵さんは私を縛っているだけじゃない……っ。私の努力も、秘書としての意志も、ちゃんと認めてくれています!」「本当にそう言い切れるかい?」蓮の細い指先が、紬の頬を優しく撫で上げる。粗暴さのない、触れられた部分が熱くなるような思わせぶりな仕草。「君がこうして少し遠くを見つめる時の顔……葵には見せていないんじゃない? 君の本当の魅力も、その心の奥にある迷いも、僕の方がずっと分かっている」蓮の甘い毒のような言葉に、紬の胸がハラハラと跳ねる。蓮は力づくで奪おうとするのではなく、いつもこうして紬の感情の隙間に滑り込み、心を激しく揺さぶってくるのだ。「さあ……葵が戻ってくる前に、僕の手を取って」蓮が優雅に手を差し伸べた――その瞬間だった。「……その薄汚い手で、俺の妻に触れるなと言ったはずだ」ガラス扉が激しく開け放たれ、絶望的なまでに冷ややかな声が夜の空気を切り裂いた。そこに立っていたのは、アイスブルーの瞳に蒼い怒りを宿した葵だった。要人との協議を途中で打ち切り、紬の元へと引き返してきた葵の全身からは、周りの空気を凍りつかせるほどの殺気と狂おしいほどの嫉妬が溢れ出していた。「葵さん……っ!」葵は一瞬の迷いもなく踏み込むと、蓮の手首を激しい力で払い飛ばし、紬の腰を引き寄せて己の胸の中へとかばい抱いた。掴まれた紬の肩に込められた強い力。葵の整った冷徹な顔立ちは一切の感
last updateLast Updated : 2026-10-22
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